軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

依頼執行

膨大な魔力を内包するタイマツを模したマジックアイテム。形は似ているし炎の出方も同じだ。

だが、肝心なのはマジックアイテムという点だ。

タイマツという存在とは本質的に違う。このマジックアイテムは水の中に入れても燃え続けるものだろう。

しかも長い期間、魔力という燃料だけで絶えず光を生み出し続けることができる。未だに燃えているのはその証明になるはずだ。

まあそんなマジックアイテムよりも、だ。お目当ての書物があった。

禍々しい黒いオーラを放ちながら祭壇のような場所に飾られていた。

「これか」

手に取る。

重くはないが軽いわけでもない。

ページ数も中指一本分くらいはあるだろうか。

派手な装飾はない。

黒色を基調とした外見に、表面は小難しそうな白色の文字が並べられている。

ひとまずこれで依頼は完了だろう。

そう思っていた

――刹那。書物が飾られていた祭壇に魔法陣からいくつも展開されたことに気づいた。

それは発動していた探知魔法が地下ダンジョンを揺らすほどの魔力量を検知させるほどだ。

祭壇に文字が浮かび出す。

『力を欲する者に最後の試練を与えん』

これを見ただけで理解できる者は少ないだろう。

だが探知魔法を展開している俺はハッキリと認識していた。――地下ダンジョンで魔物が異常とも言える速度で増えだしている。

「驚いたな。まったく気づかなかった」

思わず考えていたことを口にした。

本来ならこういう設置されている魔術式は微弱であれ魔力が通っているものだ。原理はマジックアイテムと似ている。これは魔力の残滓程度もなかった。

つまり一度も使用したことがない。

この最深部に人が来ていなかったことも――この魔術式を本当に成功させるかどうかを試すことも。

圧倒的な自信の表れ。実力の表れとも言えるか。それに足る実力は持っていたのだろう。この書物を記した魔王は。

ひとまず。

起因となる魔術式をピシっと凍らせた。

しかし、それだけではすでに発動されているものは止まらない。

「転移」

魔物が多くなっている。

このままだと地下ダンジョンにいる冒険者達を見つけられなくなる。その前に、

「うおっ、誰だあんた! いや。それよりもはやく逃げろ! なんかやべーぞ!」

「ほい、転移」

一人目だ。

巨大な斧を持った三十代くらいの男を地上に戻す。

自分だけはダンジョンのまま。

次。

「ぬお! 新手の魔物かと思っ……」

「転移」

三人目。

四人目。

五人目。

二十を超えた辺りから数えていない。

だが、残り一人になるまで来た。

もうダンジョンの下の層は魔物で満ち溢れている。

転移した先には金髪のイケメンがいた。

だれだったか。なんかすごい人だったはずだ。

そいつがいた。

「じ、ジード! なにをやっている! 相当まずいことになっているから早く退くぞ!」

「転移」

「ぬおっ」

これが最後だ。

これで全員だ。

この地下ダンジョンには膨大な数の魔物と俺しかいない。

魔力を足元に集中させる。

――かつて俺がいた禁忌の森底では氷雪を操る魔物がいた。

それには俺の食糧の魔物たちまで凍らされて苦労させられた。

だが今ではその魔物の魔法は――

「弐式――冷獄」

――俺も使えるものとなっている。

俺を起点として地面からピシピシと軋むような音を立てて凍っていく。凍る速度はおよそ犬猫が全力で走るくらいか。

この入り組んだ地下ダンジョンで、本当の生き物かのように蠢く。

たしかに強烈な魔物たちだ。下に行けば行くほどランクが上がっていく。おそらくSがつく魔物も二桁はいるだろう。

それらすべてを退治するってわけにもいかない。

ここは仮にもダンジョンだ。

地下の秘宝がすべて取られていても魔物がいる。それだけで生計を立てている人だっているわけだ。

「うし、こんなもんだな」

あらかたの処理を終えた。

稼働した魔術式を凍らし機能不全にさせ、生まれ落ちた魔物を凍らせ殺した。

行き通った魔法に魔力供給を解除する。

ぱりんっとガラスが壊れるような音がして、凍ったすべてが塵のごとく消え去る。

これで自分のケツは拭けただろう。そもそも依頼人の不手際だとは思うが。まぁこちらの確認不足だったということで。

「転移」

今度は俺自身をこのダンジョンから転移させる。

代り映えしない森に戻ってきた。

そこには唖然とする者、焦っている者、俺の姿に気づいて驚愕を隠そうとしない者と別れていた。

そして、どこか憎らしいといった顔をしている依頼者も。

