軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トータス旅行記㉚ もう何も恐くない!

煌びやかな衣装が、回廊のように並べ立てられた大部屋。

壁面自体も全て収納になっていて、目の眩むような装飾品の数々や靴の類いも。

それら全て、自由に選んでいいと、それどころか好きな物を持ち帰っていいなどと言われれば、それは女性陣にとって楽園と呼んでも過言ではない場所である。

あるはずなのだが……

「……」

「……」

煌びやかな双大剣と、目の眩むような神罰の蒼い炎、そしてそれらの使い手が一触即発の様子でじりじりと間合いを計り合っているせいで、むしろ地獄の戦場のよう。

侍女さん達と針子さん達が部屋の隅でガタガタと手を取り合って震えている。

「こらっ、香織! いい加減にしなさい!」

「ユエちゃんも、そんな危ないものポイッしなさい! ポイッ」

薫子(かおるこ) と 菫(すみれ) が、それぞれ娘を叱る。だが、

「止めないで、お母さん! 女には殺らなきゃならない時があるの!」

「……お義母様。女には、許してはならないこともあるんですっ」

などと反論して、二人はまったく矛を収める気がない様子。

その理由は、

「今度こそ、私がそのウェディングドレスっぽいの着るんだから!」

「……バカオリには早い。来世に期待してどうぞ」

つまり、そういうことだった。

かつて、あの惨劇の会場で行われたパーティーにおいて、ユエは純白のドレスで着飾った。その姿はまさに花嫁そのもの。会場中の視線をさらったのである。

で、その純白ドレスを、今度は香織が着たいと言い出して、しかし、それをユエが譲らなかったという状況なわけだ。

ティオが、やれやれと肩を竦めてフィンガースナップをパチンッと。

『……ん。私はこのドレスにする』

『させないよ! 何そのウェディングドレスっぽいの!』

『……婚約発表の場でもあるからおかしくない!』

『リリィのね! なに会場ジャックしようとしてるのかな! かな!』

現実の二人に重なるようにして、過去の二人が現れる。

『むしろ、それは私が着るから、ユエは……はいっ、このドレスが似合うよ!』

『……!? バ、バカオリ? 気のせい? それ、子供用に見えるけど?』

『そうだよ! お似合いだね!』

過去のユエが目のハイライトを消して両手に蒼炎の渦巻く球を生み出した。

香織が『な、なに? やろうって言うの!? いいよ、やってやるもんっ』と銀光を纏う双大剣を取り出し、対峙する。

現在と、まったく同じ構図だった。否、過去では即行で激突している。

雫が『や、やめなさぁい! 周りの迷惑というものを――アッ、私の狙っていたドレスが塵に!? いい加減にしないと斬るわよっ』と怒声を上げ、シアとティオが飛びかかるようにして二人を羽交い締めしにかかる。

映像の隅っこにはガタガタと震える侍女さんと針子さん達も見え、鈴が必死の形相で結界を張り守っている。

実は、あの時も裏ではこうして衣装争奪戦が繰り広げられていたらしい。

「昔の香織ちゃんからは想像もできないわねぇ。暴力とは無縁で、基本的に執着心も薄くて、他人を優先しちゃう子だったのに」

「……恋は人を、こうまで変えてしまうのね」

香織の小さい頃を知る霧乃が苦笑を浮かべて言うと、昭子が目を丸くした。昭子は、喧嘩しているか、ヤンデレている香織しかほとんど知らないのだ。

そんな、いかにも清純の代名詞みたいな女の子だったなんて……と、まるで取り返しがつかないくらい落ちぶれてしまった人に向けるような目を香織に向けてしまう。

「あの頃の香織は……もういないのよ」

「そんな故人を偲ぶような雰囲気で言わなくても……というか、そろそろ止めませんと」

雫が同じような目をしていた。愛子も苦笑いを浮かべずにはいられない。

「素晴らしい殺気ですわね。では、勝った方に選択権があるということで、不詳、このトレイシー・D・ヘルシャーが見届け人を務めさせていただきますわ! 血湧き肉躍れ! 衣装争奪せぇ~~~~んっ、ファイッ!!」

「煽らないでください、狂犬皇女」

ギンギラな実に愉しそうな笑みを浮かべて死合い開始の合図をしようとしたトレイシーが、後頭部をシアにはたかれて床に顔面ダイブする。

床も後頭部も凹んだ。皇女様が陸揚げされた魚のようにビクビクッしている。侍女さんの一人が耐えかねたように「ハウリアよぉっ、ハウリアがまた暴れ出したわぁ!」「トレイシー様が死んだ!? この人でなしぃっ」と泣き喚き始める。

それらをさらっと無視して、

「シアちゃん! お願い!」

「合点承知」

菫お義母様のお願いに答えるシア。ビシッと香織を指さしつつ、

「ミュウちゃん、ネアちゃん、君達に決めた! 香織さんに〝だきつく〟〝うわめづかい〟!!」

「みゅぅ~っ」

「ねぇぁ~っ」

ボールから飛び出たわけではないけれど、いかにもポケットの中のモンスターっぽい鳴き声をあげて香織に飛びかかる年少組二人。

割とやり込んでいる〝みずタイプ使い〟のミュウはともかく、某ゲームを知らないはずのネアまでネタを理解しているっぽいのが謎だ。ハウリア随一の〝できるウサミミ少女〟は底が知れない。

