軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハウリアがやって来た! 上

バチカンやら悪魔やらの問題が片付いて一ヶ月ほどが経ったある日。

南雲家のリビングには、妙な緊張感が漂っていた。誰も彼もが、やたらとそわそわしている。

ミュウだけが、リビングのソファーに寝転がって、小さな足をふりふりしながら携帯ゲームに集中しているが……。時折、「ガッデム! なの!」と、どこで覚えてきたのか分からない悪態を吐きながら、激しく指先をピコピコしている。

「ミュウちゃん、やっぱりすげぇな。神経太すぎだろ」

呟いたのは、隣のソファーに腰掛けている影の薄い男――遠藤浩介だ。

「さ、流石、魔王様のご息女だわ……」

戦慄の表情で返答したのは、浩介の隣にぴっとりと寄り添うようにして座っているエミリー・グラントである。

何故、南雲家にこの二人がいるのか。それは、南雲家の面々が妙に緊張しているのと同じ理由だ。

「そろそろ……だな」

リビングの壁を見つめながらハジメが呟く。リビングにいるユエ、香織、雫、ティオ、レミアも揃ってごくりっと生唾を呑み込んだ。

なお、南雲家の愉快な愉快犯二人は、現在仕事場で修羅場を迎えている。今日という記念すべき日に在宅できなかったことを、二人は血の涙を流さんばかりの形相で悔しがっていた。きっと今頃は、血涙ダバ~しながらお仕事に勤しんでいることだろう。

と、そのとき、にわかに壁が発光を始めた。キラキラと渦巻くように光が踊り、かと思えばぐにゃりと空間が歪んでいく。

ゲートだ。空間が繋がる兆候である。

光はより強くなり、やがて、幻影の扉が出現。燦然と輝きながら、どこからともなく流れてきた重厚な音楽と共に開いていく。ギィと、古い屋敷の扉が奏でるような音が耳を突いた。

徐々に開いていく扉の隙間から光が溢れ出す。

同時に、地面を這うようなスモークまで溢れ出した。リビングを一瞬で雲海のようにする大量の白煙……

全員の視線がハジメに向いた。これも、新しく付け加えられた演出なの? と無言で問うている。ハジメはプルプルと首を振った。どうやら、扉の幻影と光以外は、音楽も含めて知らないらしい。

困惑するクリスタルキーの製作者さん。もっと困惑するユエさん達。

そして、遠い目をして「あ、だからラナさん、最近楽器の演奏を頑張ってるって言ってたんだ……」と呟くエミリーちゃんと、「あ、だからラナのやつ、ドライアイスの作り方、あんなに熱心に聞いてきたんだ……」と呟く浩介さん。

やがて、渦巻く白煙と、後光のような光の中、完全に開いた両開きの扉の奥に人影が見えた。逆光により姿は判然としない。

最初に一人。肩で風を切る、もったいぶるような歩き方でゆっくりと進んでくる。あと、ウサミミがある。

次に、先頭を行く者の両サイドに、小さな人影が二つ。やっぱり、肩で大げさに風を切るような歩き方。一歩一歩、つま先で地面を撫でるような、セクシーさすら感じる洗練された歩法だ。あと、ウサミミがある。

その両サイドに、更に二人の人影。こちらは、見るからに女性のシルエット。折れそうなほど細い腰に手を当てて、非現実的なくらい長い足を交差するように前へと出す。まるで、モデルのような歩き方。あと、ウサミミがある。

そして、その後ろに四人。同じく肩で風を(略)――あと、ウサミミがある。

ハジメ達の表情が引き攣り、浩介が両手で顔を覆って身悶え、エミリーが天を仰ぐ中、雲海のような白煙を攪拌して現れた彼等は……

「天呼ぶ、地呼ぶ、ボスが呼ぶ」

「いや、呼んでねぇよ」

先頭の男の、朗々とした声が響いた。あと、ハジメのツッコミも響いた。技能「突発性ギャルゲ主人公的ウサミミ」発動! よく聞こえるウサミミは、ピンポイントでよく聞こえないウサミミに!

先頭の男は片足を無意味に振り上げて華麗にターン! キレッキレだ! すっごく練習したに違いない!

「時を越え、地を越え、世界を越えて――」

「我等は駆ける。ボスのため」

「自重してくれ」

続くウサミミ少年とウサミミ少女。荒ぶる鷹のポーズから、流れるようなターンッ。ウサミミだって荒ぶる!

