軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その時の二人は 後編

「森の魔女さんやるなぁ――って、シア! 息を止めろ!」

視界を染めあげていた光が収まり、思わず悪態を吐いたハジメだったが、血のような赤い風が吹く荒野の様子と、直後、喉や肺に感じた痛みに警告の声を張り上げた。

「ハジメさん、この空気……」

「ああ、有害だな。毒ガスの類いなんだろうが……こんな血色の風なんざ見たことない。っていうか、どう見ても地球上じゃないんだが」

回復薬を飲みながら、クロス・ヴェルトの結界を張って言葉を交わす。

周囲を見渡しても、荒野と、今まさに噴火して溶岩の雨を降らせている山、雷雲がどこまでも続き、その雲の狭間にマグマのように火炎が踊っている地獄のような光景しかない。どう見ても地球ではなかった。

それらを眺めながら、ハジメはシアに尋ねた。

「そういえば、シア。さっきの見たか?」

「さっきの? えっと、めっちゃ光ってて何も見えなかったんですけど……何かありました?」

「ああ、ちょっとな。お前が見えなかったんなら気のせいだったのかもしれないが……」

「ハジメさんには特殊な目がありますし、そのせいじゃないですか? 何が見えたんです?」

「ああ、なるほど。そうかもな。いや、一瞬だったんだが……大樹が見えた気がしてな」

「大樹って……ハルツィナ樹海のウーア・アルト、ですか?」

ハジメはこくりと頷いた。

正確には、よく似た巨大な木の幻影だ。ホログラムのように光の中に浮かび上がったと言えば近い表現だろうか。再生魔法を使って生い茂った大樹ウーア・アルトを彷彿とさせる巨木の幻影が見えた気がしたのだ。

「そういえば、あの魔女さん、最後に〝世界樹〟とか叫んでましたね」

「だよな~」

う~んと考え込むハジメ。外界のやばそうな雰囲気などなんのそのといった感じで思考の海に沈み、ぶつぶつと呟き始める。

「あの広場の直径、大樹の地表部分の直径とほぼ同じ……まさか、地面の下に切り株が? それで何か影響があって草木が生えなかった? 世界樹……北欧神話の? ユグドラシル? 物語の定番だが……実在した? いや、そんな馬鹿な……いやいや、そう思っていたのに地球も割とファンタジーだったし……魔女いたし……あり得るのか? 待てよ……そういえば星樹ルトリアもそっくりで……確か神話では、世界樹は九つの世界を内包するんだったか? 世界は繋がってる? まさか、ティオと行ったあの世界にも?……俺達が召喚されたのもあるいは――」

「ハジメさ~~ん! 自分の世界に入らないでくださ~い! ほら、お客さんが来てますよぉ!」

シアに肩を掴まれてガクガクと揺さぶられ、ようやく我に返ったハジメ。いろいろ湧き上がった疑問はとりあえず脇に置いて、シアが指を差している方向へ視線を向ける。

確かに、何かが急速にやってきていた。

――ニンゲンだと?

空を飛んできた相手を見て、

「……」

「……」

ハジメとシアは無言。というより唖然。なぜなら、人型の彼? 彼女? は、全身から火を噴いていたのだから。熱くないのだろうか?

しかも、見た目はガーゴイルが鎧のようなものをまとった姿というべきか、随分と凶悪だ。そして、その声音も人の神経を逆なでするような、あるいは逆に甘く囁くような、なんとも言えない奇妙なもので、直接脳内に響く感じだ。

ともあれ、異世界における第一村人である。いや、村人かどうかは分からないが。

ハジメは咳払いを一つ。顔をひと撫ですれば、そこには歴戦の営業マンのような素敵な笑顔が。

「どうもこんにちは。自分達はしがない旅行者です。いやぁ、この辺は中々素敵なところですね!」

有害な血風が吹き荒び、大地は乾いてひび割れ、遠くで絶えず山が噴火し、空は雷雲と火炎に彩られている。シアが「す、すごい。微塵もそんなこと思ってないはずなのに、まるで本心から言ってるみたいですぅ!!」と驚嘆の声をもらした。

ちょっと黙ってなさいと、シアちゃんのお口はむぎゅっとされた。

「ところで、あなたは近くの町の方ですか? 恥ずかしながら、この辺には事前に調べることもなく初めて来たもので、よろしければ――」

――なぜニンゲンがいるのかは不明だが、良きかな!

友好的な言葉が、食い気味に返ってきた。ついでに、炎の槍が贈られてきた。実に鋭い差し出し方だ。まるで殺意を乗せて突き技を放ってきたようにも思える。口元にはよだれが垂れていて、いかにも食い気が迸っているようにも見えるが、うん、きっと気のせいに違いない。

ガキンッと、ハジメの四点結界が、激しい贈り物を弾き返した。

――なに!? ニンゲン如きが我が槍の一撃を弾いただと!?

槍の一撃と言っちゃった第一村人さん。「お近づきのしるしに、これどうぞッッ!!」という、ちょっと激しいだけの贈り物ではなかったようだ。

「……ハハッ。こちらの方は少しスキンシップが激しいのかな? 一応言っておきますが、自分達に敵意はありません。是非、異種族交流といきたいところで――」

お口をむぎゅっとされているシアが、横目で「ハジメさん……無駄だと思いますよ?」とハジメに訴えるが、自称模範的な日本人であるハジメさんは、最後まで対話の努力を怠らないのだ!

――ならば、これでどうだ!

