軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トータス旅行記㉖ いとも簡単に行われる骨肉の争い

「ボスーーーーッ!!」

「おう?」

トレイシーに先導され、未だ遠くに阿鼻叫喚の喧噪が聞こえる玉座の間を離れてしばし。

惨劇の元パーティー会場(帝国貴族の一部の方々がそう呼んでいる)に向かいつつ、壮麗な城内の建築様式や内装、調度品などを見学していると、幼いながらも鋭さを感じさせる声が響いてきた。

見れば、長い廊下の向こうから駆けてくる小さな人影が……

「あれ? ネアちゃん? なんでネアちゃんがいるんです?」

そう、少々の焦りと、隠しようのない歓喜を滲ませて駆けてきた人影は、ハウリア族のウサミミ美少女ネア・ハウリア(十一歳)だった。

濃紺色セミロングの髪をふわふわさせつつ、ついでに飼い主に会えた犬の如くウサミミをぶぉんぶぉんさせている愛らしい姿に、取り敢えず、愁と菫が涎を垂らす勢いで食いつく。

「なんだ、なんなのだ! あの可愛らしい生き物は!」

「見える! 私にもエフェクトが見える! キラキラしたウサミミ美少女のエフェクトが!」

愁が即座に片膝立ちとなった。そして、菫と二人してハジメの抜き撃ちを彷彿とさせる流麗な動作でスマホを取り出す。菫は愁の頭を台座にスマホを構える。

刹那、愁のカメラから動画撮影の音がピロリンッと響き、菫のスマホからはカシャカシャカシャと連続したシャッター音が響いた。

完璧な役割分担。まさに阿吽の呼吸。長年連れ添った夫婦の絆と技が、そこにはあった。

もちろん、白崎夫妻&昭子さんは呆れの極みにあるような目を向けている。

他方、紛う事なき美少女でありながら、まるで忍者を彷彿とさせる黒一色の戦闘装束&忍者走りというネアの残念な有様に、

「若いのになんて素敵なファッション!」

「足音が全くないっ。見事な忍者走りだ!」

「あの歳でなんと安定した体幹か!」

と、八重樫家の皆さんが前のめりで食いつく。安定の八重樫家クオリティーに、娘さんはもう何も言わない。

そんな注目をものともせず、ハジメ達の手前でぴょんっとウサギジャンプしたネアちゃんは、無駄に美しい空中三回転捻りを加えて、これまた無意味にキレのあるヒーロー着地を決めた。

「〝外殺のネアシュタットルム〟、ただいま御前に! 帝都に転移されたと直ぐに気が付けず、参上が遅れましたこと誠に申し訳ございませんっ。いかような罰でもお与えください! 取り敢えず脱ぎましょうか!? それともお部屋の方に――」

「取り敢えず黙れ。な?」

「御意!」

ボスの命令うれしい~♪ 久しぶりにおしゃべりできて幸せ~♪ と思ってるのが丸わかり。歓喜にウサミミはぶぉんぶぉんと荒ぶり、ウサシッポはパタパタパタパタッと高速で跳ね回っている。

おまけに、何かめっちゃ期待した目で既に服へ手をかけている。躊躇いがない!

初っ端から強烈な印象をぶっ放してくる点、流石はハウリアというべきか。

「はいはい、ネアちゃん。皆さん……いえ、まぁ、一部の方は目がキラキラしてますけども、だいたい困惑してますから、きちんと挨拶してください。でないと、レベルⅥ相当の拳骨ですよ?」

「や、やめてください死んでしまいますっ」

敬愛する姐御の笑顔と掲げられた拳に、ウサ毛をゾワワッと逆立てて大人しくなるネアちゃん。

「改めまして、外殺の――」

「ネアちゃん?」

「ネア・ハウリアです! よろしくお願いします!」

ウサミミがぺたんっと折りたたまれる。直立不動から、ぺこりっと頭を下げてご挨拶。姐御は絶対なのだ。ハウリアの名乗りでいろいろ察する愁達。

「ネアちゃん! 久しぶりなの!」

「はい! お嬢! お元気そうで何よりです。少し背が伸びましたか? 美貌に磨きがかかり、ますますお美しくなられましたね。王国の駄王子がぞっこんなのも頷けますが、不遜の極み。狩りますか?」

