軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

守りぬいたら

急いで来たものの、すでに魔族領は荒んでいた。

「あー……エイゲルはどこまでやった感じだ?」

「死者は出ていないみたいだよ」

フューリーが返答してくれる。懐かしい顔だ。

俺が腕を止めたのはクオーツだったか。かなりズタボロにやられている。気まずそうに視線を逸らして腕を払いのけてきた。

「よかった。なら賠償できる範囲は人族側でさせてもらう。もちろん、罪も償わせる。だからここは許してやってくれ」

意外そうな顔をしたのはフューリーだった。

「ここに来たのはエイゲルくんを取り返すためなの?」

「ああ、できるなら平和的に解決したい」

「ははっ、アステアから使命を受けたからではないんだ?」

意外な問いかけだった。

フューリーはアステアについて何かしら知っている様子だ。

こちらからも聞き返したいところだが、今はエイゲルが優先か。

「むしろ逆だと言っていい。俺はアステアから守るためにエイゲルを連れ戻しに来たんだ」

「僕を女神アステアから守るため……?」

エイゲルは口をぽかんと開いたまま、状況の理解が追い付いていない様子だった。

「その様子だとアステアの狙いがわかってきたのかな。やっぱりギルドのマスターと話し合ったとおりで間違いなさそうだ」

「おまえこそ、わかっていたのか?」

「うんうん、ジードくんがその感じなら、ぼくのわかっている範囲を教えてあげてもいいかな。さっきはエイゲルくんに意地悪しちゃったけど、ボクの知ってること全部話してあげるよ」

俺としてもあらかたの事情を知っている。というかリフはルイナから聞いていた。

だが、フューリーの話を遮るわけでもなく、新たなる情報を得られるかもしれないと考えて頷く。

「女神アステアの目的は魔族と人族の戦争そのものだ」

そして、得た情報は前提を覆すほどのものだった。

「待て。アステアは勇者や魔王をはじめとした突出した実力を持つ個人を殺すために動いているんじゃないのか?」

「なにそれ?」

「魔王を討伐した後、勇者パーティーはアステアの管理下にある『裏切り者』によって最後の一人になるまで、仲間内で殺し合いをさせられる。それは強すぎる個人は大陸を荒らしかねないからだと。俺達はそんな犠牲を出さないために動いているんだ」

もっといえば、アステアの支配から逃れるためだが。

「ふーむ。ボクの知りえているものとは随分と違うね」

フューリーが口を尖らせて疑問符を浮かべた。

大人しくなっているクオーツが言う。

「おまえの知っているものとはなんなのだ」

「君たちは魔族と人族がどれだけ戦争をしたか知ってる?」

「二十二回だ」

即答したのはクオーツだった。

それは人族も共通の理解で、俺も思い出して頷いた。エイゲルにしても知識として覚えているようだった。

だが、フューリーは罠にうまく引っかかってくれたとばかりに楽しそうに首を左右に振った。

「いいや、その何倍も、何十倍も戦争をしているんだ」

となると、下手をすれば百回以上も戦争していることになるのか?

俺も驚いたが、何より即答してみせたクオーツが口を開く。

「なっ! どういうことだ!」

「うちに研究好きの魔族がいてね。そいつが偶然掘り起こした資料があったんだ。それ曰く、ボクたちの前の世代……つまり、何千年も前から魔族と人族は戦争していたことになる」

「それは歴史が刻まれる前の話か? それはもう神話の領域のはずだろうが!」

「いいや、神話よりも前の話だよ」

「そんなものが残っているものなんすか? 保存はどうやって? 文字は共通だったんすか? そもそも何千年も前ってどうやってわかったんすか?」

「おいおい、いくつも質問しないでくれよ」

フューリーが困りつつ苦笑いを浮かべる。

エイゲルは待ちきれない様子で真っすぐに見つめているため、フューリーは答えざるをえなかった。

「保存方法はボクたちの時代にはないものだよ。オーバーテクノロジーって言えばいいのかな。時代がわかったのは地層だとかマジックアイテムの経年劣化でね。ただ一番の不思議は文字が共通だったこと。これだけの長い時間が経っているのにね」

そこまで話を聞いて、フューリーが虚言を吐いている可能性を考慮したのはクオーツだけのようだ。

エイゲルは純粋な興味から聞いている。

俺は……直感的にフューリーが嘘をついていないように感じた。なにより、アステアの件では様々なことが明るみになっていたことや、未だに常識が欠陥しているところがあり、別の時代があったことの驚きが薄いことも起因しているのかもしれない。

「だからアステアの目的は戦争ってことか?」

「ボクからしてみれば純粋に戦争をさせて楽しんでいると思うんだよ。実際にここまで無意味に思えるほど魔族と人族の戦争が起こっているから。でも、それ以外の目的もあるように感じる。だって何度も似たようなものを見ても飽きるのが普通だろ?」

それが本当だとすると、あまりにも純粋な悪だ。胸の奥底から反吐が出る。それなのに、フューリーは随分と落ち着き払って言っている。しかし、それはこの状況を諦めたことで生まれた平静さなのかもしれないと感じた。

「アステアの心理なんて推し量るよりも、今は暴走を止める。できれば倒したい。それが俺達の考えだ」

「なるほどね。ま、そちらのギルドマスターさんは魔族領でも仲良くしてくれているからさ。ギルドはうちもなかなか助かってるんだ。どちらにせよ、協力関係だよ」

それでも中々に疑心暗鬼な様子だ。それも俺達の知らない歴史から次第に積み上ってきたのだから仕方ないが、こうして手を取り合えているだけで前に進めているのだろう。

「なら、エイゲルは?」

「手を出す気なんてさらさらなかったよ」

「なっ! こっちは被害が出てるんだぞ!」

クオーツが不服そうに怒鳴る。

エイゲルにやり返さなければ収まりがつかないとばかりだ。

そんな彼にフューリーが肩を揉みながら微笑みを浮かべる。

「も~、それはボクがなんとかしてあげるからさ」

「断じてフラウフュー・アイリーの手など借りるものか!」

「じゃあ君が倒されるの無視しちゃうけどいいの~?」

フューリーが意地悪く身体を左右に揺らしながら陽気に言った。それにクオーツが「ぐっ……!」と言葉を詰まらせている。

なかなかに悪魔だな。

しかし、これで解決できそうだ。

「フューリーがいてくれてよかったよ。俺はこっちで戦いなんてしたくなかった」

「あはは、よかったのはこっちだよ。覚えているかい、ボクがジードくんを勧誘した時の話をさ」

「ああ……俺のことを勇者って言ってたな。そうか、あの時からもうアステアのことを知っていたのか」

「そうだよ。だから、君が味方になってくれて頼もしいよ」

だから俺と交流を持ったのか。

フューリーにとって、あの時の俺が側近三人を倒した時の恐怖感は果てしないものだったのだろう。

影響力を持つ自分が害されるかもしれない。

もしくは魔族領が悲劇の場所になる。

それだけの趨勢が決まったようなものだったのだから。

フューリーが魔王にならないのは、アステアに抗うためか。

そうして俺が敵になったのなら、アステアに抗うのも難しくなる。まず俺に抗わなければいけなくなるのだから。

「じゃあ、エイゲルと俺は行かせてもらうよ。ここも戦闘が終わってから魔族が集まり出している。これ以上の問題を起こすわけにはいかないからな」

「おっけー!」

「くっ……わかった」

魔族側の了承は得られた。

エイゲルに手を差し出す。

やや間があって、エイゲルが手を重ねた。

「転移」

視界が点滅した。