軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイテムを強化しよう!

「どうだ!?」

意気揚々と火蓮に振り向くと、

「…………ぶふっ!」

火蓮が息を吹き出した。

膝を付き、小刻みに震えながら地面を叩いている。

一体何故そんな態度をされねばならんのだ……。

憮然としながら、晴輝は首元に手を伸ばす。

すると、以前とは比べものにならないほど、ふさふさになった羽根輪の感触が……。

「おー!」

羽根がふさふさになってる!

羽根の長さそのものは変わっていない。

変わったのは密度だ。

以前はただ10~20枚程度の羽根が連なった輪だったが、現在の羽根輪は以前の数倍の羽量があった。

羽根のサイズも違う。

以前は小さいものばかりだった羽根輪が、大小様々な組み合わせのそれになっている。

中には晴輝の手の平を超えるサイズのものも混ざっていた。

体を動かすと、晴輝はすぐに体のキレの違いに気がついた。

アイテム強化は伊達じゃないな。

しかし……と、晴輝は顎を押さえる。

「アイテムを強化すると見栄えが変わってしまうのは、少々危険だな」

「……ど、どうしてですか」

やっと笑いの坩堝から戻ってきた火蓮が首を傾げた。

「いやほら、不審に思われたらマズイだろ?」

「…………えっ?」

今更!?

火蓮は目を見開き晴輝を見た。

彼が不審なのは以前からだ。

今更なにを……と思ったが、どうも晴輝は一切自分が不審だと思ってもいないらしい。

宙に浮かぶ仮面に、蠢く植物。

首からは羽が生え、体には多足虫が寄生している。

鞄に浮かび上がる白い顔と、粘液をまき散らす2本の触手……。

周りからはこんなふうに見えているのに、まさか彼は自分が不審な冒険家ではないと本気で考えているとは……。

いや……もしかして、逆か?

火蓮は自ら抱いた恐ろしい想像に、ゴクリと喉を鳴らした。

もしかして彼はアイテムが“普通の見た目になってしまうこと”を怖れているのでは!?

確かに彼は、個性的な装備で身を固めている。

そんな彼が『普通の見た目の防具』を装備していたら……。

――不審に思う人がいるかもしれないッ!!