「いざ、刮目せよ」

「我等こそ暗き闇の一族。光喰らう終焉の牙」

「いや、森のウサギだろ。っていうか、今めっちゃ光ってんじゃねぇか。後光、差しまくってんじゃねぇか」

世界レベルのモデルすら裸足で逃げ出しそうなスタイルの良さを、存分に見せつけるウサミミレディ二人。髪をかき上げ、腰をセクシーに曲げて、タァーーンッ! まさに洗練の極致!

あと、後ろの四人も右から順に(略)

浩介が遂に両手で耳を塞いで、ソファーの上で三角座りを始めた。膝に顔を埋めて非情な現実から全力で逃避する。ついでに、きっともう一人の自分からも全力で逃避しているに違いない。

エミリーちゃんが、さすさすと優しい手つきで浩介の背中を撫でている。

先頭の男が両腕を舞台俳優のように広げ、ご近所に響けと声を張り上げた。

「臆せよ、嘆けよ、絶望せよ! 我等、狂飆纏う 霹靂神(はたたがみ) の化身にして、真紅と滅白の 輪舞曲(ロンド) 、白鬼神紅の魔皇帝南雲ハジメ陛下の懐剣! 蠢動する闇狩鬼!」

どこからともなく、ドドドドドッとドラムロールのような音が響き、次の瞬間、ぶわっとスモークが吹き飛んだ。更に、いつの間にか足下に転がされていた照明の魔法具により、真下からのスポットライトが放たれる!

そして、一斉にタァアアアアンッ! 思い思いの香ばしいポーズを取って、堂々とした宣言が迸った!

「「「「「ハウリアであるッ!!!」」」」」

痛いほどの静寂が場を支配した。

ハジメが、いつの間にか耳を両手で塞いで、ソファーの上で三角座りをしている。膝に顔を埋めて非情な現実から全力逃避している。きっと、決して消えることのない心の中の厨二な自分からも、全力で逃避しているに違いない。

隣に寄り添うユエが、さすさすと優しい手つきでハジメの背を撫でている。

「はいはいはい! もういいですね! 満足しましたね! ほら、ゲート維持するのも楽じゃないんですから! とっとと入ってくださぁい!」

はぅ、あべし、ひぎぃという悲鳴と同時に、ゲートの向こうから次々にウサミミ達が投げ込まれてくる。楽器を持っている者や、うちわを持っている者、ドライアイスの入ったケースを持っている者もいることから、彼等がゲートの向こうの演出要員だったのだろう。

ドライアイスが顔面に張り付いて悲鳴を上げているウサミミ青年には一瞥もくれず、ゲートの向こうからシアが戻ってきた。拳に付着している赤い何かには、誰も言及しない。

「ハジメさん! ただいま戻り――」

「ボス! 〝 禍(まが) つ 冥府(ヘル・) の 羅刹蜃鬼(ディザスター) 〟カームライト・モルス・エクディキス・ハウリア、ただいま参上つかまつりましてございます! この度はボスの世界にお呼びいただき、我等ハウリア一同、感謝の念に堪えません! 誠に、光栄の至り!」

前と違う……と、ハジメは思ったが、自分の殻に引きこもるのに忙しいので小さくなったまま反応はしない。直ぐ傍で、美しく 傅(かしづ) く変な人を、決して見ない。

だが、そんな敬愛すべきボスの姿などなんのその。やって来たハウリア達は次々に名乗りを上げた。

「一ヶ月ぶりですっ、ボス! 〝 深淵(アビス・) 正妻(セニシエンタ) 〟ラナインフェリナ・ブライド・ハウリア、御前に!」

「〝 必滅狂乱(デス・ラプソディア) 〟バルトフェルド・ティライユール・ハウリア。ボス! 今度は是非、俺も拉致してください!」

「ちょっとバルドフェルド! 抜け駆けは禁止よ! ボス! 〝 外殺鏖華(キル・ナハトール) 〟ネアシュタットルム・アディカ・ハウリア、参上しました! それはそれとして、ラナインフェリナばっかりずるいです! どうか私を拉致してください!」

「ちびっ子達は黙ってなさい。我が主、〝 空裂(リーパー・ザ) 葬獄(・インフェルノ) 〟ミナステリア・ディアボルス・ハウリア、お側に! できればこれを機に、ずっとお側に!」

