軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おうけい

視界が開けてくる。

薄暗い。粗末な部屋だ。

俺がクゼーラ王国の旧騎士団に捕縛されていた時のような、牢獄の部屋に似ている。

地上から遠いため空気も薄い。

ベッドの上にのそりと小さな物体がある。エルフだ。

人にすれば十代半ばほどの大きさをしている。

ベッドからは鎖が繋がれている。

「……間違いないな」

こんな状況、人質とやらで確かだろう。

俺の独り言が聞こえたのか、ピクリとベッドにいた少女が起き上がる。

視界に俺が入り、目を見開いて口を開けようとする――が、俺は人差し指を自分の口元に持ってきて「シー」と黙させた。

手を地面に当てる。

盗聴系のマジックアイテムや、転移型のトラップが組み込まれた魔法陣に魔力を向ける。

部屋中が水晶なんかのマジックアイテムや五芒星の魔法陣の光に満ち、パリンといった音が響いて消える。

「これで大丈夫だ。おまえはエルフ姫シルレの妹か?」

「……あなたは?」

シルレと同じ銀髪に、碧眼をしている。衰弱しきっているのか身体全体が細く、頬がこけている。

戦意のない警戒心をむき出しにしながら問い返された。

「俺はジードだ。訳あってシルレの妹を助けたい」

「私はラナです。ラナ・アールア……」

「妹で間違いないな?」

「はい。あの」

気弱そうにエルフ特有の長い耳を垂らし、首を傾げて尋ねてきた。

「なんだ?」

「あなたとお姉ちゃんはどんな関係なんですか?」

「どんな……って」

依頼主? ではないか。それは賢老会に当たる。

なら、どんな関係なのだろう。

「赤の他人だな」

「……赤の他人なのに私を助けるんですか?」

戦意のない警戒をされている。

無理もないか。

「ああ、そうすることで俺も助かるからな。ほら」

手を差し伸べる。

ラナは小さく静かに頷いて手を取った。

「少し明るくなるから目を閉じておけ」

「わ、分かりました」

「じゃあ、シルレのところに行くぞ――転移」

また明転。

シルレの魔力は覚えてある。

その場所も把握済みだ。

明転が終える。

豪華な家の前に立った。

さすがに中に入ると色々とうるさいだろうから玄関からだ。

といっても既にラナを奪還する際に不法侵入をかましているわけだが……。

「……――!」

ラナが瞳に涙を浮かべる。

「どうした?」

「……いえ、すみません。自宅を見るのは二十年ぶりなので……」

「………………おう、そうか」

若い見た目をしているが、一体何歳なんだろう。

というか、それだけの歳月も捕らえられていたのか。

なかなかタフなメンタルをしているようだ。

それからラナが家の呼び鈴を鳴らす。中からシルレの返事が聞こえた。すぐ来るそうだ。

「ん、使用人とかいないのか」

「ええ。どうしてです?」

「『姫』って付いているからさ」

「ああ、人族とは違いますね。エルフの姫は神樹が選ぶんです。だから私なんかはお姉ちゃんの妹ですが高貴な血は流れていません」

「へぇ……」

情報不足、というか。調べ足りなかったようだ。

扉が開き、中からシルレが出てくる。

パッと俺の方を見るが、同様にラナの方を一瞥して息を呑みこんだ。

「……!」

手を口元に当てて目を見開き、がくっと膝を地面に落とす。

先に言葉を紡いだのはラナからだった。

「シルレお姉ちゃん……!」

「ラ……ナ?」

「お姉ちゃん……!」

シルレが膝を使って前に出て、ラナも応じるように前に出る。

互いに抱き合って涙をこぼしていた。

それから俺はエルフ姫の家に通された。

たしかに王族然とした感じではなく、俺達パーティーが住んでいるような貸家に似た雰囲気のものだった。

ラナは、シルレが呼んだエルフに介抱を受けている。

俺はシルレに応接室のような部屋に案内された。

「改めて、ラナを取り戻してくれて、ありがとうございます」

シルレが深々と頭を下げる。

それはなによりも感謝をしている証だった。

だが、俺が気になったのはそこよりも『取り戻してくれて』というところ。

「やはり賢老会がラナを誘拐していたことには気づいていたのか」

「もちろんです。表立って攫ったとは言いませんでしたが、ラナを暗に盾にして政は彼らの自由にさせられました。私も傀儡としてエルフの民に言葉を投げかけ、時に命じました。……外部の追い出しも」

