軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12

転移した先は空中だ。

「本当に上じゃないの!」

クエナが思わず叫ぶ。

魔力で身体を強化すれば問題ないとはいえ、かなり高度があった。

王城の屋根を見れば数メートル程度の距離だが、地上は何倍も離れている。備わった本能が恐怖を呼び起こすのは無理もない。

「――行くわよ」

隣で落下するネリムが小さく口にする。

それから剣を振るい、空気を震わすほどの圧力が空から降り注ぐ。

風の系統の魔法であると分かる。

それらはクエナ達よりも先に王城に辿り着く。

通常より遥かに頑丈な作りをしている建造物だが、ネリムの魔法によって豆腐のように簡単に崩されていた。

(本当に化け物ね……!)

クエナが改めて認識する。

隣にいる青い髪の少女は史上最強の剣聖と言われていた傑物なのだと。

それだけネリムの起こした猛威は突出しているとわかる。

二人が着地したのは巨大な空間だった。

突貫工事をしたのだろう。雑にくり貫かれた部屋を連結させている。

「なっ、何者だ!」

突然の来訪者に、部屋にいた人物たちが声を荒げる。

「ここの住人だった者よ」

つい、クエナが懐かしむような言い方をする。

住んでいたとしても随分と昔の話だ。

しかし、どことなく内装などに見覚えがあって郷愁を感じたのだろう。

「ル、ルイナ……!? いや、似てはいるが、妹のほうか!」

「よくご存じで。そちらはウェイラ帝国軍……じゃなさそうね?」

「……っ!」

クエナの視界には三十人程度のローブ姿の集団があった。

魔法陣が描かれており、今も維持するために数名がクエナ達に干渉することなく、苦悶の表情で行使し続けている。

「ビンゴみたい。『アステアの徒』が擁する魔法部隊で間違いないわ。ここを抑えれば洗脳の魔法は解ける」

ネリムが嬉々と剣を構える。

「貴様ら……!」

集団が躊躇なく魔法を発動する。

上位の攻撃魔法や高度な転移、幻惑の魔法を行使している。

高いレベルの魔法使いであると分かる。

だが、相手が悪かった。

それら魔法部隊は一瞬にしてネリムによって排除される。

逃げようとした魔法使いもいたことだろう。

しかし、決して一人たりとも逃げ切れてはいない。

「あの……私の仕事がないんですけど」

「クエナはルイナから託された仕事があるでしょ。ここからは別行動よ。私は他の魔法部隊を探すわ」

「他の魔法部隊? こいつらだけじゃないの?」

「これだけの規模と神域レベルの魔法を常時発動しているのよ。おそらくルーティンでやってるはず。他に三部隊はあると考えてもいい。まぁ探知魔法でおおよその検討はついてるんだけど」

「そんな数を相手にネリムだけでやれるの?」

「私の心配は不要よ」

「それもそうね。こんな一瞬で終わらせちゃうんだから」

「それよりもクエナの方が大丈夫なの? 魔法部隊と出くわしたら戦わないといけないのよ」

「やれるに決まってるでしょ」

クエナが心外だと頬を膨らませる。

どうやらネリムの方も本気で気遣っているのは別の方面だったようで、あっさりと頷く。

「この騒ぎを聞いて自爆を決めているかもしれない。時間稼ぎにシフトされたら面倒よ。とにかく何かしらの怪しい動きがあればすぐに教えて」

「わかったわ」

ネリムと別れ、クエナが顎に手を当てて思考に耽る。

(もしも自爆用のマジックアイテムなんてあるとしたら……どこよ?)

