軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シーラ視点2

唖然とした空気が漂っていた。

あまりにも未来のジードの来訪は突然で、話が難しいものだったからだろう。私のように理解を諦めた人間はともかく、たとえばリフは頭を悩ませているようだった。

こういう時の態度で性格が出るのだろう。

「くくくっ」

ルイナが急に笑う。

それからジードを見る。

「ジード、なかなか面白い質問をしていたな」

「え? どういうこと?」

クエナが聞き返す。

自分でも気が付けなかったことを、ルイナが気づいた。そのことにやや不満そうだ。

「未来の俺はきっと誰にも相談していないよ」

疑問に答えたのはジードだった。

それから、ルイナが頷いた。

「そうだな。誰かに相談したかと聞いた時、かなり動揺していた」

「は、恥ずかしがってるだけかと思ってた……!」

衝撃の事実に、感想が口を衝いて出る。

「その可能性もあると思いますが、シーラさんは未来のジードさんと接した時にどう思いましたか?」

「あまり気持ちの良いものじゃなかったですっ」

手をパシリと挙げる。

ソリアは口調も相まって先生のような雰囲気があるから、自然と身が引き締まる。

「はい。では、未来の私たちはどう思うでしょうか?」

「それは……同じ……かな?」

「私もシーラさんと同じ意見です」

ソリアが笑む。

なるほど!

ふむ。

…………ふむ?

リフのように顎に手を当ててみても賢くはならない。それだけはわかった。

「つまり未来の私たちに相談していたら止められているってことじゃない?」

わかっていない私を見かねて、クエナが救いの手を差し伸べてくれる。

たしかに、それなら単に照れているだけじゃないと説明になる。

満足して頷いた私を見て、ルイナが口を開く。

「では――」

「私は未来のジードに賛成よ」

ルイナの言葉を、ネリムが遮った。

「ネリム?」

聞き間違いを疑い、問い返してみる。

けど、ネリムは迷うことなく、真っすぐな眼差しでジードを見ていた。

「アステアは許せるものじゃない。あれは異常な暴走をしたマジックアイテムよ」

「では、未来のジードさんがしようとしていることは許せるんですか?」

ソリアが聞く。

「比較対象はアステアよ。もちろん許せる。過去のジードについても魔法技術が進化すれば……あるいは寝たきり状態を解消できるかもしれないじゃないの」

「その根拠は?」

ルイナが聞く。

「あるわけないでしょ。そもそも未来だのなんだの。あんな高度な魔法は私にはムリ」

「なら、そんなこと言わないで」

クエナが言う。

あのクエナまで言う。

ジードを好きな人たちからすれば、ネリムの言葉は許されるものではないんだ。

でも、詰めてくる三人に対して、ネリムは苛立ちを見せる様子はない。自分が否定される理由を知っているからだろう。そして、その気持ちをわかるから……かもしれない。

「……私だって別に言いたいわけじゃない。普段からジードのことを嫌いだって言ってるけど、そこまで嫌いってわけじゃない。じゃなければ一緒にいなかった。――スティルビーツって知ってるわよね?」

ネリムの視線がジードに向く。

ジードは頷いて口を開いた。

「ああ、ウィーグとかフィフのいる国だ。てか、あいつらが王族だったか」

「私の好きだった勇者がスティルビーツの王族よ。血縁の血縁……くらいの関係で、そのウィーグとかフィフってのは遠い子孫だけどね。あなたはそのスティルビーツを何度も救ったって聞いた。だから、あなたは私の好きな人の思い出の場所を守った。嫌いになれるわけがない」

「おまえ……」

ネリムが心を開いたように喋る。

いいや、元から開いてはいたのだ。

ただ明確に自分から話すことはなかった。それだけのこと。

「いや、でもやっぱり嫌いだけど」

「どっちだよ……」

その掛け合いもこなれたものだ。

二人の仲は悪くないと、私は思う。

「胸を揉まれた感覚とかまだ残ってるし、キモイ」

「む、むむむ、胸を揉まれた!?」

ソリアが動揺する。

「そ、それってシーラの身体に乗り移っていた時だろ!?」

「感覚は私のものだったのよ。あんたの手で実際に触れられているみたいで腹が立つ」

私の身体のことなのに、私は知らない残ってない!

なんとも羨ましい……

いや、けしからん!

