軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あーっ

「まぁ、見逃してはくれないか」

「当たり前だろ。ギルドを潰すって言ったんだ。見逃す理由がどこにある?」

立場が一転する。

ルイナがジードに向き直る。

「ギルドはただの仲介組織のはずだ。そこまで肩入れしてどうする?」

「ああ、そうだな。黙って見ていた方が賢いんだろう。だが、ギルドは俺を救ってくれた組織でもある。義理立てするのは不思議じゃない」

「おまえの情報は入ってきている。旧騎士団の労働環境が酷く、ギルドに拾われたと。だが、それがどうした? 奪える人材を奪う。それだけのことだ。ギルドもおまえを救ったのではない。利用するために拾っただけだ」

生き残りたいがために言っているのではない。

それはルイナの本心だ。

だから以前から彼女はジードを勧誘していた。

優秀な人材のスカウトは組織として正しい行いだ。

「ああ、分かっているよ。それが真実なんだろう。……でもな、それまで俺は一度も人に恩情ってものを感じたことがなかったんだよ」

「……恩情を?」

「魔物に追われて死にかけて、騎士団にこき使われて壊れかけて……俺はなんのために生きているんだって思った時期もあった。ギルドが初めてだったんだ、俺を人として扱ってくれたのは。だから俺の一方的な想いだとしても返したいんだよ」

それもジードの本心だった。

人として、それは正しい行いであるとも言える。

ジードの真っ直ぐな言葉にルイナが笑みを浮かべた。

「ふっ。つくづく思うよ。……おまえを一番最初に見つけたのが私であったら、と」

ルイナがジードに歩み寄る。

その姿に敵意はない。

いよいよ互いに触れられる距離にまで近づき、ルイナがジードの仮面を下半分だけ覗かせた。

不意にルイナが顔を近寄せて――唇を合わせた。キスだ。

「!!!!???」

『!!!!!!????』

ジードと、その光景を見ていた一帯の人々が息を呑む。

突然のルイナの行動に誰しもが驚きを隠せなかった。

風が大地を撫でる音しか耳に届かない。それほどの静寂が辺りを包む。

人との触れ合いに疎いジードからすれば永遠に感じられる時間。それはルイナが唇を離したことにより動き出した。

「――今回の裏切り者で空いた席は幾つもある。だが、おまえにはそれらを合わせても足りない。だから帝王の座を用意しよう」

「……帝王?」

ジードは未だに動揺で頭が回らない。

だが、とりあえずルイナの言葉を飲み込んでオウム返しする。

「ああ、帝国を統べる王だ。当然、隣は私のものだが望むならいくらでも妾を作ってもいい。ギルドから離れて私の下に来い」

「……」

仮面を付けているジードの表情は誰にも読めない。

無言が場を占める。

「ふふ、すぐに決めろとは言わん。また改めて返事を聞こう」

ルイナが言いながら踵を返す。

しかし、そんな簡単にはぐらかされるほどジードも愚かではない。

「まっ、待て。ギルドは――」

「――ああ、前言撤回だ。ギルドも潰しはしない。だからここは見逃せ。ジードも未来の嫁と国を潰したくはないだろう?」

ルイナが不敵に笑う。

その策士っぷりにジードも反応に困った。というより、未だにキスの衝撃に立ち直れていなかった。

やってやられて、やり返されて。

ウェイラ帝国からすればスティルビーツ戦の撤退と、ユイの箔も付けず終い。さらに言えばルイナの帝王を約定する宣言。

事実上の大敗だ。

それから、ボロボロの帝国軍は不動のジードに警戒しながらも撤退を開始した。

――この日、伝説が生まれた。

人族屈指の戦闘力を持つウェイラ帝国。その大軍をたった一人で押し退けた怪物の話は、瞬く間に大陸中に広まることになる。

「おい、あんた! 仮面の!」

戦場で呆然としていた俺に声がかけられる。

ふと振り返ると見覚えのある顔がいた。

「……スリッパか。久しぶりだな」

「なんで履物の名前が出るんですか! 覚えられてないってレベルを通り越しちゃってますって!」

「おまえ、そんなキャラだったか?」

「ジードの兄貴には敬意を表してますんで……! 口調も改めて敬語にさせていただきます!」

「そうか、スリッパ」

「いやだからスリッパじゃないですって! ウィーグですよ、ウィーグ。っていうか、やっぱりジードの兄貴じゃないですか!」

「いや……俺はジードじゃないから」

諦め半分で否定する。

まず間違いなく確信の域に達するまでバレていると思うが。

「あっ、そうでしたね。ユイさんとは同じパーティーなんで公にはできないですよね」

ウィーグが申し訳なさそうに言う。

随分と気が回るな。

しかし、認めるわけにはいかないので頷きも肯定もしない。

「しかし、どうして来てくれたんですか? こんな圧倒的な不利な状況で……いや、ジードの兄貴がいれば一気に戦力差が変わりましたけど」

「……ん。理由なんてない」

本当は人助けの依頼だが、色々と突かれてボロを出しても嫌なのではぐらかす。

しかし、ウィーグは積極的に絡んでくる。

「またまたぁ。国を救ってくださったんですから報酬はなんなりと! 国の宝物庫は空になっちゃいましたが……必ず払いますから!」

「いや、本当に大丈夫だから」

どうやらウィーグは俺が正体を隠してスティルビーツ王国の救援に来たと勘違いしているようだ。

さっさと帰ることが最優先だ。長居して更に正体が発覚するような状況だけは避けたい。

いや、もうかなりの人から察せられていたようだが。俺の演技はそこまで下手だったろうか……。

「あ、物じゃないんですね! ならなんですか? 資源が発掘できる土地とかですか? は……! それとも僕の妹のアイシア……!? い、いくらジードさんでもダメですよ!」

「なにを勘違いしているんだ、おまえは」

「たしかに城でジードさんの圧倒的な御姿を見ている時は乙女のように『素敵……』とか呟いてましたが兄である僕がそれは許しませんからね⁉︎」

「違うってば。……もう帰るぞ」

「い、妹じゃないとすれば………………僕!? ば、バカな! でもそうとしか考えられない! 同性結婚をして王座につき文化に寛容で自由な国を目指そうとでもいうんですかーーーー!!!!」

妄想癖が激しいウィーグを置いておく。

転移、と口にして視界が明転した。