軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これからの事

その日、オリビアからブラン王国の国王、グレオ・ブランに送られた手紙は、彼の執務室に直接届けられた。

突然辺りが凄まじい光に包まれ、室内で書類の確認をしていたグレオと宰相のシル、数人の文官達は余りの眩しさに目を瞑った。

しばらくして皆の視界が慣れてくると、机の上に1羽の虹色に輝く鳥が佇んでいることに気付いた。

突然の状況に皆はしばし茫然としていたが、その鳥はあっという間に光の粒子となって消え去り、その場に1通の手紙と端切れだけが残された。

「・・・何事だ・・・」

グレオは暫くそれを凝視していたが、シルは躊躇せずに手紙に手を伸ばすと、裏の封印を確認した。

「サイファードからです」

シルの言葉に驚いたグレオは、すぐに彼に手紙を読むよう顎で合図を送る。

それを受け、彼は丁寧に手紙の封を開けると音読し始めた。

『この地を去ります

オリビア』

簡潔に書かれたその言葉に一同が息を飲む。

シルは読み終えた手紙をグレオに渡そうとするが、彼は先にそれを引ったくると、小刻みに震えながら隅々まで目を通した。

「・・・これは、誠か・・・?」

「残念ながら、印は本物のようです」

シルは無表情で答える。

するとグレオは突然立ち上がると、手紙を机に叩きつけた。

「直ぐにサイファード領へ向かえ!何としてもオリビアを捕まえるのだ!!」

「承知致しました。早馬で騎士を数名向かわせます。現状把握も兼ね、私もこの後現地に向かいます」

シルは、感情を伺わせない口調で静かに答えた。

「何故だ!ノルンディーの、アーサーはどうした!?繋ぎ留めなかったのか!?」

グレオは怒りまかせに何度も机を叩く。

彼の余りの剣幕に、文官達は震え上がった。

「その辺りも確認して参ります」

淡々と答えるシルの姿に、次第にグレオは冷静さを取り戻し、大きく息を吐いてどかっと椅子に腰を下ろした。

「この国からサイファードの血筋を失う事だけは避けねばならん。他国に知られる前に何とか手を・・・」

グレオは呟く。

正直彼自身、先祖が残した200年前の記録など話半分程度にしか信じていない。

しかし、周辺諸国には精霊を信仰する国も多くあり、彼等にとって精霊の伝承が残るブラン王国は、巡礼地としても非常に人気が高い。

その証拠に200年前に建てられた王都の神殿は、今も尚多くの参拝客で賑わっていた。

グレオは唸る。

外貨獲得の一大観光産業を、やすやすと手離す事など馬鹿のする事だ。

「何としてもオリビアを連れ戻せ。多少強引でも構わぬ。見つけ次第領地に括り付けておくのだ。新しい婚約者の選定も同時に行え。早々に婚姻させ、サイファードの血をこの国に残すのだ」

「はっ!」

「承知しました」

文官達はお辞儀をすると、急いで執務室から出て行く。

シルはその様子を冷めた目で見ていたが、自身も後に続いて退出した。

「愚か者め・・・」

シルが、左手の小指にはめてある銀色の指輪を撫でながら呟いた言葉は、閉じたドアの音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。

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「さて、どうやって脱出しようかな~」

オリビアは姿鏡の前で胡坐をかいて身体を左右に動かした。

「今晩決行かな~皆が寝静まった後、ぱぱぱっと魔法でどでかい乗り物を作って窓から逃げよう!」

オリビアは、どんな乗り物を作ろうかと思案した。

飛行機?ヘリコプター?

それとも大きな鳥?

ああ、ドラゴンなんかも面白い。

この世界に実在するのかなぁ??

しばらく妄想を楽しんでいると、突然階下から凄まじい衝突音がしたかと思うと、激しい音を立てて部屋のドアが開け放たれた。

「あんた!!あんたさえいなければ!!!」

そこには、鬼の形相でオリビアを睨むアンナと、焦った表情の使用人達が立っていた。

先程まで薔薇園でイチャイチャしていたはずなのに、何かあったのだろうか。

アーサーは帰ったのだろうか?