立て板に水の如く賛美と外敵排除の提案が流れ出す。敬愛するボスのご息女たるミュウもまた、ネアが身命を捧げる愛しきお相手。というのがよく分かる。

「ネアちゃんも会う度に可愛くなるの!」

「そんな……恐悦至極に存じますっ」

「あ、あとランデルは狩っちゃダメ!」

「……つまり、ばれないようにやれ、と?」

「んもぉ! ネアちゃんメッ!」

生殺与奪の権をハウリアに握らせないで! と、まるで某しゃべらなさすぎる鬼狩りみたいな念を必死にミュウへと送るリリアーナ姫。

そのおかげか、ミュウに懇々と説得されたネアちゃんはランデル王子暗殺計画を白紙に戻したようだ。

「お嬢、なんてお優しい。まさに天使ですね! 分かりました。ほどよくトラウマになる程度に脅迫しておきます!」

「ほどよく!」

「はい! ほどよく!」

美少女二人、キャッキャッと手を取り合って再会を喜ぶ光景は、とても尊い。だがしかし、素直にほっこりできないのが辛いところ。

リリアーナが「良かった、妥当な落としどころですね……んん? あれ?」と、そもそも落としどころとかそういう問題ではないことに気が付き愕然とする。知らない間にハウリア思考に毒されてる! と。

ミュウを想う以上、こんなウサギ共に見定めつづけられることになるランデル王子の恋路は、やはり茨の道どころか地雷原の超ハードモードのようだ。

恋する少年王子の道のりの厳しさに心の涙を流しつつ、ネアへ親達も次々に挨拶を返す。

そうして、愁と菫が名乗った瞬間、

「ボ、ボボボ、ボスのご両親!?」

ネアのウサミミがびっくりするほどピーンッと伸びた。

かと思えば、あせあせっと急に身だしなみを整え始める。ウサ毛や髪を撫で付け、乱れた服を綺麗に整え、緊張しながらも「ふんすっ」と気合い一発。

「お、お会いできて光栄です! 暗殺と諜報が得意です! 身辺警護はもぉ~っと得意です! 最近は家事も勉強しています! 姐御のように頭のおかしいレベルの超人ではありませんが、家庭でも仕事場でも戦場でも不意のテロ現場でもお役に立つウサギです! ボスに身も心も捧げています! なんでもします! 末永くよろしくお願いしたいです!」

怒濤のアピールが迸った。ついでに、さりげなく姐御をディスった。

真っ赤なほっぺ、必死な眼差し、ウサミミみょんみょん。

なるほど。そんな姿を見れば、ネアちゃんの意図や望みが分からないわけがない。

「ハ、ハジメ君、君って奴はこんな小さい子まで!」

智一の更生プランに、どんどん要項が加わっていく。その智一へ、シアが遠い目をしながら言った。

「香織パパさん。違うんですよ」

「え? どういうことだい?」

「ネアちゃんだけでなく、ハウリアの女性陣は一人の例外を除いてみんな、隙あらばハジメさんと既成事実を作ろうと画策しているんです。何度叩き潰しても不屈の精神で起き上がり、あの手この手で……」

