軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まさかの

ギルドマスター室。

椅子に座り合う、俺とリフ。

「ジード、おまえ大変なことになっておるぞ」

リフが神妙なホクホク顔で大きく広げた新聞を机に置いた。顎で新聞を示して俺の視線を誘導させている。

大人しく見てみると一面に、

『新世代の勇者か!』

『魔族に乗っ取られていたアステア教を見抜き第七魔貴族ユセフを打倒!』

『破竹の勢い!』

等々と書かれていた。

俺の顔つきで。

リフのホクホク顔はギルドの知名度や信頼度が上がるからだろう。

「賑わってんなあ」

「随分と冷静じゃの。こういうのは喜ぶもんじゃぞ?」

「そりゃギルドにとってみれば名前が売れてるんだからいいんだろうけど、今みたいに程よく指名依頼や緊急依頼が来る感じが楽でな」

「依頼は全部受けておるからの、おぬし。律儀なものじゃ。かっかっかっ!」

勇者に興味はない。

アステア教が魔族に乗っ取られていたなんて知らない。

破竹の勢いってのも……全部巻き込まれただけなんだよな。

「新聞ってのはいい加減な記事を書くものだ。事実に嘘が紛れ込んでる」

「それが仕事であるからな。アステア教が陥れられていただけに、なにか別の祭り上げる偶像が必要なのじゃよ」

「勝手に祭り上げられる身にもなって欲しいんだがな」

口が面白くもないのに笑っている。

まぁ、ギルドの得になるならいいか。

「それで、俺に何の用だ?」

今日、ここに来たのはリフからの召集を受けたからだ。

また依頼でもあろうのだろう。

「じつはジードの意見をもらおうと思うのじゃ」

「意見? なんの……いや、まさか」

一抹の不安が頭を過る。

「カリスマパーティーの件じゃ。新たなメンバーを二人ほど候補に加えた」

「二人? ……いや、一人はなんとなく予想できる」

「そうか? まぁ大聖祈祷場所で仲良くなっていてもおかしくはないの。そう、【剣聖】フィルがギルドへ加入となった」

リフが数枚の資料を机に置いた。

顔は俺の知っているフィルのものだった。他にも実績や戦闘経験など冒険者としての必要な情報があった。

適当に資料を手に取って眺める。

やはりか。フィルは変な行動力がある。しかも、ソリアのことに関しては予想もできない。

ギルドに入ったのも当然……

「カリスマパーティーに加える、と?」

「わらわは認めようと思っておる。多くの反発はあるが」

「反発すごそうだな」

「まぁの。ギルドに入ったばかりで、Sランクは今年はジードであったからAランク止まり。……じゃが、ギルドの中でも実力と知名度は上位に食い込むほどにもっておる。来年のSランク試験も近い時期になってきた」