「きゃっ、ミュウちゃん、ネアちゃん、離れて! 分解魔力使ってるから危ないよ!」

危うく塵にするところだったよ! 直ぐに蘇生するけどね! と割と恐ろしいことを平然と口にする娘に、薫子が白目を剝きかける中、ミュウとネアはうるうると上目遣いに。

無言の「もうやめて?」に、香織は「うっ」と言葉に詰まり、気まずそうに双大剣を下ろす。

それを隙と見ちゃうユエ様。

「……シア、ミュウ、ネア! よくやった! そのまま死ねバカオリぃっ」

排除したい奴だけを排除する〝神罰之焔〟が放たれ、しかし、

「ふんぬっ」

バチュンッと握り潰された。シアの手に。

「……むっ、シア、邪魔をしないで――」

「体、折りたたまれるのと、引き延ばされるの、どっちがいいですか?」

「人体に不可能な選択肢!?」

シアのにっこり笑顔に、ユエは大量の冷や汗を噴き出した。

不可視のボーダーラインを感じる。ここより先に踏み込めば、不死身の吸血姫とはいえ、あまり想像したくない何かをされるだろうことは分かる。なので、そっと蒼焔を消して大人しくなる。

「お義母様! 鎮圧成功しましたですぅ!」

「流石はシアちゃんね! 見事な手際だわ! ミュウちゃんとネアちゃんもありがとうね?」

「みゅ! お安い御用なの!」

「恐悦至極ッ」

南雲家の実権は、やはり菫が握っているとよく分かる一連のやり取りだった。

侍女さん達から畏敬の念を込めた眼差しが菫へ注がれる。魔王の母、恐るべしと。

パンッと柏手を打って空気を変える菫。

「争うくらいなら、もういっそ全員で純白のドレス着ちゃいなさい!」

全員花嫁っぽくていいじゃない。むしろ、それがいいじゃない! と笑顔で提案する。

薫子や霧乃、昭子、そしてレミアも素敵な案だと賛同。なぜか侍女さん達が「え!?」と困惑の声を上げ、顔を見合わせていることに気が付かず、菫は上機嫌に言葉を重ねる。

「あら、レミアちゃんも着るのよ! ミュウちゃんとお揃いがいいわね!」

「えっ!? 私もですか!?」

それは暗に、母娘でハジメの花嫁アピールしろということか、とレミアの頬がほわほわ~と染まる。

それなりに地球暮らしに慣れ、ファッションに興味を持ち、ちょっと憧れていたのもあって嬉しいと言えば嬉しいのだが……

「ミュウだけならともかく、母親で、しかも皆さんより年上の私がそんなはしゃぐようなことは……」

「……みっともないと申すか。三百歳超えていたら、純白のドレスはダメと?」

「同じく。五百歳超えを前に、よう言うたな、レミアよ」

いつの間にか背後に回り込んでいた年長組が、<●><●>的な目をしながらレミアの両肩を押さえる。

「……レミアさん、忘れてませんか。私と歳、変わりませんよ」

愛子が暗黒面に落ちそう。実は、愛子の方が少し年上だったりする。

私は、そんなに大人に見えないですか、そうですか。いっそ、氷雪洞窟に突撃して変成魔法取得に命をかけてみましょうか……とブツブツ。

三人揃って見た目と実年齢が分かりづらすぎるうえに、一番年上に見えるティオもだいたいはっちゃけているので、なるほど、確かに普段の落ち着いた雰囲気と母親としての包容力全開な雰囲気を合わせると、レミアが一番年上に見える。

なので、決してBBA無理すんな! という意図で発言したわけではない。ただ自分が着るとなると恥ずかしかったので、咄嗟に誤魔化したら、見た目年齢に釣られてしまっただけである。

という弁解の気持ちを乗せて、

「はしゃぎましょう。花嫁姿に年齢なんて関係ありませんものね。うふふ」

と、冷や汗を流しながら即時撤回した。

そんなレミアママも心配だが、ミュウ的にはネアちゃんの方が心配だった。

「私に花嫁姿になれと? それはつまり、今宵初夜を迎えていいという許可? しかし、お義母様の一存ではドンナーされるのがオチで……いえ、お義母様のお力添えをいただき猛攻をかければワンチャンありでは? 既成事実、実に甘美な響きです。けど、まだ一手欲しいところ。そう、そうです。ユエ様達全員でボスを襲ってもらい、どさくさに紛れれば! 気配操作全開で挑めば……いけるっ。ヤバヤバです。自分の知謀が恐ろしいっ」

