軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王竜

勇者の最終選定が始まった。

拡声のマジックアイテムを使用した男の声がコロッセオ中に響き渡る。

『さぁ皆様! お待ちかね【勇者】が決まるお時間がやってまいりましたァーー!!』

その声に会場が沸き上がる。

さらに外からも進行役の男の声と、外周にいるであろう者たちの声が響いていた。

『このコロッセオは現在七か国にて生中継でお送りしておりますー!!』

と、丁寧な説明から入った。

それから諸々と勇者の話であったり、協力した勇者協会の名前であったりを飽きないトークで言い、ついに始まった。

進行役の男が勇者候補の名前を呼んでいく。

それに伴い会場に老若男女オーラを持った者達がどんどん入ってくる。次第に観客の声援も熱を帯びたものになっていく。

『――そして次なる猛者はぁ! ステイルビーツ王国の第一王子にして、屈強な猛者たちが集う冒険者ギルドからの刺客ッ! ウィーグ・ステイルビィィーツ!!』

男がウィーグの名前を大声で言う。

呼ばれたウィーグが手を挙げて応じた。表向きは自信満々な様子だ。……が、どこか顔に陰りがある。

もっと光り輝くキラキラとした瞳を持っていたはずだが、今ではこの世の闇に触れたような眼をしている。

こんな数日間で彼の身になにが起こったのだろうか。

『さてさてぇ、お次は皆さまのお待ちかねだ! 伝統と格式ある列強国最強の軍事力を誇るウェイラ帝国の精鋭部隊≪第0軍≫の長! 数々の軍を単独で屠り! 暴虐の限りを尽くした魔物たちを排除した! 伝説クラスの男ォ!!! バシナ・エイラックゥゥ!!』

耳が張り裂けんばかりの歓声と共に、容姿が良く、着飾っている男が入場する。

勇者候補の全員が紛れもなく強者であり、一人も弱い者はいない。その中でも特に一人。異様に目立っていた。

三十代後半くらいだろうか。

背に大剣を負っている、緑色の髪を持つ男だ。その無精ひげが格式高そうな軍服とのギャップで目立っている気がしなくもないが。

しかし、今目立っているのは別。観客の視線はより下の方に集まっていた。

彼の白を基調とした格式高そうな軍用の衣服に鮮血がかかっている。それは今も服の上を垂れ落ちていた。

でも、負傷しているわけじゃない。返り血だ。それも血の濃度や残っている魔力滓から人ではない。魔物の上位種だ。

「……あれ、なに?」

クエナが訝し気に目をやりながら俺に尋ねてきた。

「さっき勇者協会のやつがドラゴンの捕縛を手伝えって言ってきただろ?」

「まさか」

「ああ。しかも、あいつが一人で抑えていたよ」

じつは念のために探知魔法を展開していたから知っている。

かなり高い魔力を持つドラゴンを、男がたった一人で倒していた。それも、おそらく出血を抑えるために手加減をして。

あの猛者たちの中でも頭一個分は上にあるだろう。

「バシナ・エイラック……噂に違わないようね」

「知ってるのか?」

「ええ、ウェイラ帝国の軍人よ。ルイナの側近になったって話を聞いたわ」

「わお。どおりで」

バシナと呼ばれた男の衣服は、ルイナの傍らにいる連中と似ていた。ただ違うのは色だ。バシナは白で他は黒色だ。

実力的にはバシナの方が上だろうからリーダー的な存在なのかもしれない。

「あいつは、ジードから見ても強いの?」

「ああ。一定のレベルまで行けば底が見えないんだが、バシナはそのレベルだよ」

魔力の量。魔力の練度。身のこなし。目。口。鼻。あとは勘だ。どれだけの経験をこなしてきたかという予想。

そこら辺を混ぜ合わせて大体の力がわかるつもりだ。

けど、全体像が分からないやつもいる。

それがバシナだ。

「ふーん……ちなみに私は?」

「………………見えない」

「なによ、その間は。本当はどうなの」

「見えなくは、ない……が正直なところだ」

俺が言うと、予想通り不機嫌そうな顔つきになる。

自分とバシナを比べたのだろう。女帝の側近であるバシナと自分を。認められる一番の近道として。

「一応言うぞ。『見えなくはない』だからな。あと一歩違ってたらそうじゃなかった。おまえも十分に強いよ。それにセンスもある。バシナとも年齢の差だってある」

念のために補足しておく。

詳しい数値があるわけじゃない。クエナとは一緒にいることが多かったから、より鮮明に分かるのだ。

「気を遣うんじゃないわよ。大丈夫、焦ってるわけじゃないから」

クエナが言いながら、少しだけニコリと微笑んだ。

……ただ、まあ。

一緒にいたことが多いってことを差し引いてもクエナよりバシナの方が強い。明確なまでの差がある。

黒服の側近たちとは同等くらいだろうが、バシナは別格とも言える。

それを証明するかのように観客の声援も未だに止まらない。

『さぁ、皆様! さっそくですが最終選定に入りましょう! 前置きなしのたった一つのイベント! ――さぁ出でよ!!』

進行役の男が手を掲げると、あらかじめ組んでいた魔術式が展開される。大量の煙と辛うじて間から通る淡い光。

まるで男が魔法を使った風に見えるパフォーマンスだ。

『グォォォォッッ!!』

耳を劈くほどの巨大な咆哮が響き渡る。

会場にびりびりと緊張が伝わる。

柱ほどの大きな尻尾が煙を邪魔だとばかりに散らす。――現れたのは一体の黒竜だった。

中央に展開されている召喚陣を遥かに上回る巨躯。鮮やかな黒い鱗。体外にこぼれんばかりの膨大な魔力。

王竜がどんな種族なのか知らないが、名前的に竜の王的な種族なのだろう。それに相違ない強さだ。

だが、明らかに一人を警戒している。バシナだ。

『おぉっと! 召喚陣から呼応したのはドラゴン……それも王竜だ!! 王竜がバシナを警戒しているぞー!!』

わざとらしいほどの実況だ。

だが、それが観客にとって熱い展開らしい。最初からヒートアップしている。

「分かりきった結果ね」

クエナが冷めた視点から口にした。

ああ。

王竜は、ところどころ怪我をしている。目立たない程度に嬲られている。

翼も動かせないようで、羽ばたけない様子だ。

すでにバシナが弱らせているのだ。

もう一目瞭然。終わりが見えた――と思っていると。

『『『グォーーーーーーオォォン!!』』』

まだ遠い場所から、しかしすぐ傍にいるような錯覚を覚えるほどの、ドラゴンの怒号が何十重にもなって響き渡った。