オリビアが不思議に思っていると、アンナはツカツカとオリビアの元まで近付き、彼女目掛けて右手を振り下ろした。

ザシュッ!!

「きゃあああああああああ」

使用人達の悲鳴が室内に響き渡る。

オリビアの目には、スローモーションのように赤い液体が飛び散るのが見える。

その先に、勝ち誇った表情でアンナが立っており、その手にはナイフが握られていた。

ああ、あれに切られたのか。

後ろにゆっくりと倒れながら、オリビアは冷めた目でアンナを見ていた。

殺すつもりの無い浅い傷。

きっとオリビア自身を傷モノにしたかっただけだろう。

左目から脇腹にかけてじんじんと傷口が疼く。

恐ろしさの余り叫ぶ使用人と、騒ぎを聞きつけてやってきた衛兵達が、驚きの余り扉付近で固まっている。

瞬間、オリビアは閃いた。

気絶したフリをしよう、と。

いい感じにうつ伏せになるように倒れたオリビアは、痛む傷を我慢しながらかすかに薄目を開け、場の成り行きを見守っていた。

「そいつを森に捨ててきなさい!母様からは許可はもらったわ!」

アンナは鼻の穴を膨らませ、ふーふーと荒い息を吐きながら衛兵に叫ぶ。

まるで興奮した獣のようだ。

オリビアは笑いそうになるのを何とか堪えた。

「これでアーサー様は私のものだわ!」

アンナの言葉に、成程。とオリビアは納得した。

先程の茶会の席の話。

アーサーとの婚約をアンナに変更するつもりだったのだろうが、なかなかうまくいかないのだろう。

当たり前である。

アーサーはサイファード家に婿入りする事になっているのだ。

オリビアと婚姻しなければ意味がない。

直系の血筋こそ、この地を治めることが出来るのだ。

サイファードの血が一滴も入っていないアンナとの婚約など、ノルンディー家にとって何の意味があると言うのだろうか。

そうこうしている内に、オリビアは衛兵のマントで簀巻きにされ、担がれながら屋外へと運ばれていた。

アンナの言葉に従い、このまま森に捨てる気だろう。

切られた傷はそんなに深くは無いが、結構な量の血が流れ、マントが徐々に赤く染まっていく。

嫌がらせは多々あったが、まさかナイフで切られるとは思わなかった。

オリビアは驚いたが、このチャンスを逃す訳にはいかない。

成り行きで屋敷から出られたのだ。

このまま捨てられた後、この地を去ればいい。

さてどこへ行こう。

お金って魔法で出せたっけ?

違法かな?

まあこの際そんな事を気にしても仕方ない。

まずはこの世界を見て回ろう。

前世とはかなり違うとは思うけれど、きっと楽しいだろう。

割と悲惨な状況に置かれていたが、オリビアは何故かワクワクが止まらなかった。

常に別視点で自分を客観的に観察している何かが存在していて、全ての事象を楽しんでいるように感じる。

自分がまるで2つに分かれているような、そんな感覚だった。

これこそが精霊の視点であるのだが、人間の意識が入ったばかりのオリビアにとって、それはなかなかに理解し難いものだった。

オリビアがそんな風に色々と思考している内に、衛兵は彼女を抱えてどんどん森へと近付いていく。

捨てられるタイミングを今か今かとじっと待っていたのだが、何故か衛兵からうめき声が聞こえてきた。

「う・・・うう・・ぐずっ・・・」

オリビアを脇に抱えて運んでいる衛兵は、どうやら泣いているようだった。

不思議に思って耳を澄ますと、やはり泣いている。いや、号泣している。

「???」

罪悪感でも感じているのだろうか。

きっといい人なのかも知れない。

オリビアはぼーっと考えていたが、心地良い揺れに自然と意識が遠のいていく。

衛兵はぐんぐん進んで、あっと言う間に森の入口まで辿り着いた。

するとその衛兵は、辺りを見回し人影が無い事を確認するとオリビアを両手でしっかりと抱え直し、物凄い早さで森の奥に走っていった。