軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

依頼を受ける

シーラからの救いを求める声を聞いてしばらく経った。

俺とクエナでワイバーンの群れを退治した。というかほとんどは討伐していた。

今は休憩時間に入るのだろうか。団員のほとんどは倒れている。シーラも辛うじて三角座りをしているが限界そうだ。瞼を重そうに無理矢理こじ開けている様子が伺える。

そんな中でシーラが説明した。今、王国騎士団でなにが起こっているのか。そして団員たちの首に着いているものがなんであるか。

クエナが口を開いた。

「へぇ、やっぱり奴隷の首輪か」

クエナが予想通りと団員たちの首元を見る。

首元には見え辛いが目をこらすと光を反射している糸のような線があった。

「こんな分かりづらいのか、奴隷の首輪って」

「いいえ、たしかもっと太くてガッシリしてたはずよ」

「その通り。従来の奴隷を誇示するものとは違って騎士団側がバレないようにと細工をして作り上げたもの。団長が言うには製作図もあったので簡単にできたらしいわ」

休んで幾分かマシになったシーラが説明した。

シーラの説明にクエナが納得したようだ。片手を開いて、もう片方の手をグーにして叩き合わせた。

「そりゃ禁止されてるマジックアイテムだもんね。団員たちには口封じすればいいだけだし、違和感を得られるのはジードくらいなもんだし」

人外扱いされたことは放っておく。

しかし、これはどうにもきな臭い話がまた舞い込んできたな。

神聖共和国での騒動と言い、どうにも王国騎士団が血迷ってきているとしか言いようがない。

「私どうしたらいいかな……」

シーラが弱弱しく吐いた。膝とおでこを合わせて顔を伏せている。

その姿は迷子になった子犬のようだ。

彼女なりに考えたのだろう。父親や騎士団には逆らえない。しかし、抗いたいという正義感を持っている。そんな葛藤が彼女を苦しめたのだ。

その結果がこれだ。奴隷の首輪を装着させられた団員よりも前に出て戦い、すこしでも犠牲を減らそうとした。

だが、ワイバーンの攻撃に耐えられないほど疲労はピークに差し迫ったのだ。

「ジード……」

シーラが顔をあげて赤くなった目で俺を見る。

その続きは分かっていた。

「たすけ――」

だからその言葉も了承するつもりだった。

けど、クエナがその言葉を遮った。

「おっと。私たち冒険者には『助けて』なんて安易に使わないで。冒険者への言葉は『依頼したい』それだけよ」

「……!」

一見、冷たそうにも見える発言だ。

しかし、それはシーラにとっての救いになる。

まだ希望があるとクエナが示したのだ。

「ジードも、Sランクが安請け合いしようとするんじゃないわよ」

「あっははは……そうだな。でも困ってる人を見ると助けたくなるじゃないか」

「だからあんたは人が良すぎるんだって……」

クエナが額を抑えて『やれやれ』と首を左右に振る。

彼女の言うとおりだ。

もしも俺が簡単に手助けをしたらギルドに依頼が回らなくなる。俺に助けを乞えばいいだけの話なのだから。

そしたら家の前に人の行列ができたり、ポストに助けを求める紙が殺到することだろう。

しっかり言わなければいけない。『依頼してください』と。

先輩には助けられる。

「……依頼……したいです……!」

元気を振り絞って、シーラが言った。

心からの言葉だ。

「ふふんっ、じゃあまずは依頼金からの話をしようじゃないかしら」

「い、依頼金っ。そうでしたね、まずは依頼金ですよね。でも私は騎士に成りたてで家のお金も使っちゃいけないし……集めても金貨五枚くらいしか……」

「なにを言っているの。現金じゃなくてもいいのよ?」

「現金じゃなくてもいい……?」

クエナの言葉にシーラが呆然とする。

