軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隠し部屋を探索しよう!

「……」

「……」

晴輝と火蓮が無言のまま目を合わせる。

これで邪魔者はいなくなった。

さあ、15階の攻略に戻ろうか。

そんな意志疎通が行われたように、晴輝らは目だけで奇妙に通じ合った。

「ふう……死ぬかと思いましたわ!」

「っち!」

だからチェプが光になって無事戻ってくると、晴輝は盛大な舌打ちをしてしまった。

折角鬱陶しい奴が消えたと思ったのだが。

この魚、なかなかしぶとい。

しかしチェプの愚行で新たにもたらされた情報は、この壁を抜ける突破口になるものだった。

この壁は、押せば通り抜けられる。

「チェプ。向こう側を見てきたか?」

「まったく何も見ていませんわ!」

いや、何故胸を張る?

晴輝は思わず額に手を当てため息を吐き出した。

「……とりあえず、中に入ってみるか」

「大丈夫でしょうか?」

火蓮が不安げな表情を浮かべた。

彼女が憂慮しているのは魔物だろう。壁の向こう側に魔物がいた場合、晴輝らは最初から壁際に追い詰められた状態で戦わねばならない。

しかし、晴輝はさして不安は抱いていなかった。

「探知で調べても魔物の反応はないから、大丈夫だとは思う。それにチェプも無傷で戻ってきたしね」

あくまで、『だろう』判断だ。

それ以上正確な情報は、現時点で取得出来ない。

ならば冒険するしかない。

未知を既知にするため前に進む。

それが、冒険というものだ。

さあ、冒険と洒落込もうじゃないか。

晴輝は舌なめずりをし、短剣に触れる。

いつでも反撃出来るよう準備をしながら、壁を一気に押し込んだ。

すると、

「おっ!?」

力が一定の強さになった段階で、ふっと壁の感触が消えた。

それはまるで階段が残り1段あると思っていて、実はなかった時のような。あるいは膝かっくんされたときのような。そんな感覚に似ていた。

前に入れていた力を瞬時に反転させる暇もなく、つんのめりながら晴輝は壁の中に踏み入った。

壁の向こう側に到達した晴輝は、即座に腰を落として臨戦態勢となった。

探知スキルを拡大し警戒する。

1秒、2秒。

晴輝の目は何の動きも捉えず、また探知も魔物の存在を感じない。

(……大丈夫そうだな)

部屋に入った途端に魔物に襲われる、という可能性はなくなった。晴輝は軽く息を吐いて警戒のランクを1つ下げた。

晴輝が入ってきた場所は、元々のフロアとは違って洞窟のような作りになっていた。

広さはバスケットコート1面ほどか。

部屋には石が1つあるだけで、他になにもない。

宝箱があるかと想像していた晴輝だったが、その影すら感じず僅かに落胆した。

晴輝が部屋の中を観察していると、背中に軽い衝撃を受けた。

「――ゎ!? か、空星さんでしたか。びび、ビックリしました」

「あ、ごめん」

杖を抱いた火蓮が後ろで驚きの声を上げた。

晴輝が出入口で留まっていたから、次に入ってきた火蓮とぶつかってしまったのだ。

火蓮はどこか居心地が悪そうに、晴輝に付くもなく離れるもなくふらふらと、微妙な揺れ方をしていた。

当たり所が悪かったか?

心配になり晴輝がのぞき込むと、火蓮がぷいっと顔を背けた。

むっつりと唇を尖らせた、彼女の頬が僅かに赤い。

(んー、怒らせちゃったかな?)

そう考えていると、晴輝の後頭部がパシッと音を立てた。

「……痛いんだが」

「(ふん!)」

晴輝の後頭部を叩いた犯人――レアがぷいっとそっぽを向く。

いや、何故お前が怒ってるんだ?

レアの感情が判らない。

晴輝はピリピリ痺れる後頭部を撫でながら、部屋の中央に向けて歩き出した。

「この部屋って、隠し部屋で良いんです、よね?」

「たぶんな」

魔物もいない。宝箱はない。お宝の匂いもしない。

台座に埋まった剣があったり、精霊が現れる泉があったり。

そういう、晴輝や火蓮が想像していたような、嬉しいイベントが起こりそうな代物が見当たらない。

唯一、部屋の中央にある直径10センチほどの卵形の石があるだけである。

火蓮が『本当にここは隠し部屋で良いのか?』と聞きたくなるのも無理はない。

「これが、隠し部屋のお宝でしょうかね?」

「んー、可能性はあるが……」

限りなく低いだろう。そう、晴輝には思えてならなかった。

「他には……なにもないな」

「ですね……」

部屋の中の気力は一定。

ここから更に別の隠し部屋は、ない。

また部屋の隅々を探しても、宝箱の『た』の字も見つからなかった。

あるのは卵形の石と、石が置かれた台座のみ。

「やっぱりこれが、お宝なのか?」

(持って帰れるなら朱音にでも見せてみようか……)