「恥謀だと思うの。ネアちゃんのぶっ飛んだ発想が一番恐ろしいの」

ブツブツと呟いたかと思えば欲望とボスへの奇襲案をダダ漏れにし、クククッと悪どい笑みを浮かべ始めたネアに、ミュウは悲しい生き物を見るような目を向けた。

そんな状況の中で、ずっと気まずそうに黙っていた、というか何か物言いたげにソワソワしていたリリアーナが、ようやく意を決して口を開いた。

「あの!」

思いのほか大きく響いた声に、ん? と全員が注目する。

「あの、ですね。ドレス選びの参考までにお伝えしておきたいことあると言いますか、純白ドレスは、その、数がね! 少ないのでね! 他の色合いにした方がよろしいかなぁ~なんて思ったりします!」

実に歯切れが悪い。必死に何かをオブラートに包もうとしているっぽい。

「リリィ、それって今の流行的な話?」

と、香織が尋ねると、答えは復活したトレイシーから返った。

「いいえ、帝国の文化的な話ですわね」

危うく死ぬところでしたわ、もうシア・ハウリアのお茶目さん! と言いたげに、シアへウインクを一つし、マトリック○回避するシアにちょっと落ち込みつつ、トレイシーが説明しようとする。

「ええっと、トレイシー殿下。文化って……」

「ああっと、香織~! それなら後で私が教えてあげますよ! それより――」

「純白一色の衣装は、子供服の証ですわ。大人のレディが着る衣装ではありませんわね」

誤魔化そうとするリリアーナを無視して、トレイシーが言っちゃう。

全員が、え? となった。

「純真無垢の証ですもの。ですが、大人で純真無垢はあり得ませんでしょう? ですから、帝国では基本的に純白一色の衣装を着る大人はいませんわ」

「……は、花嫁衣装は?」

そう震える声で問うたのはユエだった。トレイシーは端的に答える。

「もちろん、闘争と帝国を象徴する赤ですわ! 鮮烈な赤色の豪奢なドレスこそ、花嫁のカラーですわ!」

らしい。

つまり、だ。あの日、一人だけ純白の衣装を着て会場にいたユエは……

「おっふ」

顔を真っ赤に染めたユエが両手で顔を覆って蹲ってしまった。

「し、しかし、会場では誰も違和感を持っておらんかったし、指摘もされんかったが?」

ティオがチラチラとユエを気遣いながら言うと、トレイシーはユエを見て、

「まぁ、見た目年齢的に違和感がなかったのでしょう」

無慈悲な回答をしてくださった。なるほど、見た目だけなら十代前半である。ギリギリ着ていてもおかしくない年齢に見えた……ということだろう。

人ごとに思えなかった愛子が焦ったように指摘する。

「あ、あの、でもダンスシーンとか凄くいい感じで、ハジメくんとユエさんの婚約パーティーに見えたくらい、周りも二人の仲を祝福しているようでしたよ!」

「ええ、ですから当時は、きっとハジメ様のことを誰もがこう思ったことでしょう。〝なんて守備範囲の広い男なのだろう〟と」

菫が母親としてなんとも言えない顔になる。が、まだ追撃が。

「あと、雫様がワインレッドのドレスを着ていらしたでしょう?」

「え? あ、そうね……って、ちょっと待って。話の流れからすると……」

「誰の図らいかは知りませんが、皇帝陛下が雫様に求婚したという噂は当時既に広がっていましたから、それを考慮して雫様が受け入れたのだとアピールするような服装ですわね」

「嘘でしょう!? でも私、ずっと壁の花になってたわよ!」

「ええ、それも魔王様の傍に。ですから、探りを入れる貴族も多々いたようですし……最終的に、正妻が雫様で、ユエ様は成人前に確保された側室。そのうえで、魔王様は、皇帝陛下に雫様は俺のものだアピールをするやべぇ奴、という感じに認識されていたのではないかと」

「注目されてた理由の一端が予想外すぎるわ!」

顔を両手で覆って蹲る雫。ちなみに、と最後にトレイシーの視線が香織を捉えた。香織がビクッとなって身構える。

「な、なんでしょう?」

「香織様の衣装は、少々、性的アピールの強すぎるデザインでしたわね。帝国の基準からすると、『お持ち帰り覚悟の上で来ました!』と勘違いされてもおかしくない――」

「おっふ」

顔を両手で覆って蹲る香織。

帝国の文化からすると、かつての衣装はちょっとばかし問題があったらしい。

げに恐ろしきは異文化であり、そして些細なことに意味を含めちゃう貴族社会ということか。

「というか、当時の侍女達は何をやっていたのですか?」

羞恥に震えるユエ達に菫達の同情が集まる中、リリアーナが少し怒ったような表情で侍女達を見る。

当時は、自分のことでいっぱいいっぱいだったのと、状況的に指摘できず、あえて蒸し返す必要もないと思っていたのだが、ことここに来ては、本来説明役であるはずの侍女達の責任を追及せずにはいられない。

