軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都の一等地にある赤い屋根の家。

扉をノックして中の住人を呼ぶ。

「はーい」

中から声が返ってくる。

扉が開かれるとクエナがこちらを見る。

ルイナとキスした件が伝わっているかもしれないと、一抹の不安が過る。

だが予想に反してクエナは笑顔で迎えてくれた。

「おかえり。もうシーラが料理作ったわよ」

「お……おう。怪我は大丈夫なのか? 今日は挨拶程度で済ませようと思ったんだが」

「なに言ってんの。あれくらいでダウンしてるようじゃ、あんたの特訓なんかに付き合えるわけないでしょ」

どうやらルイナの情報はクエナの耳に届いていないようだ。予想外の応対に少しだけ困惑しながらも、クエナに案内されて家に入る。

中からは食欲そそる香りが漂っている。

清潔な玄関と廊下を通り、食卓のあるリビングに着く。

席は四つ用意されているが皿は三枚だ。汁物が先に出されている。

先にシーラが座っていてニコニコとこちらを見ている。

「お疲れさま。ほら、食べよ?」

「おう。美味しそうだな」

クエナも予め決まっていたように自分の席に着く。

定位置くらいは誰にでもあるものだ。

俺も自然と空いた席に座る。

皿には白色のスープがある。

傍らにはホカホカのパンも置いてある。

ただ気になるのはクエナやシーラのスープだけ薄茶色のキノコスープということ。

「なんか俺のだけ違くない?」

「……じ、時間置いたからじゃないかな?」

シーラが目を泳がせながらピューと口笛を吹いている。

どうにも俺と視線を合わせない。

「あんたウソ下手くそね……スティルビール王国でのジードみたいよ」

「な、なんのことカナ? ジードくんずっと宿に居たヨ……!」

「そ、そこまで大根役者じゃないわよ!」

「俺そんなに下手だった!?」

「両方ともウソだって自分からバラしてるじゃないの……ちょっとマジメに心配になってくる」

クエナが額を抑える。

しかし……

「俺のスープになに入ってんだよ?」

「うっ、それは……」

シーラが言葉に詰まる。

教えたくないようだ。

隣に座るクエナに問うよう視線を向ける。

「さぁー。あんたがルイナとキスしたって聞いてからメニューを変えたみたいよ?」

「えっ。知ってたの?」

「当たり前じゃない。謎の仮面がウェイラ帝国を撃退して、あまつさえ女帝からキスを受けて帝王の地位を約束された。これほど熱狂的な話題は稀ね」

「……おうっふ。やっぱりおまえの情報網はすごいな」

「Aランクならこれくらい当たり前よ。いくつもの情報筋は持っているもの」

クエナが平然と言ってのける。

え、俺そんな情報筋とか無いんだが。

「むぅぅぅぅぅぅぅ! 私だってジードとキスしたことないのに! いいからスープ飲んで!」

「わ、分かったよ」

シーラにせがまれてスプーンを取り、スープをすくう。

感触や匂いは美味しそう。

まぁ……せっかく作ってくれたんだ。無駄にはしない。

スプーンを口元まで運んで飲む。

「ちょっと、私も中になにが入ってるのか知らないんだけど。なにが入ってるのよ? まさか毒とかじゃないでしょうね」

「そんなわけないじゃない! ……ちょっと考えたけど。それだったら私のスープも白色よ」

「か、考えたの!? あんたのことヤバイなぁとは思ってたけど重症なんてもんじゃないわよ!? しかも、それ無理心中じゃない!」

不穏当な会話が耳に入る。

味は美味しいのに怖い。

だが、

「うん。美味しいな」

「だ、大丈夫なの? 私はスープ飲みたくなくなったんだけど……」

クエナが不安そうに俺を見た。シーラとスープから距離を開けている。ドン引きしているようだ。

しかし、そんな彼女に反して俺は平気だった。

「身体は異常なしだ。むしろ、もっと食べたいくらいだな」

