軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

天竜界編 アーヴェンストツアー 上

純白の巨大浮遊船が、太陽の如き光の中を航行してくる。

空中に光の水面でもあるみたいに波紋を生じさせつつ船首から少しずつ姿を見せてくる光景は圧巻の一言。SF系の宇宙船の如きデザインでありながら神秘性も感じさせる巨船は、まるで神話に語られる神々が乗る船のよう。

だがしかし、TAKE2である。

深夜テンションで後付けした真紅の光の雲海やらゲーミング仕様やらの前に設定していた演出だが、TAKE2なのである。

「いや、どっちにしろ演出あるんかいっ」

「南雲だからなぁ」

淳史のツッコミと 昇(のぼる) の生温かい理解の眼差しはともあれ。

「どうだ。これなら良いだろう」

「あ、はい」

ハジメは自信を持って振り返った。ローゼ達がなんとも言えない絶妙な表情になっている。

確かに元の無骨で凶悪な巨大戦艦といった雰囲気とはかけ離れている。船体は美しいの一言だ。神々しさすら感じる。まさに生まれ変わりだ。

息を呑んでいただろう。これが初見だったなら。

「パパ、流石にTAKE2でリアクションを求めるのは酷なの。ドッキリ失敗後に撮り直しをさせられる芸人さんじゃないんだから」

「……うん、そうだね。パパが悪いね」

ミュウが苦笑しながらパパの腕をポンポンした。パパは普通に落ち込んだ。

『で、でも素敵だよ! 凄いよ! あのアーヴェンストがこんな綺麗な船になるなんて!』

「クワイベル、お主、ほんと良い子じゃなぁ」

小竜のフォローに感謝しつつも、ハジメは昨夜の自分を脳内でぶん殴った。オタクの迸る情熱を一般人に向ける時は最大限に気を付けろと、普段からあれほどっ! と、両親の呆れ顔まで浮かぶ。

「ま、まぁ、いいんじゃない? さっきのも悪くなかったと思うし? ……実はゲーミング用PCを買おうと思ってるんだけど、ああいうライティングっていいわよね。綺麗だし、ね?」

毛先を指先でイジイジ。ハジメをチラチラ見ながら優花ちゃんもフォロー。健気!

「南雲っちとネトゲしたいんだよね~」

「旅行が終わったら、ゲーミングPCの購入を理由にして一緒に買い物に行けないか計画してたもんね」

「全部バラしていくね……」

「二人とも鬼かよ。いや、鬼の形相になってるのは園部だけどよ」

鈴と龍太郎がいろんな意味でドン引きしている間にも、アーヴェンストは全容を改めて現わした。

輝き(演出)を収め、地上から三百メートルほど上空にて音もなく滞空している。ただ、小型自動車ほどの無数の白い球体だけは、上下左右関係なしの衛星のように船体を周回し、船体後部の巨大な円環もゆっくりと回転し続けているが。