リリアーナに、そしてトレイシーや他の女性陣にも睨まれた侍女達は盛大に震えだし……

「き、聞いた話ですが……」

「ですが?」

「話を聞いてもらえなかったらしくて……」

「うん?」

意味が分からんと首を傾げる一同に、侍女さんは意を決するように叫んだ。

「説明しようとしたけれど、誰も話を聞いてくれなくて! と言っておりました!」

ティオがパチンッと指を鳴らす。過去再生で確認してみる。

一拍、二拍。

なるほど、確かに、必死に説明しようとしている侍女さん達そっちのけで争っている。雫達も止めに入るのに必死で話を聞いていない。

あげく、『そのドレスはおやめになった方が!』と、飛び交う魔弾と銀光の中にプロ根性で飛び込んでまで忠告した侍女さんに、『貴女も邪魔するの?』と言わんばかりの眼光まで飛び震え上がらせて……

「うん。これは自業自得ね」

菫の言葉に、異論は出なかった。「申し訳ありませんでしたぁっ」とユエ達の謝罪の声も迸る。ついでに、薫子が申し訳なさそうに頭を下げる。

「うちの娘がご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。当時、担当していただいた方々は、今、どちらに? できれば謝罪させていただきたいのですが」

対する侍女さんは、困ったように顔を背け……

「……す、すみません。先輩達は、その、ここには居ません」

これにはユエ達も顔を上げ、どういうこと? と視線で問う。すると、想定外の回答が。

「神話決戦の後、人員整理のおりにクビになりました。魔王様の奥方相手に職務怠慢であったと、当時の責任を取らされて、全員」

「今すぐ復職させてあげてぇっ」

「……居場所を教えて! 転移して謝ってくるからぁっ」

「あと、財産も一部没収されたとか……」

「「慰謝料、たっぷり払わせていただきますぅっ!!」」

ユエと香織が綺麗にシンクロしながら頭を下げた。

その後、当時の侍女さん達の所在ははっきりしているということで、ユエ達は早く謝罪と賠償に行きたかったのだが……

いきなり転移で来られても、向こうは迷惑、どころか心臓発作を起こしかねないと、トレイシーとリリアーナに諫められ、ひとまず、トレイシーが不名誉撤回やアポイントなどの手続きを取ってくれることに。

そうして、申し訳なさと恥ずかしさでテンションダダ下がりのユエ達は、菫達母親組や当時いなかったミュウ達の苦笑いを頂戴しつつ、今度は大人しく侍女さん達のアドバイスを聞きながら衣装を選んだのだった。

魔王一行ご来訪歓迎パーティーの会場は、重苦しい雰囲気だった。

まったく歓迎が感じられない。

だが、拒絶があるわけでもない。

ただただ、「絶対にっ、生き残る!!」という死地に挑む戦士みたいな気概と、「息を潜めるのよ! 生き残るために!」という野獣を前にしたウサギのような必死さだけが渦巻いていた。

もちろん、会場自体はあの呪われた惨劇のパーティー会場ではない。別の場所だ。だが、どうしても想像してしまうらしい。また、ふっと明かりが消えて、首がぴょんぴょんするんじゃ!? と。