「……ん。ハウリア族はハジメのこと好きすぎ」

「あわよくばシアの地位を乗っ取らんとしているくらいじゃしのぅ」

「地球に戻る直前くらいの時なんて、女性同士、笑顔で会話しながら後ろ手にナイフ持ってたもんね。しかも、全員」

「あれでしょ、痺れ薬をたっぷり塗ったナイフ。あと、私達全員を引き離すために、食べ物に強力な下剤を入れてきたりしたわよね」

「ハジメくんを守るため、止めようとしたハウリアの男性陣……酷い有様になってましたね。邪魔するなら身内も族長も関係ない、みたいな感じで」

「それはどこの蛮族だい!?」

シアに続き、ユエ、ティオ、香織、雫、愛子の思い出話に、智一がやべぇサイコパスを見るような目をネアに向ける。

……一見すると、ただ慕う相手の家族に受け入れてもらおうと必死になっている健気で愛らしい女の子にしか見えない。実に信じ難い。

だがしかし、その狂愛(?)は直ぐに証明されることに。

「おい、ネア。それくらいにしとけ。父さんと母さんもノリノリで嫁扱いしようとしないでくれ。やったね、ウサミミ嫁が増えるよ! じゃねぇよ」

「ボスッ、不束者ですが、どうぞよろ――」

「口を閉じろ」

「御意ッ!!」

もっと優しくしてあげなさいよ! そうだそうだ! ウサミミ美少女にきつく当たるなんて、そんな息子に育てた覚えはないぞ! と外野(両親)がうるさい。

そのせいで、なぜ、ここにネアがいるのかという質問ができないでいると……

「ネ~~ア~~ッ! お前っ、ぶっころしやるぁああああっ」

「よくもぉ、ボスへの一番乗りを邪魔してくれたわねぇっ」

「普通に致死性の毒なんか使いやがって! 解毒剤なかったら死んでたぞ! ゴラァッ」

血走った目、凄まじい発汗、無数の切り傷、嘔吐の痕、ちょっと漏らしたっぽい痕跡etc.

そんな満身創痍っぽいハウリア達(六人)が、廊下の奥から怨嗟の声を響かせながらやってきた。ふらふらと、あるいは這うようにして近づいてくる姿は、まるで幽鬼の如く。

それを見て、昭子が「ひっ」と悲鳴を上げ、薫子がふっと意識を飛ばしかけ、八重樫家の面々は思わず臨戦態勢になる。

どうやら彼等の酷い有様の原因は、ネアにあるようだとハジメ達の視線が注がれる。

すると、愁や菫相手に、ニコニコもじもじと謙虚で頑張り屋でちょっぴり恥ずかしがり屋なウサミミ美少女でっす! みたいなムーブをしていたネアちゃんは……

「チィッ、もう復活しやがったか。ゴキブリ共めっ」

今にも唾を吐きそうな形相で、そんなことをおっしゃった。愁と菫が揃って硬直する。もちろん、智一達も硬直する。

ネアはくるりっと振り返った。愁達の方へ。そこには一瞬前のマフィアみたいな凶相は欠片もなく、どこまでも愛らしい美少女のニッコリ笑顔があって。

「お掃除しなくっちゃ! 少し失礼しますね!」

そう言って、背中から小太刀二本をしゃらんっと抜き放ち、疾風の如く同胞へ襲いかかっていった。

廊下の奥で「皆! さっきはごめんね死ね!」とか「お前がなぁっ」「往生せぇやぁっ!」「あんたといい、バルトフェルドといい年上への敬意がなってないのよぉ!」「躾の時間だゴラァッ」という怒声と、ギンギンギンッという剣撃音、更には爆竹が破裂したような音や、廊下の調度品、窓が粉砕される音が響いていく。

ついでに、あちこちから「またハウリアが暴れているぞ!」「誰か止めろよ!」「馬鹿か!天災からは逃げるもんだ!」「首を守れ!」「退避ぃ! 退避ぃ!」「通達! ハウリアがまた暴走中! 付近の方は至急、避難してください!」という帝国の方々の声も響いてくる。