「ボス! 必ずお役に立ちますっ。この〝雷刃(略――〟)

取り敢えず、ハジメは思った。前よりパワーアップしてるぅ、と。もう、何言ってるのかすらわかんねぇよ……と。

流石のユエ達すら、いつもの苦笑いを通り越して表情が引き攣っていらっしゃる。

どうやら、ハウリア達はボスの世界に来られるとあってテンションがMAX状態……どころか、天元突破しちゃっているらしい。きっと、新しい名前を考えるのに何日も徹夜したに違いない。あと、ネーミングの意味とか根拠とかは、絶対適当に違いない。語感重視だ。

虚ろな瞳の浩介が、「へへっ、俺、この人達の族長になる予定なんだぜ? 信じられるか?」と宙を眺めながら話し出し、エミリーが「しっかりしてっ、浩介!」と縋り付いているのを見て、ハジメはどうにか精神を持ち直した。

自分より酷い状態の人が隣にいると、なんだか自分はまだまだ行けそうな気がするぅ! というやつだ。

と、そこで、

「ハウリアの皆よ! よく来たな! なの! 我こそ〝魔王の娘〟ミュウ・サウスクラウドなの!」

ソファーの上で仁王立ちになり、両手を香ばしい感じにクロス! ミュウのドヤ顔が決まる!

カームライト――ではなくカム達から「おぉ! ミュウ殿! 素晴らしい名乗りです!」と称賛やら拍手喝采やら贈られる。

レミアがふっと倒れ込そうになったのを、ティオが慌てて支えた。レミアママは、娘の未来とハウリアの現在を重ね合わせて意識が遠くなったらしい。

「あなたっ、どうかミュウを! ミュウを!」

「ああっ、分かってる、レミア!」

まるで愛娘を 拐(かどわ) かされた母親と、妻に縋られて立ち上がった旦那のような姿。

ハジメは、ドヤ顔でターンを決めるミュウを後ろから抱き上げてそのまま抱っこすると、取り敢えず、「親子で名乗りですか!?」と期待に瞳を輝かせるハウリア達をぶっ飛ばした。そして、ミュウにメッをする。

ミュウは「パパも時々あんな感じなのに……」と納得し難い表情をするが、どうにか分かってくれたようだ。その呟きに、ハジメパパの心には深い亀裂が入ったが。

それから、気を取り直したハジメは咳払いを一つ。

「あ~、なんだ。まぁ、取り敢えず、よく来たな」

「ありがとうございます、ボス。我等の拠点探しの要望を聞いていただけて、改めて感謝します」

「今回は下見だ。ほとんど観光みたいなもんだし気楽にしてくれ。シアも、家族にこっちの世界を案内できるってはりきってたしな」

その言葉を受けてカムがシアを見れば、シアはちょっと照れたような表情でウサミミをわさわさしていた。カムも、厨二病の重症患者たる様子が消えて、ほっこりしたような父親の顔を見せる。

今回、ハウリア達がやって来たのは、トータスでの地盤固めが落ち着いたために、地球でもハジメの役に立ちたいと新たな方針を立てたためだ。

そのために、地球での拠点捜しを頼んでいた(主にシアに)のだが、とにもかくにも、一度、こちらの世界を観光がてら見せてあげたいというシアの要望もあって、今回の来訪と相成ったわけである。

ちなみに、流石にハウリア族全員は無理なので、精鋭二十人の来訪である。

「父様。さっそく町にでも行きますか?」

「そうだな……。シア達が見繕ってくれたという拠点候補も気になるところだが、我々は知識でしかこちらの世界を知らんからな」

「はいです。少し空気に慣れた方がいいですよ。父様達はただでさえ頭があれですからね! こちらの雰囲気や常識をきちんと肌で感じてくださいです!」

「ああ、そうしよう。あと、〝頭があれ〟とはどういう意味だ、シア」

シアパパ、娘のナチュラルな罵倒にツッコミを入れるが華麗にスルーされる。

ハジメが苦笑いしながら口を開いた。

「そうだな。適当に町をぶらついて、そのまま外で飯でも食うか。つっても、二十人で一斉にぞろぞろ動くのはちょっとな」

「……分かれた方がいいということでしょうか、ボス」

「おう。ラナなんかは、遠藤と一緒の方がいいだろう? そのために呼んでおいたんだしな」

ラナが、ボスの気遣いに感涙しつつ浩介のもとへ飛び込み――エミリーちゃんがインターセプト!