推測によりたどり着いた恐ろしい事実に、火蓮は呼吸さえ忘れて停止した。

「……ん?」

突如固まった火蓮を見て、晴輝は眉根を寄せた。

火蓮は一体なにをそこまで驚いているのか、と。

晴輝は討伐力の低い短剣を扱っているため、防具に関しては性能重視で選んでいる。

アイテム強化で防具性能が上がるのは大歓迎だが、見栄えが変わると“なにか特別なアイテムを使ったのではないか?”と不審に思われかねない。

完全に姿形が変われば、ダンジョンでドロップしたアイテムだと言い訳が可能だろう。

しかし市販装備の見た目が変わったら、朱音は間違いなく気付く。

『なんかウチの防具がおかしいんですけど!?』と問い詰められる未来が容易に想像出来る。

故に、晴輝はアイテム強化で不審に思われないかを懸念していた。

「強い見た目に変化したら良いですね」

「いや変化したらダメだろ」

「えっ?」

「んっ?」

晴輝と火蓮が互いに動きを止めた。

まるで間合いを計るようなピリリとした空気が流れた。

「……ほ、他の装備で試してみてはいかがですか? アイテムごとに変化が違うでしょうし。中には空星さんの好みのアイテムがあるかもしれませんしねっ!」

「そ、そうだな?」

好みというのがよく分からないが……。

たしかに、と晴輝は頷きスキルボードに視線を落とした。

【アイテム強化】

【強化ポイント】2589pt

ジャガイモ石0

ジャガイモ石0

ジャガイモ石0

ジャガイモ石0

ジャガイモ石0

ジャガイモ石0

プランター0

シルバーウルフの短剣0

晴輝は次に、プランターを強化することにした。

理屈は単純で、プランターは常時鞄の中に入っているため、大きく変化しても誰の目にも触れないからだ。

「レア、ちょっと良いか」

晴輝はレアを担いでステージの上に載せる。

なによぉ? とレアが周囲を見回す。

「これからレアのプランターを強化する。被弾してプランターが壊れたら悲惨だからな」

現時点で、そういう目にはまだ合っていない。

背面攻撃の対策は採っているが、吹き飛ばされた晴輝が背中から落下したときの対策はまだ出来ていない。

強化プランターを武具販売店にオーダーするという方法もあった。しかし強化プランターなど作っている工房はない。

どこに頼めば良いかわからないため、晴輝はひとまず問題を保留としていた。

だがこれがあるなら、強化プランターの発注問題が解決出来るかもしれない。

晴輝はボードを手にして、しかし強化ボタンを押す前にレアに尋ねた。

「レア。このプランターで満足か? 根の状態とか、問題なさそうか?」

「(広々快適よ。ちょっと柔らかいけどね)」

晴輝の問いに、レアがそんな思念を飛ばした。

レアの体長だと、通常は根がプランターに入りきらないはずだ。

その辺りは宝物庫を駆使して上手く調整しているのだろう。

晴輝はレアの答えに頷き、ボードをタップする。

『プランターを強化しますか?』

『強化値0/1』

『強化必要ポイント1pt』

『Y/N』

「少なっ!」

必要ポイントのあまりの少なさに、晴輝は思わず目を剥いた。

そして強化最大値が+1。

どうやら強化ポイントと最大強化値は、強化対象アイテムのグレードが関係しているようだ。

「ホームセンターで買ったものだしな……」

冒険家用ではない。

強化しても意味はないか。

しかし必要ポイントは1ポイントだ。

間に合わせに強化しても問題はあるまい。

晴輝はYをタップした。

強化如何によっては、やはり工房にプランターの製作を依頼しなければいけないか。

そう思っていた晴輝だが、強化したプランターに触れて少し考えが変わった。

「なんか、面白い感触だな」

「……あ、ほんとですね」

晴輝の言葉で気になったのだろう、火蓮もレアのプランターに手を伸ばして目を丸くした。

プランターの見た目はまったく変化がない。

だが手触りが違う。

一番近いのは鉄だ。

しかしただの鉄とも違う。

「金属の焼き物……は違うか。焼き物プランターの造形をそのまま、特殊な金属に変化したみたいな感じだな」

「そうですね。すごく……イイです」

よほど手触りが気に入ったのだろう。

火蓮が真剣な眼差しで、プランターを指先でさわり続ける。

感触から、プランターが強化されたのは間違いない。

以前よりも衝撃に強くなっているはずだ。

だが、晴輝にはこれがなんの金属かさっぱりだった。

気になるが、かといって朱音に鑑定してもらう予定はない。

彼女に見せれば、これが通常品でないことが一発で見抜かれてしまうだろうから。

「うーん。やはりよく使うアイテムを強化するのはやめておいたほうが良いな」

強化したプランターは、以前と見た目は同じだった。

しかし手触りだけでもはっきり分かるくらい、材質が異なっている。

もしこれで既製品の武具を強化してしまえば、性質の変化が簡単にバレてしまう。

少なくとも朱音には、別物だとあっさり見抜かれるだろう。

企業のロゴが入っているので、ダンジョンアイテムだという言い訳も使えない。

(当面、既製品を強化するのは禁止だな)

