軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔族との戦況

魔族とクゼーラ王国の境界線は昔から続いていた平和に波打ち状況が変わった。

王国の内乱の隙に乗じた各国や魔族による追撃だ。

人族と魔族は、全体的な戦争は協定により行わないことが決定されている。

しかし、部分的、つまり七大魔貴族の一勢力と一国であるならば全体が干渉することではないとされているのだ。

全体か否かを判断するのは各国の首脳と呼ばれる上層の采配によるもの。

列強国と七大魔貴族ほどの戦力での小競り合いや抗争は本来ならば『戦争』に匹敵するものであり、全体として認められて然るべきだった。

だが、クゼーラ王国を侵食しているのは人族の主な国々も、であった。

軍事力は質・数共に列強のなかでも屈指の帝国などを筆頭に、小国すらも境界線を書き換えるために動いていた。

これらの原因で、魔族とクゼーラ王国は一勢力同士でのぶつかり合いとされたのだ。

そして戦況は王国側が押されている状況だった。

「嘘だろ! 紅の獅子団がやられたのか!」

「援軍に来たっていう秩序と崩壊の傭兵団は!?」

「そこはとっくに潰れている! ひとまず前線からラインを引いて後退しろ!」

怒号と悲鳴が入り混じる。

彼らは焼け野原で戦っており、後ろには黒煙を幾つも焚いて崩れかけている街があった。

名の知れた傭兵団を雇っていても烏合の衆。戦況が好転する機会には巡り合うことがなかった。

しかも、今回はそれだけではない。

「どうなってんだ、バケモンばっかじゃねえか!」

と、一人が叫ぶ。

戦場は異様な雰囲気に包まれていた。

たった一人の魔族を一つの傭兵団が相手取っているのだ。

種族的な優位は魔族にある。

魔力、身体能力は遥かに魔族が上なのである。

だが人族には数があった。数は知力にもなり暴力にもなる。

それでも一つの傭兵団が一人の魔族をようやっと相手にする状況は異質そのものだった。

「あぁ……くそ。くそ……! アステア様……!」

一人の兵士が死にかけていた。彼は腹部に拳ほどの穴を開けて倒れこんでいる。

そして女神アステアに祈りながら首にかけてあるペンダントを握り締める。

銀色の円形をしたペンダントは女神を模した人型がくり貫かれていた。それはアステア教が販売している、女神アステアに祈りを捧げるペンダントだった。

微弱ながらペンダントに兵士の魔力が吸われる。

これこそが女神アステアが存在しているとされる所以だった。

そして、戦場では「実力」となる魔力を削ってまでも信じられている。――奇跡を何度も起こした女神アステアを。

だが。

「ふははは! ご苦労さん!」

「ぐああっ!」

「無駄だなあ! おまえらこのルイルデ様一人にも勝てねえじゃねえか! ははは!」

たった一人で傭兵団を蹂躙した魔族が、死にかけの兵士を甚振る。

ルイルデと名乗ったその魔族はどす黒い肌と尻尾を生やし、長い八重歯をギラリと煌めかせていた。

「祈っていろ! ありえない偶像に訪れない平和を! どうせてめえらは滅ぼされる運命だ!」

魔族が高らかに笑う。

人の行い全てを蔑んで笑う。

しかし、そこには確たる隙があった。

「このぉ!」

痛めつけられていた兵士が最後の力を振り絞って刀身が半分に折れた剣を振るう。

寸は足りていた。

だが、ボロボロの剣と身体で死に至らしめることができるとは思ってもいなかった。それは最後の足掻きだったのだ。

だというのに――。

「効かねえな?」

「なっ……!」

ルイルデがにやりと不敵に笑う。

兵士が驚愕に目を見開く。

(また……強くなってないか?)

それはありえない疑いだった。

戦場とは常に消耗するもの。逆は起こり得ない。

起こり得ないはずなのだ。……兵士はそんなことを思いながら首を跳ね飛ばされ――。

『援軍だ! 援軍が来たぞ! ――神聖共和国の剣聖フィル様と聖女のソリア様が来たぞ! 神聖共和国の主力だ!』

その掛け声と共に魔族が大風に吹かれる木片のように飛ばされる。

「ぐぅあ! な、なんだ!?」

ルイルデの眼前に現れたのは茶色い髪を一本にまとめあげた若い女性だった。

切れ長の目が事もなげにルイルデを見ていた。

だが、意識は完璧に別だった。

「やれやれ。なぜ我々を襲撃した王国を助けようとするのか甚だ疑問ですよ」

【剣聖】――フィル。

神聖共和国の主力戦力を担う部隊の前線で戦う者。

そしてその後ろには長いピンク色の髪を持つ美少女【光星の聖女】ソリア・エイデンがいた。

「人族が危機に瀕しているのです……! かつて敵味方だからといって手を差し伸べない理由にはなりませんっ」

ソリアはそう言いながら周囲に傷つき倒れている兵士たちの治療を始めた。

フィルはその姿を見て微笑む。

「ふふ、あなたならそう言うと思いましたよ」

彼女たちが最近の神聖共和国の惨事に直接出向くことはできなかった。

とくに剣聖フィルと主力部隊は頻繁に神聖共和国の外に出向き、援軍として力を貸している。

異例事態がなければ、神聖共和国は和平を保っている国々に囲まれており危害はないからだ。

だが、もしも彼女達が王竜とクゼーラ王国の策謀に直面していたら平然と解決していただろう。

それほどの力がある。

「てめぇら俺のことは無視でいいのか!?」

魔族の魔力が乗った怒号が響く。

地を揺らし深淵の底から震わせているような声だ。

しかし、フィルは随分と余裕だ。

「雑多の魔族がなんだって?」

「良い度胸してんじゃねえか……!」

フィルの怒りの煽りに魔族のルイルデが額に血管を浮かべる。

怒りに満ち溢れた生命の力が周囲を揺らす。

だが。

「隙が多いな」

フィルの姿が消えた――。

ルイルデが動揺を示す。刹那、鍔と鞘が合わさったチャキンっという鉄の音がルイルデの背後から聞こえた。

音の方を見ようと首を回すこともなく――ルイルデが膝と地面を付け、胴体から鮮やかな横一文字が描かれ鮮血が勢いよく飛び出ていた。

「ぐ、くそ……!」

ルイルデが冷や汗を垂らしながら、背から純黒の翼を広げて飛び上がった。

「ん? まだそんな力を残していたのか。……まぁいいや」

フィルが魔族を見逃す。

優先すべきは死にかけの魔族よりも他の戦場で暴れている魔族達を抑えるため動いている主力メンバーとの合流だった。

「行きましょう、フィル!」

ソリアも息のある者の治療をすべて終えていた。

これほどの広域と速度を実現できるのは人族の中でも彼女だけだろう。

しかし、それを鼻にもかけず次の戦場に赴こうとする彼女は――まさしくフィルの目からして聖女だった。

「はいっ」

フィルの目にはソリアに対する憧れがあった。

だからこそフィルはあまり快く思っていなかった。

ここに向かってきている男のことを。

(カリスマパーティーなどと……くだらない)

【剣聖】フィルは内心そう思っていた。