と言っても、間に割って入って如何にも猫っぽく「フシャー!」しているだけだが。結局、一瞬で一緒くたに抱き締められてあわあわしている。

「というわけで父様。班分けを――」

してくださいと、シアが言いかけるが、その言葉は途中で呑み込まれた。言葉通り、カム達の発する剣呑極まりない雰囲気に呑み込まれて。

「ふむ。では、族長命令だ。私とボス。他は適当にしろ」

殺気!

「族長、殺しますよ?」

「むしろ、殺します」

パルくん、笑顔で首をカッ切るジェスチャー。

ネアちゃん、サングラスを装備! &両手に小太刀ステンバ~~イッ。

二人共まだ十二歳くらいだというのに、発する雰囲気は歴戦の戦士のそれだ。

「シアもラナもずるいのよ! なんで私だけ春が来ないの! せめてボスのお側に侍るくらい許されてしかるべきだわ! シアなんて怖くない! 頑張れ私!」

ミナさん、親友のラナがよく惚気るので割と精神的に追い詰められているらしい。族長を押しのけ、シアに戦いを挑んででも、ボスに侍りたいようだ。

他のハウリア達も、自分達こそボスと観光に行くんだもんね! と次々にサングラスを装着し、どこからともなく小太刀やらナイフやらを取り出し始める。

「貴様等……下克上とは良い度胸だなっ」

カムさんから殺気が溢れ出す。ボスのお側は絶対に譲らん! というウサミミなおっさんの熱い想いが溢れ出ている!

南雲家で、ハウリアによる血みどろの〝ボスのお側争奪戦〟が始まろうとしていた。

「……ん。ハジメ、モテモテ」

「パパ、モテモテなの~」

「父様達、ほんとハジメさんのこと好きですよね~。取り敢えず、ミナさんの追い詰められ具合が酷いです……早くなんとかしてあげないと」

「ご主人様よ。これ、もう集団ツアーにでもした方がよくないかのぅ?」

ユエ達がなんとも言えない表情をハジメに向ける。香織と雫は必死にカム達を諫めようとしている。浩介も、ラナに「さぁ、こうくん! 次期族長として、ここはガツンッと言ったげて!」と無茶ぶりされて、死んだ目をしながらも期待に応えようと立ち上がっている。

取り敢えず、ここは南雲家のリビングなので、ハジメは溜息を一つ。

「エガリさん、ノガリさん。やっておしまい」

ラジャー! と、いつの間にかテーブルの上に出現していたアラクネ二体が、改良された二本の脚を突き出していた。射出されるのは超小型スタン弾だ。対象にヒットした瞬間スイッチが入って雷撃する。

チュチュチュチュチュチュという微妙に可愛らしい射撃音と同時に、「アバッ!?」という無数の悲鳴が上がった。

ものの数秒で、南雲家のリビングにはウサギの屍山ができあがった……

なお、二体のアラクネさんの正体は、未だに判明していない。

「やべぇな。やっぱり、観光とか自殺行為に思えてきた。主に、俺の社会的地位の」

ハジメの引き攣り気味の声音が、小さく木霊した。

とはいえ、家族に地球を案内してあげたいウサミミ嫁がいるので、頑張るしかない。キャンセルは最初から選択肢に入っていないのだ。

ちょっと申し訳なさそうなシアに苦笑いを浮かべつつ、ハジメは気合を入れて立ち上がるのだった。

町中が、どこか騒然としていた。

駅前の大きなショッピングモールの近くということもあってか人通りは多い。その人々が、誰も彼も視線を一カ所に固定している。あんぐりと口を開いている者もいれば、ぽぅと見惚れている者、スマホをかざして写真を撮ろうとして何故かスマホがプッツンし絶望の声を上げる者等々……

「……しまった。言動ばっかり警戒していたが、こいつら兎人族なんだった」

「あはは……。コーディネートをレミアさんに頼んだのも、ある意味不味かったかもですね~」

ハジメの頭痛を堪えるような表情に、シアが苦笑いを浮かべる。

注目の原因は、当然、カム達。

ボスのお側争奪戦を鎮圧した後、結局、班は四つに分けられることになった。各班につき、案内人二人に五人のハウリアだ。それで別々の場所を回り、ハウリア達も後で情報を共有するらしい。