そんなことを考えながら、晴輝は何の気なしに石に手を当てた。

すると、

「――うぉ!?」

カッと光が瞬いた。

何が起こったのか判らず、しかし晴輝は即座にバックステップ。

短剣を抜いて正眼に構えた。

瞬間的に頂点まで上昇した緊張感と集中力により、晴輝の視界でバチバチ白が爆ぜる。

体中に鳥肌が立ち、遅れて熱い血液が巡る。

火蓮も同様に、迅速に部屋の隅まで移動していた。

杖には既に大量の気力が籠もっている。

レアが晴輝の肩にノズルを固定。

エスタは腹部で硬くなった。

「……」

「……」

ダンジョンの出方をまつこと30秒。

しかし、なんの変化もない。

卵石が光を放った以外、なんの変化も起こらなかった。

「……なにもないな」

早鐘を打つ心臓を宥めながら、晴輝はゆったりとした動作で短剣を鞘に収めた。

「空星さんは、なにをされたんですか?」

「石を触っただけだぞ?」

どうせやらかしたんでしょ? という視線を受けて、晴輝は心外なと唇をすぼめた。

しかし変化があったのは、晴輝が卵石に触れた時だったので、完全否定は難しい。

以前、これと似たような現象が起こった。

その時は強い光が放たれたのではなく、光が失われていったのだが。

しかし晴輝が触れて変化が起きた、という点において2つの出来事は共通している。

もし同じ現象なら、ログに残っているはずだ。

そう思い、晴輝はスキルボードを取り出した。

≪セカンド・コアからエネルギィの強制回収に成功しました≫

≪強化ポイントを1000獲得しました≫

晴輝はスキルボードから目を離し、火蓮を見て、いつの間にか部屋の中で探検ごっこを始めたエスタを見て、レアを見て、スキルボードを収納した。

「…………うん」

なにも見なかったことにしよう。

そう思ったのだが、火蓮の冷たい視線がズブズブ突き刺さる。

ほらーやっぱりぃ、という火蓮の声なき声が聞こえる。

じわ、と晴輝は額に脂汗を浮かべた。

どうやら、無言で誤魔化せそうにはないようだ。

観念して晴輝は正座をし、火蓮に自白を行った。

部屋の中が輝いたのは、晴輝が卵石に触ったから。

つまり結局今回も晴輝が原因である。

どう足掻いても、言い逃れは出来ない。

「もう、心臓が止まるかと思ったんですから」

そう口にして、火蓮が胸に手を当てた。

予測していなかった隠し部屋に入り、緊張感が高まっている中での突然の出来事だった。晴輝の不用意な行動のせいで、火蓮の心臓にかなりの負担をかけてしまったようだ。

文句を言われて当然である。

なので晴輝は粛々と正座を行い、いつでも頭を地面にこすりつける準備を行っていた。

(幸い、額を地面に押し当てる前に火蓮は赦してくれたが)

「この卵石がセカンド・コアですか」

「うーん……」

晴輝はうなり声を上げ、仮面の顎部分に手を当ててじっと台座を凝視する。

以前、旭川ダンジョンで見たコアとは違って、かなり小型の台座と卵石のみ。

2つが同じコアだとは、晴輝には思えなかった。

それに、旭川のコアからエネルギィを抜いた時は、ステージが暗色に変化した。

だが今回、卵石に変化はない。

変化があったのは卵石の下。台座がやや暗色に変わっていた。

(……もしかして卵石じゃなくて、台座がセカンドコアなのか?)

旭川ダンジョンとの違いはもう1つ。

「強制回収……?」

旭川でコアからエネルギィを抜いた時は『吸収』と出た。

なのに今回は強制回収。

コアに触れた時の反応が違うのは、『吸収』と『強制回収』の差か。

では、触れるコアによって何故言葉が違ったのか?

考えても、晴輝には判らなかった。

「……結局、この部屋に宝箱はなかったな」

がっくり晴輝は肩を落とす。

宝箱はなかったが、アイテム強化ポイントは手に入れた。

ある面においては、宝箱よりポイントは有益だ。

このポイントを集めれば、仮面様を強化出来るのだから。

(……よし、仮面を強化して存在感アップだ!)

晴輝は気を持ち直し、ボードを取り出して強化アイテム一覧に目を通す。

「……そうだ、火蓮はなにか強化したいものはあるか?」

「ええと、杖はありますか?」

杖はダンジョンでドロップした魔武器だ。

アイテム強化を用いても、成長したと言い逃れることが出来るだろう。晴輝は早速杖を探す。

しかし、杖はアイテム強化一覧に表示されない。

火蓮の杖は、見た目がお遍路のそれだが、晴輝の魔剣同様にダンジョン産の魔杖である。

表示されないのは魔武器だからか、あるいは武器の基礎品質が高いからか。

いずれにせよ、現状は杖の強化を行えない。

「ダメみたいだな」

「そうですか」

「いずれ強化出来るかもしれないから。そのうちな」

スキルボード――デモ・グラフはアップグレードする。

アップグレードによって、アイテム強化一覧に杖や短剣が表示されるときが来る可能性がある。

ならば表示されたその時に、優先的に杖を強化しよう。そう晴輝は心に留め置いた。

千ポイントを得たが、ジャガイモ石をすべて強化するには3千ポイント近く必要だし、仮面に至っては5千ポイントだ。

(非常に残念だけど……)

今回はアイテム強化を見送る他なさそうだ。

諦めかけた晴輝に、火蓮が問いかける。

「あの、空星さん。その……卵形の石って、持ち運び出来るんでしょうか?」

「…………あっ!」