軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王&勇者編 後日談③ お前も厨二&社畜になるんだよ!

「……女神様。彼等との話し合いの余地は? 彼等が天樹を襲う理由は?」

ハジメの悪魔的提案にぽぴゅっと吐血了承している女神に、光輝の静かな問いかけが伝わった。

アウラロッドが視線を転じれば、そこには、眉間に深く深く皺を刻む勇者の姿があった。奥歯を噛み締めているのか頬が強ばり、瞳には懊悩の揺らめきが見える。

「よ、余地はありません。彼等は狂いし妖魔。世界の断絶により理性を失い、伝承という名の本能に引き摺られ、ただ想念の源流たる天樹を求める存在なのです」

瞬時に理解するには、咄嗟に理解の及ばないワードが多すぎる。

ただ、彼等との意思疎通が不可能だと主張していることは分かった。

光輝の視線が、クロス・ヴェルトの空間遮断結界に阻まれつつも狂ったように体当たりを続ける大群の先陣を見やる。確かに、彼等から理性の色は窺えない。

とはいえ、情報はあまりに少なく、その真偽は 曖昧模糊(あいまいもこ) 。

そんな状態で、数万、数十万の命を散らすのか……

握り締められた拳に血が滲む。

そんな光輝を見て、アウラロッドは――ふと、表情を和らげた。先程まで吐血しまくっていたとは思えない、まさに女神というに相応しい慈愛の滲む表情だった。

「ご安心を、勇者様」

「……?」

「彼等を討つことは〝死〟に繋がりません。妖魔の死とは、ただ一つ。〝世界からの忘却〟のみ。ここで討伐しても、彼等はいずれ復活するのです」

「復活? 生き返るってことですか?」

「死んでいませんから正確には〝再生〟とでも表現すべきですが……そう捉えていただいて構いません。むしろ、彼等を討伐することは、一時的とはいえ狂った想念体からの解放と言えるでしょう」

「……」

どうやら、あの九尾や鴉天狗の〝崩壊〟とでもいうべき奇妙な消滅は、その辺りの話が原因らしい。

殺すわけではない。だから、気に病む必要はない。

そう告げられて、しかし、光輝は難しい表情のまま。

「あ~、天之河? 別に俺と南雲だけでも――」

浩介が頬をポリポリと掻きながら、苦笑いを浮かべた。

天之河光輝という人間の性質というものを、浩介はよく知っている。トータスでの決戦以降、極端に〝正しさ〟を疑うようになったことも。

だから、今、光輝はアウラロッドの言葉の真偽にも疑いを持っているのだろうと予測できた。もしかすると、九尾や鴉天狗にも相応の理由があって、必死に天樹を求めていたのではないか、と。

マザー戦やコルトラン防衛戦に至るまでの過程を、浩介は大雑把にしか聞いていない。まして、砂漠の世界での出来事など知るよしもない。

故に、ハジメとの関係の変化には気が付いていても、光輝の〝選択と苦悩の狭間でもがき続ける〟と定めた心も、やはり知らない。

だから、きっと光輝に剣を抜くことはできない。少なくとも、時間がかかるだろう。

そう思って声をかけたのだが……

「気遣いは無用だよ、遠藤」

シャンッと澄んだ音を立てて、光輝が聖剣を抜いた。

「戦うさ。天樹には触れさせない」

痛々しい目だ、と浩介は思った。けれど同時に、息を呑むほど強靱な目だ、とも思った。

マザー戦やコルトラン防衛戦では、事情を熟知した上での時間をかけた決意があったのだろうと思っていたが故に、真実が判然としない現状で 躊躇(ためら) いや〝正しさ〟を容赦なく踏み越えた光輝に、目を丸くせずにはいられない。