「これ。依頼されていた書物です」

書物と同時に依頼書も渡す。

依頼人が依頼書と書物を確認した。

「ジードな、ふん。……ああ。たしかに受け取った。依頼達成金だ」

俺が手渡した書物を荒っぽく奪うように取り、反対に金のつまった麻布を俺の方に放り投げる。

なにかしただろうか。

ここまでされる謂れはないのだが。

依頼達成金の確認をするため麻布を開ける。

「ちっ。おい、なに開けてんだよ」

最初とは打って変わって随分と口調が荒々しい。

「確認しようとしていただけですが」

「俺を信用できねーってのか!?」

「ギルドを介してますので信用はあります。ただギルドからは確認するのも手順の一つと教わっています」

パっと中を開けると金貨が入っていた。

一枚一枚数える……

足りない。

それも十枚は足りない。予定されていた額よりも大幅に下がっている。

「足りませんが?」

明らかに誤差の範囲ではない。

「ああ? 俺が確認した時にはたしかにあったはずだ。おまえが盗んだんだろ」

いやいやいや。

「こんな近くにいたのにパっと盗めるわけがないでしょう」

本来、こういうこともある。

だからギルドが仲介で先に料金を受け取っておく場合があるのだ。

しかし、例外として信頼に足りる者――たとえばギルドを介して十回以上の依頼をした者や組織――は金貨を直で渡す場合もある。ギルドの仲介料はまた別の日に渡す、ということもできる。

それは今回の場合の多数指名やら、あるいはギルドに直接赴いて金を渡すのに時間がかかる際に用いられる。

「あのなぁ! 俺は『勇者協会』の神官だぞ!? どこの馬の骨とも分からん輩に渡す金ではないのだ! 本来ならこの依頼は位の高い者、出自が明確なものに渡されるべき金だ! こんなことで試験が通るとでも思っているのか!!」

依頼人が俺に怒鳴りつける。

勇者協会。神官。位の高い者。試験。

いろいろと知らない単語が出てきた。ここにクエナがいたら話をまとめてくれるのだろうが、依頼金も受け取らないまま帰ってしまったようだ。

「そもそもだ! この依頼は三日以上はかかってしまうはずのもの! おまえ最初から不正をして試験内容を知って抜け道かなにかを知っていたのだろう!? そんな卑怯者には渡すつもりは……!」

「バイリアス・マッデン。あなたのことは知っている、ここにいる冒険者全員が。それは貴殿も自覚をお持ちのはず。だからこうして口上を述べているのでしょう」

「うっ、ウィーグ・ステイルビーツ様……」

っと。ここで金髪のイケメンが俺と依頼人の間に入ってきた。そうそう、ウィーグだ。名字のステイルビーツ王国っていう国の王子様。ようは位の高い者ってやつだ。

「ですがジードはあまり世間を知らない様子。俺の名前も知らなかったようだから、当然貴殿の名前も知っていたとは思えない」

ウィーグが爽やかに言ってのける。

いや、依頼人の名前くらい把握していたぞ。依頼書に書いてあったからな。

とはまあ邪魔になるので言うことはないが。

「ですが仮にもしもバイリアスのことを知っていて貴殿がそのまま渡した依頼金を飲んでいたとしたら……貴殿は勇者協会の神官として腐っていたところだろう」

「なっ」

「もう一度、数えなおしてみてほしい。俺に失望をさせないでくれ。俺は勇者になる運命をもつ。その過程で穢れくらい負っても構わない。正義を執行するために必要であるならば。だが、俺以外に穢れを持つ者がいれば祓わなければいけない。それは過激派の魔王であっても、身内であっても。いかなる方法を用いても。そのために穢れを受けてもいいとしたのだから」

おお。

こいつも最初と様変わりして気品ある物言いになっている。

なぜ最初からこれが出なかったのだろう。どっちが素なのだろう。

どちらにせよ、良く言ってくれたぞ。穢れとか魔王とか色々とクサいけど。

まぁ気になる点はいくつもいくつも湧いて出るが、それよりも依頼人のバイリアスが懐から別の麻布を出した。

「……申し訳ない。そういえばこちらも足しての金額でした」

おそらく俺が全員転移させた後で事情を呑み込んだのだろう。

そして俺の分を減らした、と。

まぁ穏便に済むならそれで話は早い。

「ありがとうございます。ウィーグも、ありがとう」

「お、おう! あの『光星の聖女』ソリアが認めた男……俺のライバルだからな!」

なんだか張り切った様子で言ってきた。

ライバルって何のことかと思ったが、まぁ大体話の内容が見えてきた。

正直……興味ないが。そもそも睨みつけている神官とやらのバイリアスが良しとしないだろう。

ちゃちゃっと帰ろう。

「転移」

今日の何回目かの転移をして、泊まっている宿に戻った。