で、栄えある〝ボス班〟には、カム、パル、ネア、ミナ、イオの五人が選ばれた。論争になっても面倒なので、ボス命令である。ここに、案内人としてもう二人、シアとミュウが加わった形だ。

なお、他の班は、ユエ&ティオ班、浩介&エミリー班、香織&雫班である。

「ほぅほぅ。これはまた凄い。大樹のような建築物がこうもずらりと……いやはや、まさに別世界。壮観ですな!」

「ボスのブリーゼやシュタイフが一般に普及しているなんて……聞いてはいたけれど、実際に目にすると言葉を失っちゃうわね」

「ああ、向こうの世界とは何もかも違う。空気は、まぁ、ちょっとあれだが……」

カム、ミナ、イオの三人が口々にそう言って、呆気にとられたような、あるいは感嘆したような表情で周囲を見回している。

その度に、周囲から溜息にも似た感嘆の吐息が漏れ出した。

理由は一つ。カム達の美貌である。

ハジメなど、見慣れている上に本性を知っているので、もはやなんとも思わないのだが、カム達は兎人族だ。それすなわち、誰も彼もが愛玩奴隷として凄まじい人気を誇った美貌の持ち主なのである。

しかも、今は格好が現代日本で普通に溶け込めるものになっている。否、溶け込むどころか服装のセンスがいい上に、似合いすぎている。

カムは、どこのダンディーな映画俳優だとツッコミたくなるようなクラシックで渋いカジュアルスーツ姿で、中折れ帽を被っている。ステッキでも持てば、貴族の老紳士と言われても違和感はないだろう。

ミナも、全体的に落ち着いた雰囲気のパンツルックだ。丸首のインナーの上に、ロングカーディガンを羽織っているだけなのだが、シアやラナに勝るとも劣らないスタイルの持ち主であるが故に、颯爽と歩く姿は視線を奪われずにはいられない。海外のトップモデルと言われれば誰もが疑わないだろう。

イオは、スラックスにジャケットというラフな姿だが、カムに比べ背丈もあり体格もいいので、まさに美丈夫といった様子。実にスタイリッシュに見える。

そして、

「妙に注目されてますね。お嬢、ボスがいる以上心配ないと思いますが、念の為、離れないようお願いしますぜ?」

「まぁ、帝国の人間みたいな嫌な視線じゃないから大丈夫だとは思うけれどね……。大丈夫ですよ、お嬢。このネアシュタットルムが、命に代えてもお守りします」

間にミュウを挟むようにして、周囲に鋭い眼光を飛ばしているパルとネア。紛う事なき美少年と美少女である。

二人は、というかハウリアは、基本的にミュウのことを「ミュウ殿」あるいは単純に「お嬢」と呼んで敬愛を捧げている。

ボスの愛娘なので、彼等からしたらお姫様みたいなものなのだ。呼び方がヤクザチックなのはご愛敬。

凜とした雰囲気は、二人の可愛らしい容姿に胸を打つようなギャップを与える。ジーンズに白のジャケット姿であるパルも、ミニスカートにノースリーブのシャツを着てネクタイを締めたネアも、子供なのにやたらとスタイリッシュな印象がある。

ちなみに、全員、ウサミミはアーティファクトで見えないようにしている。カムの帽子は、実はウサミミ穴が開いているのだが、それも幻術の類いで見えない状態だ。

「みゅ? パルくんも、ネアちゃんも何言ってるの?」

小首を傾げるミュウは、二人とは対照的にふわりとした白のワンピースで、まさにお姫様といった印象だ。

全て、シアに頼まれたレミアによるコーデである。「いい宣伝にもなりますね!」と、全て自社製の服らしい。中々、商売根性が逞しい。

「……お嬢。自分はバルトフェルドですぜ?」

「お嬢、是非、私のことはネアシュタットルムと」

「? パルくんはパルくんだし、ネアちゃんはネアちゃんなの」

「お、お嬢~。そこはきちんと呼んでくだせぇ」

「お願いしますぅ、お嬢~」

「え~? だって、名前、長いの。めんどいの」

パルくんとネアちゃん、二人揃って「ぐはっ」と呻き声を上げながら項垂れた。

直前まで凜としていたのに、年下の女の子の言葉にしょんぼりしょぼしょぼしてしまう美少年と美少女。

周囲のお姉様方が鼻から幸福の赤いシャワーを噴き出した! 駅前が血に染まる!