気のせいだろうか。焦燥や恐怖はあるのだが、悲鳴じみた声の中に〝慣れ〟を感じるのは。

「で、トレイシー。なんであのアホ共がここにいるんだ?」

余波が来ないよう、ユエがさりげなく障壁を展開しているのを横目に、ハジメがトレイシーに尋ねる。

「大使だからですわ」

目の前の騒動に動じることなく、肩を竦めて答えるトレイシー。

「ああ、つまり帝国への監視か」

「ええ。決戦後に〝誓約の首輪〟は外されましたしね。両種族の歩み寄りのために。とはいえ、長年の価値観はそう簡単に変わりませんから」

万が一の時は、いち早く帝国の動向を同胞へ伝えるために。

けれど、帝国とフェアベルゲンの融和政策が進む中、こそこそと隠れて諜報活動している兎人族なんて疑心暗鬼が生まれる元。かえって平和が遠のく。

そこで、ガハルドは認めたのだ。公然のフェアベルゲン情報収集機関――つまり、帝室との情報交換をする〝大使制度〟の制定を。

なので、ネアを含める七人のハウリアには、大使として帝城内での滞在と出入りが特別に認められているらしい。

「そう言えば、我が国にも一度、カムさんからお話はありましたね。王国を視察されて、結局、王国には必要ないと結論づけられましたけど」

「まぁ、帝国と違って樹海から遠いからな」

費用対効果が悪すぎるということだったのだろう、とハジメは納得したように頷いた。

ちなみに、ネア達は普段、よくトレイシーと殺し合い――もとい、実戦形式の鍛錬をしている。トレイシーの欲求が爆発せずに、あの程度で抑えられていたのはネア達が相手をしていたからというのもあるのだ。

閑話休題。

「まぁ、大使制度に関しては、正確には認めさせられた、というのが正しい気がしますけれど」

「なんとなく察した」

想像に難くない。こそこそと蔓延るハウリア。視界の端に、不意に見えた気がするウサミミ。臣下の精神衛生上、認めるほかない。

何より、ハウリアが強硬手段に出なかったわけがなく。

「ええ、夜中に寝ている陛下を叩き起こした挙げ句、ベッドごと取り囲んでの 協議(OHANASI) でしたもの。わたくし、初めて見ましたわ。 協議(OHANASI) が終わった後のことですけれど……部屋の隅で壁の方を向いて膝を抱える陛下の姿なんて」

「ガハルド……」

哀れ! もうちょっと優しくしてあげるべきだろうか? と、ハジメをして思わず同情させられてしまう。

「ガハルド陛下って……見た目とか雰囲気によらず、弄られキャラなのかしら?」

「反応が面白いよな」

「ええ、少女漫画なら決してメインキャラにはなれないけど、根強い人気が出るタイプね。……ふふ、良い資料になりそう」

大人気少女漫画家大先生の目が、玉座の間の方へ向く。いかにも面白い獲物を見つけた! と言いたげな目だ。

「ねぇ、ハジメ。陛下と話す機会、またあるかしら?」

やめて差し上げろ、とハジメは言いたかったが、その前にトレイシーが楚々と菫の前に出て提案を口にした。

「あら、菫様。それでしたら晩餐などいかが? いえ、せっかく来訪してくださったのですし、立食パーティーの方がよいかもしれませんわ」

「パーティー、ですか?」

「堅苦しいものにはしませんわ。普通の晩餐では距離のある方と話すのは大変でしょう? 帝国側も玉座の間にいた方々と皇族、後は幾人かだけ。他を気にせず、好きな時に好きな相手と交流できますわ」

「ですけど、私も含めパーティーに出られるような服は……」

「もちろん、こちらで用意致しますわ。オーダメイドには及びませんけれど、サイズも種類も豊富ですから、きっと気に入るものがあると存じますわ」

菫の視線が、ここまで言ってくれるなら……と、少し乗り気な様子でハジメに向けられる。

ハジメは智一達に視線を転じた。

視界の端に、何か香ばしいポーズを取りながら長ったらしい詠唱――当然、魔法など使えないので、実際はただの厨二的口上――を口にしつつ如何にも必殺技を繰り出しそうなハウリア達がいるが、もちろん無視する。

