軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たたかい

都の壁の内部ではウィーグが声を挙げて騎士や兵士などの士気を高めていた。

その一方で壁の上には兵士のほかに二人の女性がいた。

「来たわね」

クエナが遠方を見ながら言う。

隣に居るシーラが目を細めながら頷いた。

「すごい数ね~。いくつも要塞があったはずなのに全然削れていないように見えるくらい」

フルフォー都はスティルビーツ王国の中枢だ。両端を山に囲まれていて、交通路は前後する一本の大道しか存在しない。

だからこそ幾重ものトラップや要塞もあったが、悉く蹂躙されて進まれたようだ。

ウェイラ帝国の軍隊は高い士気のまま、フルフォー都にまで向かってきている。

最前列に立つのは――ユイ。

旗にはウェイラ帝国の赤を基調とした王冠の国旗と、第0軍を示す黒色がベースで『0』の白い文字が刺繍された軍旗があった。

「初っ端から大物がお出ましね!」

「後ろには第一軍の青い旗と第二軍の黄色の旗もあるわ。戦う前から言うのもなんだけど、これは本当に負け戦ね」

クエナが剣を抜く。炎々と燃え盛る赤色の刀身が露出する。

同様にシーラも純黒の剣を抜いた。形態的な変化はないが身震いさせる冷たい魔力が周囲に漂う。

「『私たちが勝ち戦にしましょ』」

「……ふふ。そうね」

戦線は膠着した。戦える土地は限られた場所しかなく、ウェイラ帝国は数で押すことができない。山岳部には幾重もの罠が仕掛けられていたり、あるいは伏兵により帝国軍は翻弄されていた。

平地の一本道は外壁から放たれる魔法や弓矢により死体の山が築かれており、進もうにも足止めをしようとする兵士たちで溢れかえっている。

だが、ウェイラ帝国もこれくらいは想定内。

邪魔になる死体は――まだ息があったとしても――風や水の魔法を以って横に流したり前に伸ばしたりしている。道は荒くなるが前方から迫る魔法や矢を避けられる。

「『――あんたらの国やばすぎない?』」

そんな戦況をドン引きした様子でシーラが眼前の敵に言う。

口調は軽やかだが適正な握りをして一ミリも油断はない。

「……」

「『返事くらいしてほしいものね』」

ピタリ、とユイが止まる。

お? と反応するシーラだったが地面から黒い影が作り出される。形を変えてナイフになったり槍になったりと武器なるものが実体を伴って地面から生える。それらは勢いそのままシーラに向かった。

四方を影の武具で囲まれたシーラは剣で応戦するが数が多い。

さらに一手。ユイが迫る。手に持った小刀がシーラの首筋にトドメを刺す――寸前のところで燃え盛る剣が止めに入る。

「『な、なんか私、毎回クエナに助けられてる気がするんだけど!』」

「そう思うのならもっと鍛錬しなさい」

「『むーっ! してるもん!』」

シーラが不服そうに頬を膨らませる。

実際に実力は付いている。

ウェイラ帝国の策の一つとしてユイという強大な単体を以って前線を押し上げる、というものがあった。シンプルではあるが現在のように膠着している戦線を進める上では重要なキーだ。

そのユイを、たった二人で抑え込んでいるのは実力の証明だろう。

「……あなた達」

「『お?』」

ユイがぼそりと言う。

「ジードと一緒にいた宿の人達?」

「そうよ。私達のことを覚えていたの」

「うん。あの時は弱いと思ってたけど強くなってる。ジードに鍛えてもらってたから?」

「『なぜそのことを!?』」

シーラが仰天する。

彼女の中では秘密の特訓だったからだ。

しかし、ユイは実際に禁忌の森底に居て彼女たちを見ている。知っているのも当然のことだった。

「今のあなた達は厄介。ジードに嫌われて引き抜き任務に支障が出るかもしれないけど――――消えて?」

言いながら後ろへ下がる。そんなユイの背を映した影が爆発的に増殖する。『ユイ』という影が無数に現れて影同士が複合していく。

次第に肥大化していく影は大地を黒く塗りつぶしていた。

「『な、なに!?』」

影は人の形をしたまま地面から――起き上がる。

ドラゴンの巨躯を優に超す巨体が太陽すら遮った。雲と同等の目線からゴミ粒を見下ろす。

「 影の巨人(アルティエゴ) 」

見せかけでは決してない。

ただならぬ威圧感と尋常ではない魔力が全体を包んでいた。

その見下ろす影を誰もが唖然と眺める。

「ルイナ様に英雄になれって言われた。だからこれくらい派手がいいよね――」

うっすらと、無の表情を続けるユイの口角が上がった。

遠くの天幕でこの光景を見ている総大将のルイナは冷や汗を流しながら、それでも不敵に微笑んだ。

「……おまえはやりすぎてしまう傾向があるな、本当に」

英雄と呼ばれる存在は必ず人の心に残るもの。

敵味方区別なく畏怖するユイの魔法は誰しも忘れることができないだろう。

ここからが肝心だ。もしもここで負けてしまえば見せかけだけ。

ただし勝てば味方からは称賛され、その異形な魔法も神のように崇められる。

「――叩き潰す」

影の巨人が片膝をついて手を開く。それは地面にいる虫けらを簡単に殺そうとする人のようで。

ヒュゴオオ! っと風を切りながらフルフォー都の前線を担っている軍に手が迫る。たしかな質量をもっているのを見れば、誰もが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

しかし、周囲の様子を物ともせず手のひらの中央に当たるであろうシーラとクエナは微動だにしていなかった。

「どっちがやる?」

「『じゃ、私が! ―― 厄貫(ルイフ) 』」

言い、影の手に向かってシーラが剣を振るう。すると剣の残像が複数の黒点を作り出して勢いよく放射された。放射されるに連れて黒点は大きくなる。

その黒点により巨人の手にいくつもの穴が開く。しかし、痛そうにする素振りもなく巨人の穴が自然治癒する。それも一瞬で。

「『ええー! なんで!』」

攻撃に自信のあったシーラが気にも留めない巨人の様子に驚く。

――巨人の手が地面に届く。

重々しい地鳴りと共に土ぼこりが舞う。

それはルイナやフルフォー都にまで届いた。

逃げ切った兵士はいた。だが、クエナとシーラはまだ手のひらに収まった――。

「――炎神舞踏」

クエナの声と共に巨人の手が炎の斬撃により宙を舞う。

大出力の炎が一帯を包み込んだ。その中心には炎を纏うクエナがいた。