「実は、まだ完成しちゃいないんだがな」

「そうなのですか?」

「ああ。といっても主に内装関係で、船としての機能は問題ない。優先したからな。実際、悪くないだろ?」

気を取り直して眺めれば、やはり感嘆の溜息が無意識のうちに漏れ出る。

それほど、生まれ変わったアーヴェンストは美しかった。

しばし無言で、慈しむように、あるいは眩しいものを見るように目を細めて天を仰ぐローゼとクワイベル達。

戦艦から船上国家へ。

かつての王族が相棒たる王竜を殺して完成させた悲劇の船にして、祖国の、否、世界崩壊のきっかけになった船。

けれど、生き残った人々を守り続けた守護の船であり、彼等・彼女等の寄る辺でもあった船。

ローゼ達の中で、アーヴェンストが辿った数奇な運命が思い返されているのは想像に難くない。

その感慨に浸る大事な時間を邪魔しないよう、ハジメ達は揃って静かに待った。

しばらくして、ローゼはおもむろに尋ねた。

「ハジメ様、質問しても?」

「もちろん」

「武装は?」

「ない」

ローゼの視線がようやく地上に降りてくる。隣に立つハジメに向く。ハジメが浮かべる微笑は穏やかで、どこか優しかった。

「約束だからな。戦艦じゃなく豪華客船にするって。だから、一切の武装を取り除いた。この船はもう何も傷つけられない」

傷つけないのではなく、傷つけられない。戦わないのではく、戦えない。

それはつまり、脅威になり得ないということ。脅威として利用できないということ。

ローゼのみならず、その言葉を静かに聞いていたサバス達の表情がきゅっと締まった気がした。泣きそうになったのを堪えるみたいに。

そんな彼等に、ハジメは言葉を重ねる。ある意味、堪える彼等に止めを刺すが如く。

「ただし、この船は一切を守ることができる。かつて帰る場所として、ローゼ達を守っていたように」

「……それは、どういう?」

ハジメはニヤリと笑い、左手を掲げて指パッチンをした。

小気味よい音が響くと同時に、ローゼ達からざわめきが起こる。巨大な円環が、それこそ輪後光の如く輝きを帯びたかと思えば、直後、アーヴェンストが巨大な輝く楕円形の球体――結界に包まれたのだ。

更には、周回していた球体同士が三個一組を作り、巨大な三角形の輝く膜を無数に形成して、やはり船体周辺を周回し始めた。

更に更に、継ぎ目一つないように見えていた船体から、まるで鱗が剥がれ落ちるみたいに無数の破片が分離していく。全てが直径一メートルくらいのハニカム型だ。

それらがまるで鳥類の一糸乱れぬ集団行動のように集まり、流れ、甲板の縁からハジメ達のもとへカシュカシュカシュカシュッと連結し、これまた小気味よい金属音を立てながら階段を形成し始めた。

「あの円環は船を守る結界を展開するための装置だ。空間遮断結界を筆頭に、形式・エネルギー源・理……世界を異にしたあらゆる種類の結界を多重展開できる。加えて、あれ自体が巨大なゲートでな、船を丸ごと転移させられる。今はまだ改良と調整が必要なんだが……いずれは異世界間転移も可能になる予定だ」

「っ、世界を渡る船……ですか」

「ああ。もちろん、星の外にだって行ける。宇宙だ。後で連れていく予定だから楽しみにしててくれ」

もはや言葉もなく思わず天を仰ぐローゼ達。

異世界を行き来できる船というだけでも驚きだが、それよりも、だ。天空という場所が何より身近な世界の住人においても、星の世界は未踏。憧れの向こう側の世界だ。

故に、あまりにもあっさりと告げられた星の海への誘いこそ、ローゼ達の心の琴線に直撃したようで。

快晴の空には当然、星も月も見えない。だが、あの空の向こう側へ行けると思うと……じわりじわりと興奮が湧き上がってくるようだった。

宇宙は、世界を異にしても人類の憧れの世界なんだな……と、そんなローゼ達に微笑ましげな眼差しを向けつつ、ハジメは続けた。

「周囲に浮かんでいる〝守護衛星〟は、見ての通り変幻自在の〝ゲート〟を展開して一切の攻撃を放逐することができる。これは、以前の戦いの時に俺が見せたな?」

「あぁ、あの戦艦の主砲さえ放逐した……」

それが無数に、かつ縦横無尽に。これだけでも破格の防御性能だというのに、実は守護衛星の一つ一つが重力場発生機になっている。つまり、攻撃を逸らし、あるいは引き寄せるデコイになれるわけだ。

「で、船体の表面は任意で分離・移動が可能な装甲で覆ってある。一見すると薄いパネルに見えるだろうが中々頑丈だぞ。この階段を作ったように別の用途でも使えるし、集合して強度を高めることも、損壊部分を瞬時に修復することも可能だ。侵蝕タイプの攻撃を受けても破棄すればいいし、便利だろ?」

「ソ、ソウデスネ?」

ハニカム型装甲の一つ一つがハジメの大盾アイディオンと同じ防御特化のアーティファクトであり、しかも、有事には流体金属も船体各部から放出されて装甲となる。

船に穴が空いても、ハニカム型装甲が穴埋めし、流体金属が隙間を埋めて瞬時に修復することもできるのだ。

そして、仮に全てを突破しても、船の素材自体が今のハジメの技術の粋を結集して生み出した新しい合金製である。その強度は現存するどんな金属より強固であり、少なくとも地球に存在する兵器では突破不可能だ。