その証拠に、

「……理由は察するんだが、全員がランタンを携帯してるんだな?」

控え室からアラクネを通じて会場の様子を見ていたハジメが、なんとも言えない表情で言う通り、全員が暗闇を警戒して自前の灯りを用意していた。

「あの日以降に生まれた帝国貴族の流行ですね。ファッションの一つです。需要に合わせてデザインも一気に増えましたので」

目覚めた恋心でトラウマを克服し、十歳程度の少年ながら最も堂々とした態度のレイモンド君が説明してくれる。

「最近は頑丈さに主眼を置いたり、魔法具式……眼鏡から直接光を放ったり、指輪型、ペンダント型、イヤリング型とアクセサリーを光らせるタイプも出てきていますね」

「暗闇こわがりすぎじゃね?」

いざとなれば、全身が光り出す帝国貴族達。なるほど、シュールだ。

「斬新なデザインの照明器具を売り出す者が王国にいるようで、輸入品から帝国の職人が感化されたというのもありますが」

「……そうか」

気のせいだろうか。背後に黒い笑みを浮かべる仕掛け人王女の気配を感じるのは。

「え~と、皆さん、チョーカーっぽいものを首に巻いているのも、最近の流行なのかな?」

愁が尋ねると、レイモンド君は頷く。

「首がスゥスゥすると落ち着かなくて」

今度は智一が、ちょっと引き攣り顔で。

「……気のせいかな? ご婦人の中には、明らかに金属の……その……」

「どう見ても首輪だと思うんだが?」

「南京錠付で容易に外れないようになっているみたいだが?」

言いよどむ智一に代わり鷲三と虎一が指摘すると、レイモンド君は眉を八の字にする。

「デザインより、頑丈さを求める方が多くて……大事なのは命ですから」

「ハジメ、なんとかしてあげたらどうだ? もう見ていられないんだが」

そりゃそうだ。奴隷解放が成ったというのに、今やむしろ、帝国貴族の方が奴隷みたいな姿なんだもの。

今夜のパーティーに参加しているのは、玉座の間にいたガハルドの側近と皇族のほかに少しだけ参加者が増えて、妃達の実家筋の高位貴族と合わせて五十人程度。

彼等だけが特殊なセンスの持ち主なら、まだ気にしないということもできたのだろうが、あの変革の夜の爪痕が深すぎて、愁達的には居たたまれなさが勝っちゃうらしい。

「ま、まぁ、どこかの仕掛け人がセンス溢れる鋼鉄の首輪を販売してくれるさ」

流石に、ハジメもどうかと思うものの、まぁ、今まで奴隷を散々に扱ってきた自業自得ということで、と目を逸らす。

と、そこで、控え室の扉がノックされた。トレイシーが声をかけてくる。どうやら女性陣の準備が終わったようだ。

部屋の隅に控えていた使用人が、ハジメの頷きを確認して扉を開ける。

「おぉ~、これは華やかだな!」

「ああ! 実に素晴らしい!」

跳ねるようにして愁と智一が立ち上がり表情を輝かせる。

虎一と鷲三も無言ではあるが「ほぅ」と感嘆の吐息を漏らしていた。

実際、あの戦場のような会場の空気も、彼女達が入れば途端に払拭されるだろうと確信できるくらい美しい光景が広がっていた。

菫や薫子、霧乃や昭子といった母親達は、全体的に落ち着きの中にエレガントな雰囲気のあるロングドレスだ。刺繍が芸術的で、特殊な糸を使っているのか角度によって光を反射し、上品なアクセサリーと合わせてお淑やかな煌めきを放っている。

メイクやヘアスタイルも、やはり一流なのだろう。先程まで旅行で一喜一憂していた庶民の姿はない。上流階級の貴婦人達と言われても納得できる大人の美しさと色気が感じられた。

「菫、こっち立ってくれ。写真撮るから!」

「ちょっ、やめなさいよ! 恥ずかしいでしょう!」

「嫌だ! 俺の菫写真コレクションに新たな一ページを加えるんだ!」

どうやら愁パパ、奥さんの写真集を自作しているらしい。コスプレも趣味の範疇であるから(実際、意思疎通どころか面識もなく、それぞれ巫女と神主のコスプレをして神社に潜入していたところ二人揃って捕縛されたのが出会い)、若かりし頃からの菫コスプレ写真も大量に保管していそうだ。

あんまり知りたくなかったと、息子の目が遠い。

だが、薫子や霧乃の方もそれぞれ旦那に惚れ直されているっぽい、というか掛け値なしの称賛を受けて、頬を染めながらモジモジしている。

香織からすれば見慣れた光景だが、虎一お父さんのイケメンムーブも、霧乃お母さんの恋する少女ムーブも初めて見たらしい雫が目を剥いている。

「お母さん、写真撮ったから、帰ったらお父さんに見せてあげようね?」

「そ、そうね……」

どこもかしこも仲睦まじい夫婦に、昭子がちょっと羨ましそうにしているのを愛子が微笑ましそうに見つめている。

そんな親達の光景を横目に、ハジメはハジメでユエ達に見惚れていたのだが……

「……なんかテンション低くないか? 何かあったのか?」

そろりと寄ってきたレミアが耳打ちして教えてくれる。

「大丈夫ですよ。ちょっと謝罪と慰謝料の支払いを決意されただけですので」

「本当に何があった!?」

ハジメの混乱は深まった。

「迷惑千万な客であったという事実が判明したんじゃよ」

「あと、異文化の洗礼を受けた感じですね」

ティオとリリアーナも寄ってきて、そんな事を言いつつ何があったのか詳細を教えてくれる。

なるほど、と頷き苦笑いを一つ。とにもかくにも、パーティーに出るのに自己嫌悪や羞恥でテンションが低いのはいただけない。

ハジメは早速、全員を褒めちぎりにかかった。実際、言葉に苦労することはない。思ったことを口にするだけで、出てくるのは掛け値なしの絶賛だ。

マーメイドラインのドレスで、スタイルの良さが浮き彫りになっているレミア。丈はロングだが薄いレース状なので奥のむっちりした美脚が見えており、ほんわかした雰囲気とはギャップのある色気が滲み出ている。

ティオは、美しいというより格好いいと表現したくなるようなドレスだ。胸元は相変わらずこぼれ落ちそうだが卑猥な感じはなく、ベルトや装飾で引き締められた全体からは〝できる大人の女〟というイメージを想起させる。

リリアーナは前回と異なりミニスカート丈のドレスだった。リボンやフリルがあしらわれていて全体的にふんわり可愛いデザインであり、活発で明るい女の子といった印象を与える。

シアとネア、そしてミュウも同じような格好だ。

おそらくだが、パーティー会場の悲壮感を予想していて、敢えてシアとネアの衣装に近づけることで友好さをアピールしようという意図なのだろう。

そして、それは、

「四人並ぶと、姉妹みたいだな?」

というハジメの微笑ましそうな感想に、リリアーナとミュウが目配せしてニヘッと笑い合ったことから、ミュウも同じ意図に違いない。

香織は背中が大きく開いたセクシーなドレスで、ユエは肩周りと正面のスカート部分が大きく露出しつつも小悪魔的な可愛らしさのあるドレス、雫はワンピースの上に一枚羽織った少し落ち着きのあるデザインで、愛子は小さな花のレースをふんだんにあしらった露出控えめのワンピースドレスだ。