巨大な炎塊が、結界ごとハジメ達を呑み込んだ。

是非もなし。

「やっぱり俺の善意は通じない悲しみパンチ」

なんて言葉と同時に、

――ぶべらっ!?

ゲートで村人(?)の後ろに転移したハジメの、悲しみの鋼鉄パンチが彼の後頭部を襲った。村人(?)が錐もみしながら地面に突っ込んだ。

拳にこびり付いた何かを汚物のように振り払う。風にさらわれてあっという間に塵になっていくのを観察しつつ、ハジメはシアの隣に着地。

「なぜ、人は分かり合えないのか」

「相手が人じゃないからでは?」

なら仕方ないよね! とハジメは深く頷いた。

と、そのとき、火山の方から大量の気配が……

「……シア、もしかしてこれは、いろいろ誤解が生じるシチュエーションじゃないか?」

「いえ、誤解も何も、現地の村人さんをぶん殴ったのは事実ですよ」

「俺は悪くない! 俺は悪くない! 悪いのはあの村人さんなんだ!」

村人さんは、まだビクンビクンと痙攣している。シアは「まぁ、問答無用で襲ってきたのはあちらですからね。ハジメさん、頑張ってましたしね」と優しい表情になった。

そして、一転して輝く表情になると、

「ハジメさんハジメさん。未知と危険でいっぱいですね!」

シアちゃんのお目々がキラッキラしている。こんな状況でも、否、こんな状況だからこそ、これはもう冒険せずにはいられない! といったご様子。

「そうだな。……旅行デートの日程はまだ余裕がある。羅針盤で調べても、クリスタルキーで地球にはいつでも戻れそうだ」

ならば答えは一つしかない。

「冒険デートするか!」

「冒険デートしましょう!」

バチンッとハイタッチ。

無数の気配が、火山の噴煙をかき分けるようにして、いよいよ迫ってくる。なので、取り敢えず錬成で地面に穴を掘って、そっと第一村人さん(?)を埋めておく。空気穴を空けておくから大丈夫!

そうして、未来視なんてなくても分かる、誤解が加速するだろう状況から脱するべく、二人は急いでその場から逃走した。ルンルン♪ワクワク♪と。

大地の裂け目のような場所に飛び込んで、無数の気配から姿を隠して適当に走ることしばし。

血風が体を蝕むので、ハジメは回復薬を飲みつつ、道中に【氷雪洞窟】で使った防寒用アーティファクト〝エアゾーン〟を改良して、空気清浄アーティファクト〝エアゾーン改〟を作り出す。

「……よし、なんとかなったな。ほれ、シア、お前の分だ」

「あ、私は大丈夫ですよ?」

息をしなくても肌から浸食してくる有害物質だ。いったい何が大丈夫だというのかと、ハジメが訝しむような表情を向けると、

「もう慣れました!」

「あ、そうですか」

シアは輝く笑顔で、そう言った。正確には、変成魔法を行使して何度か調整することで耐性を得たらしい。それでも少しは侵食されるのだが、そこは再生魔法の回復で釣り合うのだとか。

軽微な傷や、多少の状態異常くらいなら気合で治してしまうバグウサギは、とうとう毒物関係においても急速に耐性を得る手段を取得したらしい。

ハジメは、深く考えないことにした。

そんなこんなで、殺気立った無数の気配が追ってくる様子もなかったので、さっそく異世界観光を始める二人。

砕け散り、クレーターでボロボロになった大地。というか、生命の息吹をまるで感じない死んだ大地。

マグマの川。煮え立つ湖。腐ったような体のおびただしい数の鴉。ヘドロのような沼。雷炎の竜巻。燃え盛っているのに灰にならない木々の林。何かよく分からない冒涜的な姿の生き物……

それを背景に、満面の笑みでツーショットの自撮りをしていくハジメとシア。

どれくらい、そうして地獄のような場所の冒険デートを楽しんだのか。

「お? ありゃあ……村か?」

「廃村でしょうか?」

風化して半壊した岩の家が乱立する村のような場所を発見した。と同時に、シアのお腹がくきゅ~~っと空腹を訴えた。ぺたんっとウサミミを折りたたんで、両手でお腹を押さえて、恥ずかしそうに俯くシア。

ハジメは、不意に襲ってきた形容し難いカマキリみたいな怪物をヤクザキックで粉砕しながら、微笑ましそうな表情になる。

「そういえば、そろそろ晩飯の時間だな。地獄みたいな世界に夢中だったから忘れてたけど、俺も腹減ったわ」

「えへへ……それじゃあ、ちょうどいいですし、この廃村のお家をお借りしましょうか」

二人して、一番マシな家屋を探す。触手を放つヘドロのような何かや、蜘蛛っぽく見えなくもない何かが廃屋の中から飛び出してくるのを、適当に殴殺し、銃殺しつつ、しばらく廃村を見て回って、ようやく良さげな家屋を見つける。

ハジメが錬成で補強し、中にソファーなどを取り出し、家屋全体にエアゾーン改の空気清浄フィルターもかける。

窓の外にヤモリのように張り付く得体の知れない何かや、屋根や壁の外側を徘徊するバイオハ○ード犬モドキの群れを、 セントリーガン(千鳥先生) やアラクネ部隊に任せて、温かい食事を取る。

窓の外の血風を眺めつつ、千鳥先生の美しい音色、そしてアラクネ達の「イ゛ィ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ」という何やらやる気に満ちた雄叫びをBGMにくつろぐ二人。

食事も終わり、ソファーでぴっとり寄り添いながら食後のお茶をしつつ、二人で自撮り写真をチェックしていると、

――ギシャァアアアアアアッ

――イ゛ィ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ

――ギシャ!?

