軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての夜1

「お疲れになりましたか?」

「う~ん、ちょっと……」

今日一日の予定をこなして屋敷に戻って来たのは、辺りがすっかり暗くなってからの事だった。

オリビアは入浴後ミナに軽くマッサージをしてもらった後、夜着のまま用意されたサンドイッチを頬張っている。

ミナはオリビアの食べるスピードを確認しつつ、ワゴンから食事を次々とテーブルに並べていくが、余程お腹が空いていたのだろう綺麗に平らげられていく。

「消化の良い物だけで申し訳ないですが……」

「ううん、ありがとう。は~~美味しい~幸せ」

朝食ぶりのきちんとした食事に、オリビアは満足そうに目を閉じる。

今日1日移動ばかりの上にドレスを汚さないか心配だったオリビアは、出された食事に手を付ける事が出来なかったのだった。

「これでしばらくゆっくり出来る~朝から忙しかったけど、今考えると意外とあっという間だったかも」

空腹が治まってきたオリビアは、ハーブティーを飲みながら暗くなった窓の外を見て呟く。

ライトアップされた庭に、雪の様に静かに鈴蘭の花が降り注いでいた。

「まだ降ってる……」

「まるで雪の様です。ここが南の島である事を忘れてしまいそうになりますね」

「うん……」

2人はしばし無言で外の景色を眺める。

「あ、そう言えばシリウスは?」

今日1日殆どの時間側にいたシリウスだったが、屋敷に戻るや否やリシューと2人でどこかへ行ってしまった。

「仕事が少し残っているようです。もう少ししましたらこちらにお越しになられるかと」

「そっか~大変だね~。今日はもう寝ようかな……」

オリビアが呟く。

「就寝には少し早いように思いますが……」

「お腹いっぱいになったから眠くなってきちゃった」

「……左様でございます、か……」

オリビアは持っていたカップをソーサーに置いてあくびを噛み殺す。

時計を見ると、いつもの就寝時間よりも大分早い。

しかし今までゴロゴロと自由気ままに過ごしてきたオリビアにとって、早朝から着飾られて人前に出て、挙句に島内を移動する為に長時間馬車に乗る事はかなり骨が折れる出来事だった。

「?どうかしたの?ミナ」

「え!?いえ……その、食後のケーキ等は如何しましょうか?」

「う~んいいや、ありがとう。もうお腹いっぱい」

オリビアはそう言うとソファから立ち上がる。

「もう眠るね。このままだと座ったまま寝落ちしちゃいそう」

オリビアは大きなあくびをすると、ふらふらとベッドに向かって歩く。

「あ、えっとオリビア様。シリウス様をお待ちになられては?眠気覚ましにコーヒーでもお入れ致しますが」

「え~いいよ。もう眠いから寝る」

オリビアはベッドに上ると直ぐにシーツの中に身を滑らせた。

「ミナお休み~シリウスにも言っておいて」

「……はい、畏まりました。それではお休みなさいませ」

そうは言ってもどうしようかと思案していたミナだったが、直ぐにベッドから規則正しい寝息が聞こえてくると、苦笑しながらベッドの天蓋カーテンを静かに閉める。

それから手早く食器類を片付けた後に、ワゴンを押して部屋を出たのだが、廊下の向こうからシリウスとリシューが歩いて来るのが見え、ミナはすっと端に避けて頭を下げた。

「ああ、ミナ。オリビア様は?」

「はい。お疲れのご様子でして……先程就寝なさいました」

「は?就寝ですか?」

リシューが珍しく声を上げる。

「……そうか」

シリウスは頷くと、オリビアの部屋のドアノブに手を掛けた。

「それでは私共はこれで」

リシューとミナが頭を下げる。

「ああ、ご苦労」

シリウスは静かにオリビアの部屋へと入っていた。

室内に足を踏み入れたシリウスは、間接照明の光を頼りにベッドへと近付く。

天蓋カーテンを慎重に引くと、静かにオリビアが眠っていた。

シリウスはゆっくりと近付いてベッドとオリビアの身体の間に手を差し込むと、細心の注意を払って抱き上げる。

そのせいでオリビアは一瞬身じろぐが、そのままシリウスの胸に頭を数回グリグリとこすり付けると再び眠りに落ちる。

ほっとしたシリウスはそのまま部屋を横切り更に奥にある主寝室へと向かうと、一際大きなベッドの上にオリビアの身体を優しく横たわらせた。

一向に起きる気配の無いオリビアの寝顔をしばし眺めていたシリウスは、右手でオリビアの前髪を避けると額に口付ける。

「オリビア……オリー……」

静かに耳元で囁くがピクリとも動かないオリビアに、シリウスは微かに苦笑しつつ手早く自らも夜着に着替えてオリビアの隣に横になる。

シーツに流れる美しい髪を一房手に持って感触を確かめる。

直ぐ近くに聞こえる寝息。

側に感じる体温。

甘い香。

共に眠った事は何度もあるが、それは本当に言葉通りただ眠るだけだった。

だがしかし今はもう違う。

オリビアの心、身体全てが自分の……。

「いや違う、逆だ。私の全てがオリビアのもの、だ」

シリウスはオリビアをぎゅうっと抱き締めると、切ない溜息をもらす。

「問題ない。時間ならいくらでもある……」

体内を荒れ狂う熱を溜息と共に何度か吐き出すと、名残惜しげにオリビアから身体を離す。

触れたくて触れたくて仕方がない。

首筋に顔を埋めたい。

もっと深くまで身体を繋げたい。

愛し合いたい。

慈しみたい。

大切にしたい。

閉じ込めたい。

乱暴にしたい。

どろどろに汚したい。

矛盾した様々な感情が、寄せては返す波のようにシリウスの身体を翻弄する。

「ああ……」

何と狂暴な。

まるで獣の様ではないか……。

しばらくオリビアの寝顔をじっと見ていたシリウスだったが、いつの間にか隣で眠ってしまっていた。