晴輝は禁止事項を脳内メモに書き留め、別のアイテムをタップする。

『ジャガイモ石を強化しますか?』

『強化値0/3』

『強化必要ポイント10pt』

『Y/N』

晴輝は朱音と共にダンジョンに潜ることがない。

ジャガイモ石なら強化しても、早々気づかれることはないだろう。

もし気づかれても、ジャガイモ石はダンジョンでドロップしたアイテムだ。

『使っているうちに変化したんじゃないか? 魔剣みたいに』と惚ければ煙にまけるはずだ。

……うん、いけるいける。

そんなことを考えながら、晴輝はYを押し込んだ。

一度スキルボードを消して、鞄に入った壺の中からジャガイモ石を取りだしていく。

「……しまった!」

大量のジャガイモ石が一カ所に集中しているため、どれが晴輝が強化した石なのかさっぱりわからない。

どうせ実験するなら1つだけ石を手にして壺の範囲外に移動してから強化するべきだった。

晴輝は落胆しながら、次々とジャガイモ石を取り出していく。

すると、

「……お!」

一つだけ、ほんの僅かに重量の違うジャガイモ石があった。

見栄えは他のジャガイモ石と同じだ。

2つ並べて観察するが、些細な変化を見逃さない目を持つ晴輝でも、違いが一切わからない。

観察を終えると、晴輝は2つの石をレアに渡した。

「レア、この石の試し撃ちを頼む」

「(ふりふり)」

はいはい、とレアが葉を揺らした。

晴輝は早速地面に落ちている木の枝――なかでも似た形状のものを2本集めて巨木に立てかけた。

「まず普通の石で枝を撃ってくれ」

「(ふりふり)」

レアが葉を揺らしながら石を槌に取り込み、放つ。

――ッダン!!

植物のノズルから石を発射しているとはとても思えぬ音を放ち、ジャガイモ石が飛ぶ。

石は見事に枝を真ん中から真っ二つにへし折った。

50メートル離れていても、狙いを違う事がない。

実に素晴らしい投擲の腕である。

晴輝は別の枝に、今度は強化したジャガイモ石をレアに投擲させる。

レアが+1のジャガイモ石を吸収して、発射。

――ッドゥ!!

発射音が先ほどのものとは明らかに違う。

発射による音圧が横隔膜を押し上げた。

そして、

石が枝に接触。

――ッパァァァン!!