――イ゛ィ゛イ゛イ゛イレギュラーハイジョシマスイ゛イ゛イ゛イ゛

「どうしましょう、ハジメさん。ここで野営します? それとも、一度、地球に戻りますか?」

不意にシアが尋ねた。安らぎ空間のせいか、目をしぱしぱさせて眠そうにしている。

さて、どうするか……と、ハジメが考える素振りを見せたその時、

「ん? 静かになった?」

「あ、アラクネさん戻ってきましたよ。……なんだか、凄くやり遂げた感のある雰囲気なんですけど」

いつの間にか作られていた小さな扉からシャカシャカと入ってくるアラクネさん達。エーアストとノイントが代表して前に出て、ジッと主たるハジメを見つめる。

もしや褒めてほしいのか……いや、そんなプログラムは組んでない……なんだ、そのつぶらな瞳が訴えるものは!と、ハジメもまたエーアスト達を見つめること数秒。

次の瞬間だった。

「ッ!! ハジメさん!」

「! おうっ」

一瞬で張られた三重の四点結界。己の本能が訴える危機感もそうだが、シアの声音がそうすべきだと告げていたのだ。

それは結果的に正しかった。

不可視の衝撃が一瞬で廃屋を爆砕し、更には結界の一層目とクロス・ヴェルトを粉砕。二層目を僅かな拮抗の後に同じく粉砕。そして、三層目に亀裂を入れてようやく霧散したのだ。

――我が配下を破っただけのことはあるか

脳内に直接響くような声音。それは、あの第一村人さん(?)と同じような響き。されど、遙かに重く、恐ろしく、魂を揺さぶるような形容し難い声だった。

と、直後、

「お、おお?」

「わわっ!?」

歪む空間。かと思えば、突如切り替わる視界。

驚く二人の、その視線の先にいたのは、豪奢な衣装を纏った、一見すると人間の老人だった。ただし、宙に浮く、巨大なワニのような怪物に騎乗した、と付け加える必要があるが。

背後の轟音に思わず肩越しに振り返ってみると、なんとそこには噴火中の火山が目と鼻の先にあった。

(転移させられたのか? 元の場所に強制的に戻されたのだとすると……あ、やべ。村人さんのことがばれて探されたのか……)

内心で独り言ちるハジメが視線を戻す。悠然と、されど恐ろしい気配を発している老人と目が合う。その後ろには、石造りの巨大な城も見えた。

ハジメは、攻撃を受けた事実をグッと呑み込み、クラスメイトからも政府の人達からも胡散臭いと定評のある満面の笑顔を浮かべた。

「どうも初めまして。あちらのお城の方ですか? 中々キレのある招待ですね! しかも、立派なお城だ! ところで、もしかすると誤解があるかもしれないので、一応言っておきますが、自分達はただの善良な観光客――」

――人でも魔でもない混ざり者よ、我が領地を侵した罪、汝の魂で償え

「ハジメさん!」

再び襲い来る死のビジョン!

咄嗟に背後にゲートを開き、倒れ込むようにして二人で転移する。老人の背後に出た二人は、その先で火山の一部が激震により崩壊する光景を見た。

一瞬で、地形が変わるレベルの攻撃。

「お、おいおい。久しぶりに死を感じるぞ。おじいちゃんにしては元気すぎじゃあねぇか?」

「ど、どうします? 相変わらず会話が成立しない感じですけど」

言っている間にも殺意が激震となって襲い来る。またも転移で回避する。が、

「うおっ!?」

「こんなのろぉ! ですぅ!」

転移先を読まれたらしい。影が差したと思ったら、転移直後に背後で顎門が開いていた。あの巨大なワニだ。

それが閉じられる寸前、シアが魔力を噴き上げた。閉じられる顎門を、両足と両手を突っ張る形で支える。その隙に、ハジメはドンナーとシュラークを抜き撃ちした。轟音と同時に、真紅の閃光がワニの咥内を蹂躙。

――ギィアアアアアッ

――ぬっ

ワニが暴れ、ハジメとシアは放り出される。

だが、安堵など全くできなかった。放り出された直後、視界の端に見えたからだ。とんでもない数の異形の怪物が迫っている光景が。

「う~ん。領地とか言ってたし、俺等が侵入者となると、現地民の大量虐殺はなぁ……俺、日本人だし」

「そこは譲らないんですね!」

凝縮された衝撃波が弾幕のように飛んでくるのを、シアがヴィレドリュッケンで弾き返す中、ハジメは羅針盤を取り出した。そして、「お?」と驚いた顔になる。

「シア、どうやら俺達がいるのは地底世界だったみたいだぞ。あの雷雲の上も岩盤だな。向こうの山の麓に一階層下に通じる階段がある。お暇するついでに、ちょっと行ってみないか?」

「なんと! それはそれでドキワクですね! 了解です!」

なんて平和的な判断か。ハジメはシアを抱き寄せつつゲートを開いて、遙か彼方にある山の麓へ一気に転移した。

目の前に、地下へ通じる真っ暗な空間が広がっている。クロスヴェルトによって空間を固定することで先程の引き寄せを阻害しつつ、「いやぁ、久しぶりにやべぇところだった」と階段を下りようとして……