リフが口をへの字にして腕を組んでいる。

未だに内心では決定しているわけではないのかもしれない。

「俺はなにか言うつもりはない」

「よいのか? おぬしのパーティーぞ」

「些か暴走気味な面を除けば俺が出会ってきた中でも腕はたしかだ。知名度も、ギルドが問題ないって判断したんなら俺は口出しできることじゃない」

「ふむぅ」

リフの眉間に皺が寄る。

頑固そうに悩んでいる姿は幼さのギャップもあってか可愛く見えた。

「もしも【剣聖】まで来たとなればギルドは更に盤石の地位になるじゃろう。おぬしから言うことがないのであれば受ける」

決心したようだ。

中々重たい舵を切った様子だ。

「それで、もう一人は? 俺の知ってるやつか?」

「知らんだろうて。見たことあるか?」

ばさり、とリフがまた資料を机に置く。

今度はフィルと比べて枚数が少なかった。

容姿は癖のないストレートな、おかっぱの黒髪。写真からでも分かるほど白くきめ細かな肌。右目の下に涙黒子。軍服を着ているが胸部が豊かに膨らんでいる。

歳は十代後半くらいだろうか。

資料にはウェイラ帝国の部隊に所属している、と書かれていた。どこの部隊なのだろうか。

なにより特筆すべきは――元・Sランクと書かれていた。

「ユイ。最年少でギルドのSランクになった少女じゃ」

「最年少か、そりゃすごいんだろうな。でも、今は帝国に所属してるんだろ? 引き抜かれたって書いてるが」

「帝国がどこからかカリスマパーティーの話を聞きつけおってな。ユイのことを紹介してきおった」

「そりゃまたどうして」

「元は隠密系の部隊に所属させておったと思うのじゃが、表立って『英雄格』にするつもりなのだろうの」

「英雄格?」

「おぬし、バシナを倒したろ。第0軍の長の」

「……?」

言われて首を傾げる。

名前なのだろうが思い出せない。

「忘れたのか? おぬしが倒した帝国の将軍級だった男じゃよ。元Sランクであったから引き抜かれていった」

「ほー」

「そいつの枠の将軍級、すなわち英雄レベルの存在を埋めなければならんのよ。負ければ箔が落ちるのは自明。じゃなくとも女帝が敗北を許さん。そこでユイに白羽の矢が立ち、カリスマパーティーで名を広めてやろうという魂胆じゃな」

「名を広める? 知名度がないならパーティーに入れる意味がなくないか?」

「目立つタイプでないだけじゃ。ユイの顔を知る者は少なくない。隠れファンというやつも大勢おる。パーティーに一人はそういう輩が必要じゃろう?」

「……そんなもんか。でもウェイラ帝国には相当な有力者を引き抜かれたんだろ? 使われてるような気がするが」

「そこは案ずるな。引き抜かれる時の金銭はもらっておる。それに帝国での税金緩和などの特別待遇もな」

「へぇ。水面下で色々あるんだな」

「ギルドはこれでも一国以上の戦力になる、と言われておるからの。帝国とて舐めてかかるわけにはいかんのじゃ」

運営側の配慮は俺には勝手知らない領域だ。

リフが言うのなら、ユイの選択はあながち間違いでないのだろう。

見たことないから一概には言えないが、実力面は聞くだけなら安心できそうだし。

ただ、気になる点がある。

「こいつも新しく入るってならAランクだろ? それに戻ってくるんじゃ拒否感持つやつだって多いだろ?」

「ああ、ランクは規定でSとして戻すことができるのよ。反発も影が薄く、実力という面では、未だに冒険者内で認められておるから少ないと予期されておる」

こちらはあまり悩んでいる様子ではなかった。

どうやら結構な信頼があるらしい。

「まぁギルドが言うなら俺は意見を出す気もないし、出す意見もない。……が、パーティーの半分がギルド外から引き抜いたら体裁が悪くないか?」

「うっ……」

鋭いところを突かれた、とばかりにリフが胸をおさえる。

だが、反論することなくストレートな目で俺を見た。

「……このまま二人が決定すると正式なパーティーとして発表するつもりじゃ」

「ってことは批判の覚悟は決めてるんだな」

「だってだってぇ! Sランクだれも受けてくれないんじゃもん! なら他から見つけて来るしかないんじゃもん!」

「ええい。じゃもんじゃもんと、うるさいわ。泣きながら引っ付いてくるな!」

目や鼻から水分を放出しながら堪え切れないと机越しに身体をのめりだして胸元で泣こうとしてくる幼女。

こいつ自称かなり歳いってるのに爆発しすぎだろう。

まぁ、色々と堪えてきたものがあるのだろうけど……。

ぐすん、ぐすん、と涙ぐみながらも、ようやく平静を取り戻したリフが自分の席に戻った。

「俺が言うのもなんだが、発表を遅らせればいいんじゃないのか?」

「ぐす……い、いや、遅らせてはならんのだ」

「どうして? すこし遅らせて実績を積ませて馴染ませれば問題ないだろうに」

「その点は同意できる。しかしの、第七魔貴族の一角ユセフによる侵略行為によって人族の柱たる存在が必要とされておる」

リフが先ほどの新聞に指を立てた。

大きな見出しはこのためだ、と言わんばかりに。

「アステア教が崩壊し、信用が失墜した。真・アステア教の盛り上がりも見せるが、それでも女神アステアに対する信頼といったものまで道連れじゃ。そのため勇者という存在も……」

「信用できない層が広がり始めた?」

「うむ。そこでカリスマパーティーじゃ」

「なるほどな。その層を回収するために早く動こうって算段か」

「まぁ、おぬしらにそこまで考えろとは言わん。いつもどおり活動してくれれば良い。複雑な問題はギルドで解決するでな」

赤くなった目じりを隠そうともせずに「大船に乗った気で任せろ」と胸を張る。

その顔はどこか誇らしげだ。

「ひとまず、ジードも問題ないというのであれば顔合わせをする必要があるな。都合の良い時間を教えてくれ――」