思わず、光輝に指を差したままハジメを見てしまう。

「誰だ、こいつ」

「ドM方向に吹っ切れた変態勇者だ」

「誰がティオさんだッ。失礼にもほどがあるぞ!」

肩を竦めたハジメは、浩介が「いや、お前の方が失礼……でもないか……」と微妙な表情をさらしているのを尻目に、光輝をからかうようにして尋ねる。

「そこのブラック女神の話が真実とは限らないぞ? 腹の中もブラックかもしれない」

「かもな」

アウラロッドがショックを受けた表情で光輝に涙目を向ける。「女神は嘘つかない! ホントですよ!」と言いたげだ。

「でも、俺は女神様の話を信じるよ。信じたいから、信じる。それで……もし全てが嘘で、彼等にこそ正当性があったなら……」

「あったなら?」

「俺が彼女を討つ。それから、彼等を大切に思う人達や生き残りがいたなら、この首を差し出そう。俺ごときの命で償えるとは欠片も思わないけど」

命を奪うなら、己の命も賭ける。そう言う光輝の目には紛れもない恐怖の色があって、けれど、やはり、身に纏うのは不退転の意志だった。

「天之河……お前……」

「勇者様……」

浩介が今度こそ唖然としたように瞠目し、アウラロッドは息を呑んだ。光輝の重く深い覚悟に二の句が継げない。

そんな二人に何を言うでもなく、光輝はハジメに、意趣返しのようなからかい口調の、けれど、どこか困ったような表情で言葉を返した。

「それとも、南雲。俺が一から十まで納得するまで結界を張り続けてくれるか?」

「あほ抜かせ。高さ三キロの結界だぞ。アーティファクトを介しているとはいえ、今この瞬間も馬鹿にならない魔力を消費してんだ。やるわけないだろ」

「だよな。俺の〝聖絶〟も同じ規模で展開したら、いろいろ納得する頃には戦うこともままならないくらい消耗してるだろう」

だから、

「今、選ぶしかない。選ぶしかないのなら、俺はこの道を選ぶ」

外を見れば、いよいよ大群が天樹の緑地領域に踏み込み始めていた。クロス・ヴェルトの結界を襲う様々な攻撃がより過激になっていく。

それを一瞥し、光輝は苦しそうだった顔を無理やり冗談めかしたものに変えて浩介を見た。

「だから、心配しないでくれ、遠藤。無様な剣は振るわない。足手まといにはならないから」

「お、おう。……天之河」

「うん?」

「時間できたら聞かせろよ。高校中退してまで始めた、お前の旅の話。坂上達も一緒にさ」

「……ああ、そうだな。俺も話したい。久しぶりに、皆と」

浩介がスッと突き出した拳に、光輝は小さく笑って拳を合わせた。

「取り敢えず、戦場を 俯瞰(ふかん) したい。天辺に行くぞ」

「おう」

「分かった。……女神様、立てますか?」

ハジメの号令に応えて、光輝はアウラロッドに手を差し出した。未だ四つん這い状態のアウラロッドは、その手を取ってどうにか立ち上がるが、やはり疲弊が激しいらしい。

「あ――」

と、声をもらして倒れ込みそうになる。光輝が咄嗟に受け止めた。そして、

「すみません、少し失礼しますね」

「ひゃぁっ!? あ、あの勇者様、そんな……」

いわゆる、お姫様抱っこで抱える。アウラロッドの顔が一瞬で沸騰した。もじもじしながら「殿方に抱きかかえられるなんて……五千年越しの夢が叶ってしまいました」などと、星より重そうな言葉をこぼしている。