「みんな、凄く似合ってるぞ」

ハジメが改めてそう言えば、ようやくユエ達のテンションも戻ってきたらしい。嬉しそうに、あるいは恥ずかしそうに、もじもじうふふっと笑い合う。

ただ、どうしても一点、気になることが。

「ところで、なんで皆して赤系統の色で統一してるんだ?」

それは気になっていた! 仲良し? と小首を傾げる愁達に、なぜか某セイバーのバトルドレスみたいな衣装で、お前これから戦争にでも行くのか? とツッコミを入れたくなるような雰囲気のトレイシーが答えようとする。

「……〝お口を閉じて〟」

「んんっ!?」

ユエの〝神言〟がインターセプトした。そして、女性陣は共犯者めいた微笑を交わし合い、きょとんとしているハジメ達男性陣に向けて、

――秘密

と茶目っ気たっぷりに告げたのだった。

なお、ハジメ達が、赤系統は帝国の花嫁カラーだと知るのは、もっとずっと後になってからだった。

「そうか……まぁ、楽しそうで何よりだよ」

ハジメは笑ってそう締め括り、トレイシーに目配せした。トレイシーは頷き、

「それでは、会場へ向かいましょう」

一行を先導したのだった。

そうして、ガハルドの、魔王一家との友好を願う、それはもう深く深く何度も念を押すように願う言葉を挨拶代わりに始まった歓迎パーティー。

当初は緊張で嘔吐しそうなのに立食なんてできるか! と言いたげな感じだった皇族や貴族達だったが、

「信じましょう、魔王様を」

「信じる者は救われるのです」

「むしろ、信じることは義務です」

「その通り。いいですか? 義務ですよ? 果たしてますか?」

なんか、あの過去映像ではいなかったはずの、急遽参加を打診してきた高位貴族のおじ様方が、某委員会みたいなことを布教(?)し始め、そのせいなのか、空気が少し綻び(ただし、布教された側の目がグルグルしていたが)、

「ガハルド陛下、ちょっとこのセリフを読んでもらえませんか?」

「あ? まぁ、いいが……『へぇ、おもしれぇ女』『俺にそんな態度を取った女は、お前が初めてだぜ』ってなんだこりゃ?」

「あなた! 録音は!?」

「ばっちりだぞ、菫! リアル俺様皇帝のサンプルだ――『へぇ、おもしれぇ女』『俺にそんな態度を取った女は、お前が初めてだぜ』」

「ちょっと待て! 何をしてくれてんだ!? それをどうする気だ!?」

「「? 参考資料ですが?」」

「だからなんのだよ!? ええいっ、悪い予感しかしねぇ! それを寄越せ!」

「ちょっと乱暴はやめてください!」

「おいおい、妻に何をしてくれてんだ! 痛い目を見ることになるぞ!」

「ほぅ? 魔王の父親とはいえ一般人のお前に何が……」

「ないことないこと吹き込みまくって、息子をけしかけるぞ!」

「悪魔か!?」

「いやぁっ、リアル俺様皇帝陛下が協力してくれないと、乱暴されたことになりそう!」

「されたことになりそうってなんだ!? くそぉっ、やっぱりこの親にしてあの悪魔ありってか!」

と、ガハルドが南雲夫妻に弄られる姿から、皇帝は南雲家と親しい関係を構築できているのだと解釈されて安心感が漂ったり。

智一と薫子、昭子の極めて常識的な対応や、八重樫家の武に精通したトークにより、恐怖で閉ざされていた彼等の心が普通に解放されていったり。

ミュウが率先して帝国側の子供達――レイモンドは当然、最年少のお姫様アリエルや他の年少組を、母親譲りのほんわか時空に取り込んで話に花を咲かせたり……

とにもかくにも、当初の戦場の如き空気は払拭されていった。

始まって三十分ほど経っただろうか。

ほぼほぼ和やかな空気で食事と交流を楽しめるようになった頃合いに、ふとハジメが虚空に視線を向けた。

「ガハルド、王国のルルアリア王妃とランデル王子の準備が整ったそうだ。こちらに喚ぶが、問題ないな?」

「おう、いいぞ」

懐から金属製のカードのようなものを出し、ピッと誰もいない空間に投げるハジメ。

すると、カードを起点に〝ゲート〟が開き、ルルアリアとランデル、そしてヘリーナが通ってきた。ヘリーナに渡してある専用のゲートキーが使われたのだ。

パーティー仕様にドレスアップした王妃ルルアリアが美しい微笑を浮かべて挨拶の言葉を――する前に、

「ミュ、ミュウ! そなた、なんと、なんとふつくし――」

ランデルが夢遊病者のようにふらふらと。

朱色のミニスカドレスを着て、髪を編み込んでアップにし、ほんのりメイクもしてもらっている今夜のミュウは、ちょっとお姉さんっぽい。

それが、ランデル的にドストライクだったようだ。

周囲の様子も目に入らない様子で、ミュウへと手を伸ばし――ガッと掴まれた。

「お久しぶりですね、ランデル王子」

レイモンドだった。実は、控え室でミュウを見た瞬間から今の今まで魂を飛ばしており、ずぅっと熱い視線を注ぎ続けるという、若干ストーカーっぽい感じになっていたのだが、想い人のピンチ(?)に復活したらしい。

