軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

従魔のタグを手に入れよう!

朱音が突然話題を変えた。怪しさ満点だが、尋ねたところで答えまい。

晴輝は彼女の話題に乗ることにした。

「騒がれてること? ダンジョンに関係することか?」

「そう。前にマサツグからプレゼントしてもらった玉があったでしょ? あれ、『なろう』だとガチャ玉って言われてるんだけど、その中からテイム出来る魔物が出現するらしいのよぉ」

「ほお!」

晴輝は目を見開いた。

テイム出来る魔物の話は初耳だった。

しかし火蓮は既に知っていたのだろう、うんうんと無言で顎を引いている。

「あれ、なんで火蓮が知ってるんだ?」

「むしろなんで空星さんが知らないんですか? いまかなり沸騰中の話題ですよ?」

「そうだったのか……」

晴輝が知らなかったのは、有名冒険家のブログしか愛読していないからだ。

有名冒険家はガチャ玉を積極的に開封していない。開封するほどお金にもアイテムにも困っていないのだ。

ガチャに飛びついたのは中級以下の冒険家達だ。中級以下にとってガチャの大当たりはかなりデカい。ダンジョン探索を有利に進めるために、ガチャに全財産をつぎ込んだ者もいるほどだ。

対して上級冒険家は『ガチャは罠』あるいは『確率がクソ』という考えだ。狩りで入手したら開封するけれど、買ってまでは開封しないという者が大半だった。

なのでランカー含め上級冒険家は、あまりガチャの話題を記事にしていない。

冒険家関連のニュースにも目を通しているが、掲示板のまとめサイトと違ってニュースは出足が遅い。そのためニュースサイトではまだテイム出来る魔物についての話題を記事化されていなかった。