咄嗟に放り投げそうになった自分を必死に抑える光輝。ハジメと浩介とノガリ&エガリの「これだからイケメン野郎は……」みたいな雰囲気にも物申したいがグッと抑える。

そうして、天樹の頂上、直径十メートルほどの円状の足場に登ったハジメ達は、そこで改めて、地上の全景を目にした。

周囲三百六十度、大地が波打っていると錯覚するような異形の大群。空にも数多の異形が飛び交い、陽の光が届かなくなるほどに頭上を覆い始めている。

その凄まじい密度から、あるいは暗雲が立ち込めているのでは? と見紛うほど。

と、その時、まるで雷鳴の如き咆哮が響き渡った。

「ああ、そういうのもいるわけか」

ハジメが頭上を見上げながら呟く。

物理的な衝撃波すら伴っていたらしい咆哮に空間遮断障壁が軋む中、異形達の群れで出来た暗雲から巨大な存在が姿を見せる。

「おぉ、龍までいんのかよ」

「遠藤、感心してる場合じゃないぞ。なんかヤバい!」

「皆さんっ、伏せてっ! 〝神鳴り〟が来ますっ」

とぐろ巻く青みがかった黒い鱗に包まれた蛇のような存在――龍。神龍化したティオほどの巨体ではないが、その威容は十二分で、女神たるアウラロッドが焦りを見せた。

その直後、帯電した龍から極大の落雷が迸った。陽の光が遮られ薄暗くなっていた世界が真白の閃光に塗りつぶされる。

「おいおい、空間遮断を破るほどの威力かよ」

ハジメが頬を引き攣らせる。その言葉通り、空間遮断結界が悲鳴をあげているかのような軋み音が鳴り響き、クロス・ヴェルトが負荷に耐えかねたように白煙を噴き上げ始めた。

浩介もまた亀裂を生じさせていく空間遮断結界を見て引き攣り顔になりつつ呟く。

「九尾って最上位クラスの大妖って印象だったんだけど、実は大したことないのか? こいつと雷撃の威力が段違いなんだけど」

「いいえっ、彼女の本来の力はあんなものではありません! 四度の討伐と、前回の消滅からまだ時が経っていないから、あの程度だったのです!」

つまり、九尾もまた空間遮断結界を破れるほどの力があるということか……という疑問を口にする暇はなさそうなので、決死の表情で立ち上がったアウラロッドを尻目に、ハジメは虚空に可変式円月輪〝オレステス〟を取り出した。

同時に、結界の一部を開放。飛び込んできた落雷を、可変させて拡大したオレステスの内側へと呑み込み、空間転移をもって別のオレステスから吐き出した。

龍からすれば、放った雷撃がそのまま戻ってきたようなもの。頭部の下部付け根への直撃を受けて、身をくねらせるようにして吹き飛ぶ。

アウラロッドが「え、嘘でしょ?」みたいな顔でハジメを見ている中、龍は憤怒でもしたみたいに今度は無数の雷を放った。

四方八方へ散る雷は、当然、周囲の妖魔を巻き込み、錐揉みする彼等で雨が出来上がる。

「なるほど。本当に理性なんぞ欠片もないんだな」

既に空間遮断結界は閉じていて、威力分散した雷撃をしっかりと受け止めている。

「龍神の〝神鳴り〟をこんなにもあっさり……世界によっては神威そのものだというのに……」

アウラロッドからすれば、ハジメは、なぜか勇者召喚に交じってやってきてしまった人間で、きっと勇者の従者的な存在なのだろうと思っていたのだが……蓋を開けてみればこの通り。

天樹を覆う絶大な結界といい、龍神の攻撃をものともしないことといい、先程自分を脅してきた時の凶悪な顔といい、もしかしてヤバい存在を引き寄せてしまったのでは? と冷や汗が噴き出す。

そこに加え、

「っ、この気配は……いけないっ、〝 呪詛(じゅそ) 〟が来ます! 物理的な結界は無意味です! 浄化するまで、どうか耐えて――」

「状態異常系か? おい、遠藤、天之河、これ身につけとけ」

ポポイッと投げ渡された白い真珠のような鉱石がキラッと煌めくネックレス。疑問も口にせず、二人がささっと身につけた直後、

「ぼぴゅっ!?」

アウラロッドさんが盛大に吐血した。ハジメ達は淡い紅色の光に包まれたまま平然としている。

「ちょっ、南雲! 女神様にも頼むよ!」

「そ、そうだな。女神なら大丈夫なのかと思ったんだが……やべぇ、白眼剝いてるじゃねぇか」

ぽぴゅっではなくぼぴゅっと勢いマシマシで血を吐いたアウラロッドは、ちょっと女神がしちゃいけない顔をしていた。言うなれば、某悪魔払い映画の悪魔に取り憑かれた少女みたいな。ブリッジ移動する少女と同じく、苦痛故か、アウラロッドさんも白眼ブリッジしていらっしゃる。大変、怖い。そしてヤバい。

