軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出会いからの戦闘へ

ありえない。

フィルは心の底からそう思った。

どうせ取り入って成り上がったSランクだろう。

多少の実力があるのは認めるが、それでも私よりは遥かに下だ。

しかし、それもどこか疑わしくなった。

ソリア様の傍らにいることがギルドから許されたほどなのだから多少はマシな男だと思っていた。

だからこそ剣先を向けたのは腕試しのつもりでもあった。

だが、ジードという男はやりあう気すら見せずに扉を閉めて部屋に戻っていった。

あんな男がソリア様の傍に?

ありえない。

またフィルは心の底からそう思った。

(このまま扉を壊して撤回するように言うのは簡単だ。……けど、そんなことをしたらソリア様のお傍に居辛くなる)

宿はみんなが使う場所であり、旅人の疲れを癒す場所でもある。

そんなところの扉を壊すわけにいかなかった。

悔しさに奥歯を噛みしめる。

剣を鞘に戻して宿を後にした。

◇◆

それはフィルの帰りの道中だった。

神聖共和国と王国を繋ぐ舗装された森の道。

人通りは少ないが、フィルの前から二人組の女性が歩いてきた。

赤い髪の美女と金色の髪の美少女だ。

辺りは静かで、自然と二人の会話が耳に入ってくる。

「まったく。ジードが辺境の依頼を受けたせいで私達の分がなくなったじゃないの。あれは歩く依頼吸引マシーンね」

赤髪の美女――クエナが立腹した様子で頬を膨らませている。

「傭兵団が別の辺境に行っちゃったもんね。さすがすぎるわっ」

金髪の美少女は怒りというよりも羨望を向けているようだった。

話題の流れがジードの愚痴をこぼしているようで、ついフィルも心地良く聞いていた。

だが、それは二人組と交差する瞬間――。

「でも、はやくジードのパーティーに入るためには依頼を受けてもらっちゃ困るわよ。あいつのペースに合わせることができるっていう売り込みをしないといけないわけだから」

赤髪の美女がそう言った。

フィルがピタリと不自然に立ち止まる。

当然、クエナやシーラもその気配を感じて振り返った。

「ジードのパーティーだと?」

ぼそり、とフィルが呟いた。

クエナが、自分たちの話題に触れられていることに気づいて首を傾げた。

「なによ? それがどうしたの?」

「それはカリスマパーティーのことで間違いないか?」

「まぁ、そうではあるけど」

フィルの問いにクエナが答えた。

実際にクエナはジードのパーティーに入り、姉や周囲を見返すことが目的だ。

それがカリスマパーティーであれ、ジードがいるのであれば結果は同じ。

「ちょっとクエナ。この人なんかヤバイ雰囲気あるわよ」

シーラがクエナの肩を叩きながら小声で口にした。

だが、その声掛けは少し遅かった。

フィルが剣を抜いて構える。

シーラとクエナは卓越した剣術と経験で、フィルの敵意と動作に反応して互いに剣を抜いた。

「一応、奴のパーティー候補ということか。なら腕試しに付き合ってもらおうじゃないか」

「は? なに言ってんの。候補っていうか断られているだけだけど」

「いや、私は候補だと思いたいわ。ジードと一緒のパーティーになって、やがては人生のパーティーに……!」

「シーラは黙ってなさ――ッ!」

クエナが、ボケとも本気ともつかないシーラの言葉に呆れ眼を向けていると、眼前から溢れ出る魔力と圧力に言葉を飲み込んだ。

自然と剣を握る手がピクリと反応した。

「私はフィル・エイジだ」

「……剣聖……!?」

クエナはその名前に聞き覚えがあった。

人族では知らない方が稀だろう。

当然、シーラも知っているためか、冷や汗を流す。

「ジードのパーティーに入ろうとする者がどれほどの腕前なのか、試させてもらおう。二人で来い」

「クエナ……! 分かっていると思うけど……」

「……分かっているわよ」

ごくり、と二人が固唾を飲む。

クエナが続けざまに口を開いた。

「間違いなく強……――」

「――この人……『ライバル』よ……!」

「なんの話!?」

「この人もジードのパーティーを狙っている人でしょ! 明らかに!」

「そうなの!?」

「……ちっ。そんなわけないだろう。あんな男!」

二人の会話に痺れを切らしたフィルが斬りかかる。

まずはクエナだった。

重たい剣が圧し掛かる。

「くぅっ……!」

あまりの重たさにクエナが刀身を左手で抑える。

喰いしばってできた足跡が這っている。

「えぇやっ!」

クエナの横からフィルを突く影。シーラだ。

急所を狙った容赦のない一撃だ。速度も威力もタイミングも間合いも十分が過ぎる。

しかし、フィルが剣を下げて軽快に受け流した。

それだけじゃない。

シーラが剣を戻すよりも早く、より速度の増した一撃をフィルが叩きつけようとする。

しかし、クエナの剣がそれを防いだ。同時に、戻そうとしていたシーラの剣がフィルの側頭部を狙って横に一薙ぎ――しようとしてフィルが前のめりになり避けた。

――察知された。

そう考えるよりも先に、フィルの剣を防いでいたクエナが押される。

「速度も力も……その程度か」

クエナとシーラがフィルの剣圧に弾かれて飛んで倒れる。

辛うじてクエナの刀身が間に挟まっていたおかげで斬られてはいない。

「強い……」

クエナがしみじみと呟く。

たった数秒で実力差が歴然と聳え立っていた。

しかも二対一でこれだ。

一対一ならば――

クエナが悔しさに土を握り締める。

「ああ、その通りだ。私は強い。おまえ達は弱い。そもそもこの強さこそがソリア様の隣に居ても良い絶対条件だ」

「……だから、あんたなにを言っているの」

「これほど弱いおまえ達がジードのパーティーなどと口にできるとは、やつも大したことではないのだろう。やはり、カリスマパーティーとやらの件はギルドに直接文句を言ってやらねばな」

「はぁ!? 私達があいつのこと言ったって、あいつの実力が決まるわけじゃ……!」

クエナの言葉にフィルが答えることはなかった。

だが、フィルを食い止めるだけの実力がないことも分かっていた。

クエナとシーラは去っていく背を見送ることしかできていなかった。

「……悔しい」

シーラの呟きにクエナが身体を起こす。

衣服に付着した土埃を払う。

「もっと精進しろってことね。悔しいけどあいつの言う通りよ。このままだとジードに自分たちを売り込んでも周りが認めてはくれないわ」

「ぐぬぬぅ……まぁ私は最悪パーティーじゃなくてもジードと一緒に居られさえすれば」

「あんた相当やばいわね」

茶化すように言っているが、真っ先に悔しさを口にしたのはシーラだ。

悔しさを互いに認識し合っている。

そして、どこか吹っ切れたようにいつもの会話が聞こえてくるのだった。