特定上級冒険家と、特定ニュースサイトしか閲覧していない晴輝は、流行の波から上手い具合に逸れてしまっていたらしい。

対して火蓮が知っていたのは、彼女が重度のブログ読者だからだ。

晴輝とは違って新着を読み漁る彼女ならば、目新しい情報を掴んでいても不思議ではない。

「そのガチャからテイム出来る魔物が出てきたって話が、お前の機嫌とどう繋がるんだ?」

「き、機嫌は普通よ? うん、普通普通」

朱音が慌てて腕を交差させた。

どう見ても普通ではない。

「オホン。話を戻すけど、冒険家の間でテイムされた魔物が増えてきたのよ。それに伴って、問題も起こり始めたの」

「…………誤爆か?」

「ご名答」

パチン、と朱音が指を弾いた。

晴輝が口にした誤爆とは、対象を誤った攻撃の俗称である。

混戦状態で魔物に斬りかかろうとしたとき、たまたま攻撃線上に回避してきた味方が入り込み、誤ってダメージを与えてしまう。こういう場合に『誤爆』を用いる。

通常の誤爆は注意不足で、誤爆した方がほぼ一方的に悪い。

ただ、テイムした魔物に誤爆した場合は趣が異なってくる。

テイムした魔物に『テイムされている』目印がないため、普通の魔物との違いが第三者にはわからない。

どれほど注意しても誤爆を防ぎ難いためだ。

「誤爆した冒険家とされた冒険家とで、どっちが悪いかって諍いになっちゃったのよ」

「だろうな」

「そこで、問題解決のために一菱と川前、それに番磨が共同で、テイムした魔物の誤爆防止タグを開発したのよ!」

「誤爆防止って。そういうアイテムがあるだけで攻撃されなくなるのか?」

「全く攻撃されなくなるわけじゃないけどね」

苦笑しつつ、朱音がカウンターの下から白銀のタグを取り出した。

タグの見た目は戦地に赴く兵隊が首に提げる小さなプレートに似ている。

プレートにはテイムした魔物を現わすものだろうマークと、各社のロゴが刻まれている。

確かにこれを下げていれば、犬猫の首輪のように、多少は他の魔物との見分けが付きそうではあるが……。

「これだけか? 小さいから咄嗟の場合見分けが付かないと思うが」

「咄嗟の場合までは防げないわよ。だってそれは人間だって同じでしょ?」

「…………たしかにそうだな」

朱音が言う通りだ。

混み合っているダンジョンは通路の角、出会い頭の事故が多い。

冒険家は常に極限の緊張状態でダンジョン探索を進めている。

そんなときに、通路脇から動くものが現れたら、思わず斬りかかってしまっても仕方がない。

さすがにそのレベルの事故は、防げなくても仕方ない。

むしろ、その事故が防げる技術なら真っ先に人間の冒険家に導入されるべきだ。

「これを付けている魔物は他の冒険家のテイム下にあるっていう、各社の保証書みたいなものね」

「保証?」

「まあ、テイムされてる証明みたいなものよ。テイムされた魔物かどうか、判断に困ったらタグを見ると。とはいっても、タグを付けてるのに攻撃されたから損害賠償請求とか、法的な面は一切期待しないでね。

いまのところ、テイムは法律だと空白地帯だから。冒険家法は日々改正されてるけど、テイムした魔物の権利とか保護はまだ出来ないのよ。そのうち法案が通るでしょうけど。それまでの繋ぎだと思ってくれていいわ」

テイムした魔物は、現在のところ法律が及んでいない。

現行法だと 動物愛護法(ペット) なのか、それとも 冒険家法(まもの) なのかが定義されていないのだ。

冒険家法は、通常の改正速度だと助けられるはずの命が助からなくなる。それも大勢の命が、だ。なので冒険家法のみ、法改正の速度は例外的に早い。

いずれはテイムの定義も、冒険家法で定められるだろう。

それまでは、こうしたタグで凌ぐ他ない。

「タグはレベルが低くても装備出来る中で、最も硬度の高い素材が使用されてるわ。ちょっとやそっとじゃ壊れない。

そして一番のキモは、なんといっても発光塗料よ! ダンジョンの中に入ったら薄く光る塗料が塗られてるの。ここじゃ付けてもわかりにくいけど、ダンジョンに入ったらすごく目立つんだから!」

「…………目立つ?」

ぼそっ、と晴輝が呟いた。

その横で火蓮が「あっ、やばい」と言うような表情になった。

「そのタグ、あるだけくれ」

「は?」

「そのタグを体中に巻き付ければ目立てるかもしれないだろ!? さあ!!」

晴輝の目にはもう、タグしか見えていなかった。

これがあれば目立てる!

テイムタグ最高!!