急いで白真珠のネックレス――エヒトの〝神言〟を防いだ解放者発案のアーティファクトを改良して創った〝精神作用系状態異常の無効化〟をなすアーティファクト〝 魂殻(こんかく) 〟を渡す。

「な、なぁ、南雲……エガリさんとノガリさんもやばくない?」

「あ? お、お前等にも効くのかよ……」

浩介の言葉に振り返れば、エガリさんがひっくり返って脚をピクピクさせており、倒れた伏したノガリマザーさんが『た、助けてくだしぃ~、あるじぃ~』と言いたげに、ハジメにプルプルと震える手を伸ばしている光景があった。

どうやら、飛んできた〝呪詛〟は相当強力なものらしい。おそらく、魂魄レベルで効果を及ぼすのだろう。

「まぁ、お前等に魂があることの証明にもなったわけだが……」

「「い、ぃ゛~~~」」

「つか、お前等、普段のテンションの高さはどうした? あんまりにも静かだから、遠藤みたいになってんじゃねぇか」

「誰が〝黙っていたら、そのまま空気に溶けて消えそうな奴〟だ。失礼な」

「いや、そこまで言ってないが……」

エガリ&ノガリマザーにも〝魂殻〟を渡してやる。妙に大人しい二人……二匹? が微妙に気になるものの、大群が近づけば近づくほど攻撃の密度も種類も増えるので後回し。

「天之河、これも渡しとく。意地か反省か知らないが、装備返上中って今更文句を垂れるなよ」

「いや、そんな場合じゃないし、ありがたく受け取るよ」

投げ渡されたのは〝空力ブーツ〟と〝金剛〟を展開できる腕輪。それに……

「……南雲、今はふざけている時じゃない」

「……別にふざけてないが?」

仮面レッド。かつて、帝国を震撼させた(?)仮面戦隊リーダーの証が、そこにあった。ちなみに、とっても改良されている。

しかし、光輝が断固拒否の姿勢を見せるので、ハジメはしぶしぶスマートなサングラスを取り出した。超多機能、超ハイスペックのハイエンドモデルである。元々渡していた望遠機能付きのサングラスと交換する。

浩介が羨ましそうに見ているが、彼のサングラスは特注品なので、このハイエンドモデルよりも優れている。

「ゆ、勇者様……私からも、お渡しするものがありますっ」

白眼状態からどうにか復活したアウラロッドさんが、ふらふらと立ち上がりながらも決然とした表情を見せた。

そして、その視線をチラリッと、なぜか聖剣に向けて……

「勇者様には既に、聖剣ウーア・アルトがあるようですが」

「え、ちょっと待ってください。聖剣の名称って――」

「どうぞっ、私もお受け取りくださいっ」

「それは受け取り拒否したいですっ」

「遠慮なさらないで! 全ては勇者様のために! 私の全てを捧げますぅっ」

「お願いだから話を聞いて――」

勇者様の言葉は途切れた。女神アウラロッドさんが祈るように手を組んだ直後、

「あんぎゃぁ~~~~~~~~っ!!」

「女神様ぁっ!?」

聞くに堪えない悲鳴を上げたから。ハジメ達もドン引きである。ほんと、この女神はいろんな意味で怖い。

そして、その恐怖は更に膨れる。なぜなら、断末魔の絶叫みたいな声を上げながら、ビキビキビキッと生々しい音まで立てて、アウラロッドが木の枝に呑み込まれていったから。それも、自分の体から突き出すようにして生えてきた木の枝に。

まるでタチの悪い自殺、あるいは悪夢のようである。

木の枝は、そのまま繭のようにアウラロッドを包み込むと、純白の光を放ちながら収縮していき……

「なっ、聖剣!?」

まるで花が開花するように解けた後には、聖剣によく似た造形の、しかし、色は黒く、材質は木製の剣が突き立っていた。ただ、木製といっても、その刃は見る者の肌を粟立たせるほどに鋭く、淡く輝き光沢を放つ様は実に神々しかった。