――逃がさぬ

次の瞬間、老人が目の前にいた。

「マ、マジか」

「す、すごいですね」

空間を固定して転移を阻害しても、なお老人の〝引き寄せ〟は有効らしい。

(空間干渉ってレベルじゃねぇ。もう〝境界への干渉〟レベルだぞ)

空間魔法の神髄である境界に干渉する力。神代魔法級どころか、その根本にまで及ぶ力にハジメの表情が僅かに引き攣る。

戦慄を感じている間もなく再び襲ってきた空間の激震。

辛うじて結界を張るも完全には防ぎきれず、ハジメとシアは吹き飛ばされた。

――大公爵たる我から逃げられると思ったか

「チッ、シア! あんまり気遣ってる場合じゃねぇな!」

「ですね! 是非もなし!ってやつです!」

異形の軍団が迫る中、ハジメはメツェライ・デザストルを、シアはヴィレドリュッケンを抜き、身体強化レベルⅥを発動した。

二人の猛威が解放される。真紅の流星が刹那のうちに異形の軍団を薙ぎ払った。と、同時に、瞬間移動じみた踏み込みで老人のもとへ跳んだシアが、ヴィレドリュッケンをフルスイングする。

だが、やはり軍団と老人では、全く存在の格が違うらしい。老人は転移能力でシアの一撃を回避。逆に、逃れ得ない大規模空間衝撃波のカウンターを放ってきた。

「うきゃーーっ!?」

城の方へぶっ飛ぶシア。ハジメはそれを追いかけようとするが、いつの間にか主人から離れて背後に回っていた巨大ワニが、凄まじい速度でハジメをかみ砕こうとした。

「いつまでも、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

虚空に出現する拘束用アーティファクト〝ボーラ〟。それが上あごに絡みつき、空間ごと固定。同時に、振り返り様のシュラーゲンA・Aによるレールキャノン。

巨大ワニの喉を抜け、中身を慈悲なく蹂躙し、巨体を粉砕しながら尻より抜ける。動きの止まった巨大ワニに回し蹴り。巨体が嘘のように吹き飛び、迫っていた軍団の一部を吹き飛ばす。

――貴様

「引くなら今のうちだぞ?」

いつの間にか老人の背後にいたのは、巨大な鋼鉄の獅子――グリムリーパー・ネメア。その顎門に搭載された機能は、〝空間ごと食い千切る〟だ。

――ぬぅ!?

ここに来て、初めて焦燥と驚愕の声を漏らした老人。辛うじて転移で回避するが、肩口に掠ったようで、その部分がはらはらと崩れている。

が、それを気にしている暇など与えない。

――ロケット&ミサイルランチャー アグニ・オルカン

放たれた暴威が、軍団と老人に容赦なく襲いかかる。それでも、その隙間を抜けて、軍団の一部がハジメに波状攻撃をしかけ、老人も絶大な衝撃波を放ってくる。

まるで、ボクサーが至近距離で殴り合うような、暴力と暴力の真っ向勝負。

もし、ここにクラスメイト達やトータスの人々がいたのなら、きっと悪夢を見ているのだと現実逃避するか、顎が外れるほど驚いたに違いない。

まだ全力ではないとはいえ、老人はハジメの暴威に正面から暴威で応えるという信じがたいことをしているのだから。

が、正面勝負もそこまで。

ハジメの口元がニィッと裂ける。念話を通じて、ウサギ嫁が元気よく「ハジメさん! やっちゃいますね!」と答えたがために。

「どっせぇええええいっ! ですぅ!」

城の方から上がった雄叫び。ミサイルの乱れ打ちを空間遮断タイプの障壁で防いでいた老人が目を剝いた。

原因は明らか。非常識極まりない巨大な戦槌が、城の直上でかかげられていたから。

「ハジメさんから離れやがれっ、ですぅ!」

容赦なく振り下ろされた100トンハンマー。

――よせっ

いいや、よさない。城の直上で、不可視の障壁に激突した100トンハンマーは、しかし、直後にシアが放った空間震動打撃により、障壁をぶち破って城に直撃した。

地響きと衝撃波が駆け抜け、血風を放射状に吹き飛ばした。噴火でもしたみたいな土煙が上がり、荘厳ですらあった大きな城は崩壊。地中に叩き込まれるようにして消滅した。

――小娘ぇええええっ、この大公爵アガレスの居城と知っての狼藉かっ

爆発する激震。老人を中心に、空間が悲鳴を上げ、空が割れ、大地が裂ける。

その破壊の嵐が届く一瞬前にシアのもとへ転移したハジメは、激高して我を失っている老人へ大量のグリムリーパーを送り出して相手をさせつつ、今度こそ階段へ転移して地下へと飛び込んでいった。

「いやぁ、やばかったなぁ。あいついったいなにもんだよ。なんか聞き覚えのある名前だったような……」

「ハジメさん、久しぶりに本気顔でしたもんね」

割と壮絶な戦いをしたはずなのに、なんとも軽い感じの会話が木霊する。薄暗い地下への階段を下りながらも、二人の足取りは弾むようだ。

その理由は一つ。

「冒険ってのは、やっぱこうでないとな!」

「リスクなくして冒険なんてちゃんちゃらおかしいですもんね!」

いつでも戻れること、そして大切な人が隣にいることで、二人的に驚異的な相手が出現しても、やはり冒険デートであることに変わりはないらしい。

現地民からすると、とんだ迷惑旅行客なのだろうが、問答無用で襲いかかっていることからすると、どっちもどっちと言えなくもない。

「でもよ、シア。流石にお城ぺしゃんこにするのは、どうなんだ?」

「んまっ、ハジメさんったら何を常識人みたいなことを! それを言ったら、ハジメさんなんか、あのおじいちゃんのペット、撃ち殺していたじゃないですか!」

「……だって、言葉は通じるのに心が通じなかったから……」

なんて本気なのか冗談なのか分からない会話をしているうちに、二人は地下の空間に出た。

「お、おお? 都、か?」

「地下都市ってやつでしょうか?」

階段の先は崖になっていた。その崖から一望できる眼下に都市が広がっていた。かなりの規模の都市で、地下空間だというのに端が見えない。といっても、まるでゴーストタウンのようにひっそりしていて、随分と荒廃している様子だったが。

