軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

始まりの

エルフ姫。

銀髪に緑目を持ち、姫という名前すら飾りにできる美しい妖精のような端正な顔をしている。それでいて蠱惑的な身体つきをしている。

「おやおや、これはもしかしてギルドの方々でしょうか。依頼をお受けになさった冒険者の」

エルフ姫の隣に居たローブを被った老人が声をかけてくる。

今回の依頼はギルドが俺達を呼んだもの。指名依頼ではない。

だから彼は俺達のことを知らないのだろう。

「お久しぶりです、オッド様。こちらはジード様、フィル様、ユイ様。ギルドが厚く信頼を寄せている冒険者の方々です」

「これはご丁寧に。私は賢老会のメンバーをしているオッドと申します。この度は依頼をお引き受けいただき、誠にありがとうございます」

表面的な態度は社交的だ。

だが、どこか機械的で周到な立ち居振る舞いをしている。

あらかじめ賢老会の風評を聞いていたからだろうか。どうにも良いイメージを持てない。

「こちらはエルフの姫であらされる、シルレ・アールア様でございます」

オッドの傍らに威風堂々と構えていた美女が紹介される。

シルレは不機嫌そうにこちらを見て、

「依頼なんて放棄して人の里に帰りなさい。どうせ無駄よ」

そう言い放った。

不思議と、彼女からは達観の感情を覚えた。

ルックが前のめり気味に反発する表情を向ける。

「失礼ながら、シルレ様。彼らは今回の依頼を必ず達成できるほどの――」

「たしか前回のパーティーでも似たようなことを言っていたわね」

「それは……!」

さらにルックが弁解しようとするが、シルレは俺達を一瞥して通り過ぎて行く。オッドも後に続く。

ニヤリ、と俺達の方を不気味に笑んで。

「かなり軽視されてるようだな」

「すみません。どうにも前回の失敗などが影響しているようで、信用を得られていません。皆様には不快な思いをさせてしまいまして申し訳ありません……」

ルックが深々と頭を下げる。

隣に居るエルフの守衛も気まずそうな顔をしている。

「昔はシルレ様もあんな風じゃなかったんだがな。妹のラナ様が姿をくらませてから、かなり荒れているようなんだ。すまないな」

色々と事情があるようだ。

単純に外の人間だからと疎まれているのかと思ったが。

「まぁ、俺としては依頼だからな。どちらにせよ仕事なら全力でやるよ」

「……」こくり

「そうだな。……ソリア様がいないとやる気が出てこないが」

「そこはしっかりやれよ」

相も変わらずソリア好きなことだ。

それから俺達は神樹に近づいていく。

神樹は近くで見ると、もはや何だか分からないほど巨大だ。見上げては天辺が見えないし、横を見ても果てまで続いているような錯覚すら覚える。

枝からは緑色の皮をかぶった、先端部分が黄金色の実が生えている。

さらに竜の鱗よりも太い幹があり、間からは黄金色の濃厚な魔力の詰まった樹液をこぼしていた。

それらはエルフ達が用意していた樽に注いでいる。

「これが依頼されていた護衛する樹液か」

「ええ、これを魔物やエルフに分配します。大体4、5年に一度行うのですが、必ずと言っていいほど暴れる魔物が出てきます。……最近はより過激になっているようですし」

「へぇ」

近くには樽が結構な数ほど積まれている。

しかも、開花と言われる現象が起こる。今でさえこれなのだから、おそらく数はもっと増えるのだろう。

護衛対象は多そうだし、例えエルフの上層が仕掛けてくるであろう妨害工作がなくとも難しそうな依頼だ。

「すこし飲んでみたいですね」

フィルが口元を綻ばせながら言う。

たしかに香ばしい美味しそうな匂いが漂っている。

樹液から発せられている。

「今は厳しいですが、分配が完了すればエルフの里で祭りが行われます。その時に飲めますよ」

「へぇ、そりゃ楽しみだ」