パンも一緒に食べながら、スープを飲む。

戦闘からの空腹もあり、俺の皿はすぐに空となってしまった。

「むふふー、どう? やはり露店よりも私の料理の方が美味しいでしょ!」

シーラが満足そうに、自信満々に頷く。

渋々とクエナもスープを飲み始めた。すぐに顔は緩んで美味しそうに食べている。

「ああ、本当ね。美味しい」

「そもそもクエナ側にはなにも入れてないんだから警戒しなくてもいいのに」

「……そんなことをあっさりと言ってのけるシーラが怖くて仕方ないのよ。はっきり言って異常者の一歩手前よ……」

「ちゃんと自制は掛けてるわよ。ジードには除くけど」

「除かないで欲しいんだが」

言いながらシーラが立ち上がった。

そして俺の隣に立ち、膝を曲げて俺の視界と合わせる。

長い睫毛が触れ合う距離にまで顔を近づけてきた。

「むふふ。ジードは私を好きで堪らなくなる! ジードは私を好きで堪らなくなるっ!」

「……なにしてるの?」

「へっへっへ。ネタバレをすると、ジードのスープには催眠効果のある草を入れたの!」

「それ効果あるの? 大抵は胡散臭いデタラメばかりだけど」

「それが邪剣さんの時代からある薬草らしくて効果は抜群らしいのよ! ここぞって時のために取ってきてたの! 隠された秘境にあったから大変だったんだけどねっ」

「って、ことは邪剣の入れ知恵ね……」

「そういうこと。差し詰めおばあちゃんの知恵袋ね!」

『ちょっと。誰がおばあちゃんだって?』

そんな会話が聞こえる中で。

シーラが火照った顔で俺を見つめなおす。

「さぁ、ジードは堪え切れなくなって私を襲うっ。襲うーっ!」

元気いっぱいにシーラが言う。

しかし。

「……」

「…………」

「……」

「……――いや、別になんの効果もないぞ?」

『そんなバカな! 魔王でさえ効果のあったと言い伝えのある催眠草なのに!』

雰囲気や纏っている魔力が変わって、邪剣が乗り移ったシーラが驚きながら言う。

ただ俺やクエナはなんとなく分かっていたことだ。

「俺の身体は毒や異常を起こす物なんか、ある程度は消化できるからな」

「予想済みの展開ね。ジードという野生児を舐めたわね」

「そんなぁー……私の計画がパーだよぅ……」

「そもそも私の家でナニしようとしてたのよ……」

クエナが迷惑そうにしかめっ面で言う。

しかし、シーラも意見があるようで整った眉を吊り上げた。

「クエナはいいの!? お姉さんに先を越されたんだよ!」

「さ、先を越されたって……!」

「いいの!?」

「私は……ジードと肩を並べられれば……!」

クエナが顔を羞恥で染めながら俺を見た。

続いてシーラも俺の方を向く。

「ジ、ジードは私やクエナのこと、どう思って……――!」

「失礼」

シーラの言葉を覆って、短い黒髪が重力に沿って、ぶら下がっているユイが天井から声をかけてきた。

軍服に抑圧されながらも自己主張の激しい胸も髪と同様に重力に従っている。

「ひぅっ! ユ、ユイさん! なんの用よ!」

シーラがビビりながらも威嚇する。

だが、ユイは全く関せず俺の背後に降り立った。

「ジード。依頼」

「ああ、エルフのやつな。おまえも傷大丈夫なのかよ? 合流は先かと思っていたが」

「ん。魔力は微妙」

「それ以外は治ったってことだな。もうちょっと喋れよ……」

エルフ支部の依頼を一緒に受けるべく来たのだろう。

不法侵入だが意にも介してない。さすがのマイペースぶりだ。

「むむむ……。スティルビーツでの続きをここでする!? クエナ! 戦闘準備!」

「だから私の家でなにするつもりなのよ!?」

「ジード。はやく」

「むきー! 無視するとは言語道断! お覚悟―!」

「あー、もう! ここ私の家だってば!」

「邪魔」

三人による戦いがまた始まる。

とりあえず俺はキッチンに寄ってスープのおかわりを貰っておいた。美味しい。