ジャガイモ石が枝の真ん中を粉砕した。

「…………」

「……うわぁ」

あまりの威力の向上に、晴輝はぽかんと口を開け、火蓮が引いた声を上げた。

石を発射した当人もビクンと葉を揺らしたきり、動きを忘れ硬直している。

ジャガイモ石の飛翔速度はほぼ同じ。

しかし枝を折っただけの通常版に、接触箇所を粉砕した強化版。

威力の違いは明らかだった。

これほど威力が変化したのは、やはり重量が変化したからだろう。

スポンジボールを投げても怪我をしないが、同じサイズの鉄の玉を投げれば大けがをするのと同じ理屈だ。

もちろん、スポンジと鉄の玉ほどの重量変化があったわけではない。

だがレアの投擲スキルは現在5。さらにツリーを1つ強化している。

この練度の高さが、僅かな重量の違いでも破壊力の大きな変化を生んだのだ。

今後、さらに強い魔物と戦っていくならば、武器の強化は欠かせない。

武器が以前と同じであれば、いくら投擲レベルが高くても満足にダメージが与えられなくなってしまうからだ。

拳銃を持ってダンジョンに挑んだ、かつての冒険家のように……。

晴輝なら、新たに強い武器に持ち帰るだけで強い魔物に対応出来る。

だがレアは違う。

レアの武器――弾丸は現在のところ、ジャガイモ石しかない。

そしてこの石は、換えがないときた。

「……さて、どうするか」

晴輝は顎に手を当てる。

現在ジャガイモ石は増殖する壺の中に入っている。

いくらジャガイモ石を強化したところで、強化版が必ず増殖するとは限らない。

「うーん」

うなり声を上げて考える。

その晴輝の脳裡に、一筋の光が瞬いた。

上手くいくか? ……わからない。

ただ、失敗しても失われるポイントはたかが知れている。

試してみる価値はありそうだ。

ジャガイモ石に希望を見つけ、晴輝はスキルボードを取り出した。

ジャガイモ石を1つずつ+1に強化していく。

ジャガイモ石は全部で13個。

晴輝が想像していたより、壺の中にある石の数は少なかった。

残るポイントは2448。

「レア。この壺からジャガイモ石を吸い上げてみて」

「(テロン?)」

いいけど? とレアが吸引用のツタを壺に入れる。

そこから、クポクポと強化ジャガイモ石が吸引されていく。

スキルボードの変化を見守っていた晴輝の口元が、徐々につり上がっていく。

「やっぱりだ」

レアが強化ジャガイモ石を吸引しても、ボードに表示されるアイテムに、再びノーマルジャガイモ石が戻ってくることはなかった。

増殖する壺は、文字通り中にあるアイテムを増殖させる能力を宿している。

中身が全て入れ替われば、それを基準に増殖する。

中身が詰まって増殖が停止した状態で、晴輝は中にある全てのジャガイモ石を強化した。

それにより、ジャガイモ石が増殖してもコピー時に参照されるアイテムが強化版になり、強化版のみが増殖することとなったのだ。

仮に以前朱音が口にしていた『中身を始めに入れたアイテムが登録される壺』だったなら、この作戦は成功しなかっただろう。

詳細鑑定が出来ない、朱音ならではの些細な鑑定ミスである。

とはいえ朱音の鑑定ミスは仕方ない。

なぜならこの壺は、中身を取り出すそばから増殖するから。

通常の方法で中身を入れ替えることなど不可能なのだから、中身が変わる可能性を確かめる術はないのだ。

晴輝のスキルボードで裏技的に、壺の中身ごと強化させられたからこそ、判明した事実である。

「折角だから強化状態をカンストさせ――え?」

再びジャガイモ石をタップした晴輝は、ボードに表示された数値に目を丸くした。

『ジャガイモ石を強化しますか?』

『強化値1/3』

『強化必要ポイント200pt』

『Y/N』

「……一気に増えてる」

+1にするのに10ポイントしか必要無かったのに、+2にするのに200ポイント。

現在保有しているポイントは2448。

全てを強化するのには少々足りない。

中身が全て入れ替わらねば、強化したとしても中身がいずれ+1の状態に戻りかねない。

使用した強化ポイントが無駄になってしまう。

しかし何故ここまで一気に必要ポイントが跳ね上がったのか?

もしかすると、ジャガイモ石に新たな能力が付与される、とか?

考えるが、答えは出ない。

かといって、気になるから試そうと思えるほど強化ポイントは余っていない。

こういうところで試験的にポイントをジャブジャブ使っては、すぐに強化ポイントが底を突いてしまう。

「折角だから行けるところまで行きたかったんだけどなあ……」

晴輝はため息を吐き出した。

次にポイントが手に入るまで諦めるしかなさそうだ。

ポイントを獲得する方法は明確である。

ダンジョンの最奥まで進み、ダンジョンコアに触れだけ。

現在15階まで進んだ晴輝が、『自己最高到達階層を更新』して得るスキルポイントの取得よりも、強化ポイントの取得は難易度が低い。

レアの武器強化については、おいおい。

ゆっくり取り組んでいこう。

晴輝は再びため息を吐き出し、スキルボードを収納しようとした、

その時――。

「――ッ!?」

晴輝の目に、一つのアイテムがとまった。

鞄を置いてバックステップ。

しかし、その名は画面から消えなかった。

火蓮やレアとは離れた場所に移動したというのに消えないのは、それが晴輝と共に移動したから――。

すなわち、晴輝の装備品のうちの一つだということ。

「ということは……まさか、これは……」

震える指先で、晴輝はアイテムの名前をタップ。

『仮面(封印)を強化しますか?』

『強化値0/3』

『強化必要ポイント2000pt』

『Y/N』

「――仮面さんの強化きたぁぁぁ!!」