「そなたは……レイモンド皇子」

「ええ、私です。挨拶もなくレディに手を出そうなんて、まったく。久しく見ないうちにマナーを忘れてしまったようですね?」

「て、手を出す!? 違うぞ! ミュウ、誤解だ! 余はただ――」

「ミュウ、ご安心を! 不埒な男からは、このレイモンドがお守りしますから!」

「呼び捨て、だと!?」

少年達の視線が交差する。

一目見て、両者共に全てを了解した。

そう、こいつは紛れもなく、

((敵だ!!))

と。

「ランデル、挨拶もなく何をして――」

「クソガキ共。このネアシュタットルムのウサミミがピンッと立っている間は、お嬢に触れられると思うなよ?」

ルルアリア様が息子を注意しようとするが、ネアちゃんの殺意ある言葉に遮られる。

「少しいいかしら? まずは挨拶をさせて――」

「ひぃっ!? ハウリアがぁっ、ウサミミがぁっ!? 怒ってるわ! レイモンドお兄様! 謝って! 今すぐ謝って!」

にこやかに優しく挨拶させてほしいと言いかけるが、静かだったネアの豹変にパニックとなったアリエルちゃんの悲鳴で掻き消される。

笑顔のまま固まるルルアリア王妃。

周囲の注目もなんのそのと、子供達は各々の想いを胸にヒートアップ。

「わ、私とミュウのことに口出しは――」

「ァア!?」

「ひぃっ、ごめんなさい!!」

「ネアちゃん、落ち着いて!」

「いいえ、お嬢! 空気を読んで静かに控えていましたが、このクソガキのお嬢を見る目の嫌らしいことと言ったら! 後生です! 首刈りさせてくださいっ」

「ダメに決ってるのぉ! あ、スカートの中に隠しナイフを!? ダメェ!!」

「ヒュゥッ、カフッ、ヒュゥーッ」

鬼の形相でレイモンド君の首をちょんぱしようとするネアを、羽交い締めにして必死に止めるミュウ。そのミュウのほんわか空気で辛うじて気絶は免れていたアリエルちゃんは、とうとう過呼吸に。

「ネア! いい加減にせよ! ミュウを主と仰ぎながら、公の場で恥を掻かせる気か!」

「後顧の憂いを断つのも我等の役目! お前も例外じゃないぞ、エロガキ!」

「エ、エロくないしぃ!」

ネアの殺気が迸り、ランデル王子は涙目になる。レイモンドを筆頭に他の子供達もへたり込み、アリエルちゃんは白目を剝きかけている。気絶までカウントダウン開始。

と、思われたが、初恋も敬愛する姉も魔王に奪われ、しかし、その魔王の娘に懸想するという茨の道を、それでも選ぶ漢――ランデル・S・B・ハイリヒは、今更こんなことでは怯まない!

魔王の贈り物というのが気に喰わないが……と歯噛みしつつ、ついでにネアの殺気にガクガクしつつも、ランデルは上着を片手で払い、腰に付けていた筒を手に取った。

ヴォンッと光の剣が伸びる。

「ちょっ、ハジメ! あれ! あれライ○セーバー!?」

愁が驚愕半分、興奮半分で指をさす。

「まぁ、義弟だしな。護身のアーティファクトは、父さん達と同じように贈ってるさ。勇者が聖剣を持っていってるから、次期国王なら聖剣代わりになるものがいいかと思ってな。ランデル専用の〝光剣〟だ」

ということらしい。智一達も護身用のアーティファクトは贈られているが、どうやらルルアリア王妃やランデルにも同じ配慮がなされているらしい。凝り性なハジメであるから、たぶん教材なんかも一緒に。

その証拠に、片手の指二本を揃えて前に突き出し、光剣を大きく引き絞るようにして構えるランデル王子。鷲三お祖父ちゃんと虎一さんも大興奮。

「フォームⅢ、ソ○スか! 防御特化の型だな!」

「護身のためだものな、納得だ」

型も剣もモドキに違いないのだが、ランデル王子はいつかオビ=○ンみたいになってしまうのかもしれない……

それはそれとして、興奮する大人をよそに子供達は真剣である。

「アリエル姫! そなたは下がるのだ! 巻き込まれるぞ!」

「え? あ、ランデル様?」

泡を吹いて気絶しかけていたアリエルちゃんが、一喝するような声に正気を取り戻す。そして、まるで自分を庇うように背を向け、光の剣を構える王子様を見た。トゥンク!

