軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ソリアの率いる騎士団が、神聖共和国に帰還する道中で一人の少女を発見した。

「どうされたのですか、スフィ様!」

騎士の声にソリア達が外に出る。

そこにはたしかに見知った顔が涙を流しながら立っていた。

ソリア達が慌てて駆け寄る。

「何があったのですか?」

「ジードさんがウェイラ帝国に付いた話は本当ですか?」

ソリアの問いには答えず、スフィが質問で返す。スフィがかなり動揺していると見るや、ソリアは興奮させないように優しく、しかしハッキリと言う。

「やはりお耳に届いていたのですね。ジードさんは神聖共和国の敵になりました。いえ、正確には……」

「『アステアの徒』ですか」

「知っていたのですか?」

スフィの思いがけない言葉にソリアが驚く。

しかし、それ以上に取り乱したスフィを見て冷静になるよう自戒する。

「先ほど知りました。多くの犠牲を払って……」

「犠牲?」

スフィはあまりにも悲痛な面持ちで、ソリアはそれ以上聞くのを一瞬だけ躊躇った。

その間にスフィが思い出したように言う。

「はやくジードさんの下に行きましょう。ここは危険です」

その言葉にソリアが戸惑う。

スフィの護衛であった信者達も強者ばかりであるが、ソリアの騎士団は人族でもトップクラスの集団だ。

常に前線に立ち、たとえいかなる組織であっても必要な戦闘は厭わない。

だが、スフィがそれを分からないはずがない。

それを分かっていて、ジードの下に行こうと言うのだ。

いったい何があったのか。

それを問いかけるには――答えは突然として現れた。

「逃げられると思っていたのか、聖女スフィよ」

転移魔法。それもロイター率いる部隊が一斉に飛ばせるほど。

しかも、スフィの居場所を探り当てられた。探知魔法だ。

ソリア達はそれだけを整理して、眼前の敵がスフィの評するだけの者達だと理解する。

「ロ、ロイター……」

スフィが尋常ではない怯えようを見せた。

そんなスフィをソリアは背に隠すようにして一歩前に出た。

「これはどういう状況ですか? まるでロイター様が背信行為をしているようにも見えますよ」

「はは、バカな。背信をしたのはスフィです。……ああ、でも、貴女も寝返ったのでしたっけ?」

「――!」

どこまで知られているのか。

おそらくスフィとの連絡は全て筒抜けになっていたであろうとソリアはあたりを付ける。

「やれ」

ロイターが冷たく、そして即決した。

ソリアは戦闘経験こそ少ないが実力者であることに違いはない。そのソリアをして視界にブレがあった程度であった。

ロイターの部隊にいた一人の男が消える。

同時にフィルの茶色い髪がソリアの眼前を舞う。

「貴様……ッ!」

剣と剣のせめぎ合い。ギリギリと鳴る。

フィルが押しているように見えた。

だが、フィルには苦悶の表情があった。

剣のぶつかり合いの末にフィルが押し勝つ。

「はは、さすがだな」

フィルの健闘を見て、ロイターが余裕にも拍手をして讃えた。

だが、ロイターに返す言葉を誰も見つけられない。

フィル、ついで騎士団の各位、それからソリア。この順番で状況の不利を悟った。

それだけ実力差がある。

ロイターの率いている部隊は誰もが等しく強い。フィルと斬り合った男が特別強いわけではない。

「退け。私は大陸でも五指に入る剣の使い手だ」

それはこけおどしだった。

たしかにフィルの剣技は凄まじい。五指に入るというのも自負だけではなく、他者の評価とすり合わせた結果であった。

しかし、ここでは藁にも縋る想いで放った言葉だ。

ソリアの騎士団は強い。間違いなくそう言えるだろう。それでも抜きん出た力を持つのがフィルだ。

そのフィルでさえ、ソリアを襲った男を押し返すのがやっと。

何よりも、ロイターだ。

腹部がキリキリと痛むのが分かる。本能が逃げろと叫んでいる。それでもなお、理性がソリアを守れと重たく抑え込んでいる。

「おまえ達を殺す。それ以外の選択肢しかない。ましてや退くなどという冗談は口が裂けても言わん」

ロイターが冷徹にも言い放った。

凶悪な殺意に騎士団の誰もが慄く。

それならばフィルができる行動はひとつだけであった。

「――ソリア様、スフィ様を連れて逃げてください!」

