軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気になるステージを確認しよう!

戦闘開始から2時間。

声なき声が10階フロア全体を震わせて、巨木が動きを停止した。

火蓮が途中息切れを起こしてしまったが、大けがをすることなく晴輝らはダンジョン主の討伐に成功した。

時間がかかったのはダメージソースである火蓮の息切れもあるが、ダンジョン主の生命力が異様に高かったことが要因だ。

通常のボスとは比べものにならないほど、生命力が高い。

さすがはダンジョンを代表するボスだけはある。

死亡したダンジョン主はダンジョンに吸収されなかった。

そのまま地面から生えた状態で灰色に変色し、動きを失った。

軽いレベルアップ酔いが落ち着くと、晴輝は恐る恐る灰色のダンジョン主に近づき触れる。

「……硬いな」

ダンジョン主の体が異様に硬くなっていた。

試しに晴輝は灰色の幹に魔剣を突き立てた。

――ガギッ!!

魔剣が嫌な音を立てて幹の表面を滑る。

魔剣の先端が滑った幹の表面には、傷一つない。

まるで石か鉄だ。

「これ、消えるのか?」

「消えないのかもしれませんね」

おびただしい汗を浮かべた火蓮が近づき、幹に触れた。

表面の温度が心地良かったのか、ペタペタ触ると火蓮は気持ちよさそうに、ほわっと表情を緩めた。

「てっきりダンジョンに吸収されて、時間が来るとリポップするもんだと思ってたが。ダンジョン主は倒されると、復活まで休眠状態になるのか」

晴輝は火蓮に水筒を渡して休ませる。

火蓮がくぴくぴと水筒を呷り、息をつく。

晴輝は火蓮から返却された水筒を、レアのプランターに傾けた。

レアは葉で水を器用に掬い、気持ちよさそうに体を濡らした。

「ふぅ。激しい戦闘で疲れましたわね!」

火蓮のポケットから顔を出したチェプがくたびれたように息を吐いた。

「……お前はなにをした?」

「レア様が怪我をされぬよう、必死に祈っておりましたわ!」

「あ、そう」

突っ込みたいが、構えばくたびれるのが目に見える。

晴輝はチェプの無視を決め込んだ。

火蓮にレアとエスタを預けた晴輝は、マジックバッグを受け取ってボス素材を回収した。

ボス素材はもちろん、落下した根や枝である。

これらは様々な武具や道具に用いられる。

最も有名なのは旭川家具だ。

ダンジョンが生まれた後でもハイソな人々に珍重される、高級家具である。

根は泥を落とし、枝は葉を落としてから晴輝はバッグに収納していく。

ダンジョン主の素材に、特別なアイテムが混ざっていないかチェックする。

だが、レアドロップとおぼしきアイテムは見つからなかった。

残念だが今回はボスドロップに恵まれなかったようだ。

ダンジョン主からもぎ取った枝や根は、一体いくらで販売出来るだろう。

素材販売が楽しみだ。

晴輝は鼻歌交じりに、自らよりも大きな根と枝を集めていく。

ドロップ素材はかなりの数に上った。

その素材の巨大さもあって、マジックバッグはあっという間にパンパンになった。

それでもまだ、ボス素材はすべて拾い切れていない。

非常にもったいないが、バッグに入らない以上は諦めるしかない。

「……もしかして、ボスは木材を集めながら倒した方が効率的なのか?」

晴輝は天を見上げながら呟いた。

現在ダンジョン主は全体が灰色に染まっている。

幹だけでなく、枝も石や鉄のように固くなっているはずだ。

素材を集めようと思えば、生きてるうちに根や枝を払うしかない。

一瞬でボスを倒すより、真綿で首を絞めるように討伐したほうが、多くの素材を獲得できる。

「そうやって稼いでる冒険家もいそうだな」

晴輝は今期スタートしたばかりの駆けだし冒険家だが、他の冒険家は違う。最も早い者なら5年前から冒険家生活をしているのだ。

その先輩たちが、駆けだし冒険家が気づいたことに気づかぬわけがない。

既に素材の大量取得討伐くらいやってのけているだろう。

素材取得だけが目的なら、ダンジョン主を倒す必要はない。

生殺しにして根と枝を切り続ければ良い。

ボスを休眠させることなく何日間も素材を取得し、市場に供給し続けることが出来る。

そうして素材を大量に集め市場に流し続けると……。

ダンジョン主の素材の実売価格は晴輝が想像するよりも、低いかもしれない。

ダンジョン主の素材がいくらで売れるか楽しみにしていた晴輝は、僅かに肩を落とした。

「空星さん、どうしたんですか? なんだか落ち込んでるように見えますけど」

「ああ。張り切って集めた素材が、あんまり高く売れないかもしれないと思って」

晴輝が休憩場所まで戻ると、火蓮が苦笑した。

「なるほどそれで。張り切って素材を集めてたら急に肩を落としたから、具合が悪くなったかと思って心配しました」

「体は大丈夫だ」

晴輝は火蓮を安心させるように軽く両手を広げた。

先ほど晴輝は弱いレベルアップ酔いを感じた。

魔物のエネルギィが大量に流れ込んで、肉体が強化されたのだ。

レベルアップ酔いを感じても、それ以外の変化はなかった。

激痛を感じることもなければ、違和感もない。

「たぶん、もう完治してると思うぞ」

「それでも、無理はしないでくださいね」

「ああ、わかってる」