「どうします? 派手な催しではないようですし、帝国の城で、正装して立食パーティーというのも異世界情緒があって良いかと思いますが」

ハジメの提案に智一達は顔を見合わせる。

なんか、ネアちゃんの声で「これで決めるッ! 回転○舞六連!!」とか叫んでいるのが聞こえてきたが、頑張ってスルーする。いや、八重樫家だけバッと視線を戻したが……雫まで「!?」と視線を戻したが……

とにかく、意見を聞いたところ否はないようである。

「なら城と帝都の観光をした後、今晩は帝国で晩飯を食って――」

「お部屋も用意致しますわ」

「頼む」

「御意――ではなく、よろしくってよ」

「あの、トレイシー殿下。次期皇帝候補筆頭ですよね? その認識は、今も間違ってはいませんよね?」

「ハッ、これだからリリアーナ姫は。全く仕方のない子ですこと」

「どういう意味です!?」

リリアーナが何やら納得できない様子でブツブツと呟いているが、トレイシーは気にした様子もなく手をパンッパンッと叩いた。

すると、

「ただいま参ります!」

と、廊下の奥から返事が。

そう、凶暴ウサギ共の激戦区と化している廊下の、である。

見れば、一人の侍女が駆けてきていた。その侍女は、決死の表情で廊下の端っこにヘッドスライディング。そして、そのままズリズリと素晴らしく訓練された 匍匐(ほふく) 前進で壁際を進んでくる。

ガラスの破片や、ハウリアのクナイ、マキビシ、礫なんかが降り注ぐ最中を前進してくるその姿は、まるで戦場にて敵陣を往く兵士そのもの。

その侍女さんは、激戦区をどうにか通り抜けるとトレイシーの前で優雅に一礼した。

「殿下。ご用件は」

「魔王様一行の部屋を用意なさい。今晩、立食パーティーを開きますわ。後ほど皆様の衣装を選びますから、それの用意も。帝国側の参加者は今日の会議に出席された方と皇族ですわ」

「承知しました。お料理のリクエストはございますか?」

トレイシーの視線がハジメに向く。ハジメは少し思案し、

「せっかくだから帝国の料理を食べたいな。地方の郷土料理なんかもあると嬉しい。豪華さより、帝国の味を堪能したい」

「ですわ」

「承知しました。料理長に伝えます」

これまた優雅に一礼。侍女さんはくるりっと踵を返すと、両手で頬をパンッと叩き、「頑張れ私、頑張れ! 私は今までよくやってきた! 私はできる侍女だ!」と己を鼓舞。気合いを入れて、再びヘッドスライディング&匍匐前進で激戦区を抜けてく。

そして、その向こう側で待っていた同僚達に抱き締められたり肩を叩かれたりしながら称賛されつつ、己の職務を果たすべく共に去って行った。

「優秀だな」

「わたくしの直属ですわ。侍女ですけど近衛でもありますのよ。わたくしが直々に鍛え上げた部隊ですわ」

「ほぅ」

「いつでもどこでも、 つ(・) い(・) て(・) き(・) ま(・) す(・) わ(・) !」

「素晴らしい」

「……もう突っ込みません。ええ、もう何も言いませんとも」

リリアーナの目が遠くを見ている。

智一達もヘリーナのことを思い浮かべつつ、「異世界の侍女という職業は、よほど優秀な人達でないとなれない凄い職業なんだな……」と、なんとも言えない微妙な表情になっていた。

南雲夫妻だけ不思議そうな表情で「え? 執事や侍女が超人なのはデフォだろ?」「アキバのメイドさんだって、アメフト技であの激戦区を駆け抜けるくらいできるわ」と意味の分からないことを言っている。南雲夫妻だから仕方ない。