「取り敢えず、今日はここで野営するか?」

「もうすっかり眠気も飛びましたけどね」

二人してキョロキョロと物珍しげに視線を飛ばしながら、建造物の屋上から屋上へ跳び移りつつ、都市の中心へ向かっていく。ついでに随所で自撮りしていく。

「ハジメさん、あれ! なんか凄くないですか?」

「確かに凄いな……宮殿、か? ゴーストタウンみたいだし、もしかして昔の王宮とか?」

都市の最奥にあったのは、それは立派で巨大な宮殿だった。否、荘厳さを兼ね合せたそれは神殿というべきか。先程の巨城とはまた別種の、思わず目を奪われるような威厳があった。

もはや、自撮りするしかない。

「すみませ~ん、誰もいませんか~? ごく普通の観光客なんですが! 撮影してもいいですか~?」

シアが大声で呼びかける。マナーは守るべきである。自撮りしちゃダメなところでは自重すべきなのだ! と、今更な常識人ぶりを見せる。

「誰もいないだろ。どう見たってゴーストタウン――」

――ほぅ、人間か? 小僧が現世侵攻を呼びかけておったが、その弊害か?

意外にも現地民さんがいたらしい。

――ククッ、大公爵が出し抜かれるとは……これは面白い

別の声が響いた。嘲笑混じりの声だった。

――貴様等は手を出すな。あれは、我のものとする

更に別の声。凄まじく威圧的で、常人なら聞いた瞬間意識を飛ばされそうな力を感じる。

空間が揺らめいた。黒い霧のようなものが集まり、蜘蛛の下半身を持つ老人が現れた。獅子の頭部を持つ人型がにじみ出た。虚空に突如上がった炎の中から、火の息を吐く巨狼が生み出された。

それ以外にも、神殿の奥から、そこら中の建物から、様々な方法で異形の存在が溢れ出てくる。誰も彼も、酷く破滅的で冒涜的、おぞましく、妖しい。なのに、どこか甘美な空気を纏っている。

先程の老人に勝るとも劣らない、凄まじい〝格〟を持った存在だった。

「どうも初めまして、遠い地よりやってきました旅行者です」

「あ、それまだやるんですね」

日本人だもの。

もちろん、ハジメさんの日本人的友好な態度は、いつだって通じない。とても不思議なことに。

――久しいニンゲンの魂ッ、堪能させてもらうぞ!

まさに問答無用。先手必勝というより、突然目の前に現れたご馳走を前に争奪戦でせり勝つことしか考えていないような突進を、巨狼が行った。

「ちょっ、待て! 話し合おう! 観光させてほしいだけなんだ!」

――ハッ、ニンゲンにしては冴えた嫌みであるなっ

「なんでだ!?」

魔女さんが、どこに叩き込むと言っていたのか、それを真に受けてさえいれば、確かに嫌みだと自覚できただろう。人間にとってその場所は、もっとも近寄りがたく忌避すべき場所なのだから。

巨狼の顎門が迫る。

とりあえず、可変式円月輪オレステスでゲートを開き、そのまま背後に対の円月輪を繋いで素通りさせる。

「はぁ、ここまで拒否られたらしょうがないな。また現地民を 徒(いたずら) に殺すことになるし、別の場所を探検するか」

「ですねっと!」

いきなり背後に出現した異形を振り向きざまにフルスイングしながら、シアも同意する。

そうして、さっさと転移して逃げだそうとしたハジメだったが……

「あ? チッ、阻害されたのか?」

――貴様等ッ、我が城をよくも! 許さんぞ!

「さっきのじいさん!?」

転移を阻害し、悪魔みたいな形相で出現したのは、先程の老人だった。

いきなり襲い来る空間の激震&空間の断裂。殺意が高い。物凄く。同じ世界の住人達を普通に巻き込んでいるが、全く気にした素振りをみせない。

障壁でどうにか耐えるが、相手の攻撃も空間干渉によるもの。全ては防げず、衝撃がハジメとシアを襲う。

そこへ、更に魂魄を揺るがす不可視の衝撃。業火、天雷、氷獄、発狂へと誘う絶叫が津波のように襲い来る。しかも、そのうちの半数は障壁を透過し、それどころか肉体の耐性すら透過して魂魄に直接ダメージを与えてくる始末。