「いい度胸だ、ランデル王子。お嬢に色目を使った代償、ここで払わせてやる!」

「そ、そんな凄んだって、よ、余は負けんぞ! 帝国と我が国は盟友関係故、次期国王として手出しはさせん!」

あのハウリアに、真正面から向き合うランデル。実に男気溢れる姿に、ハジメ達から「おぉ!」と感嘆の声が。

帝国貴族の皆さんからも、

「リリアーナ姫の存在で霞んでいたが、なんと素晴らしい気構えか!」

「王国の未来は安泰だな!」

「帝国のために自ら剣を握るとはっ……感動を禁じ得ないっ」

なんて絶賛の嵐。ガハルドも顎を撫でながら面白そうに、あるいは見直したようにランデルを見ている。ランデル王子の株が、ハウリアのおかげ(?)で爆上がりしている!

と、そこで、

「……私は、私はっ」

おや? アリエルちゃんの様子が……

察したハジメが、少し思案し、ニヤッと笑う。念話のスイッチON!

『力が欲しいか?』

「え!? なに!? 誰なの!?」

『力が欲しいか? 王子に並び立つための、戦う力が欲しいか!?』

「……欲しいっ。私は、力が欲しい!!」

『ならばくれてやる!』

ミュウが拒否った装備一式があるからちょうどいい! とハジメが〝宝物庫〟を光らせた。

すると、ペカッと輝き、アリエルちゃんの周囲に子供サイズのマスケット銃モドキが花咲くように突き立った。

なんか、ユエ達女性陣が呆れた目をハジメに向けているが、ハジメは気にしない。

アリエルちゃんは、ほんの僅かな間、驚きで目をぱちくりさせていたが、一瞬後には覚悟を決めた顔付きになった。

そして、くるりとターンしつつ、なぜか妙に手慣れた様子でマスケットモドキを両手に取りネアに向ける。

「ランデル王子! いえ、ダーリン! 私も戦います!」

「む、それは心づよ――んん? ちょっと待つのだ! ダーリンってなんぞ!?」

「わたし、もう何も恐くない!」

「ちょっと待つの、アリエルちゃん! それはダメなの! 首ちょんぱクラスのフラグが立っちゃうの!」

「くっ、妹が立ち上がったというのに、私はミュウの前で何をっ。奮い立て、レイモンド!」

芽生えた愛故にトラウマを乗り越え覚醒したアリエルちゃんの姿に、奮い立つレイモンド君。もちろん、 愉快犯(ハジメ) の贈り物が届く。ランデルのと似た筒状のアーティファクトが、レイモンドの目の前に。

「私にも力が……やってやります! ミュウの心は、私が射止めてみせる!」

ヴォンッと出現したのは赤い光の剣。暗黒面とは関係ないはずだが、何か将来を暗示してそう。

ハジメの頬が香織と雫に両サイドから抓られる。子供達に何をしているんだと、ジト目が突き刺さる。

「レイモンド皇子! 馬鹿を言うな! ミュウは、その、ミュウは余の、だな? ほら」

「ダーリン? ……そう、そういうこと……」

アリエルちゃん、ようやくいろいろ察する。

そして、「ボス? なぜ奴等に武器を……そうか。私への試練なんですね? 愛娘に近寄る不埒者をまとめて排除しろというご命令なんですね!」「どう考えてもパパの悪ノリなの!」なんてやり取りをしているミュウをキッと睨む。

「ミュウ様! 貴女はどうなのですか!」

「?」

「ランデル王子とレイモンドお兄様、どちらを選ぶというのです!!」

子供達の四角関係に、大人達が見入っている。ランデルとレイモンドが「そ、そんなストレートに聞く奴がいるかぁ!」と顔を真っ赤にしつつも、どこか期待の目でミュウを見つめる。

そんな中、質問の意味が分からない……と不思議そうな表情になっていたミュウは、一拍おいて察し、真顔で言った。

「パパ以外、あり得ませんが?」

しんっと静まり返る会場。崩れ落ちるランデルとレイモンド。

そして、帝国貴族の皆さんが、そう言えばと気が付く。ミュウちゃんも、赤系統の衣装だね、と。

もしそのチョイスが、単なる女性陣の〝お揃い〟以上の、本来の意味であるのなら……

「な、南雲ハジメ……お前、血の繋がりはないとはいえ、幼い娘まで……狂ってやがるっ」

「えっ、そういう展開!?」

ハジメへ、帝国の皆さんから今までとはまた違った恐ろしいものを見る目が注がれた。

「おのれぇ、やはり最後は魔王が立ちはだかるかっ」

「これは……強敵ですね。あるいは、王子との共闘も視野に入れるべきか……」

「くっ、そうやって気のないフリをして、ダーリンの気を惹いてきたんですね! 許せない!」

子供達も何やらそれぞれの決意やら思惑やらを宿した顔付きになる。

どうやら、ハジメは悪ノリのしっぺ返しをくらうことになったらしい。慌てて誤解を解くために声を張り上げる。

混迷を深めるパーティー会場。

そんな中、

「ふふ、わたくし、王妃ですのに……」

ほろりっと煌めく水滴を流すルルアリアの姿が、隅っこにあった。

「お母様、そのお気持ち、よく分かります」

リリアーナの表情が、とても優しい。

王国の王妃と王女は仲良く壁の花となり、パーティーの喧噪を透き通った表情で眺めたのだった。