暗い表情だ。

ラナが戻ってきたからと黙っていたことを口にしている。

だが、それらは既に承知の上だ。

「これでシルレも自由に動けるな?」

「ええ。もう二度と同じようなヘマはしません。あの時はエルフ姫になった途端のことで油断しましたが」

「よかった。なら聞くが、おまえはギルドのことをどう思っている? いや、外部の組織についてはどう思っている?」

「賢老会のように『悪』とまでは断言しません。ただ……」

「ただ?」

「『外部の組織』は利益を重んじ、経済的に侵略されそうになったのは事実です。私達の勉強不足とはいえ、賢老会が居なくてはエルフは食い物にされていたでしょう」

嫌味でも皮肉でもなく、ただシルレはそう言った。

過去に何があったかなんて俺の知る由ではないが、未だに話にも出てくるほどだ。よほどダメージを受けたのは事実なんだろう。

「つまりギルドも受け入れ難いか?」

「ええ、はっきりと申し上げれば、受け入れる体制にはありません」

「……そうか」

まぁ、ラナを助けたからと言って、こちらを支援したりバックについてくれる訳ではない。そこのところは分かっていた。

少なくとも賢老会の傀儡となって表立って敵になられるよりはマシだってだけだ。

「ただ助言はします」

その目は真面目一辺倒のもので。

怒らせるものではないとだけ分かった。

「――あなた達はエルフから去るべきです」

「それはどうして?」

「賢老会から依頼を出されたのですよね」

「ああ、オッドってやつからだな。樹液の分配の護衛を任されている」

シルレが目を伏せながら、

「かつてエルフから撤退した組織も賢老会絡みが多かったのです。……そちらのギルドから派遣されたSランクのパーティーも同様に依頼の失敗を仕組まれていました」

ああ、そこに繋がるわけか。

前例があると俺達のことも信じられないわけだ。

「ちなみに、どういう風に失敗を仕組まれていたんだ?」

「申し訳ありませんが、そこまでは。……私はエルフの民に対する説得力として言論を強制させられていただけですので」

シルレが悔しそうに唇を噛みしめる。

「まぁ、別に構わんさ。前に来た奴らが失敗したからと言って、俺は必ず成功させる。そのために依頼を引き受けた」

「ですがっ、賢老会は決してしくじりません! 中には命を奪われた人もいました!」

気持ちを昂らせながらシルレが言う。

賢老会側として見てきた彼女だから分かるなのだろう。

「じゃあ諦めろって言うのか?」

「そうは言いません。しばらく時をください。私が賢老会を抑えます。そして外交、貿易などの技術、交渉術をエルフ全体に浸透させ、あなた達を迎え入れます。だから、それまで待っていてください!」

決心に満ち溢れた瞳だ。

その言葉に嘘はない。

しかし。

「悪いが俺は『今』依頼を引き受けたんだ。おめおめと逃げては信用して俺達を送り出したギルドマスターに申し訳が立たない」

「……そんな」

「それに、うちのルックが用意していた。外交に関する指南書やらを。もしもこの依頼が成功すれば、ギルドから贈られるんじゃないか」

「本当ですか!? それがあればエルフは今にでも貿易を再開できますっ!」

シルレが驚きに顔を染める。

まぁ、彼女らにとっては喉から手が出るほどに欲しい資料だろう。

「ああ。だから今しばらく待っていてくれ。俺達は絶対に失敗しない」

「……分かりました。信じます。どうせ私も賢老会に反発するのですから、やるならとことんやりましょう」

これでエルフ姫はこちら側になった。