「いたたっ。やっべっ、この世界っ、マジでやべぇぞ!」

「今のって、ユエさんの神罰シリーズですよね!?っていうか、単純なスペック自体、使徒と同等以上ですよ!? なんなんですかこの世界!」

言っている傍から、香織の十八番である〝神速〟で接近した馬と、それに騎乗した騎士が、〝金剛〟をまとったクロスヴェルトを両断しながらハジメのもとへ踏み込んできた。

「チッ」

舌打ち一つ。クイックドロウによる超精密射撃により、騎士剣自体を撃って軌道をそらしつつ、体をひねって回避する。

だが、すれ違う瞬間、最小限の回避行動だったせいか、騎士の足が僅かにハジメの肩に触れた。

その瞬間、

「ッッ!?」

「ハジメさん!?」

ハジメの体から血が噴き出した。

シアが、巨大剣玉を振り回して周囲を薙ぎ払いながらハジメのもとへ飛び込む。

「大丈夫ですか!?」

「問題ない! けど、厄介だぞ」

虚空に取り出した回復薬を口でキャッチし、アンプルを噛み砕いて飲む。瞬く間に消えていく傷だが、その場所が問題だった。とても、見覚えのある傷が多いという意味で。

「傷の再生……ですか?」

「ああ、一瞬だったから大して再生されなかったが、全部の傷を再生されていたらやばかった」

神代魔法級の異能がオンパレードだな、と苦笑いを浮かべるハジメ。

僅かな戦闘で、二人ともかなり装備がボロッとしてしまっている。クラスメイト達がこの場にいたら、驚愕で卒倒していたかもしれない。

言葉が通じるようで通じない、神の使徒と同等以上のスペックを誇り、使う異能は神代魔法級という現地民の皆さんを前に、ハジメは、とにもかくにもここから離脱しようとシアに口を開きかけ――

――よく足掻く。素晴らしい魂の輝きだな。特に女の方は素晴らしい

「……ん?」

響いた声に、ハジメは目を眇め、

――実に良い女だ。資質は聖女を超えるか。良き母体だ

――しかり。ただ食らうにはいささか惜しいな

――丈夫な肉体だ。あれなら、何度でも孕めよう

シアがおぞましそうな表情で戦槌を構え直す。が、直後、「ふわ!?」と悲鳴を上げた。

「しょうがないよな? 言葉が通じねぇからさ」

ドッと噴き上がる真紅の魔力。螺旋を描いて天を衝く。衝撃波を伴う大瀑布の水圧のようなプレッシャーに、初めて、現地民さん達は顔色を変えた。

ようやく気が付いたらしい。相対する人間が、人間の範疇にいないことを。自分達を脅かす存在であり、今の今まで配慮されていたのだということを。

もちろん、気が付いたとて、もう遅いが。

虚空に出現するのは、バルス・ヒュベリオン七機。

ハジメ自身、意図したわけではないが、それは彼等の大敵だった。そう、太陽の光は。

轟ッと大気が唸り、七本の太陽光集束レーザーが射線上の彼等を呑み込んだ。辛うじて転移や神速で回避した者もいるが、彼等のうち三割近くが食われたのは間違いない。

そして、その暴威が狙っていたのは、別に彼等ではないのだ。大切な存在を狙われたのだから、狙うのももちろん、相手の大切な存在――つまり、この地下都市の象徴たる神殿である。

地響きと白の閃光が地下空間を満たした。

轟音すらない。ただ陽の光に飲まれて消滅する。

更に、

「全機、第二圧縮炉解放」

暴威は終わらない! 神殿を消し飛ばしただけでは飽き足らず、薙ぎ払いによって周囲一帯を更地にしていく。逃げ遅れた現地民さんが更に二割ほど食われた。

強大な戦闘能力を持っていた者達も、今は回避と防御に徹している。それほどに、彼等にとって太陽の閃光というのは苦手なものらしい。

地下都市を蹂躙しながら、ハジメはシアに言う。

「シア。これだけしても転移が阻害されてやがる。あのジジイか、他の奴かは分からないが」

「ええっと、どうします?」

「取り敢えず地上まで上がってみないか? こいつら太陽の光が苦手みたいだし、地上なら地球へのゲート開けるかもしれない。全開で戦って崩落しても困るし、万が一のために退路の備えはしておきたい」

「なるほど。また階段を見つけて……めんどくさいですね! ぶち破っていきましょう!」

「だな。それで、最後に地下空間ごと焼却してやる」

超大型太陽光爆弾を開けた穴にポイッ。そうすれば熱波が全てを焼却するだけで地下空間が崩壊することもなく一網打尽というわけらしい。この世界に優しい、実にクリーンな方法である。

「それと、シア。現地の人だからって、もう遠慮しなくていいぞ。あいつらがお前にしようとしていることを考えると、僅かな可能性も潰すべきだ。自分最優先でいけ」

「了解です。油断できないくらい強いですし。ハジメさんの部屋にあった同人誌みたいなことになるなんて死んでも嫌ですし! 私も全力全開で行きます!」

「シア、あとでちょっと話をしよう。あれは違うんだ。父さんの会社のな? 新作ゲームの資料で――」

「さぁ、行きますよ!」

まるでハジメの怒りが削がれてそれどころではなくなったのを示すように、バルス・ヒュベリオンの光が収まった瞬間、シアから淡青白色の魔力が噴き上がった。身体強化レベルがⅧまで一気に上がる。

と、同時に、

「何気に、実戦初披露ですね! ヴィレドリュッケン――神装モード!!」

ヴィレドリュッケンの頭部分をぐるりと一周する形で、規則正しく埋め込まれた七色の小さな宝珠が輝きを帯びる。直後、ヴィレドリュッケンの周りに、七つの紋様が描かれた七色に輝く光の法陣がサークル状に出現した。

天井目がけて一気に飛び出したシアは、ヴィレドリュッケンを下段に構えながら、その名を叫ぶ。ヴィレドリュッケンに備わった新たな力を解放する!