つまり、ガチガチのガッチガチ。スキル構成を防御全振りにしたタンクプレイヤーも真っ青な防御超特化型というべき有様なのだった。

ふふんっとドヤ顔で語るハジメを前に、明らかに少し引いている様子のローゼ達。

そうなるよね、と機工界での見学で事前に知っていたユエ達は深く頷いた。香織が苦笑しながらユエに耳打ちする。

「ユエ、やっぱり正解だったね。全部の防衛システムを説明するのは自重した方がいいってハジメ君にアドバイスしたの」

「……ん。実は紹介したのはあくまで基本で、他にもまだまだあると知ったら……」

「ドン引きだったでしょうねぇ。ローゼさん達」

シアが遠い目になっていた。

実は、あの巨大円環。他にも外付け加速装置になっていて、なんなら船を〝神速ブースト〟させたり、重力方向転換で任意の方向に自由落下させたりもできる。

つまり、アーヴェンストはあの空母二隻分の巨体でありながら戦闘機並みの、否、軽く超える機動力を発揮できるのだ。

加えて言うなら、円環内部には大量の流体金属が内包されており、必要とあらば船全体を繭のように包み込むことも可能。つまり、シェルター機能付きだ。

シアが肩越しに振り返れば、ボーヴィッドを筆頭に半分くらいの人達は半分も理解できていない様子だった。それも、 少(・) し(・) 引いている程度で済んでいる理由だろう。

他にも幾つもの防衛機構があると機工界の時のように微に入り細を穿つように説明されていれば、 ド(・) ン(・) 引きされていたに違いない。

と、雫と愛子も苦笑いを深めちゃう。

「ハジメのロマン主義というか、凝り性なところを理解している私達ですら普通に引いたものね」

「何に襲われることを想定しているのかと、逆に怖くなりましたものね」

病的――と表現したくなる徹底ぶりだった。

どんな乗り物にも武装はマスト。むしろ、武装のない乗り物なんて危険すぎる! と意味の分からないことを真顔で叫んじゃうのがハジメだ。

約束を守って一切の武装を取り付けない代わりに、その危険思想は防衛機構の充実化・徹底化に転化されてしまったのだろう。

「完全に空飛ぶ要塞ですからね。難攻不落どころじゃないですよ。絶対不落ですよ」

「他の世界の神様や伝説の存在でも手を出せないでしょうね」

ハジメの補足説明がちょうど終わったタイミングだったローゼ達が、リリアーナとレミアの言葉で困惑状態から辛うじて納得に至れたようだ。

何者も、神や、神に等しい存在ですら手が出せない。武装を捨てた代わりに、搭乗者に絶対の安全を保証する船……なるほど、と。

ローゼの頬が自然と緩んだ。サバス達へ視線を巡らせば、彼等もまた苦笑気味ではあるが頬を緩めていた。

いろんな意味で圧倒されていたが、気持ちは同じだと頷きを返したり、肩を竦めたり。

ローゼも頷き返して、改めてハジメに向かって居住まいを正した。

「ハジメ様、約束を守っていただきありがとうございます。とても、ええ、本当にとても素敵な船だと思います」

綺麗な一礼を見せるローゼ。サバス達も深々と礼をする。

アーヴェンストを最強の戦艦として利用しない。その約束を守ってくれたのだと、心からの感謝を込めて。

だが、ハジメが何かを返す前に、「ただ……」とローゼが少しばかり困り顔に。

「これはこれで、脅威になりませんか?」

これさえあれば一切の存在が手を出せない。それはそれで決して無視し得ない存在のような? という問いに、ハジメはキョトンとした。かと思えば少し考える素振りを見せ、視線が泳ぎ、妙な汗を掻き始め、そろりとユエ達の方を見る。

「…………………………そ、そんなことは、ない……だろう?」

言葉の代わりに返ってきたのは生暖かい眼差しだけだった。

ハジメさん、無言で天を仰いだ。そして、

「いや、脅威とはおびやかされることだ。自分達を滅ぼし得る存在への懸念が問題なんだ。だから、防御力特化は脅威じゃない! お客様の安心安全が第一! いざという時は避難場所にもなる。そう、ノアの箱船だ! 世界が滅亡するとしても生き残れる場所なんだ! だから問題なし!!」

うんうんっと自分で納得するハジメ。

そうかなぁ? でもまぁ安全性を弱めるというのも確かにおかしな話だし……? とローゼ達が苦笑し合い、龍太郎達が「だから想定が物騒なんだよ」「危機感のスケールがでかいって」「まぁ、〝龍の事件〟もあったし?」と納得半分呆れ半分になっている中、

「細かいことは置いといて、さぁ、見学ツアーの始まりだ! まずは甲板からだ!」

勢いで押し切るようにしてハジメは先陣を切った。

階段を形成するハニカム装甲が動き出す。どうやらエスカレーターだったらしい。

「ちなみに、アブダクション体験したい奴は言ってくれ。光の柱が降り注いで、浮き上がりながら乗船できるオプションもあるから」

「「「なにそれ聞いてないんだが!」」」

機工界ではドックに停泊した状態での見学だったので、龍太郎、淳史、昇のテンションが上がる。UFOに誘拐される体験なんて望んでできるものではない。そりゃ体験したいに決まっている。男の子だもの。