ついでに、紳士達の鼻から興奮の鼻息が噴出した。誰か、お巡りさんをお願いします! 彼の命を守るためにも!

周囲の喧噪を極力視界から追い出しながら、ハジメは信号を渡った先にある大型ショッピングモールを見上げた。

カム達に、まずこちらの世界の人々の通常の生活や市場を知ってもらおうとやって来たわけだが、今は、ショッピングモールが絶叫マシンひしめくアトラクション施設にしか見えない。

明日は転移で自然豊かな観光名所を回る予定なのだが、早くもそれが待ち遠しい気分だ。

「え~と、ハジメさん! たぶん大丈夫ですよ!」

「うん、そだね」

元はと言えば、自分が彼等を魔改造したのが原因。自業自得、因果応報。

何より、シアの家族に楽しんで貰うのがホストたる己の役目。

いいさ、やってやるさ。登場シーンからして心にダメージを受けたが、俺はこの程度じゃ倒れない!

ほら、気合を入れた途端、信号が青になった。まるで、信号機さんが「大丈夫よ?」と言ってくれているようじゃないか。「貴方の未来は青信号よ♪」ってな!

さぁ、行くぞ。大丈夫、早々問題なんて起こらな――

「あの~、ちょぉ~とよろしいですか? 私、○○テレビの者なんですが、街頭インタビューさせていただいてもよろしいですか?」

ハジメの頭上に「!?」が飛び出る。

「ふむ? 私ですかな、美しいお嬢さん」

「や、やだ、美しいだなんて……」

ハジメが振り返ると、そこには街頭インタビューするテレビスタッフと、にこやかに向き合っているカム達の姿があった。

美男美女軍団は、やはり目立つらしい。

ダンディーでおしゃれな老紳士に、ちょっと舞い上がってるっぽい女性インタビュアーが、頬を染めながら名前を聞いている。モデルの集団なのか、あるいは俳優集団なのか、職業も合わせて聞いている。

ハジメが慌てて、インターセプトしようとするが……

「お、おい、カム。そういうのは――」

「ふっ。我等に名乗りを上げろと? よろしい。ならば、しかとウサミミにせよ!」

ニィッと笑った老紳士! 魔王さんの血の気が引く。お茶の間に、〝あれ〟が流れてしまう!

「我こそ――」

「させるかぁっ」

ボスの右ブロー!

「ガハッ!? ボ、ボス? 今、いいところでしたのに! 一体何を!?」

脇腹を押さえて片膝を突き、脂汗を流すカム。

一拍おいて、女性キャスターが「キャーーッ! 暴漢よぉ!」と悲鳴を上げる。

それを無視して、ハジメはにこやかにハウリア達へ告げた。

「いいか、お前等。今後、俺の許可なく名乗りを上げることを禁じる。言って良いのは、本来の名前だけだ。いいか? 三文字以上名乗ってみろ。お前等ご自慢のウサミミを永久脱毛してやる」

「イ、イエス、ボス! 我等、三文字以上名乗りません!」

直立不動になって、美しい敬礼を見せるカム。他のハウリア達も一斉に青ざめた様子で、惚れ惚れするような敬礼を見せた。

一糸乱れぬその動きは、周囲の人間に否応なく伝える。

すなわち、誰が彼等のボスなのか、ということを。

シアが、片手で額を押さえながら呟いた。

「……ハジメさん。気持ちは分かりますし、咄嗟に体が動いちゃったのも分かります。けど、今も十分、あれな感じだと思いますよ?」

ハジメさん、ハッとする。カメラはしっかりと、ボスと部下達の姿を映していた。誰もが目を奪われるような外国の美男美女軍団を、骨の髄まで従える日本人青年の姿を……。

「あの~、お兄さんにもお話を聞いても?」

女性インタビュアーが、恐る恐るといった様子でマイクを向けてくる。

「ボス! 是非とも我等に、このような場合の対処法をご教授ください!」

「おなっしゃす! このバルト――ごほんっ。パル、必ず一発でものにしてみせます!」

気勢を上げるカム達。興味津々のテレビクルー達。

ハジメは天を仰いだ。

そして、思うのだった。

これ、生放送じゃありませんように、と。

そして、お昼はショッピングモールの中じゃなく、園部家の店にしようそうしよう、と。