と、そのタイミングで、

「ウリィイイイイイイイイッ!!」

「ネアちゃん凄いの! かっこいいの!」

天を衝くような勝利の雄叫びと、ミュウの興奮したような拍手が響いた。

どうやら、ハウリアのはた迷惑な闘争の決着がついたらしい。重なるようにして倒れたハウリア達の上で、割とボロボロになったネアが、それでも勇壮に両手ガッツポーズを掲げている。

「フッ、流石はネアシュタットルム。わたくしのライバルなだけはありますわ!」

「ライバルって、え? マジで? あいつ、そんな強い?」

「限界突破なしですが……エグゼスの強化を入れても互角ですわね。兎人族ですから魔力を喰えませんし、手札も多彩。気配の緩急は幽霊じみてますし、何よりすばしっこい。まともに当たりませんもの。その間に、小さな傷を重ねられるのが常ですわね」

「ネ、ネアちゃん、いつの間にそこまで……うぅ、本気なんですね? それほどハジメさんのもとにいたいんですね……」

シアが戦慄している。実際戦って、トレイシーの実力が本物であることは理解している。そのトレイシーに互角と言わせるとは……

これで、まだ十一歳。

それも、幼少期より最高の環境で英才教育を受けてきたトレイシーと比べれば、ネアが闘争に目覚めてからの時間はあまりに少ないのに、だ。

ネアちゃんが、屍山血河(身内)を背に歩み寄ってくる。キレのある動きで小太刀を振るって血糊を飛ばし、ヒュンヒュンヒュンッと風を切りながら回転させ、スタイリッシュに納刀。

ハジメを見て、ふにゃ~とした愛らしい笑顔を浮かべて、

「ボス! 勝ちました♪」

褒めて、褒めて! とウサミミをぶんぶん。

そのほっぺに、身内の鮮血を滴らせながら。

「お、おう。頑張った、な?」

「はい♪」

魔王を、ちょっぴり引かせるウサギさん。

全員が思った。

なるほど、確かにシアの身内だな、と。視線がシアに集中する。ほんと、ハウリアはどうしようもないなぁみたいな感じで。

「み、見ないでください……」

ウサミミがぺたり。両手でウサミミの先端を持って前に垂らし、それで顔を隠すシア。

一方で、

「くっ、滾りますわ!」

「ミュウもネアちゃんみたいになりたいの!」

「あらあらミュウったら……ママ、ミュウの情操教育に挫けそうよ……」

トレイシーが、せっかくの賢者モードから狂戦士に戻りかけ、シャドーボクシングを始めたミュウにレミアママが透き通った表情に。

ニコニコしているネアを見て、ユエ達も微妙な表情になる中、

「取り敢えず、ネア。お前も観光に同行するか?」

「ぜひとも!」

帝国の方々が戦々恐々としつつも、やはりどこか慣れた様子で後片付け&ハウリア達の治療と運搬を始めたので、ハジメは邪魔にならぬようにと出発を促した。

そうして、ぞろぞろと惨劇の元パーティー会場に向かいつつ、ミュウと仲良く戦闘談義を始めたネアを肩越しに見やり……

「ふむ。やはりハウリアから一人、入れておくか……」

贔屓したら後がうるさそうではある。が、適当に情報を流せば、自分達で争って選抜するだろう。なんて考えながらヘリーナファイルにメモるハジメ。

そんなハジメの横に並んだユエは、全てを見透かす目をジトッとさせつつ、

「……ハジメ。 蠱毒(こどく) って知ってる?」

「!?」

最強の魔法使いですから、地球のオカルトや伝説にだって興味くらい持つ。当然、呪術の類も勉強済みである。

もちろん、オタクなハジメが知らないはずもなく。

「あれ? 俺って、もしかしてハウリアに相当酷いことしてる?」

「今更ですか!?」

シアの叫びが木霊した。

それでも、ボスを敬愛してやまないハウリア達に、一部の者達はつい、引っこ抜かれたり投げ飛ばされたりするけど愛してくれとは言わない某奇妙な生き物を思い浮かべてしまったのだった。