奈々や妙子、それに鈴も「男共がアブダクションされるところ撮ろうよ!」「後で真央に送ってあげよう。You○ubeチャンネルで流せば受けそうじゃない?」「CGと思われるだろうけど、実際の映像だから違和感ないもんね!」とノリノリだ。

「あ~、大将。甲板に行くなら、俺達は普通に竜に乗っていけば――」

ボーヴィッドが相棒の黒竜の頭をポンポンしながら言った。ハジメさん、「え……?」と声を漏らして愕然とする。まるで不意打ちの攻撃でも受けたみたいに。

「……竜に乗って? いや、そうか……そうだな。手っ取り早いもんな」

わざわざエスカレーターを止めて待っていたハジメさん、一応、納得して頷いた。だが、どことなくガッカリした雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。

「階段で! せっかくなので階段で行きましょう! ぜひ乗ってみたいです!」

女王様から「空気を読め、この野郎!」みたいな眼光がボーヴィッドに突き刺さる。両手を挙げて降参ポーズを取るボーヴィッドと彼の部下数人。

『ぼ、僕、あぶだくしょん? されてみたいな!』

「……気を遣わせてすまんなぁ。ご主人様は、自作した物のお披露目となると少々子供っぽくなってしまうのじゃ。まぁ、そこが可愛いくて良いんじゃがな?」

「……ん。ローゼ、覚えておくといい。これがギャップ萌え」

「ぎゃっぷ、もえ?」

ハジメを見るローゼ。ティオとユエの発言に自覚があったのか、少し恥ずかしそうに聞こえなかったふりをしている。

何かがローゼのハートに刺さった! ローゼはまた一つ素敵な概念を知った!

ローゼがニコニコ顔で、いや、少しニマニマしているか? とにかく笑顔で階段に駆け寄る。

サバス達もくすりと笑みを浮かべながら後に続き、黒竜達は戸惑い気味に顔を見合わせつつ、「取り敢えず、自分達は空に上がるか……」みたいな感じで舞い上がっていく。

ハジメの口元が分かりやすく綻んだ。「くっ、そういうとこ卑怯よ!」と胸元を押さえているのは優花ちゃんだ。気持ちは分かると言いたげな笑みを浮かべつつ、香織達が最後尾に続く。

男三人とクワイベルが、光の柱を照射されふわわ~~っと浮き上がっていく。本来なら船底の出入り口から内部に入るのだが、今回は甲板まで外部を上がっていく。

両手を軽く広げて目を細めながら天に上がっていく龍太郎達は、まるで天に召されているかのようで爆笑している奈々達。

一方、クワイベルは無重力の感覚に慣れないのだろう。少しばかりジタバタ。きゅう~んっと情けない声も上げちゃう。

なんとも哀れを誘う光景だ。まさにイメージ通りの、アブダクションされる牛のようだった。

エスカレーターで上昇するローゼが思わず「くぅーちゃん! 大丈夫なの?」と心配しているが、それも僅かな間のこと。

あっという間に三百メートル以上を上昇したエスカレーターから船上に足を踏み出すローゼ達。ほぼ同時にクワイベルも隣へふわりと降り立てば、

「うそ……ここが……船の上?」

『なんて綺麗なんだ……』

感嘆の声が漏れ出した。

全体の構造を言うなら、サッカースタジアムが近いだろうか。

一行が立っているのは、三階層ある観客席部分の最上段。そう、アーヴェンストの様変わりに度肝を抜かれて(というかゲーミング仕様に気を取られて)ローゼ達は気が付いていなかったが、実は元のアーヴェンストの甲板部分より更に外壁が高くなっているのだ。

