軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シルという男

2階に続く階段を登り切り、そのまま屋根裏に続く階段に向かう。

先頭を行く執事の顔は青を通り越して白くなっており、続くローラやアンナも終始無言で、屋敷内に大人数の足音だけが響いていた。

執事は屋根裏部屋の前に辿り着くと、大きく息を吐いてからポケットから鍵を取り出して扉を開ける。

何故、屋根裏なのか。

どうして外側から鍵が掛けられているのか。

騎士達は終始無言で彼等の行動を観察していたが、室内の惨状を目にした瞬間、あからさまに眉を顰めた。

6畳程の狭い室内に簡素な家具が数点置かれている。

机にのせられたトレイには、カビの生えた黒いパンと泥水のようなスープらしき物が入れられた器が置かれていた。

そして何より目を引くのは、床に飛び散った結構な量の血しぶきと血溜りだった。

「・・・・」

白髪の騎士がすぐさま室内に入り、床に残された血痕を確認する。

「完全に乾ききっていません」

彼の言葉に、そこにいた全員が無言になる。

騎士達はレオの命令を待ちつつ、誰一人逃げられないようにさりげなくドア付近に移動した。

レオはずかずかと室内を歩き回ると、オリビアの姿を探すように辺りを見渡し、部屋の奥にある唯一のドアをノックした。

しばらくしても返答が無いのでドアを開けると、そこは小さなトイレのみの部屋でオリビアの姿は見当たらなかった。

彼は扉を閉めて再び室内を見回す。

唯一あったクローゼットを開けるが何も入っていない。

諦めて机の引き出しを開けると、そこにはわずかな筆記用具が入っていた。

「レオ。淑女の部屋をそのように不躾に見回ってはいけません」

白髪の騎士がレオを静かに窘めるが、彼は特に気にした風も無く引き出しから1枚の紙を取り出した。

それは、オリビアが名前を書き出したあの紙だった。

レオはニヤリと笑うと、その紙を胸ポケットにしまう。

その時、

「成程、ここがオリビア様の部屋なのですね。 報(・) 告(・) の(・) 通(・) り(・) ですね~」

この場に似つかわしくない軽い声が背後から聞こえる。

室内の全員が驚いて振り返ると、そこには別の騎士を伴ったシルが立っていた。

そしてその後ろには、騎士に拘束されたアレクが立っている。

「あ・・あなた!」

「父様!」

ローラとアンナはアレクの元に駆け寄るが、彼は茫然と室内を見たまま固まっている。

レオはシルに耳打ちしながら、先程のオリビアの書いた紙を手渡しつつ現状の報告を行う。

「成程」

シルは頷くと、ツカツカと室内を歩き回って状況の確認を始めた。

しばらく無言で辺りを見回っていたが、ふと窓の外に1羽の青い鳥がとまっている事に気付いた。

鳥は直ぐに飛び立っていったが、

「・・・成程」

シルは微かに口角を上げると、くるりと皆に振り返った。

「オリビア様をここで監禁していたのですね」

シルはにっこりとほほ笑んだ。

「違います!そんな事していませんわ!病気が悪化して自ら閉じ籠っていただけです」

シルの正体を知らないローラは、アレクの腕にしがみ付きながら言葉を被せるように反論した。

「ほう。どのような病に?医者には見せましたか?」

「い・・いえ、そこまでは・・・」

「悪化していたのにお一人で散歩に?」

「き・・気分転換と言って・・」

「外から鍵が掛かっているのにどうやって?」

「っつ・・」

ローラは口ごもる。

シルはそんな彼女を無視して辺りの使用人に尋ねた。

「食事の配膳は誰が?」

「は・・はい」

1人の年配の女性が恐る恐る手を上げた。

「1日何回配膳を?」

「1日3回、朝昼夜と配膳しておりました」

「そうですか・・」

シルは残念そうに呟くと、トレイがのった机をトントントンと人差し指で数回叩く。

「はっきり言っておきます。オリビア様はサイファード家の現当主です。当主への侮辱は場合によっては極刑となりますのでその辺りをよく考えて発言して下さい」

シルの言葉に使用人は勿論の事、ローラやアンナまでもが驚いて声を上げた。

「え?!あなた!?」

「当主って父様じゃないの?」

彼女達の余りの愚かな発言に、騎士達は眉を顰める。

シルは大きく舌打ちした。

「まあ良いでしょう。大体分かりました。後は個別に聞き取りを行います。それで、現在のオリビア様の行方ですが・・・」

シルは側に控えていた騎士から白い布に包まれたナイフを受け取り、刃に付着した血痕を確認すると、ちらっとアンナのドレスに目をやった。

「少し前、この部屋でアンナ嬢に切られて、どこかに・・・そうですね、森にでも捨てるように命じたのでしょうか」

その言葉に、数人の使用人の身体が揺れる。

「残念ながら、今からあなた方は容疑者です。大人しく捕縛されなさい」

シルが言うと、後ろに控えていた騎士達が使用人を次々と拘束していく。

勿論ローラとアンナも例外では無かった。

「い・・いや!やめて」

「離しなさい!私は何もしていないわ!あなた!何とか言って!」

ローラはヒステリックに叫ぶが、アレクは無言でその場に突っ立ったままだ。

「当主を亡き者にして乗っ取りを企てたとなれば、想像を絶する重い罪に問われますので覚悟してくださいね」

シルは暴れるローラににっこりと微笑みながら告げた。

「なっ!あなた!助けて!!」

ローラは再度アレクに縋りつこうとするが、無情にも騎士に遮られる。

ガタガタ震えるアンナの横を、無表情で通り過ぎようとしたシルだったが、ふと、彼女の髪に揺れる白いリボンに目を向けた瞬間、ものすごい勢いでそれを毟り取った。

ぶちぶちぶちっと容赦無く髪が千切れる。

「きゃあっ!!!」

アンナは驚いて叫ぶが、全く気にも留めずにシルはまじまじとリボンを凝視した。

「これをどこで手に入れたのだ」

先程の軽い口調とは打って変わって、地を這うような冷たい声色でアンナに詰め寄る。

「・・ひっひぃ・・・」

アンナは怯えて後退ろうとするが、両脇を騎士にがっちりと抑え込まれてそれを許さない。

「これをどこで手に入れたかと聞いている」

「か・・買いました」

「嘘を吐くな。これはどこかその辺で簡単に買えるような代物では無い」

「あ・・・アーサー様に・・・」

アンナは辛うじて声を絞り出す。

「アーサー様に頂きました!」

「アーサー?アーサー・ノルンディー。ノルンディー侯爵の次男か。ん?彼は確かオリビア様の婚約者では?」

シルは首を傾げるが、

「オリビア様との婚約を解消して、この女に変更する話が出ているようですね」

白髪の騎士が答えた。

「成程。アーサーもグルか?レオ、部下を連れてノルンディー侯爵家からアーサーを連れてきなさい。シロとクロは残って尋問なさい」

「「「はっ」」」

シルに命じられ、レオは数名の部下を連れてサイファード家を後にした。

シロとクロと呼ばれた白髪と黒髪の騎士は、使用人達を連れて退出する。

彼等を見送ったシルは、先程から棒立ちしているアレクに歩み寄って耳元で囁いた。

「これはあなたが招いた結果です。楽に死ねると思わないように」

その言葉を聞いたアレクは膝から崩れ落ち、もうここにはいないシェラとオリビアに泣きながら懺悔を始めたのだった。