『ぜぇぜぇっ、ひっぐっ……』

なんか、喘鳴音と泣きべそが響いてくる。黒い木製聖剣から。怖い。

『女神アウラロッド改め、聖剣――いえ、天剣アウラロッド。さぁ、その手にお取りください、勇者様ぁっ』

「え、いや、ちょっと……その……」

勇者様、やっぱり拒否したいらしい。腰が引けている。あれだ、女性から「私だと思って持っていて!」と髪の毛の束を渡される心境というか、それのもっとヤバい版というか。

『ご安心を! 私は役に立ちますよ! 何せ、私を持っている間なら、大樹の近くにいる限り決して死にません! 勝つまで死にません! 何度でも再生して戦い続けることができます!』

「それ呪いの剣だよね!?」

『植物だって操れるので樹海を創って引きこもることもっ、動物や植物とお話することもできるので同族の友達がいなくたって何も問題ありませんっ』

「むしろ問題しかないっ!?」

ハジメと浩介が顔を見合わせた。そして、同時に頷く。

「本格的に社畜の道を歩めるな!」

「なっちまえよ、天之河。伝説の……ブラック勇者にさ!」

「お前等、楽しんでるだろ!?」

一応言っておくと、地上の軍勢が遂に空間遮断結界の境界に到達した。加速度的に攻撃が増大し、更には〝魂殻〟が激しく明滅しているので〝呪詛〟系の攻撃も激しさを増している。実にまずい。

『さぁっ、勇者様! 私を握り締めて! 振り回して! 思う存分、好きなように使って!』

「剣としてって意味だよね!? なんかニュアンスが怖いんだけど!?」

直後、ペカーッと激しく光ったのは聖剣ちゃん。

「この浮気者! だってよ」

「いや、きっと『私という剣がありながらっ、酷い!』だな」

「お前等はちょっと黙れ!」

更に言うと、クロス・ヴェルトが負荷に耐えかねて次々と煙を吹き出し、現在進行形で結界の範囲が狭まっている。追加で魔力を流さず、現状、機体の内包魔力だけで結界を維持している状態なので、流石に数十万単位の攻撃の嵐に押され気味らしい。

『勇者様! 私なら貴方様の潜在能力をもっと引き出せます! 聖剣と違って! 聖剣と違って!』

「張り合うのやめてもらえますぅ!?」

――ペカーッ、カッーーーペッ

「あれ!? 気のせいかな!? 今、唾吐いた感じじゃなかった!?」

明滅しているだけなので、きっと気のせいに違いない。一途で健気な聖剣ちゃんが唾を吐くなんてあり得ない。たとえ、光をぺっ、ぺっといった感じで天剣アウラロッドに放っていたとしても。

「おら、あくしろよ、勇者!」

「ふったまた! ふったまた!」

「イ゛~ィ゛!(う・わ・き! う・わ・き!)」

「イ゛~ィ゛!(しゅっらっば! しゅっらっば!)」

「ああもうっ、こいつらほんとにっ。ええいっ、取ればいいんだろ! 取れば!」

半ばやけくそで、天剣アウラロッドを掴み取る光輝。なんか『んぁっ』と微妙に喘ぐような声が聞こえた気がしないでもないが全力で聞こえなかったふりをする。

というか、それどころではない現象が発生した。瘴気のような黒い光が光輝を包み込んだかと思ったら、直後、光輝自身に変化が生じたのだ。

茶髪の髪には一部だけ白いメッシュが入り、瞳は左が緋色に、右が翡翠色のオッドアイに、更には右の額から目、頬から首筋にかけて木の枝と蔦が絡み上がったような紋様が浮き出た。

黒と白の双剣を構えた姿と相まって、それはまさに!