元の甲板をフィールドとするならに、その外縁にスタジアムの外壁を増築したみたいに。

そして、そのフィールド部分には美しい自然が広がっていた。

豊かな草花が咲き乱れ、木々が生い茂り、中央に立つ真白の塔からは滝が流れ出ている。その下には湖が出来ていて、そこからは小川が流れ出していた。

屋根と柱だけのシンプルな休憩所があったり、小さなログハウスやツリーハウスも見受けられた。森の小径には各所にベンチなんかも設置されている。

スタジアムなら観客席にあたる部分も緑に覆われていて、なんなら樹の根や枝、ツタなんかが絡みついており、あたかも自然に呑み込まれた廃都感があった。

実を言うと、機工界の聖樹から見た地上の自然の一部は、この甲板だったりする。

なので、当時見た光景のまま、人間への警戒心? 何ソレ美味しいの? と言わんばかりに動物や小鳥達がのんびり過ごしていた。

しかも、だ。

「し、失礼ながらハジメ様。その、私には何やら小さな少女が飛び回っているように見えるのですが……」

もう歳かしらん? と眉間を揉みほぐしながら、思わず質問したサバス。無理もない。

だって、輝きを帯びた手の平サイズの少女(もちろん、少年もいる)が楽しそうに飛び回っているのは幻覚でもなんでもなく事実。天竜界の人間が見たことなどあるはずのない存在――妖精が実際にいるのだから。

「あれは妖精といって……そうだな。異世界の、自然を司る神の眷属といったところかな。何せ仮初めの大地なもんだから手入れが結構大変でな。専門家に任せてるんだ」

「……いやはや。なんと言ったら良いか……」

ハンカチを取り出し、額に浮き出た汗を拭き始めるサバス。気持ちは分かるとクロー姉弟やボーヴィッド達も深呼吸している。

「まるで楽園のようだわ……」

『……うん。こんな世界になったらいいな。僕達の世界も』

ただ一人と一体だけは、羨望と憧憬に声を震わせ、しかし、その瞳にはまた一つ決意を宿したようだったが。

「驚いてくれたようで何よりだ。ちなみに、この外壁は全て外部を透過できる。下に降りても外は見えるから景色も楽しめるぞ」

もちろん、この広々とした外縁部最上階に上がって景色を楽しむのもありだ。中央の塔などはまさに展望台である。室内にはゆったりソファーとバーカウンターなどもあるし、テラスに出ることもできる。

塔より後方は異世界版クレー射撃やスカイボード、プールなど各種定番のレジャー系施設が揃っていて、また別の趣向が凝らされている。

もちろん、スタジアムを参考にしているので、天井を展開することも可能だ。その場合、空母というよりは潜水艦のような外観になるが。

「ローゼ達、甲板で作物を育ててたろ? せっかくだし、規模を拡大して自然の環境にしてしまおうかと思ってな」

「規模を拡大というレベルの話じゃあないですよ……」

黒竜達がさっそく自然公園化した甲板に降り立っていく。直ぐに気が付いて、妖精達がキャッキャッと戯れ始めた。物珍しげに、しかし、決して傷つけぬように気遣っているのが分かる動きで妖精達や動物達と交流し始める黒竜達。

彼等は彼等で楽しめそうだ。ハジメが妖精の一体にハンドサインを送れば、「おもてなしは任せて!」と言わんばかりにサムズアップが返ってきた。早速、幾つかの木々に実っている果実を取りに行っている。

黒竜達のもてなしは、妖精達に任せておけば大丈夫そうだ。

そんな光景を見て、ローゼ達が目を細めている。尊い光景に思えたのだろう。静かな感動が伝わってくるようだった。

放っておくといつまでも眺めていそうだったので、咳払いを一つ。

「改めて、ようこそ豪華客船アーヴェンストへ。こちら、搭乗券になります」

少し芝居がかった仕草で、懐からスマホより少し小さいサイズのカードを取り出すハジメ。

ローゼ達が思っていた以上に感嘆してくれたことに、すっかり気を良くしたようだ。やはり創作者としてお披露目や設備説明には心がウッキウキになってしまうのか、テンションもどんどん上がっていく様子。

ユエ達の生温かい視線にも気づかずに、上機嫌でローゼ達にカードを配っていく。

「これは?」

「ふふ、これはな――」

「お客さんが設備を便利に使うためのアイテムなの!」

娘に説明役を取られて、笑顔のまま口元をもごもご。気を取り直して~

「便利に、ですか?」

「そうだ。これに音声で――」

「ですです♪ カード型の端末なんですよ、それ。中央に指を当て、画面が表示されたら自分の名前を言って下さい。それで所持者が登録されます」

「せ、説明ありがとな、ミュウ、シア。それで――」

「……自室の鍵になるのはもちろん、艦内の地図やナビ、食事や移動手段も手配できる」

「ユエ、お前まで……ごほんっ。更に詳しく説明――」

する前に、香織、雫、愛子、リリアーナもニッコニコで参加。

「通信機にもなるよ!」

「音声入力だけど文章も送れるわ!」

「今はまだプロトタイプらしく、ゆくゆくはリストウォッチタイプやメガネタイプも用意するそうです!」

「ちなみに、このエアロバイクが艦内移動用の乗り物ですよ! カードの中の亜空間に格納されているので、いつでも取り出せます! ……普通に我が国にも欲しいですよ、これ」

