軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

きざし

「はぁ……はぁ……!」

「ふぅ……はぁ……」

クエナとユイ。

両方の息が乱れている。

どちらも疲弊しきった様子だ。

シーラも満身創痍で戦える状態ではない。

「『むぅ……!』」

「はは、これでも倒せないか。正真正銘の化け物ね」

三人は自分の技術に自信を持つ。

だからこそ認め合える。ここまで戦い合えたことに。

そして、クエナやシーラにとっては雲の上の存在とも呼べる怪童にここまで斬り結べたことは喜ばしいものだった。

だが、反してユイは――。

「強い。けど負けられない。私は負けられな――……!」

「いいや、もう十分よ」

「っ!?」

ユイの背後から声が掛かる。

それはルイナだった。

女帝自ら戦場に立った。周囲には第一軍のフォンヴも立っていた。

「わ、私はまだやれます……!」

「責めているわけじゃない、あなたの実力は理解している。今回はスティルビーツに勝つだけで実績になるから、ここまで存在感を出せれば十分よ」

「……!」

ルイナの言葉にユイも引き下がる。

しかし、ユイとしては不満があった。彼女はもっとやれると思っていたからだ。それこそ外壁すらも壊して制圧するほどに――。

それはユイ率いる0軍で可能なことだった。

「――そんな不貞腐れた顔をするな。今回はイレギュラーがあっただけだ。次回以降に期待しているよ」

「……はい」

『不貞腐れた顔』とは言ってもユイの顔に大した変化はない。

無表情そのものだ。

だが、そんな顔の機微にさえ気づける。そんな技術の一つも大国を統べる女帝ルイナの力だった。

そんなルイナが、クエナとシーラを見た。

「強いな」

簡素な一言だ。

クエナがビクリと身を震わせる。意表を突かれて目を見開く。

姉からの褒め言葉を生まれて初めて聞いたからだ。いつか必ず、絶対に耳にしてやると息巻いていた言葉だ。

それは戦場で唐突に発せられ、思わぬ反応をしてしまった。

褒められたら凄然としてやろう、とか、なにか今まで過小評価された分だけバカにしてやろうとか、そんなことを考えていたが、いきなりのことでクエナも反応が間に合わなかった。

「成長した……うん、本当に成長したね。あの時は全然見込みがないなんて言われていたみたいだけど、やっぱりクエナは強い。信じていたよ」

「……っ!」

ただ褒めるだけじゃない。

クエナが抱いていた劣等感を突きながら揺らすように褒める。

時間にして数秒。たったそれだけでクエナの心がルイナに溶ける。

それは見返したいと思っていた時間の分だけ濃厚に。

「――戻ってきなさい、ウェイラ帝国に。私の妹として一緒に帝国を強くしましょう」

(……――ああ、もうだめだ)

クエナの頬に涙が伝う。

耐えていた涙腺が決壊した。今までの努力が報われた。

只管に心情が喜びに変わっていく。

でも、どこか。

心の奥底で喜びに変わらない感情があった。

それがなにか――。

「金髪の子もウェイラ帝国に来なさい。うんっと良い待遇で迎えてあげよう」

「『遠慮するわ。クエナにとってはどうか知らないけど、私はジードがいるギルドがいいから』」

「ジード?」

思わぬ名前にルイナが片方の眉を眉間に寄らせる。

クエナもジードの名を聞いて、喜びに変わらぬ感情が動いた。

「ああ……」とクエナが微笑む。

その感情の正体が分かった。

「私も……まだ認められたい人がいるの。ジードってやつなんだけどね。そいつからは同情なんかじゃない、正式なパーティーのメンバーとして認められたい。だからそのお誘いはお断りするわ」

「――おいおいおい、てめぇら断っても良いのかよ?」

ルイナの傍らにいたフォンヴが指を鳴らしながらニヤける。

明らかな戦闘態勢だった。

「『クエナ……!』」

「ええ。そろそろ撤退を――ッ!」

これ以上の戦闘は極力避ける。

そういう意味で二人が逃げを選ぶ。

しかし、フォンヴが迫った。

「――逃がすと思ってんのか」

足蹴り。

ただそれだけ。

だが、剣で受け止めたシーラが腕で嫌な音を立てる。

地面から身体が離れて吹き飛びそうになるが背後に厚い土壁ができて余計にダメージが増える。

作ったものは当然フォンヴだ。それだけの余裕がある者はこの場において彼しかいない。

「シーラっ!」

「はは! 抵抗してみろよ。第0軍の軍長をこんなにボロボロにさせた実力を俺にも見せてくれよ!」

「くっ……!」

クエナが二戦目を行うために剣の炎をより燃やす。

だが、その二戦目は撤退戦だ。

なんとかシーラだけでも逃がすための時間を稼ぐために。

「随分と逃げ腰だな。こんな奴に負けんなよ、0軍長様よぉ」

必死なクエナの様子を楽しみながら、ユイを軽視することも忘れない。

この場にルイナがいるからフォンヴもハッキリと態度に出す。口うるさい第二軍の軍長もいない。

「なぁ。カリスマパーティーだとか、元Sランクだとか……くだらねえ称号で買い被りすぎなんじゃないですか? 俺みたいな下っ端から這い上がってきた兵士は目もくれねえんですか?」

「……第一軍の軍長では不服か? 十分に破格の待遇を与えていると思うがな」

ルイナが手を後ろに回した。

「異存あるのは待遇じゃねえんだよ! 俺の上にいる奴だ! 見ろよ! 先陣を任されたのに名もねえメス二匹にやられてんじゃねえかよ! こいつは本当に俺より上の第0軍の軍長に相応しいのか? あぁ!?」

フォンヴの口調が荒ぶる。今まで溜めていた不平不満を漏らすように。

「そこの二人は強い。だからこそ私も相討ちでも文句はない」

「そこが問題ありなんだよ! なら俺はどうだ!? こいつら二人をやれるだけの力がある! ユイだって秒で殺してやれる! そんな俺がどうして第0軍の長になっていない!?」

「なら今度、ユイと戦う機会をやる」

ルイナとしては、あまり軍長の交代は望ましくなかった。

指揮系統の乱れや情報の引き継ぎ等、面倒が生じるからである。

しかし、当然ウェイラ帝国は実力や成果や実績を重視する。歴然とした力の差があれば交代には異議なく応じる。

だからこそフォンヴが第0軍に上がれていないのは、実力を証明できていないからで――。

「ユイと戦う機会をやる? ……ふ。ふはは! 違う、違うよ、ルイナ」

「なにが言いたい?」

「俺とユイの間の実力すら見抜けないおまえも――俺の『上』には相応しくねえってことだ」

フォンヴの歪んだ笑みが浮かび上がる。