軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

命の謳

「お母様!いらっしゃい!それと……え~お義父様?」

玄関ホール。

シェラを伴ってやって来たダリルに、オリビアは薄っすら頬を染める。

「まあまあまあ、何て可愛いのかしら!オリビア!!」

相変わらずのテンションで頬を染めたシェラは、思わずオリビアに抱き付く。

「ああ!私の娘は何て可愛いのかしら。お母様にそっくりね」

姉妹の様な美しい2人のやり取りに、隣にいたダリルは僅かに目を細めて微笑む。

「立ち話も何ですのでどうぞ」

シリウスはそう告げると応接室へと2人を案内する。

和やかな雰囲気の4人ではあるが、辺りで警護にあたっているブラックレイ達の顔は青ざめ、冷や汗をかいている。

彼等は思う。

屋敷に到着した時から不自然だった、と。

今も視覚的には美しい2人の親子がじゃれあっている様にしか見えない。

そしてその周りにいるシリウス達も特に気にした風では無い。

だがしかし、決定的に何かがおかしかった。

至近距離でシェラを見たのも初めてだったが、どう頑張っても彼女の存在を肌で感じる事が出来ない。

確かに目視ではダリルの側に同じ様に立っているのだが、存在が全くない。

いや、むしろマイナスでそこにぽっかりと空間がある様にすら感じる。

気配が一切ないのだ。

見えているはずなのにそこにいない。

この不可思議な現象を、ブラックレイ達は理解する事が出来なかった。

困惑する気配に気付いたのか、ダリルはふと立ち止まってシェラの腰に腕を回して抱き寄せる。

「魔力値を下げるようにとは言ったが、流石にやり過ぎではないか?マイナスに振り切っているようだ」

「え?!そうかしら?値幅が小さ過ぎて……難しいわ……」

「オリビア位に合わせたらいいのでは?」

「あ、成程!」

シェラは頷いてオリビアをじっと観察すると、それに合わせて閉じていた魔力を解放する。

瞬間、シェラを中心にぶわっと風が巻き起こる。

「どう?」

風にはためきながら自信満々にドヤ顔するシェラにダリルは頷く。

「いい感じだ」

「ふふふ、ありがと」

「何をしておいでですか……」

2人のやりとりを廊下の先で見ていたシリウスが、呆れたように息を吐く。

「問題ない」

ダリルが無表情で返すと、再びシリウス達の後をついて歩く。

「……本当に……」

シリウスはすっかり顔色を失った部下に視線を向けながら、後でリシューにフォローを頼もうと考える。

しかし今後何度も起こりうる事態である為、慣れるにはよい機会だろうと直ぐに考えなおした。

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「それで、どうなのかしら?」

シリウス達とは別れ、オリビアはシェラと親子水入らずで庭のソファーに座りながら海を眺める。

「え~聞かなくても分かってるでしょ?」

繋がってるんだから。

「あなたの口から聞きたいの」

シェラはオリビアに微笑む。

「何ていうか、幸せ、かな。……それと」

「それと?」

「何もかもが、何ていうか愛しく感じる」

「愛しく……」

「ほら、人間って絶対に死ぬでしょ。それなのに何でこんなに必死に生きるのかな~って漠然と疑問だったんだけど」

「精霊目線のお話ね。それで答えは分かったのかしら?」

「う~ん。よく分からないんだけど、多分時間に限りがあるからかなって。シリウスと一緒に過ごしてみて、1日1日がとても大切で、愛しくて。それって肉体を持っているからこそ感じられる事なんだろうなって……」

「……そうね」

精霊には肉体がない。

そもそも『生』や『死』の概念すらない。

気が付いたら発生し、気が付いたら消滅している。

そもそも自我の無いモノが圧倒的に多い為、その『気付く』事すらないのだが。

「必ず死ぬからこそ1つ1つの出来事が大切で、消えてしまうからこそ尊いのかなって。精霊と人間、両方の感じ方が出来るからこそ何となくそう思うの」

「そうね。それはやっぱり、身体を繋げたから余計に分かったのかしら?」

「えっ!?」

オリビアは驚いて顔を上げる。

「不思議よね。身体って単なる道具かと思っていたのだけれど」

シェラは自身の手を太陽にかざす。

「魂の繋がりとは別の、あり得ない程の幸福感と繋がりを感じたわ。あなたもそうでしょう?」

「……うん」

オリビアは小さく頷く。

あの圧倒的な熱量と幸福感。

オリビアはあの時間を思い出すだけでも、顔が熱くなるのを感じた。

「あれが命の営みなのね……」

「命……」

「人間はね、誕生、いわゆる『生』が始まりではないのよ」

「え?」

「全ては『死』から始まるの」

「それは、どういう……」

オリビアは混乱しながらシェラを見る。

「簡単にいえば、『死』が大前提ってこと。まず『死』を起点にして魂が生まれて広がり、『死』へと集束するの。決して『生』が起点ではないのよ」

全てが綿密に練られた神の箱庭の中で、限られた時間の中で必死に生きる。

命を繋ぎ、命を燃やす。

「前提自体が違うのね……」

「ええ、全てが集束する僅かな時間、精一杯命の炎を燃やすの。ああ、そう考えるとそれはまるで音楽の様ね。この星に生きるありとあらゆる生命が一緒に歌っている。とても美しくて、繊細で心地良かったはずなのに……」

シェラはふと空を見上げる。

「永遠の時の中で、お母様はその事をすっかり忘れてしまっていたのかも知れないわ……」

「お母様……」

オリビアにとってシェラは間違いなく母であるが、彼女がいつ生まれてどれ程の時間を過ごしているのかは知らなった。

シェラはそんなオリビアの視線に気付いて優しく頭を撫でる。

「でもあなたのお蔭で思い出せたわ。ありがとう」

「…………お母様。お母様は幸せ?」

「あら?ふふふ、そうね。私は元々幸せそのものだった事を思い出したの」

「幸せそのもの?」

「あなたにはまだ少し早いかもしれないわね」

シェラは美しく微笑む。

神が世界を造った日、シェラは生まれた。

精霊の女王。

それはあまねく全てを司る。

世界そのもの。

この世界が消える時、彼女は消える。

彼女が消えればこの世界も消える。

「オリビア、私の可愛い娘。人生を、この世界を楽しみなさい。自由に、好きな事をして好きな人と好きな場所へ。沢山の事を経験なさいね。あなたにはそれが許されているの」

オリビアはこくりと頷く。

過ぎていく時間は砂の様にさらさらと零れ落ちて行くけれど、それが切なく美しく感じるのは同じ瞬間は二度とないからだろう。

戻らない時間の中、1日1日をあなたと過ごす。

何気無く過ごす1日だけれど、その大切さにオリビアは今更ながら気付く。

世界に素敵なものは沢山あるけれど、生きている事こそが何ものにも代えがたい喜び。

色んな感情があるけれど、どれも同じくらい尊い存在。

この島を出たらまたいつもの日常へと戻る。

けれどそれはきっと、オリビアにとってかけがえのない物だろう。

『オリビア』であった魂と『シリウス』であった魂。

どれ程時間が経ったとしても、いかに姿形、名前が変わったとしてもそれは間違いなく続いていく。

大切にしよう。

慈しもう。

生きていこう。

ずっと一緒にいよう。

「お母様、どうか私達を 最(・) 後(・) まで見守っていて下さい」

「ええ」

シェラはしっかりと頷いた。