軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それは正式に依頼を受けた当日

シーラから正式に『依頼を受けた』状態になったのは数日経ってからだった。というのも、事が事だけに内密に行う必要があり、ギルドマスターであるリフを直接通じて依頼したからだ。

今もギルド本館の一番上の階にあるギルドマスター室にいた。そこでリフとこの依頼を受ける数日間で用意したものの話をしていた。

「それで……どうしてクエナまでおるのじゃ。ジードとパーティーでも組もうとしておるのか?」

対になるソファーで対面に座るリフが言った。俺もソファーに座っているが、後ろには腕を組んだクエナが立っている。

リフに言われてクエナが慌てて首を横に振った。

「そういうわけじゃないわよ! ただジードが放っておけないだけよ!」

「なんじゃ惚れておるのか」

「そ、そういうわけでもないわよ! あれよ、あれ。まだ案内役としての務めが……! ね!?」

「『ね!?』と言われてもの。責務を持ち出した私情が垣間見えておる気がするわ」

「どうしてそうなるのよ! 私が惚れる理由がないじゃないのっ!」

「人を好くのに理由が必要か? まぁ、しいていうなら母性をくすぐられたのではないか。知らんが」

「適当なこと言うな!」

リフのイジりによってクエナの怒りが頂点に達した。

とうとう炎を纏った剣まで持ち出している。

「待て待て待て、なんでもいいから話を進めさせてくれ」

「なんでもいいから!? なんでもいいわけないじゃないの!」

「おい、リフ。謝っとけ」

「あはは~、悪かったのじゃ。許してくれ」

リフはばつが悪そうに苦笑いをしながらクエナに謝罪した。

このままクエナが暴れたらギルドの本館まで危ういと分かっているのだ。なぜここまで挑発したのかは定かではないが。まぁおそらく性格なのだろう。

「ったく……」

クエナはまだ額に血管を浮かべながらも矛を収めた。

「それで俺の依頼はどうだ?」

改めて尋ねた。

依頼。

俺が受ける側ではない。

俺がギルドに依頼したものだ。

依頼内容は二つ。

「おおう。王国が作った『奴隷の首輪』はもうすでに確保しておる。ほれ、これがそのマジックアイテムじゃ」

リフが対となるソファーの間にある座高の低いテーブルに、俺が依頼していたマジックアイテムを乗せた。

言われなければ気づけない、それほど薄く細い首輪だ。

だが、しっかりと円形の形は保っており、手に取ってみると意外と硬い。

首輪の内部は魔力がこもっていない。だが、装着すると魔力が吸い取られる仕組みになっているのが分かる。

「一応は禁止されているマジックアイテムじゃ。悪用はご法度じゃよ?」

「ああ。分かってる」

俺はそう言いながら奴隷の首輪を装着した。

円形の間に穴があり、そこから首を通す仕組みだ。

首に嵌められると穴が自動で塞がり、魔力が微かに吸引されていくのが分かった。

「ちょっ、なにしてるのよ?」

クエナが慌てた様子で聞いてきた。

ああ。リフには使用用途を言わなければ依頼を受けてもらえないから話したが、クエナには直接言っていなかった。

「解除方法を模索するためだよ」

俺は言いながら首輪に手をあてた。

魔力の流れを見る。

ふむふむ、構造はこうなっているのか。製作図も持ってきてもらおうと思ったけど、やっぱり難解そうな図面を見るより、こっちの方が遥かに簡単だ。

やがて――解除に繋がる術式を見つけた。

そこにキャパシティーオーバーな魔力を瞬時に流し込む。

チリっと音を立て、首輪が外れた。

「よし、できた」

「おお~。やるのう!」

俺の芸にリフが拍手しながら喜んだ。

反対にクエナは頬をヒクつかせていた。

「仮にも一時代を築き上げたマジックアイテムよ……。魔法が得意な魔族でさえも捕らえていたものなのに……」

かつてはそんな時代もあったのだろう。

いつ廃止になったかとか知らないが、俺はずっと森にいたのでそんな時代は知らないから理解しようもない。

すこし言葉を失っていたクエナが気を取り戻して俺に聞いてきた。

「でもそれくらいならシーラとかいう人を助けてるときに試せばよかったじゃない。いくらでも団員はいたのに」

「いやいや、いくら細いとはいえ壊したらバレると思ったからね」

「ふーん。私はそこまで、あの騎士団の上の連中が気にかけているとは思えないけど」

まぁそういう考えもある。

けれど万全は尽くしておきたいのだ。

俺はこの依頼を絶対に達成したいと考えているから。

「それともう一つの依頼の方じゃが、それぞれ方々から集まってきておるよ。予定日時までには集うじゃろう」

「ああ、助かるよ」

「ん? 方々から集まるってどういうこと?」

クエナがまた尋ねてきた。

「依頼したんじゃよ。各地にいる腕利きの冒険者にの」

「腕利き? ……呼ばれてないんだけど?」

クエナが俺の肩を掴みながら、にこやかに微笑みながら首を傾げた。目が笑っていない。

「よさんか、嫉妬は醜いぞ」

「し、嫉妬じゃないわよっ!」

「待て、リフ。また話が拗れるからなにも言うな」

またクエナをイジろうとするリフを止める。

そして俺からクエナを呼ばなかった理由を説明した。

「クエナを呼ばなかったのは王国を拠点にしているからだ。ここで変に目を付けられたらクエナは転居を余儀なくされるだろう。巻き込みたくないんだ」

「……ん。そ、そんな心配不要よ!」

「そう、か? それはすまなかった。依頼した方が良かったのか?」

「はっはっは。彼女なりの照れ隠しじゃよ、ジード」

「バッ……! よ、余計なこと言うんじゃないわよ! そ、それより方々から腕利きの冒険者を呼んだって言ったわよね。大体やろうとしていることは分かったけど、あんた一体どれくらいの金貨を使ったのよ」

「ざっと百二十金貨じゃの」

俺の代わりにリフがあっさりと告げた。

それにクエナが驚愕した。

「なっ! 依頼達成金は金貨五枚のはずでしょ!? どうしてそんな……!」

「まぁ、依頼を達成するためだからな。契約金と依頼達成金全部使って間に合わせた」

「そうじゃないわよ。割に合わないって言ってるの! なにか勘違いしていない? 依頼を受けるのはお金を稼ぐためなのよ!?」

鬼気迫る様子でクエナが顔を近づけた。

なまじ美人なだけ俺が照れてしまう。

「ああ、それは分かっているよ。でも前にも言ったろ。俺は悪いって仲間やシーラに思っているんだ」

謝罪の意味も含んでいる。

そして。

「金を使ってるけどさ、なんかやりがいを感じるんだ。団員をしていた頃よりも何倍も。だからまあ悔いはないよ」

「いや。悔いとかの話じゃなくて……本当に変わってるわよ、あんた」

「ははははっ! ジードはまったく変な奴じゃよ!」

クエナは呆れながら、リフは笑いながら、俺は総バッシングを受けた。

まぁそういう反応は予想通りだ。

「俺だって今後ここまでして依頼を達成しようとは思っていない。どの依頼だって絶対に達成するけどさ。――今回はそれ以上に百以上の力を使ってでも達成したい依頼なんだ」

俺は確固たる意志で彼女たちに告げた。