フィルの後ろに騎士達が立つ。

彼らは全員が爵位を与えられるほどの実力者でありながら、地位や権力に囚われることなく、世のため人のために神聖共和国とソリアの下に集った。

だからといって死を恐れないわけじゃない。

首と胴体が離れて――ようやく恐怖から解放される。

「悪いが逃がすという選択肢もない」

ソリアの騎士と、ロイターの部隊がぶつかり合う。

実力差は一目見て明らかだ。

明らかに――ソリアは逃げられない。

抵抗が叶うのはフィルだけであった。

だが、それもロイターが動いていないからだ。

「貴様……我らをいたぶって楽しんでいるのかっ!」

フィルが怒声を向ける。

それは少しでもソリアから意識を離すためのものであった。しかし、同時にロイターに対する純粋な疑問も含まれていた。

「見極めているんだよ、私の手駒たちを」

「何を言って……!」

否定しそうになるが、たしかにフィルとしても気になるところであった。

ロイターの部隊は明らかに人の領域を超えている。

一対一であればフィルとしても対処はできる。

しかし、二対一ならどうだろう。

三対一であれば負けが濃厚だ。

天才、麒麟児、神童、そして剣聖。

名声を欲しいままにしてきたフィルでさえこれなのだ。

大陸中の精鋭を集めている騎士団でさえ時間が過ぎ去るままに人が死んでいく。

「なぜウェイラ帝国を滅ぼそうとしているのか。簡単だよ。私たちが人族を一致団結させて魔族を滅ぼしたいからなんだ。しかし、残念ながら魔族は強い。そこは認めなければいけない。だから足手まといにならないやつを見極めている」

それからロイターが配下の一人を指さした。

「そこの男はどうしてここまで強くなったと思う? 生き物の壊し方を幼い頃から教えるようにした。魚を締めるように、指一本で骨を折るように、頭蓋をまるで風船を壊すように、壊し方を教えた。もちろん多くの実践を積ませたさ。戦闘の才能がない者を百は殺させた」

その表情に曇りはない。

自分の行動を一ミリも疑っていない。

それゆえにフィルが感じる嫌悪は尋常なものではなかった。

「ゲスが……っ!」

「無知だからそう捉えても仕方ない。しかし、これもアステア様の意向なんだ。人族を効率よく強くさせ、アステア様に役立たせる。そこが大事なんだ」

ロイターは根気よく説明しようとしていた。

それは純粋な信奉心とフィルに対する尊敬からくるものだ。

フィルは強い。だからその育成法が気になる。そしてこれからも人族のために役に立ってくれるだろうと考えていた。

スフィやソリアは人に指示する立場であり、もはや救いようがないとしていた。だが戦闘人であればいくらでも手の施しようがある。

しかし、それはロイターの勘違いであった。

「おまえのようなゴミがここまで近くにいて気づけなかったことに……自分が腹立たしいよ」

「そう思うか? しかし、それがアステア様のお考えだとしたらどうだ?」

「おまえのような狂人にアステア様の名前を出してもらいたくはない」

「ふむ。もしも、でいいさ。おまえはソリアを捨てるか? 命だけは助けてやってもいい」

それは決して戦闘を楽に進めるための方便ではなかった。

命を助け、これから便利に使ってやろうという考えではあったが。

それに、フィルは即答した。

「――私はソリア様のために剣を振るっている」

「そうか。ならばこれ以上の駒の損失は無用だな」

ロイターが大剣を抜く。

ゾワリとフィルが震えた。

空気が数段階冷えたような錯覚に陥る。

だが、ロイターがフィルに剣を振ることはなかった。

ロイターが虚を見つめる。

そこから――男が現れた。

「ジ、ジード!?」

「「ジードさん!」」

最初にフィルが驚きを含んだ声で、ソリアとスフィは信じていたかのような声でジードを迎えた。

ロイターの口が歪む。

「来たか。勇者ジード」

膨大で強烈な魔力同士の衝突に、つんざく音と強風が巻き起こる。

そんな男から発せられた第一声は、

「――逃げてくれ、みんな。今の俺よりもロイターの方が強いみたいだ」

あまりにも衝撃的な言葉だった。

そして、ジードにとっても、ロイターの次の言葉は計り知れない衝撃を抱えていた。

「それはそうさ。俺はおまえの力を知っている。なぜなら俺がおまえの育ての親だからな」