肝心なことをルイナから聞きそびれていたことに気が付き、少しだけ自分に呆れた。

あるいはルイナでさえ場所までは分からないかもしれない。

だが、冷静なクエナだったら問うくらいはしていただろう。それができなかったのはひとえにルイナに対する敵対心だった。

(これは嫉妬だ。私にないものを持っていたから……)

クエナが自戒する。

ルイナは多くを持っていた。

若くして才覚を発揮し、多くの貴族や将軍の支持を得ていた。

何よりクエナは娼婦との子供であり、ルイナは正妻の子供だった。

幼いながら「差」を痛いほど理解してしまっていたのだ。

(元宰相の件だってそうよ。本当は分かってる。ルイナは私を逃がしてくれたんだ)

クエナが拳をつくる。

強く握る。

強く否定したくなる気持ちを抑えるようだった。

(私は娼婦との子供で、ルイナは正妻との子供。血筋のために女性がひとり必要ならルイナだけで十分。むしろ私は不適格。もしもルイナが私のことを見下したりどうでもいいと思っていたりするのなら……私は死んでいた)

守ってくれていたのだろう。

そう思えるほどには不自然な点が多かった。

だからこそ、だった。

(ジードは私のもの。ルイナが唯一持っていないもの。あいつが羨ましがるほどの……)

かつては無意識に感じていたものだった。

しかし、理性が優勢となった今では意識にあった。

ジードの存在は心理的にルイナに対抗するための心強い道具にもなっている。

(……私はなんてことを)

そんな考えを持つ自分に反吐が出る。

だが、因果関係で結びついてしまうのだ。

だから、より一層ジードに対する想いが強くなってしまうのだ。

(最初に好きになったのはいつなんだろう……でも、きっとルイナと再会するよりも前に……)

好意は紛れもない本物だった。

だが、脳裏にルイナがちらついて仕方ない。

(あああー! もう、そうじゃない。探すの! 今はとにかく……)

クエナが少しだけマジックアイテムの在り処について考える。

たった少しだけで、なんとなくの予想をつける。

それから足を動かす。

赴いたのは王城の中央。

食料の貯蔵庫も担っている場所だ。

(まあ十中八九ここね。ここになければ王城にはないと考えてもいい)

クエナが巨大な扉に触れようとして止まる。

(……もしもウェイラ帝国がなくなったら? きっとルイナは何もなくなる。もしかすると普通の人として過ごさなければいけなくなる……?)

自分にとって都合の良い考えばかりが浮かぶ。

「おや? どちらさんですか?」

突如、声がかかる。

振り返ると眼鏡をかけたぼさぼさの髪の少年がいた。

エイゲル

多種多様なマジックアイテムを操る、次世代の魔法使いとも言われる者だ。

そして、彼は賢者だった。

「……!」

クエナが構える。

アステアの徒は敵だ。

だが、そんなクエナの警戒心とは反対に、エイゲルは慌てた様に引き気味だ。

「え? た、戦うっすか?」

「そのためにここにいるんじゃないの?」

「いや、僕はその部屋の中に用事があるだけなんで」

「ここに? なんの用事?」

クエナの問いにエイゲルが悩んだ風を見せる。

「さっき王城の天井に穴ができていたんですよ。あれってそちらがやったんですか?」

「正確には私じゃないけど、仲間がね」

「ならこちらの敵ってわけっすね」

エイゲルが言う。

「やっぱり敵じゃないの!」

そうクエナが受け取り、クエナが足に力を入れる。

しかし、エイゲルが慌てて手を振って敵意のなさをアピールした。

「違いますよ。陣営的な話ではそうですけど、僕は戦うつもりはないです。とりあえず急ぐんで中に入ってもいいです?」

「事情を説明しなさい」

「入りながらですよ。じゃなければ僕たち全員お陀仏ですからね」

エイゲルが食糧庫を開く。

中にあったのは豊富な食糧――ではなく、二つの巨大なマジックアイテムだった。

ひとつは黒と白が縞模様になった水晶型のマジックアイテムだった。

四つの柱に挟まれて固定されている。

エイゲルはそちらに用事があったようで、衣服に備えてあるホルダーから幾つものマジックアイテムを取り出して弄っている。

「う~ん? ん……あれ? ああ……」

何やらやっているようだが、クエナは専門外でわからない。

警戒を怠らないよう距離を取りながら、素直に首を傾げて問いかける。

「これなに?」

「転移用のマジックアイテムっす」

「は? なんでそんなものがここにあるの」

「転移とはいっても実際は虚無に送るものっすよ」

「虚無ってなによ?」

「それは解析中なんですが、まあ送った物は全部消失してるんでマグマより生存不可能な場所なんでしょう。なんで転移魔法とか言ってますけど、実際は破壊魔法よりも効率的な破壊用のマジックアイテムっすね」