意味するものが分からないのだ。

悪戯っぽくクエナがシーラを見る。それこそ足先から頭まで舐め回すように……

そこまでされてようやくシーラが理解した。

バッと身体を守るように両手で覆った。

「まだ若いし相当な美少女ね。奴隷時代が復活したのなら金じゃ値段が付けられないほどよ。競り落としなら軽く金貨千枚は超えるんじゃないかしら」

クエナがニマニマと冗談を口にする。奴隷時代は復活していないぞ。騎士団が奴隷の首輪を使っているだけだ。

まぁでも、シーラはたしかに別格だ。

大きな瞳に長い睫毛、桃色で小ぶりな唇に綺麗な鼻。鮮やかな黄金色の髪は一本一本が細く、そよ風にさえ簡単になびく。

疲れが前面に出ていても色あせない可愛さだ。

だが、あまりにもその言葉は不謹慎だと思った。

「おい、状況が状況だぞ」

「わかってるわよ。この国に対する皮肉よ。ロクに上が管理できていないのに無性に腹が立つの」

珍しくクエナが怒っているようだった。

なにか彼女の琴線に触れることでも覚えたのだろう。

だが、対してクエナの皮肉にシーラが顔を赤らめた。

「あ……の。……わ、私の身体でいいなら……っ!」

シーラが大胆にも発した。

身体を隠していた腕が退かれる。

恥ずかしさ全開からか目を閉じ、顔を背け、肌を真っ赤に染め上げている。

「ちょ、ちょっと。本気にしないでよ! なんか私まで恥ずかしくなってくるじゃないのっ」

隣のクエナまで恥ずかしそうに苦笑いを浮かべている。

なら初めから言うなよ、と思ったが彼女なりに固く重たい空気を壊そうとした結果のことだ。なにも言えない。

「で、でも金貨五枚で王国騎士団を相手取るなんて……!」

「絶対にないわね」

「ですよね……」

クエナの絶対的な否定にシーラがしょぼーんと肩を落とす。

「別に今から払おうとするんじゃなくて出世払いとかあるでしょ。不器用ね」

「あっ」

クエナに言われてシーラが手を合わせた。

得心が言ったようだ。

「それでも、おいくら払えばいいのですか?」

「うーん。どうかしら。それこそ一国の軍事力と敵対するわけだし、金貨千枚は用意しないとダメなんじゃないかしら」

「えっ……じゃあ本当にもう身体で払うしか……」

シーラがうるうると瞳を潤わせながら俺を見てくる。

そんな小動物みたいな顔をされては困る……。

「金貨五枚で十分だ。それで俺に依頼してくれ。『騎士団の暴走を止めてくれ』って」

「で、でもっ」

「騎士団を抜けて申し訳ないと思ったことはない」

「……え?」

「でもそれはシーラを除いた指揮官クラスの連中に対してだけだ。おまえや仲間たちは置いて行ってすまないって思っていた」

「……それって」

「ちょうど良い機会なんだよ、これが。俺にとっては金貨五枚でも受けるに値する依頼なんだ」

「ジ、ジード……っ」

シーラが涙を流す。

「変なやつよねー、こいつも。普通どんな大金積まれてもこんな依頼ここまであっさり受けないわよ」

クエナが余計なことを言う。

変なやつはいらないだろ。

しかし、そんなクエナの言は耳に入っていないのか、零れ落ちる涙を拾いながらシーラが鼻声で言った。

「ありがとう……ありがとう……! この恩はかならず……かならず返すからぁ……!」

その姿に俺は安心した。

彼女のその涙は騎士団の団員に向けられたものだ。自分にはなんの被害もないのに流しているものだ。

優しく正義感が強い。

ほかの団員もそうだ。脱走したり反旗を翻すことを考えないほどバカじゃない。それでも愚直に従っていたのは国を、家族を、友を守るためだ。

そのために騎士や兵士に志願してきたやつらなのだ。

そんなやつらが訳も分からない言い分で傷ついてボロボロになるなんて許せるわけがない。

だからこそこの依頼は絶対に――成功させる。