軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

札幌にある北海道最大のダンジョン、地下歩行空間――通称『ちかほ』から出てきた男が、辺りを見回して小さくため息を吐き出した。

ダンジョンに入れるのは一部の人々が憧れる職業――冒険家だけだ。

『ちかほ』入り口周辺には、アイドルの出待ちをするが如き女子達が、鋭い目つきで入り口を眺めている。

きっと冒険家が現われるのを待っているのだろう。

現われた男性冒険家が独身ならば積極的にアプローチをかけるに違いない。

にもかかわらず彼女たちの目に、この男の姿は映らない。

決して彼の面が醜いから目に入れられないわけではない。

この男。

存在感が薄すぎるのだ。

これはネットでも同じだ。

冒険家御用達『冒険家になろう!』のサイトでも存在がない。

どれほど日記をアップしてもなしのつぶて。

PVは常に一桁台。

それだって部屋を間違えた客のようなものだ。

記事も読まずにブログから去ってしまう。

どうやら、冒険家になったからといって目立てるわけではないらしい。

悲しい事実だ。

牛歩作戦で広場を通り抜けるも、結局今日も誰一人彼の存在に気づかなかった。

誰かに気づかれたくてゆっくり歩く男の姿など、みすぼらしい。

だが幸いにも、彼の牛歩は誰の目にも止まらなかった。

人としての尊厳は守られた。

それでも不憫に違いはないが……。

その男。

空星晴輝(からぼしはるき) の口からまた、重苦しいため息が漏れた。

……家に帰ろう。

ダンジョンの存在が確認されたのは、いまから5年ほど前のことだった。

それは突如世界に、同時多発的に発生した。

生き残る国、斃れる国。

G8(先進八カ国)も含めて明暗が分かれた。

ダンジョンが何故生まれたのか、どうやって発生するのか。

そもそもダンジョンとはなんなのか?

生き残った国々は総力を挙げ、現在進行形で解析を進めている。

日本も世界と同様の災禍に見舞われた。

ダンジョン発生時のスタンピードを押さえ込み現在、一時の安寧を手にしている。

冒険家という国家資格が日本に誕生したのは、そんな混迷を極めた時期だった。

資格を得た冒険家は命を賭けてダンジョンを探索し魔物を倒す。

人により、命を賭ける理由は様々だ。

肉親や大切な人を魔物に殺されたから。

ロールプレイングゲームに憧れたから。

一攫千金が狙えるから。

近年では就職活動で優位になるから、などという理由もある。

『冒険家として活動しておりましたので、過酷な環境にも適応出来る自信があります!』

自らを最高の奴隷とアピールするためにダンジョンに潜るとはすさまじい根性である。

さておきダンジョンに潜ることで、これまでにない特殊な能力に目覚める者もいる。

たとえばある者は、剣圧を飛ばせる力を得た。

またある者はダンジョンで発見される未知の素材やアイテムの性質を見抜く力を得た。

一部では特殊能力のことを『本当の自分』と呼んでいるとか。

つまり彼らはダンジョンで、自分探しをしているのだ。

意識が高い。

冒険家は命賭けで、ダンジョンに夢や希望を見る。

今や冒険家は、日本の第四次産業としてその地位を確立させたのだった。

空星晴輝はダンジョンの探索の疲れを押して車を運転し、ド田舎にある自宅へと戻った。

空星――空に浮かぶ星。実に綺麗な名字だ。

晴輝――雲がなく輝いている。

そんな意味が込められた名前に文句はない。

ただ、その二つが組み合わさったせいで、小学校から空気と呼ばれ続けている。

実に不本意だ。

そのせいか、飲み会の席に居ても、『あれ? 空気いなくね?』などと言われる始末。

……嫌がらせではないと思いたい。

目の前に居るというのに、

『ねえ空星って見たことある?』

『……え、誰?」

『うちのクラスにいる男子の――』

『え? そんな人いたっけ?』

『いたはず。名簿には名前あったから。見たことないけど』

言われ放題だ。

決して嫌がらせではないと思いたい!!

――とにかく空気の如き存在感にまでなってしまった晴輝は、1ヶ月前に印刷会社を退職して専業冒険家になった。

空気から抜け出して、無視出来ない存在感を手に入れるために!

だが現在、まだまだ存在は空気のままだった。

本日の狩りの成果は一万円。

そのほとんどが交通費で飛んでしまった。

自宅前で車を止め、車庫のシャッターを上げる。

「……え?」

車一台分入る車庫の地面には、穴が開いていた。

「地盤沈下? ……ではなさそうだな」

車庫の入り口から奥に向かって、階段が続いている。

地盤沈下ではない。

当然、家から出るときにこのような階段はなかった。

だから晴輝が『ちかほ』に向かい、帰ってくるまでに階段付の穴が開いたのだ。

おそらくダンジョンに間違いないだろう。

「まさかうちに出来るとは……」

ダンジョンが何の前触れもなく、突如現われることは珍しくない。

家の敷地にダンジョンが現われた、などという話は『なろう』の掲示板で度々話題になるほどだ。

これは唯一無二の現象ではない。

それでもダンジョンが車庫に出来るなど、宝くじに当たるような確率だろうが……。

ダンジョンの前。

いつ魔物が出現するか判らないそんな場所だというのに、晴輝は力無く地面に膝をついた。

その肩が、みるみる小刻みに震えていく。

「俺の、除雪機が……ッ!!」

越冬用に車庫に入れていた家庭用除雪機が、ダンジョンの出現と共に消えてしまっていた。

これはダンジョンの出現よりも(個人的に)大問題である。

北海道の冬は甘くない。

どれだけ対策を取っていても必ず死人が出る。

試される大地は伊達じゃない。

そんな地域において、冬の除雪は日々を生き抜く上で最も重要な問題なのだ。

それを解決する手段が、家庭用除雪機。

晴輝の家は田舎ということもあり、自宅の敷地は建物比で十倍はある。

こんな面積を手作業で除雪するなど、刑罰でしかあり得ない。

一台約三十万円。

コレを買うために一体どれほど頑張って貯金したことか……。

ボロボロと涙を流しながら、雪国における救世主と呼ぶべき家庭用除雪機を奪った犯人を睨み付ける。

その入り口。

階段一段目の辺りに、長方形の石が落ちていた。

サイズは手を一回り大きくしたくらい。

厚さは一センチほどか。

見た目は石っぽい。

手に取るとあまりに軽くて放り投げてしまいそうになった。

表面はつるつるしている。

まるでタブレットだ、というのが手にした晴輝の第一印象だった。

詳しくみていると右上隅に、角丸がかった四角い切れ込みを発見した。

ボタンか?

なにも考えず晴輝はその四角に触れた。

瞬間。

石は軽く発光し、光の粒となって晴輝の胸にぶつかった。

「――っ!?」

反射的に胸の前で腕を組み合わせるが、衝撃がない。

恐る恐る目を開く。

怪我は、どうやらないようだ。

「……なんだったんだ?」

首を傾げた晴輝は、自らの感覚が奇妙に変質していることに気がついた。

その引っかかりに意識を向ける。

すると、胸から光が飛び出して、目の前で先ほどの長方形の石となった。

晴輝は慌てて石を手に取る。

するとタブレットのような石の表面に、先ほどは無かった白い文字が浮かび上がっていた。

空星晴輝(27) 性別:男

スキルポイント:3

評価:剣人

+生命力

+筋力

+敏捷力

+技術

+直感

+特殊

……もしかしてこれって、スキルボード?