「は……?」

クエナが呆ける。

話の内容については憶測しかできないが、それが危険なマジックアイテムであることは分かった。

「待って、それをどうする気なの! 発動させるつもりなら――!」

「よし。解除完了っと。これで発動はしないっすよ」

エイゲルが額の汗を拭いながら呟く。

予想外の行動にクエナの疑問符が再び浮かびあがる。

「どういうことよ。あんたは複合軍の側じゃないの?」

「いや、戦争とかどうでもいいんっすよね。争いなんて非効率だし。諍いから生まれる資金だけ貰えれば十分なんで。技術提供こそしましたけど、親から人に迷惑をかけるなって教わったんで後始末してるだけっす」

エイゲルが細々としたマジックアイテム達をホルダーに収めると部屋から離れようとする。

「はやく逃げた方がいいっすよ。そっちは爆発系統のマジックアイテムっす。僕が用意したものではないので早くしないと巻き込まれるっすよ」

それだけ言い残してエイゲルが去る。

「……なんだったのよ」

突如現れた賢者。

ロクに会話をすることなく立ち去って行った。

悪いやつではなさそうだ、とはクエナの勘だった。

しかし、今はエイゲルのことはどうでもいい。転移用のマジックアイテムを無効化させてくれたのなら信じる他にない。

クエナが起動間近であろう、もうひとつの脅威を見る。

あとはルイナから託されたマジックアイテムを使うだけだ。

だが、余計な考えが再び頭をかき乱す。

「……もしもウェイラ帝国がなくなれば」

再びそんな思考に入る。

不意に背後に気配を感じる。

「見つけたのね」

ネリムの声だった。

返り血すらないが、悠長な様子から魔法部隊を全滅させたのだとわかる。

「あとは預かったマジックアイテムを発動するだけよ」

クエナが手を突き出す。

それはネリムによって押される形になってしまったものだ。

覚悟が決まったわけではない。

ネリムが腕を組みながら壁に背中を預ける。

「クエナって劣等感の塊よね」

「急になによ」

「悔しいならルイナなんて気にしなければいいじゃないの」

「別に気にしてなんか……」

「ルイナは気にしているみたいだけどね」

「あいつが?」

クエナが意外そうに言う。

クエナにしてもネリムの洞察力は認めているところだった。

実際に自分の心境を当てられたのだから、ルイナが気にしているという発言も信ぴょう性を感じずにはいられない。

「ルイナは多分、ジードのことが好きよ」

「それはあいつが強いから利用としているだけでしょ。意中だって伝えたのも、ジードをいいように使いたいだけよ」

「動機は人それぞれよ。大事なのはあんたがライバルになってるってこと。多分、それはライバルと認めているから渡されたのよ」

クエナの握るひし形のマジックアイテムを、ネリムが指さす。それから続けて、

「『私は敵の動きを見抜けるぞ』って言ってるのよ。自分の凄さを示そうとしてるの。いい? あんたは自分が思ってるよりも強いわよ」

ああ、とクエナが呟く。

それから自らの頬を思いっきり殴った。

口元から血が滲むほどの強さだった。

「ここでウェイラ帝国がなくなったらジードが困るわよね」

そう言うクエナの頭から余計なしがらみは消えていた。

「私も結構困るんだけどね」

ネリムが頬を掻きながら補足する。

それからクエナがひし形のマジックアイテムを突き出す。

食糧庫だった場所は軋む音と共に絶対零度を迎える。

扉を閉めて外に出ても白い息が出るほどに。