軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

顔合わせ

カリスマパーティーの顔合わせのため、俺はギルドマスター室に来ていた。

中から漂う四人の気配に俺が最後だとわかる。

こんこんっと手で扉を鳴らす。

中から「入るのじゃー」と気の抜けた声が返ってきたので扉を開ける。

「遅れたみたいだな、すまんすまん」

入りながら挨拶をする。

部屋の最奥には幼女向けにオーダーメイドされたであろう高そうな机と椅子がある。リフのことを知っている者であればギルドマスター専用だと一目でわかる。

そんな幼女向けの椅子にはリフが能天気な笑みを浮かべて座っていた。

扉側の手前には、対になった応接のソファーと、低身長の黒机が二つのソファーの間にある。

片方にはソリアとフィルがいて、もう片方には黒髪の美少女、ユイが座っていた。軍服を着ており腰には短刀を携えている。

写真通りの風貌だ。

「遅れてはおらんぞ。ちょうどの時間じゃ」

「いいえ、お言葉ですがリフ。ジードは遅れています。ソリア様を待たせる=遅刻です」

「わ、私は気にしてませんから……!」

ソリアが俺のほうをチラチラと顔を朱色に染めながら見てくる。

それに一層フィルが苛立っているようだ。

「初めまして、ジードだ」

片方空いているソファーに向かう。

座っている先客に挨拶しながら座った。

「ユイ」

こちらを見ることなく、黒机の上に置かれているお茶を飲みながら、端的に少女が名乗った。

随分と無口だ。それに表情筋がピクリともしていない。

「よし、これで揃ったの。これがカリスマパーティーとなる面々じゃ。今後はギルドのため共に活動することも多くなるであろう。早速じゃが大型の依頼を――」

「その前にいいですか、リフ」

リフの言葉を遮ってフィルが手を挙げる。

とくに機嫌を損ねた様子もなくリフが首を傾げる。

「どうした?」

「私はまだ実力を把握していないメンバーがいます。彼女がソリア様のお傍に居ても良いか判断したいのですが」

そう言うフィルの目は俺の隣にいるユイに向けられていた。

ユイが飲んでいたお茶を黒机に置く。意識は腰の短刀に向けられている。戦闘準備は完了しているようだ。

リフが『やれやれ』といった顔で指を合わせてパチンと鳴らした。

刹那――室内の備品一つ一つが鋼鉄のような結界に包まれる。

俺やソリアといった『人』も守られている。かなり高度な魔法だ。空間把握も魔力行使と魔力操作も。

「好きに暴れい。ただし部屋からは出てくれるなよ」

「「――――」」

リフの許諾を得て一瞬。

激しい剣戟が繰り広げられる。

『ほぇー』とソリアがボーと眺めている。当たり前の反応だ。むしろ眺められているだけ場慣れしている。

ソファーから軽く立ち上がって一歩も動いていないが、一秒で剣閃が数十と膨れ上がって残像を残している。鉛のぶつかり合う音が四方から聞こえるほどだ。

常人では追うことすらできないだろう。

ふと、残像が一瞬こちらに向く。自然と追っていたソリアと目が合う。

「はぅっ……!」

という謎の言葉を残して目を逸らされる。

前々から思っていたが、これは俺が人見知りでもされているのだろうか。

パーティーになったのだから慣れていきたい。

フィル曰く好意は持ってくれているようだから親しくなれると嬉しいのだが。

そんなことを考えていると音が鳴り止んだ。

勝敗は決まっていないが、納得のいくところまでは済んだようだ。

「……やるな」

はぁはぁ、と肩で息をしながらフィルが言う。

一方でユイは平坦な様子で口を開かずに座った。

長剣と短刀の差が出たな。

狭くはないが、広くもない部屋だ。武器のリーチで間合いも動きも変わる。それが疲れに出た形だ。

