軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後方では

クゼーラ王国の辺境では幾つかの区域で起こった紛争の負傷者が後方の一点に集められていた。

当然、治療が間に合うわけもなく負傷者は一秒ごとに増えている。

しかし、話を聞きつけた宗教や理念を持った組織や個人が集まり始めていた。

『第四区域の負傷者が送られてくるぞ! 場所開けとけ!』

そんな掛け声が昼夜問わず響き渡る。

治癒魔法を持つ者は魔力が底を尽くまで行使し、ないものは場所づくりや水運びや負傷者・死者を運んでいた。

優雅とは相反するような環境だ。

それでも誰も文句を言わずに手を動かしている。

ただ、それは環境に対してだけだ。

「てめぇこの邪教徒が! ここからは俺らの区分だっつってんだろ!」

「んなのどうでもいいだろうが!」

「どうでもよくねえよ! 邪魔してんじゃねえよ、これだからクソみたいな信仰しているやつは……」

「あぁぁ!? てめえらのとこだってうんこからできた神に祈ってんじゃねえか! くせえくせえ!」

「なんだとてめぇ!」

様々な宗教の人間も集まっている。

こういう言い争いだって生まれてしまう。

それは信者全員を巻き込んだものとなっていく。

もはや負傷者は置いてけぼりだ。あまり質は高くない。しかし、それだけ負傷者の数が多いため、こんなことになってでも人を呼ばなくてはいけないのだ。

そんな中で、

「争うのはやめてください。口よりも手を動かしてくださいませんか」

スフィだ。

新興宗教で、最大のアステア教に真っ向から対立しているだけあって煙たがられている。

やはり争っていた二人もスフィを見て侮蔑の眼を向けていた。

「はっ、アステア教のおこぼれに預かろうとしているとこが言ったって通じねえな!」

「今はそんなことを言っている場合ではありません。負傷者の手当てが先でしょう」

スフィは言葉を返しながら自らも使える精一杯の治癒魔法を行使していた。

歯牙にもかけない態度に男が舌打ちをして睨みつける。

「はっ、自分とこの宗教がバカにされても気にしねえとはな! さすが金づるとしか見てねえんだな!?」

「そこまでにしてください。みっともないですよ」

通りすがった団体の一人が声をかける。

男は声の主の方を怒鳴りつけようとして振り返り、目を見開いて息をのんだ。

そこにいたのはソリア・エイデンだった。

前線の負傷者を癒して後方に戻っていた。彼女の背後には数名の騎士が護衛についている。

「ソ、ソリア様……!」

一帯の人々の視線が釘付けとなった。

負傷者のうめき声すらも消えて。

「 広域回復(エクスヒール) 」

ソリアのそんな呟きに魔力が波を生み出す。

波にあてられた人々の傷が癒えていく。些細なかすり傷さえも。

「ここへ争いに来たわけではないでしょう。口よりも手を動かしてください」

「「は、はい!」」

ソリアの言葉に、男達が叱られた子供のようにしゅんとして頷く。

「すみません。ありがとうございます」

ソリアにスフィが礼をして頭を下げた。

二人はいわば敵対組織と言っても過言ではない。

こうして相まみえること自体初めてだ。

「スフィさん……ですね? 真・アステア教の。お会いしたかったです。いつも戦地のボランティア活動では入れ違いばかりで。今度の大聖祈祷場所でお会いするかと思ったのですが偶然ですね。私はソリアと言います」

ソリア。

珍しくない名前だ。探せば一つの村に一人くらいはいてもおかしくない。

だが、ソリアという名前の代表格はこの大陸で一人しかいない。

アステア教筆頭司祭、ギルドのSランク冒険者、光星の聖女――――。

多くの異名と伝説と共に歴史に名を刻むことが約束された少女だ。

女神アステアではなく、ソリア・エイデンを崇める者も少なくない。

歴代の勇者に並び立ち、『希望』とされている。

「初めまして、スフィです。真・アステア教で大司祭をやっています。実は私もソリア様とはお話をしたかったです」

ちょうどこの区域での治癒が一段落ついていた。

二人には余裕があった。

「お話ですか?」

だからソリアもスフィに問い返す。

敵意はない。むしろ、ソリアからは好意を感じられた。

ソリアは何度も耳にしていた。真・アステア教の活動を。

むしろ前線に赴くことが多いソリアだからこそスフィ達の真面目な活動を知り得ていた。

「はい。ソリア様は……女神アステア様を信仰なされているんですよね?」

「そうですね。アステア教の信者ですので」

「失礼なことをお聞きします……。なにを思って信仰なされているのですか?」

「なにを思って、ですか?」

質問の真意を測りかねて首を傾げる。

スフィが改めて言葉を砕きながら聞いた。

「たとえばアステア様となにかご縁があった、教訓に納得できるものがあった、聖典に好きな一節があった……等でしょうか。信仰する理由のようなものをお尋ねしたかったのです」

もちろん、スフィも深い理由なく信仰している人々がいることは知っている。

だが、ソリアの活動はその範疇を軽く飛び越えられるほどだ。

そこまでして活動できる理由を知りたかったのだ。

「そ、そういうことでしたか。え、ええ、な、なるほ……ど」

明らかに動揺した様子でソリアが何度も頷く。

顔を朱色に染め上げて――まるで恋する乙女のような反応だ。

スフィが反応に困りながら待っているとソリアが一つだけ咳払いをして気を取り直す。

「わ、私は信仰している、というよりも『希望』を信じている形です」

「希望……?」

すこし意外な返しに今度はスフィが首を傾げる。

「それはアステア様が起こす奇跡ということでしょうか?」

「おそらく?」

「……?」

ソリアの掴もうにも掴めない言葉の意図にスフィは理解しかねていた。

それを見たソリアが謝意を込めて申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。

「すみません。私がまだ駆け出しの頃に『奇跡』がありまして。その時にちょうどアステア様を何気なしに信仰していたのが始まりです」

「そういうことでしたか」

スフィは思う。

宗教と偶然を結び付けた、という認識が正しいのだろう。

だが、そこでアステアの名前を挙げずに『希望』と口にする辺りは妄想が激しいパターンというわけではないようだ。

しっかりと現実を見極めた上で信仰している。

「つかぬことをお聞きしますが、その奇跡というのは……? それに希望って……」

「そ、そ、それは……!」

またソリアの顔が赤く染まる。

恥ずかしいとばかりに。

だが、ソリアが答えるよりも先に横やりが入った。

「はっはっは、なんだこれは? 真・アステア教の面々ではないですか。またせっせと戦地に来て洗脳活動ですか? 随分と懲りませんねえ」

青い髪の、大仰な司祭の格好に身を包んだ男が近寄ってきた。