晴輝は素直に頷いた。

これでまた、張り切ってレベル上げをすればまた同じ目に遭う。

次に同じ目に遭えば、今度こそ人間空星晴輝の人生が終わりを迎えるかも知れないのだから。

「それでダンジョン主の素材のことですけど。安くたっていいじゃないですか」

「そうか?」

「はい。だってこの素材は、私たちが初めてダンジョン主を倒した証しなんですよ。それが高くても安くても、私たちにとって大切だってことは、変わりません!」

「…………」

火蓮のあまりに純粋な笑顔があまりにまぶしくて、晴輝は目を細めた。

まったく。金銭の高低にばかり目が行っていた自分が恥ずかしい。

「たしかに、その通りだったな」

「わっぷ――」

その純粋さの愛おしさに、晴輝は火蓮の頭を乱暴になで回した。

火蓮は「撫でるならもっと優しくしてください」と文句を口にしながら、くしゃくしゃになった髪の毛を手ぐしで治す。

けれど彼女の瞳は、笑ってた。

何故か、レアが興奮して晴輝の足をべしべしと叩き出した。

すごく痛い。

「…………」

何故レアが機嫌を損ねているのかが、晴輝は判らず首を傾げる。

するとレアがさらに葉に力を込めた。

仕方が無いのでレアの頭(花)を晴輝は優しくなでつける。

そんなので誤魔化されないんだから! とレアがツタを組む。

しかしまんざらでもないらしい。

トゲトゲしていたレアの葉が、徐々に丸みを帯びていった。

休憩を終えて、晴輝はこのフロアで最も気になっていたステージへと向かった。

ステージは縦10メートル横5メートル高さ1メートルほどの、ただ巨大なだけの石だ。

表面はまるで研磨したように真っ平らだが、なにかしらの文様は刻まれていない。

なんの見所もない、ただのオブジェである。

しかし晴輝は、そのステージにほんの小さな違和感を覚えていた。

違和感の前で立ち止まり、よくよく観察を行う。

晴輝が些細な違和感の前で立ち止まるのは、印刷所で働いていた時からの癖だった。

髪の毛ほどの小さな違和感を放置すれば、後々大きなミスが発生する。

そのため、製版チェック時に晴輝は、どんな違和感も無視せずじっくり確認しながら作業を行った。

(晴輝が違和感を覚えた紙面は大抵、なにかしらの不備が見つかった)

僅かな違和感が見逃しのサインであることを、晴輝はよくよく知っていた。

故に、晴輝は真剣に考える。

この違和感の正体はいったい何なんだ?

ステージを見て、天井を見て、壁を見る。

再びステージを見た時、まるで天啓を受けたかのように晴輝はその違和感の正体に気がついた。

「このステージ。人工物っぽいな」

「人工物ですか?」

「ああ。こんなに真っ平らで長方形の物体。ダンジョンじゃほとんど見たことがない」

ダンジョン内部は大抵、洞窟のような作りになっている。

中層からは平原だがそちらも、自然形態だ。

人工物のような造形のダンジョンを、晴輝はいまのところ見たことがなかった。

「……確かにそうですけど、石畳とかはあるんじゃないですか?」

「ゴツゴツした表面の石畳なら、あるかもな。けどこのステージみたいに真っ平らなものはあるか?」

「それは……」

「第一。このステージには継ぎ目がないんだ。デカい岩盤を削ったのか、それとも……」

「それとも?」

晴輝の貯めに、火蓮がゴクリと喉を鳴らす。

「なんの意味もないただのオブジェなのか」

そこまで口にして、晴輝はお手上げと言わんばかりに肩をすくめた。

晴輝は元印刷会社の社員であって学者ではない。

違和感に気づく力はあれど、そこから発見した事柄を分析する力はないのだ。

継ぎ目のない、人工物的な石のステージ。

これが何なのかは気になるが、考えても答えにはたどり着けないだろう。

晴輝はステージの謎から気持ちを切り替えるように、パンッとステージに手を乗せた。

その瞬間、

「――は!?」

「――ぇ!?」

ステージの上部から下に向かい、じわじわと色が黒ずんでいく。

晴輝と火蓮は慌ててバックステップ。

するとステージの色の変化がピタリと止まった。

現在ステージは上部4分の1がK70%。その下がK50%と色がくっきり分かれている。

「空星さん、いったいなにをしたんですか?」

「俺じゃない! ……たぶん」

自信がない。

色の変化は、晴輝が手を置いた瞬間から始まったのだ。

自分ではないと、言い切るだけの自信が晴輝にはなかった。

「――そうだ」

こういうときこそ、頼みの綱のスキルボード。

もしなにかしら大きな変化があったら、きっとログに残るはずだ。

晴輝はスキルボードを取り出し、ログを確認する。

≪暗黒巨木の討伐に成功しました≫

≪当ダンジョン主の初討伐によりスキルポイントが3つ増加しました≫

「お!」

新たなログが表示されていた。

暗黒巨木とは、ここのダンジョン主の名前だろう。

その討伐により、ポイントが3つ増えた。

晴輝にとってこのスキルポイント増加は嬉しい想定外だった。

問題は、この次だ。

≪ダンジョンコアよりエネルギィを吸収しました≫

≪条件を達成しました≫

≪条件達成によりデモ・グラフ機能の解放を申請――承認≫

≪アイテム強化機能が解放されました≫

残る4行のログが、晴輝の想定を飛び越えすぎていた。