「このエアロバイクはあくまで基本じゃ。他にも様々なタイプの乗り物を貸し出しておるんでな。興味があればぜひ、レンタルスポットに行くとよいのじゃ!」

「全部説明するやん」

ハジメのジト目には、お前等絶対にわざとだろ、そうなんだろっという不満がありありと浮かんでいた。

「しょうがねぇだろ。南雲、作品の説明を始めたらなげぇんだもんよ」

「私達は一度聞いてるしねぇ」

龍太郎と鈴が苦笑している。そういうことらしい。

「なんて酷いことを。お披露目の時の説明こそ創作者の最も心躍る瞬間だろうが。楽しみを奪わないでくれよ」

「いやでもさぁ、南雲っち。エアロバイクの説明の時なんて、ゼル○の伝説のブレワ○? ティア○ン? とかなんとかってゲームでプレイヤー達が最もお世話になっただろう乗り物を参考にしたって話から、いつの間にかそのゲームの素晴らしさまで語り始めたじゃん」

ハジメはそっと視線を逸らした。

つい興が乗ったのだ。某ゲームの如く様々な部品だけ用意して、後はお客さんの手で好きに組み合わせて創作してもらうというのもレジャー施設の一つとしてありでは? と計画していたのもあって。まだシステムは完成していないが。

なお、こちらのエアロバイクは浮遊システムが重力制御になっており、動力がレコード盤サイズの円盤なので某ゲームのそれよりコンパクトになっている。バランス制御や操作システムの基本は全てG10が一日で構築してくれました!

「まぁ、それはそれとして」

あ、誤魔化した……という奈々達の視線をサクッと無視し、ハジメは乗客カードの登録を促した。

「本来ならエアロバイクを出してもらって見て回るところなんだが、最初はちょいと転移で移動したい。艦橋にな」

「艦橋ですか? 船の最重要エリアですよ。私達が入っても?」

「ああ、ローゼ達なら構わない。どうせシステムが丸っと変わっているから問題もないしな。それより、会わせたい奴がいるんだ」

クリスタルキーを使うハジメに小首を傾げつつも、ローゼ達は素直についていった。

そうして。

『ようこそおいで下さいました。前所有者ローゼ・ファイリス・アーヴェンスト様、クワイベル様、そして竜王国の皆様。心より歓迎いたします』

「え? え? どなたですか?」

艦橋全体に響くような声音。中性的な、けれどどこか合成音声じみた声。

以前とはまるで違う艦橋の内装や、見たこともない計器類に目を丸くしている中、唐突にかけられたその声にローゼ達が視線をキョロキョロさせる。

ハジメが、否、ユエ達までもが悪戯っ子のような表情になっているのに気が付いたのはごく少数。

姿なき声の主は、幾分柔らかく感じる声音で正体を明かした。

そう、ローゼ達にとって信じがたい、驚愕すべき正体を。

『皆様をお迎えしている当艦でございます』

「「「「「……………………………は?」」」」」

ところで、艦橋の中央には直径三メール程度の円形の水場がある。ごくごく浅い泉で、くるぶしほどの深さしかない。外縁もないので踏み込み放題だ。

ただ、そこに湛えられているのは水ではなく流体金属。自在に変形することで周囲の地形や状況をジオラマの如く表示する外部状況立体MAP機のようなものだが、それがさざ波をうつようにしてせり上がり球体状になっていく。

更には色が白に変わり、中央にモノアイが作られ――一拍。

未知との遭遇と言わんばかりに目を見開いて唖然としていたローゼ達に、それは恭しく名乗りを上げた。

「私の名は(いずれ)アーヴェンスト。こうしてお話できる日を心待ちにしておりました」

なお、いずれの部分を言わず、というかG10と名乗らなかったのは、もちろんハジメの悪戯心である。ユエ達も満場一致で賛同したサプライズ。

その悪戯の結果は――

「「「「「キャアアアアアアアッシャベッタァアアアアアーッ!!?!?」」」」」

どうやら大成功だったようである。

ローゼとクワイベルは抱き合い、サバスやボーヴィッドまで、〝ムンクの叫び〟の如き有様で女の子みたいな悲鳴を上げたので。