実力的に拮抗していると顕著なものとして出る。

「おまえはなにか言うことはないのか。おまえからしたら私以外にも確認したい人はいるはずだ」

フィルが反応のないユイを見ながら尋ねた。

チラリ、とユイが俺の方を見る。

当然だ。ソリアは戦闘員じゃないから消去法で俺が残る。

「ジードは後」

「それはどういうことだ? ジードもいるのだから後回しにする理由がわからないのだが」

「後。以上」

フィルの問いを一言で遮断して終える。

マイペースだが有無を言わせないものがある。

フィルもムッと表情を固くする瞬間はあったが、同じパーティーとなった以上は喧嘩を売らないようだ。

さすがに弁えているらしい。ソリアが絡んでいないからか。

「まぁ、ともかく一段落したようじゃから用件から話すぞ?」

場が静まった辺りでリフが声をかける。

ソリアはリフのほうを礼儀正しく見て、フィルもその後を追う。

ユイは、あくまでも自分のペースでお茶を飲み始め、俺はそんな周囲の様子を見てからリフに視線を合わせた。

「早速じゃが、お主たち『カリスマパーティー』に――」

言いながらリフが俺たちの前に立ち、黒机に一枚の依頼書をバンっと威風堂々と置く。

「――依頼を受けてもらおうと思う」

依頼書を眺める。

そこには『最大級地下ダンジョン・イルベック攻略』と書かれていた。

「おお、イルベックですか」

ソリアが口元を抑えながら言う。

隣のフィルも難しい顔つきをしていた。

「知ってのとおりSランク指定の地下ダンジョンじゃ。かつて魔王であったラン・イルベックが人族侵略のために作り上げたもの」

「ん、そいつはどうなったんだ?」

興味本位で聞く。

まだ迷宮はあるそうだが、魔王はいないという話を聞いている。

なら、結果的にどうなったのかが気になった。

「当時の七大魔貴族の一人に下剋上を受けて死亡しておる。そのため、侵略用に飼育されていた強大な魔物が放逐されて独自の生態系を生み出しておるのだ」

「今でもイルベックから外に出てきた魔物が暴れたりしてま……す。はい」

補足説明とばかりにソリアが言ってくれる。

ぎこちない目線配りだが気遣ってくれているようだった。

「以前にAランクの土竜の群れが出てきて神聖共和国内の街一つが潰れたこともあったな。あの時は私とソリア様でなんとか収めたが大被害だった」

「へぇ。これ人族の領地にあるのか」

「本来の『入り口』は魔族領にあるがの、あまりにも巨大すぎて随所から入れる場所は見つかっておるよ。とくにラン・イルベック魔王が死んで以降は隠蔽魔法も効かなくなっておるからの」

「それで、いつになるのですか? この攻略は」

ソリアが小さく手を挙げて尋ねる。

それにリフがあらかじめ決めていたのであろう日時を発表した。

「お主たちのスケジュールによると明日から三日は空いておるそうじゃの」

「では、攻略は明日からですか?」

「なにを言っておる、ソリアよ。今日からに決まっておろう」

まぁ、驚きはない。

メンバーもそんなことを言われることは分かっていたようで反応が薄い。

「なんじゃ、『そんな無茶ぶりやめてー!』とか言うとでも思ったのじゃがな」

悪戯っぽくリフが笑う。

と、言ってもメンバーの装備を見る限りではなんらかの通達は受けていたようだ。

遠征レベルで離れた場所から来ているメンバーに突然依頼を受けるような真似はさせていない。

「それではイルベックに転移するぞ。あっちに冒険者や傭兵も呼んでおるからの」

「俺たち以外にもいるのか?」

「ああ、さすがに巨大じゃからの。お主らが迷ったり死の危険に遭わないように多少の配慮くらいはしておる」

リフが言いながら指を合わせる。

擦り合わせるとパチンっという軽快な音が鳴って周囲に光が灯りだす。

視界が明転したかと思えば――――風景が一瞬で変化している。