「ちょおっと待った!!」

朱音がカウンターを叩いて大きな音を出した。

その音で、我を見失いそうになっていた晴輝が落ち着きを取り戻す。

「アンタ、これを装着してたら、いよいよ魔物だと思われるわよ?」

「そうですよ空星さん。ただでさえ魔物みたいに思われるんですから、タグを付けるのはどうかと思います!」

「……おい」

お前達は一体俺をなんだと思ってるんだ。

酷い言われように、晴輝は頭が痛くなる。

「俺は普通の冒険家だろ」

「「「「「…………」」」」」

プレハブ内が、一斉に静まりかえった。

火蓮と朱音だけでなく、レアやエスタ、それに小鳥までもが黙り込んでいる。

「…………え?」

「「「「「……」」」」」

一秒。二秒。居心地の悪くなる静寂がプレハブに居座った。

「――さて!」

全てを振り出しに戻すような明るい声色で、朱音が切り出した。

一体いまの間はなんだったんだ。

そんな晴輝の困惑を余所に、朱音がタグを2つ取り出し晴輝に突きつけた。

「それじゃ空気。アンタのレアとエスタにうちのタグを買い与えなさい!」

「いくらだ?」

「1つ五万円よ!」

「それでか……」

ここへ来て、ようやっと朱音の機嫌が良かった理由に晴輝は思い至った。

なるほど彼女はタグを売りつけることで、晴輝の財布から大金を抜き取ろうとしていたのだ。

識別用のタグを買わないことも出来る。

だが買わなかった場合、タグが冒険家の間で認知され渡ったときに、『タグがないから魔物だ』と判断され、攻撃を受ける結果につながりかねない。

タグを購入しないという選択肢は、晴輝にはなかった。

タグ1つに五万円はかなり高い。しかしプレートには各社のロゴが刻まれている。

つまりそれは一菱・川前・番磨がある程度このタグの信用を担保してくれているということ。五万円は、信用担保の値段でもあるのだろう。

命はお金で買えない。

五万円をケチってレアやエスタの命が失われては、後悔しても仕切れない。

晴輝はICカードを取り出しレジに翳す。

そこで、朱音がじぃっと晴輝の頭の上を凝視した。

「…………タグは3つで15万円ね」

「いや、レアとエスタの分で10万だろ?」

「いやいや、その子の分もいれて3つでしょ?」

「え?」

「……ん?」

晴輝と朱音が同時に首を傾げた。

それでバランスが崩れたのか、頭上から「ピェ?!」と慌てたようなさえずりが聞こえた。

朱音が口にした『その子』は、間違いなく小鳥である。

だが、

「こいつは、動物じゃないのか?」

「魔物でしょう? アンタにまったく似合わないから新しい装備かと思ってたら、ちゃんと生きてるのね」

「似合わないって……。まあ確かに、大の大人の男が頭の上に小鳥を乗せてるなんて、似合わないのはわかるが」

「ああ、そういう意味じゃないから」

朱音がカラカラ笑いながら、手をうちわのように揺らした。

え、なにその反応!?

晴輝は思わず目を剥いた。

「とにかくその子は動物じゃない。魔物よ」

「そ、そうか」

朱音が断言するなら、魔物で間違いないのだろう。

晴輝は無理矢理自分を納得させた。

「種類はわかるか?」

「うーん……わからないわね。ピヨコの変異種かしら? どこで手に入れたの?」

「昨日ダンジョンで卵石を手に入れて――」

晴輝は石を入手した経緯と、そこから小鳥が生まれただろうことを朱音に話した。

「その石のかけらある?」

「ああ、これなんだが」

晴輝は卵石のかけらを朱音に手渡した。

そのかけらを睨み付けながら、朱音はしばし黙り込んだ。

「…………うーん。さっぱりわからないわね。初めて見るわ」

「朱音でもわからないのか」

「アタシってほら、パーフェクトな豪腕店員で天使で美女だけど、万能ってわけじゃないのよ?」

「…………」

否定するのも馬鹿馬鹿しい。

晴輝は白い目で朱音の戯言をスルーした。

手に入れたタグを、それぞれに装着させる。

レアは頭(花)の下にかけて、動いても邪魔にならないよう巻き付ける。

エスタは本人が邪魔にならないということで首のあたりにくくりつけた。

小鳥も同様に首から提げる。

だが少し長すぎた。

「調整してあげるから、少し待ってね」

すると朱音がニッパで、小鳥にフィットするサイズに手早く鎖を縮めた。

「ニッパで切れるんだな」

「これをただのニッパだと思ったら大間違いよ!」

ふふん、と鼻を鳴らしながら朱音が前に掲げたニッパをカチカチ動かした。

「一菱の『壱』シリーズ。ハイウルフのニッパよ!」

「ほー。そんなものまで用意してるんだな」

「当然でしょう? お店を利用する冒険家の中には、微妙に武具が合わないお客さんもいるのよ。そういう人のためにも、どんな武具であれ店先で多少調整出来るように、品質の高い道具を用意してるのよ」

「なるほどな」

ジーンズの裾上げみたいに、購入したお店での調整は重要なサービスの1つだ。

『防具の品質が高いから店先では調整出来ません』となれば、冒険家は調整出来るお店に足を運ぶだろう。

晴輝は朱音の言葉に深く納得した。

「ふふん、どうよ? アタシも一菱も凄いでしょう!?」

胸を反らして自慢げに顎を上げる朱音だが、手元はきっちり動いている。

自慢しながらタグを調整するとは、無駄に器用である。

「……と、これでオッケィね」

「ああ。あと1つタグを――」

「お会計は15万円になりまぁす!」

「…………タグをもう1つ――」

「早くICカードを翳してくださいね!」

自分もタグを装着して、目立つかどうか試してみたかったのだが……。

朱音に笑顔で凄まれ、晴輝は渋々カードを翳したのだった。