依頼が終わったら貰うとしよう。

……ぴくり

と、地面が軽く動いたような気配を覚えた。

――もしかすると、これは。

いや、きっとそうなのだろう。見たことはない。聞いたこともない。だが、この神樹は――。

それから俺達は神樹の下から離れ、貸家に戻ることにした。

夜も深くなった。

髪をタオルで乾かしながら風呂場を出て、共有空間のリビングルームに戻る。

するとフィルとユイが取っ組み合いをしているのが見えた。

「ジード、ようやく出たか。まったく苦労したぞ」

ぜぇぜぇと疲弊した様子でフィルが言う。

彼女はユイを羽交い絞めにしていた。

「なにやってんだ?」

「ユイが風呂場に行こうとしていたので止めたのだ。まったく、なにを考えているのやら……わっ! おまえの身体柔らかすぎないか!?」

フィルが力で強引に抑えていたようだが、あっさりとユイがすり抜けた。

のっぺりとした顔をしながらユイが口を開く。

「主の身体を洗うのは当然」

「な、なんだ主って? おまえ達そういう関係だったのか!?」

「……どういうことか俺にもさっぱりだ」

「ルイナ様の夫。いこーる私の主」

信じられないものを見るような目でフィルが俺を直視する。

心が痛い。

「勘弁してくれ。夫じゃないし、おまえの主になるつもりはない。何度も言うがウェイラ帝国に行く気はない」

「…………」

「せめて何か言ってくれ。怖すぎる」

マズいな。このことは想定していなかった。

ユイは何度も俺のことを襲おうとしている前科がある。

個人的には嬉しいが、仮に手を出してしまえばルイナが社会的に責めてくるだろうし、シーラが尋常じゃない嗅覚で悟ってくるだろう。

……俺にはまだ覚悟ができていない。

「ふっふっふ。ジード、私の職業を忘れたか?」

フィルが不敵に笑う。

なんだこいつ。

「ソリア大好きっていう職業」

「そんな仕事ないわ! あったらトップを取れるが残念ながらない! ………………作るか?」

「俺から言っておいてなんだが、正気か……?」

「正気だ。しかし、問題はどうやって利益を生み出すか。サクラとしてなら雇われることもできるか……?」

やばい。

変なスイッチを押してしまった。

フィルはぶつぶつと何やら呟いている。

「俺が悪かったから戻って来い。本題に戻ってくれ」

「ぬぅ、そうだったな。改めて問おう。私の職業が何か思い出してみろ」

「冒険者と、剣聖?」

「剣聖は二つ名に過ぎん。本職は騎士だ!」

腕を組んで仁王立ちをかますフィル。

彼女が言わんとしていることを確認する。

「ということは?」

「騎士とは護衛のプロでもある。特に私はソリア様の最側近! 守るのには慣れている。だから、このエルフの里にいる間は私に任せておけ。おまえの身の安全は私が保証してやろう!」

「おお……。輝かしいぞ、今のおまえ……!」

フィルの背から後光が差してやがる……!

俺が風呂に入っている時もずっとユイを止めていてくれたようだし、随分と助けてくれていた。

……まぁだが。

怖いから探知魔法をずっと展開していよう。

考えて魔力を広げる。

「……ん、なんだこれ」

すると変な場面を感知した。

ギルド支部で資料整理をしている様子の魔力反応がある。これはルックだろう。

しかし、妙だな。

ギルド支部を囲うように数名が気配を消しながら近づいて来ている。客人……か?

「どうした?」

「?」

フィルとユイが俺を見る。

「ギルド支部に変な気配があってな」

「向かうか?」

「いや、客かもしれん」

「……こんな時間にか?」

訝し気にフィルが言う。

それは言外にあり得ないだろうと伝えていた。

「それもそうだな。転移で支部の前まで行く。手を握ってくれ」

両手を差し出す。それぞれの手をフィルとユイが取る。

明転。

同時に悲鳴が一帯に響いた。

「うわああああ! な、なんだ、おまえら!」

支部の中から。

ルックの声だ。