「な、なんつー厨二力! やるなっ、天之河ぁ!」

「ふひっ、やっべ! 厨二病の重症患者じゃねぇか!」

「イ゛~~!(さぁ言って! 早く言って! 私の厨二力は53万ですって!)」

「イ゛ッ!!(撮影はばっちりですよ! さぁ、後はポージングです!)」

聖剣の刀身に反射させて見た自分の姿と、ハジメ達の、揃って両手で指を差しながら、ひゅ~っ! 勇者やるぅ~! と煽ってくる光景に、光輝は羞恥でプルプルと震えた。

「言っとくけどな……南雲、遠藤。俺の見た目が重症者のそれだとしても……お前等に並んだだけだからな?」

ハジメと浩介が顔を見合わせた。

ハジメの目に、厨二の深淵に住む男が映った。

浩介の目に、白髪眼帯義手に黒コートの香ばしい男が映った。

同時に、相手の瞳を通して、自分の姿も見えた。相手の自分に対する感情と一緒に。

一拍。

二人して膝から崩れ落ちた。見事に、ブーメランが突き刺さったらしい。

『潜在能力を引き出した状態です! どうですか? 力が湧き出しているのでは?』

「そうですね……」

それはもう、かつて【氷雪洞窟】の試練で虚像の自分と融合したとき以上に力が漲ってますよ、怒りと羞恥心も漲ってますけどね! クソがっ! と叫びたい勇者様だったが、グッと堪える。

だって、いよいよ結界がやばく、〝魂殻〟に小さいとはいえ亀裂が入り始めたから。

「南雲、遠藤」

「ああ、やるか。エガリとノガリは待機してろ」

「「イ゛!」」

「ふっ、気乗りはせんが、これも深淵の定め。 戦友(とも) よ、我等の力、見せてやろうではないか!」

サングラス装着&キレッキレのターン。深淵卿モードを発狂――ではなく、発動したアビスゲートの方を決して見ないようにしながら、ハジメと光輝も配置についた。こいつ、なんだかんだでアビィ化するのに躊躇いがねぇな……と思いつつ。

天樹の頂上にて、三方向に背中合わせとなる。

『勇者様、ご同胞のお二人が尋常ならざる方というのは分かりますが……この大群相手に大丈夫なのでしょうか?』

「むしろ、心配なのは俺の方なんですけどね。持久力という意味で」

『え?』

困惑を伝えてくる天剣アウラロッドに、光輝は苦笑い気味に肩を竦めた。

「心配ないさ。何せ、あの二人は――神殺しの魔王と人類最強だからね」

『それは――』

聞き返す必要はなかった。

「悪魔共、早くも二度目の仕事の時間だ! オーダーは一つ。――〝蹂躙しろ〟!!」

『『『『『ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』』』』』

「フッ、我が深淵を前に数で挑む愚かさ、その身を以て痛感するがいい!! 刮目せよ! 最終深度――〝 永劫無(我、那由多の) 窮之深淵!(黒き刃なりて!) 〟」

『『『『『フッ、逃げる者は追わぬっ。命を惜しまぬ者だけ前に出よ!!』』』』』

天樹の北側一帯が、おぞましい叫び声を上げる機械の死神に埋め尽くされ、東から南一帯が香ばしい人で埋め尽くされた。

発狂ものである。

『ひ、ひぃっ、勇者様! あ、あれは!?』

「魔王と悪魔の軍勢――魔王軍と、増殖する深淵卿ですよ」

『ま、魔王と悪魔の軍勢……し、深淵の方は、なぜ一斉にターンを!? なぜサングラスをクイッするのですか!?』

「深淵卿だからです」

『わけが分かりません!』

「安心してください、俺も分かりません」

でも、頑なにターンするんだもの。〝フッ〟と〝サングラスくいっ〟は絶対なんだもの。と、内心で思いつつ、光輝は気合いを入れた。

「さて、俺も負けてはいられないな。――〝神威・極大光竜〟!!」

聖剣を頭上に掲げる。聖剣がドヤってるみたいに、いつもより多目に輝く!