「モードオロス!! 爆砕!!」

ルーレットのように回った法陣。打撃面の前に回ってきたのは土色の法陣だ。

渾身の力で振り上げれば、打撃面が法陣を突き破り、法陣がそのままスタンプのように張り付く。

「うっりゃああああああっ! ですぅ!」

凄絶な衝撃音が轟く。土色の法陣を貼り付けた打撃面が、そのまま天井に直撃する。

刹那、それは起きた。天井の岩壁が爆破でもされたかのように粉砕され、それどころか、奥へ奥へ、上へ上へと向かって連鎖崩壊し、かつ、瓦礫自体は周囲の壁に癒着していくのだ。

穴の奥を見れば、最奥が爆ぜて、その奥に小さな光が見えた。ただの一撃で、あっという間に上層階への道ができてしまった。

「流石、オロスさん!」

ペカッと土色の宝珠が光った。何故か、赤色の宝珠までペカーッと抗議でもするみたいに輝く。まるで、土色宝珠が『ふん。この程度、どうということもない』とクールに返したかと思えば、赤色宝珠が『キィーッ、悔しい! シアの役に立つのは私だけでいいのに!』と言っているように見える。

「今のうちに、さっさと行っちまおう」

バルス・ヒュベリオンの付属兵器であるミラー・ビット――レーザーを反射、細分化して超広範囲に多角攻撃するオプション――によって現地民さんを足止めしていたハジメがやってくる。

「っと、その前に! モードソアレ!」

ぬっふぅ~っという感じに光る赤色宝珠。再び出現した法陣のサークルがくるりと回り、打撃面の正面に、赤い法陣がやってくる。

何もない虚空へ、その法陣を突き破りながらフルスイング。

次の瞬間、

――ぬぅ!?

転移が得意な老人は、出現した直後に、赤く輝く戦槌の一撃を食らい吹っ飛んだ。しかも、それだけでなく、

――っ!? これはっ、離れよっ

太陽に侍るプロミネンスの如く、陽の光が老人にまとわりついて離れない。転移しようが、衝撃波を放とうが、まるで誰かさんの性格みたいに執念深くべったりと張り付いて老人を灼き続ける。

「よく分かったな。今の、〝仮定未来〟か?」

「いいえ? 勘です!」

「……そうか」

シアのバグ具合はとりあえず置いておいて、二人で一気に上層へ駆け上っていく。

追ってくる連中に爆弾を落としたり、ヴィレドリュッケンの砲撃モードで太陽光を圧縮した火炎弾を放ったりして追っ手を牽制しながら、ハジメが尋ねる。

「よく使えているようだが、不具合はないか?」

「今のところは大丈夫ですね。神装モード……流石ソアレさん達というべきでしょうか? あの人達にもめちゃくちゃ効いてますね」

そうでしょうそうでしょう! もっと頼っていいのよ? もっともっと頼ってくれていいのよ? 遠慮しないで! だって、私達の仲じゃない!

と言いたげに、赤色宝珠が鬱陶しいくらいに輝いている。黄色宝珠から雷撃が飛んだ。赤色宝珠が沈黙した。

さて、こんな実に人間くさい反応を返すヴィレドリュッケンの新装備である七色の宝珠だが……その正体は、七色のスライム――ではなく、七つの自然を司る神霊の分御魂達である。

正確には、彼等の新たな住居である宝物庫だ。中はそれぞれの好みの自然を模した世界があって、更に、ヴィレドリュッケンの最奥に設置された星樹の宝珠を中心に全ての世界が繋がっている。そうして、宝珠を通して、霊素の力や分御魂達の力を発現できるようにしてあるのだ。

神装モードで起動状態となって、神霊の名を呼ぶことで各自然を司るモードに変わる。シア自身が発動するというより、神霊達がシアの望む事象を発現させるという形だ。

ちなみに、法陣とか紋章とかはハジメのオプションである。必要か不要かで言ったら、全く必要ない。けど、格好いいから必要なのだ! 分御魂さん達も、ハジメの提案に七日七晩かけて自分の紋章を考えたくらい必要なのだ!

あと、宝珠の中の自然は、勝手にそうなっただけである。ハジメ的に、最初は戦闘時だけ宝珠に入ってくれればと構想していたのだ。言ってみれば、兵器に乗り込むパイロットみたいな感じだ。

なのだが……流石は、自然を司る星樹の枝葉と神霊達の分御魂というべきか。気が付いたら宝珠の中に自然が生まれていて、むしろ外より宝珠の中の方が居心地がいいと住み着いてしまったのである。

出てくるのは自由なのだが……現状、みな立派な引きニート分御魂になっていたりする。

そんなこんなで上層階に飛び出したハジメとシア。

地上に逃げるのが主目的だが、強敵の集団と遭遇してなお、この世界での冒険にわくわくした様子で、どんどん天井をぶち破っていく。

――貴様等ッ、キサマラァアアアッ

――もはや食らうだけでは生温いッ

――七王の万魔殿をっ、我等の象徴をよくも!!!

