軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

話をしよう

廊下を歩いていると、目の前からとことこと見覚えのある顔が歩いてきた。

幼い容姿には似合わず、長い紫色の髪は随分と派手だ。

「やーや、元気そうじゃの」

リフがない胸を張りながら手を挙げて挨拶してきた。

ギャップで可愛さしか生まない幼女は、気丈にも偉そうに振る舞っている。その頑張りが報われる日は来るのだろうか。

「元気だけど、忙しいことばかりで大変だよ」

「かっか、帝王となるのじゃから当然じゃの」

「リフも客として招待されたのか?」

「それもあるが、お主に伝えておかねばならぬことがあっての」

「なんだ?」

俺が聞くと、リフが魔法を展開する――。

習慣的に咄嗟にすこしだけ身構えるが、敵意は感じない。

「今のを覚えたか?」

「んー……たぶん」

かなり複雑な魔法だった。

いくら魔力を追えても一度だけでは同様のことは難しいだろう。

「お主でさえ初見では無理そうか」

「なんの魔法だ、これ」

俺が問いかけると、リフはドヤ顔を見せた。

なんだ、この可愛い生き物は。

「例のやつじゃよ」

言われて胸がときめく。

「できたのか!」

「もうすでにギルド職員で試した。魔法を代行して掛けてやると素っ頓狂なことになっておったわ」

「すごいな。リフは自分でやってみたか?」

「いいや……」

そういうリフの顔は少しだけ暗かった。

しかし、相変わらず凄まじい魔法を作ってしまうものだ。

「もう少しだけ魔法を教えておいてやろう。いつ危険が訪れるかわからないでな」

「ああ、わかった」

中庭。

リフから稽古を受けているとひとりの少女が声をかけてきた。

「ジードさん、今よろしいですか」

パッと見た時は、随分と落ち着いている少女だと思った。

金髪がぐるんぐるんしている髪型だ。

リフが瞬間的に驚きの表情を見せていたのはなぜだろう。

「だれだ?」

「婚儀の招待客として呼ばれました。新しくスティルビーツの女王となります、フィフ・スティルビーツと申します」

スティルビーツ……フィフ。

その名前には聞き覚えがあった。

たしか……

そう、ウィーグの妹だ。

「俺になにか用か?」

「お話はできれば二人だけで」

視線がリフに向く。

リフに外してもらいたいということだ。

ややあって、幼女が肩をすくめた。

「不倫の現場など見たくもないのじゃ。老人はここでおさらばさせてもらうぞ」

「よせ、ルイナに本当に殺される。それに初対面だぞ」

「ふぉっふぉっふぉ~」

リフがおどけながら場を後にする。

影も見えなくなったのを確認して、フィフが口を開いた。

「今回の戦争をご存じですか」

「戦争って……」

「ウェイラ帝国とギルドの打倒を目指している複合軍です」

考えているものはやはり一緒だった。

フィフはスティルビーツの女王となるのだから、知っていて当たり前のことか。

「知っている。それがどうかしたのか?」

「首謀者のひとりは私です」

一瞬、耳を疑う。

「……なんだって?」

「複合軍の長のひとりが私なんです」

とんでもないカミングアウトだな。

彼女にしてみればここは敵地だろうに。

そういえば、だからリフは彼女を見た時に驚いたのか。

きっと、リフとルイナはフィフが敵であることに気がついている。

その上で招待したのだ。

目的は……――吊し上げだろうか。

それを実行できるだけの自信がルイナにはあるのだろう。

だが、ここに来ている時点でフィフにもなにかしら自信があるようだ。

「俺に言ってよかったのか?」

「この戦争の目的をご存じですか」

「そりゃ……ウェイラ帝国とギルドを滅ぼすことじゃないのか」

「違います」

俺の返答に、フィフが間髪入れず首を左右に振る。

「違う? だが、アステアの命令を受けているんだろ?」

「ええ、アステア様のご意向で動いています。しかし、目的はウェイラ帝国やギルドではありません。私とアステア様の目的はあなたです、ジード様」

「俺? この戦争の目的が?」

「はい。そもそもこの戦争がここまで大きく広がることはありえませんでした。適当なレジスタンスがウェイラ帝国によって潰され、地方に逃げてもギルドが取り締まって終わりだったでしょう。そんな体制ができあがっています。これが悪意によって統制されていたのなら、どれだけ恐ろしいかと思ってしまうくらいに」

それは時々思うことだった。

フィフは一国の主だから、特に如実に感じ取っているのだろう。ウィーグも言っていたが、中堅国家などは板挟みにあいやすいのだというから。

「じゃあ、ここまでの規模にフィフが拡大させたっていうのか?」

「正確にはアステア様が私を介してここまで広げたのです。その理由はジード様を獲得するため」

「獲得って……俺のためにこんな戦争をしているんだったら、すぐにやめてくれ」

「もう止まりません。私はあくまでも首謀者のひとりに過ぎませんし、アステア様もやめるつもりはないようです」

「じゃあ、俺を得てなにがしたいんだ?」

そこに解決の糸口があるように思えた。

だが、フィフが目を伏せて、

「わかりません」

それだけポツリと言った。

彼女なりに無力感を悟ったのかもしれない。

「今アステアと喋れないのか?」

「彼女はあなたに近づけば近づくほど会話ができないと仰っていました。また最近の大陸はリフが邪魔をしているから魔法を行使できないとも」

リフがなんとなくで行っている対応策は功を奏しているのか。

……半信半疑だったけどやっぱりあいつすごいな。

「じゃあ、フィフはなんのために来たんだ? 俺に首謀者だって、この戦争の引き金が俺だったって言いにきただけなのか?」

「いえ、約束していただきたいことがありまして」

「約束?」

「この戦争に参加しないでいただきたいのです」

あまりにも率直で、一瞬だけ戸惑ってしまう。

「どうしてだ?」

「ジードさんとは戦いたくありません。それに、あなたは強すぎます」

やはり素直な回答だった。

この子からは敵意を感じない。

ウィーグの言うとおり、あまり謀をするようなタイプには思えなかった。

「でも、それでいいのか? 戦争をすることになるんだぞ」

「必要なことだと、アステア様は言っています」

「……もっと時間をかけられないのか? たとえば、フィフに伝言係としてアステアと繋いでくれないか」

「そうすればウェイラ帝国とギルドによって完全に芽を絶たれます」

フィフの立場で考えると難しいのか。

だから俺に手を出さないでくれと伝えているのだ。

「俺にとってルイナ達は大事だ。無理を言わないで欲しい」

「……どうしても、ですか」

「約束はできない。けど、そうだな。なるべく手を出さないようにしてもいい」

「本当ですか!?」

思ってもいなかった、そんなリアクションだ。

彼女からしてみれば俺はルイナ達の側なのだから、当たり前なのだけど。

「ただ、俺が手を出さない理由はフィフ達では絶対に勝てないと思っているからだよ。俺が手を出す必要もないと感じているからだ」

なにか言いたそうにしながらも、フィフは俺から言質を取れたことで納得した。言質といっても戦う時は戦うとわかっているだろう。

ただ、意図は汲み取ってくれたはずだ。

この戦争に俺が参加しない、意図を。

「それだけ聞ければ満足です。それから今のことは他言無用で願えますか」

「ああ、わかった」

そもそも言わなくても問題ないだろう。

リフやルイナは勘づいている。

その上でフィフを招待したのだ。

彼女らの思考がだんだんと読めるようになってきたのを感じて、すこしだけ恐ろしくなった。

(つまりフィフは……)

そこまで考えて、俺はなんとなくウィーグを思い出していた。

そんな俺は甘いのだろうか。