そうすれば出現する、かつてないほどの巨体を誇る光の竜。

と、その時、聖剣に対抗でもするみたいに天剣アウラロッドが輝き、呼応して天樹も輝いた。途端、光輝の中に更なる力が漲った。

「すごいな……これならやれそうだ――〝創生・極光竜軍〟!」

かつて、【神域】にて幼馴染み達に向けた牙の一つ。あのとき以来、自力では使えなかった力――小光竜の群れが生み出された。更に、極大光竜の周囲に、満天の星と見紛う光弾が浮かび上がる。

真紅の光と、漆黒の噴煙と、極光が天樹を中心に三方向を染め上げた。

魔王率いる、悪魔を宿す五千もの殺戮兵器。

人類最強が率いる、無尽蔵に増殖し続ける暗殺者集団。

勇者率いる、滅びそのものである光の竜軍。

天樹を守護するように囲い、妖魔の大群と相対するそれを見て、

『こんな……どんな伝承にも、これほどのものは……なんという……』

アウラロッドの驚愕に喘ぐような声が木霊した。

「お前等、これ以上、天樹に手を出させるなよ? 貴重なサンプルだからな」

「フッ、 戦友(とも) よ、我なら――」

「分かってるさ。女神様の吐血する姿は、これ以上見たくないしね」

「フッ、我の言葉を遮るとは。さては――」

「「フッフフッフうるさい!」」

「フッ!!」

なんて軽口(?)を叩いた後、三人は天樹より飛び出していった。

魔王と深淵卿と勇者が、なんの制限もなく戦える状況下での戦争の結果など――

分かりきったことだった。

その後、無事に妖魔の大群から天樹を守り通したハジメ達は、人型に戻ったアウラロッドと共に再び天樹の中に戻っていた。

軽く聞いた事情説明の中で、天樹の中には、この世界の生き残り達が住む都があると教えられ、それを知ったハジメがぜひ見たいと、渋るアウラロッドを脅迫――丁寧なお願いをして案内してもらっているのだ。

何がそんなに興味を引いたのかと言えば、それは〝妖精〟である。

この天樹の中で、アウラロッドは妖精達を守っているのだとか。もちろん、理性も知性もあるこの世界の住人である。

詳しい話は、その妖精の都で聞けばいいと、とある残念極まりない事情から嫌がるアウラロッドを引きずるようにして進み……

そうして、都へと通じる天樹の中層内にある木の枝で編まれた門の前に到着。

〝メルヘンな妖精〟の出迎えを受けられるのか。やっぱり掌サイズなのか。悪戯好きなのか。

地球の伝承に通じる妖魔を見てきた後である。好奇心をこれでもかと刺激される中、門番にしてアウラロッドの巫女――もとい代弁者たる地位を与えられている妖精一族の一人が、ハジメ達の前に姿を見せて……

「んまぁっ、アウラロッド様がお見えになるなんて! しかも良い男を三人も連れてくるなんてっ、あたし、 滾(たぎ) っちゃうわん!!」

ハジメ達は硬直した。大群を前にしても余裕の態度だったのに、完全に腰が引けている。

それも無理はない。

だって、その〝妖精〟は――筋肉の権化なんだもの。某クリスタベルさんそっくりの。違いは、背中に透明で小さな羽が生えていることと、服装がより際どいセパレートタイプの水着みたいになっていて、メルヘン具合がより酷い点。精神的破壊力は抜群だ。

くねくねうっふん、バシューッと鼻息を漏らしている存在が冒涜的なモンスターを前に、ハジメ達は錆びたブリキ人形みたいな動きでアウラロッドを見やり、

「俺達、妖精に会いに来たんだが?」

「え、ええ、彼女が妖精の巫女ですが……」

アウラロッドの困惑した様子に、深呼吸を一つ。

「「「ふっざけんなぁーーーーっ!!!」」」

なぜ、こいつらは――漢女はどこの世界にも存在するのか。

期待と夢と好奇心の全てを粉砕されたハジメ達の、魂の叫びが木霊したのだった。