怒髪天を衝く勢いの現地民さん達が、そんなハジメとシアを追撃する。もはや、二人の驚異的な強さとか、同胞がどれだけやられたとか、そんなことは関係ないと言わんばかり。

完全に、引っ込みがつかなくなった様子だ。「ワレ、落とし前つけんかいっ、ゴラァ!!」状態である。

「――モードウダル!! 万雷!!」

なんらかの手段で上層階と連絡を取ったのか。次の階層をぶち抜いて飛び出した瞬間、黒い雲と見紛うほどの異形の大群が急迫した。

黄色の法陣に転換。そのままスタンプでも押すみたいに、空間魔法で空中に叩き付ければ、天へと昇る幾万の雷撃が発生。

炭化して、形を崩しながら異形の残骸が黒い雨となる。

その黒い雨を突破して、再びモードオロスで天井を地盤ごとぶち破り、上層階に抜けるや否や反転。

「モードバラフ&エンティ! 氷嵐!!」

打撃面の両面それぞれに白と緑の法陣をセット。独楽のように周りながらスイングすれば、一瞬で絶対零度の氷雪竜巻が発生。

「モードメーレス! 大津波!」

そこへ、大瀑布の如き水流が流し込まれれば……大穴は一瞬で氷漬けとなり塞がれてしまった。

それでも、転移したり、あるいは元より氷結に強いらしい何体かの現地民さんが鬼の形相で突破してくるのだが……

「モードライラ! 錯乱&黒槍!」

黒の法陣を張り付けて、神速で急迫した蛇男のような現地民さんをぶん殴れば、吹き飛んだ蛇男は悲鳴を上げて錯乱しつつ、同胞を攻撃し始める。

一方、おぞましい悪霊のようなものを大量に出現させた、黒い馬に騎乗した戦士へ、黒い槍の豪雨を降り注ぐ。全方位へ、鋭角に曲りながらホーミングでもしているかのように正確無比な攻撃がなされる。

常闇の神霊ライラの放つ黒槍は物理攻撃でありながら霊素で創られた即席神霊武具であるせいか、それとも魂や意識に干渉する権能を備えているせいか、実体の乏しい相手もなんなく貫きダメージを与えるらしい。

雲散霧消といった有様で消えていく悪霊っぽい何かと、黒馬に騎乗した戦士っぽい現地民さん。

神装ヴィレドリュッケンを一振り。肩に担いでとんとんしつつ、シアは、

「ささっ、ハジメさん。今のうちに!」

「お、おう……」

ハジメを促して天井の穴へ飛び込んだ。

分御霊達の力を借りて、遂に広域殲滅力を手に入れたバグウサギ。

途中から、あまり手を出す必要がなくなったハジメは、「予想以上だな……まぁ、シアが強くなるのはいいことだよ、な………………帰ったら鍛錬するか……」と、ちょっと表情を引き攣らせていたりしたが……

とにもかくにも、二人はめちゃくちゃ強い現地民さん達の追撃を、

『ちょっとライラ! あなたばっかりずるくないですか!? シア! もっと私を使ってください!』

『あら、ソアレったら。ごめんなさいね、私の方が求められているみたいで』

『お前達。言っておくが、練習や模擬戦では、我を使う頻度が一番だからな? シアのお気に入りは、この雷雲の神霊たるウダルで――』

『そんなことどうでもいいのよ! それより、そこの悪魔! 私の活躍、ちゃんと見ているんでしょうね! あんたの言う通り、ちゃんとシアを守ってあげてるんだからね! ご褒美を用意しなさいよ! あと、私にもっと優しくしなさいよ!』

『……お前達、いちいち騒ぐな』

『最近はライラまでソアレのように……はぁ』

『……なんて有様か』

なんて分御霊達の姦しいやり取りと、付き合ってられんと言わんばかりのバラフやメーレスの溜息をBGMに、楽しく振り切りながら地上へ駆け登るのだった。

その後、ここがどこで、現地民さん達が何者か、思わぬ再会で知ることになるのだが……

それはまた、前のお話で。

~~~~~~~~~

おまけ

「……まさか、拗ねてるのか?」

バチカンでの騒動が一段落ついた直後、ハジメは二体のアラクネになんとも言えない目を向けていた。

――イ゛ィ゛イ゛イ゛ッ

――イ゛ィ゛イ゛イ゛ッ

前脚で、ペシペシと主の足を叩いているのはノイントであり、そして腕を組むみたいにして脚を組んでそっぽを向いているのはエーアストだ。

実は、老人に強制転移されたせいで、あの地獄の廃村に置き去りにされていた二体。必死にシアが空けた穴を辿って主を追いかけ、ギリギリの、本当にギリギリのタイミングでどうにか閉じる寸前だったゲートに飛び込むことができたのである。

ハジメ的に、グリムリーパーもクロスヴェルトも魂なきただの機械であり、使い捨て兵器みたいなものだ。

なので、気にも留めていなかったのだが……

「自動帰還モードは入れてあるが……」

なぜ置いていったのですか! この薄情者ぉ! みたいな態度を取られると、流石にシアのいう「中の人がいるっぽい説」にも信憑性が出てくる。

「ああ、なんだ。悪かった。今度からは置いていかねぇから。そろそろ宝物庫に入ってくれ」

宝物庫内に収納しようとすると、高速で逃げ出す二体に、そう言ってみる。

まったく、しょうがない主ですね。今回は許しましょう。まったく。

みたいな感じの雰囲気を醸し出しているのは気のせいか。

とにもかくにも、今度は大人しく宝物庫に収納されてくれる二体に、ハジメは、大罪戦隊の中の存在を知った後ということもあって。

「……マジでそうなのか? いや、でも、う~ん……まったく、大樹の件もいろいろ調べたいってのに、次々と」

と、頭を抱えながら呟いたのだった。