ソリアも「ぐぬぬ」と口を固く結んでいる。

「じ、事故だったわけだし、許してくれよ……」

「むり」

「んな理不尽な……」

軽快な会話で、ネリムも本気で怒っているようではない。

本来ならネリムは嫌悪感でいっぱいになるはず。

でも、むしろ険悪な空気なんて微塵も感じられなかった。

それなのに。

「だから――本気で戦って欲しい」

「本気でって……」

クエナが言いかける。

それは「本気でジードと戦うつもりなの?」と尋ねそうになったのを、ネリムのプライドのために止めた風にも捉えられた。

「殺すつもりで行く。断らないわよね?」

ネリムが殺気立つ。

私も随分と強くなった自負があるけど、怖気づいてしまうくらい、ネリムのオーラは尋常じゃなかった。

ユイはルイナを庇うようにして立っているけど、おそらくユイでも……。

そんな中でジードだけは悲しそうにしていた。悲しそうに感じられるだけの余裕があった。明確な実力の差だ。

「……ああ、そうだな。いいよ」

「なっ」

驚いたのはソリアだった。

彼女は平和を求めている。誰も傷つかない世界を望んでいる。訓練程度なら見過ごすだろうけど、ネリムは殺すつもりと言っていた。

それをジードが受けたのは予想外で、忌避のような感情が出たのだろう。でも、ジードの眼差しを見て、押し黙った。

「ありがとう。受けてくれなかったらどうしようか考えてたから助かるわ」

ネリムが剣を構える。

リフが一帯に魔法を展開した。

「しょうがないのう。どれだけ耐えられるか分らんが衝撃は抑えてやろう」

「そんなことをしなくても転移すればいいじゃないか」

ルイナが不満そうに伝える。

せっかく精霊から取り戻した城だから、惜しむ気持ちがあるのだろう。

「まぁまぁ。そんなことを言うでない。精霊がどこに潜んでおるか分らん上に、史上最高の剣聖と人族空前の怪物の戦いじゃぞ? 見物したい連中は少なくない」

リフが言ったのはクエナや私だ。

たしかに二人の戦闘には興味があった。

真剣な勝負だからネリムに失礼かもだけど、さらに上を目指したい気持ちはちょっとある。ジードに貢献できることが増えるのは良いことだから。

「ふん。ま、ここは開けておいてやる。私は奪還したばかりの首都について話し合ってくる。ユイも付いてきてくれ」

「はい」

言って、ルイナとユイが部屋から出ていった。

残ったのは戦闘に巻き込まれても問題がない面々ばかりだ。

リフも興味津々に鼻息を荒げている。

でもソリアだけは違った。彼女は心配そうに見ている。怪我をしたら即座に直すつもりなのだ。優しい。

「じゃ、始めるわよ」

音はなかった。

ネリムが風よりも速く突き進む。

剣をすくい上げるようにして振るう。空気を裂かんばかりの鋭さだ。

ジードの方は身をひとつ避けるだけ。見切っているのだ。

けど、ジードの眼下に迫ったネリムは激しい攻勢に出る。

私だったらどう受けるだろうか。

受けきれるだろうか。

ダメージを被らないで戦えるだろうか。

いや、きっとジードのようにはいかない。

あのネリムの速さだ。

致命傷には至らないだろうけど、完全に避けきるのは難しい。

受けるのはもっと難しいはずだ。

それでも、昔と比べれば戦えている方だ。

生半可な戦闘能力ではネリムの初撃で昇天している。

でも、やっぱりジードは別格だった。

ネリムの剣は衣服をかすることすらできない。

魔法を織り交ぜても敵わない。

ネリムが顔を歪めている。

苛立ちが伝わってくる。

「私は本気で殺し合うって言ったわよね!? 死んでも構わないのに……!」

「殺せない。今までの戦いで、もう力の差は分かるから」

本気で殴り合うことも殺し合うこともできる。

けど、それは一方的なものになりかねない。

いや、なるだろう。

見ているだけでわかる。

ジードが一撃を加えるだけで、ネリムは立てなくなる。

でも、ジードは手を出さない。

そのことにネリムは怒っている。

覚悟をなじられている気分なのだ。

「ふざけ――」

「俺はワガママだ。ネリムが嫌いだって言うのも分かる。でも、俺はネリムにも死んでほしくない。殴りたくない」

ネリムの望みはなんだっただろうか。

それはアステアを壊すことだ。

未来永劫だけじゃない。

過去のアステアも含めて全て壊すことだ。

だから、彼女は未来のジードに賛成した。

でも、今のジードは反対している。

そして、ネリムは今のジードに抗う術を持たない。

ネリムは負けず嫌いだから、なにもしないで自分の意見を押し殺したくなかったのだ。

「……そう。それは私も同じ」

ネリムが剣を下ろす。

もはや戦闘の意志はないようだった。

「なんじゃよ、もう終わるのか? せっかく魔法を展開した意味がないではないか」

リフが不満げに口を尖らせる。

ネリムはそれを見て、少しだけ疲れたように笑った。

「信頼しちゃったから」

ああ、そうか。

その一言で理解した。

ネリムはジードのワガママを、結果的に「良いもの」だと思ったんだ。

私はずっと前から知っていたけど、ジードは悪じゃない。

ジードは野性の本能が出てくる時がある。

でも人を殺したくないと願ってもいる。

なにかを殺す時は食事や真剣な戦いの時など、必要に迫られた場合だ。

それを今ネリムは見たのだ。

本当は負けて清々しく終わりたいつもりだったのに、「コイツを負かすのも、負かされるのも違う」と考えてしまったんだ。

「……もう終わりでいいか?」

「ええ、いいわよ」

ネリムが肩を竦める。

今の彼女に迷いはなかった。

そんなネリムを見て、ジードがニヤリと笑んだ。

「そうか。なら、もうやることはひとつだ。未来の俺を止める方法を思いついた」

「くく、言ってみろ」

どうやらリフも思いついていたようで、示し合わせたように笑っている。

ジードが言う。

「ああ、題して『告げ口作戦』だ」