軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あれる

翌日になって騒動が起きたことを知った。

太陽がまだ昇りきっていないくらいの朝だ。朝食を食べていた俺とクエナの耳に喧騒が届く。

何気なしに騒ぎの方へ向かうとロニィの声が消えてきた。

「――しっかりするのだ! 今、治癒士が来てるのだ!」

ロニィが声をかけているのはビクタンだ。

他にも子供までが倒れている。

明らかに異常な事態であることが知れた。

「どうした! なにがあった!?」

ロニィに話しかける。

だが、ロニィは首を左右に振って悔しそうな表情を湛えた、

「わからないのだ! 私も来たばかりで……!」

「ビクタンっ、誰にやられたんだ!」

「……獅子……族……」

絶えかけている声を振り絞った、ビクタンが答えた。

だが、それ以降は辛そうに息をするだけだ。呼びかけにも応えられないありさまで、かなり痛めつけられていることが分かる。

「獅子族……!」

ロニィの瞳に怒気が宿る。

それから治癒士が来てビクタン達が担がれていく。

同時に一人の獣人も来ていた。

「おい、なんだこの騒ぎは?」

ツヴィスの声だ。

ロニィがまるで仇敵を見つけたとばかりに激高する。

「貴様! なぜビクタンをっ!」

「俺じゃねえよ!」

「いいや、ビクタンは獅子族と言っていたのだ! 獅子族で今回の成祭に参加しているのはおまえだけなのだ! 私を宣伝してくれたビクタンが邪魔で仕方なかったのだ!」

「……たしかにそう思われても仕方ねえか。でも、負けたそいつらが悪いだろ」

ツヴィスが唾を吐き捨てるように言った。

周囲はなんだかんだでツヴィスに同調する空気が漂っている。

いくらビクタンがマジックアイテムを披露したところで、獣人族に根付いた価値観が丸ごと変化することはないのだと痛感する。

「その考えはおかしいのだ!」

「はぁ? 弱いやつの肩を持つのかよ」

「たしかに彼らは弱いのだ。でも私は彼らに敬意を持つのだ! 私は強くともマジックアイテムは作れないのだ!」

その物言いは――微かに聞こえてくる冷笑で迎えられた。しかし、大多数ではない。笑っていない、真面目な顔で捉えている獣人も同様の数だけいる。

「ははは! おいおい。聞いたか、おまえら」

ロゲスだ。

ツヴィスの側からゆっくりと近寄ってきている。

傍らには護り手が数名いた。全員が獅子族であり、ロゲスの仲間であることは見ただけで分かった。ロゲスの問いかけに「ありえねえ」だとか「バカだな」なんて言葉と共に、ロニィへ冷笑を浴びせている。

場は穏やかでなかった。

「なーんだ、おまえ達なのだ。最高戦士になれなかった腹いせなら他所でするのだ。ここは父さんの領地だからバカはするな、なのだ」

売り言葉に買い言葉だ。

ロニィも容赦なく彼らを罵倒している。

「小娘が……オイトマの親族だからといって容赦をしてやるわけではないぞッ!」

「ぷ。負け犬……いいや、負け子猫ちゃんが脅しても面白いだけなのだ」

ロニィの言葉に、先ほどまでツヴィスの側にいた「強者」の獣人もロゲスを笑う。それは、あくまでもオイトマがトップであることを知らしめていた。

風向きは明確だった。

だからこそロゲスがロニィに殴りかかったのは必然だったのだろう。

「……――!」

ロニィが初撃はいなす。

だが、ロゲスも口だけではない。

攻撃の繋げ方がうまい。

センスはロニィに軍配が上がる。

しかし、これも経験の差か。

一手分以上はロニィに先んじている。

ロニィは次第に遅れを取り出す。

「やめとけ」

間に入る。

ロゲスの手を握る。

「邪魔をするなっ!」

ロゲスの右足からハイキックが来る。

明確に頭部を狙った一撃だ。

その重さは纏う魔力と速度によって瞬時に理解できた。

だが、防げないほどではない。

左手で防御をして詰め寄る。

――背後からクエナの心配そうな声が挙がる。

それはきっとロゲスが護り手だからなのだろう。

(人族は獣人族と同盟を組んでいる……リフにもギルドにも迷惑がかかる。安心してくれ。わかっている)

ロゲスが俺の一撃に備えて防御の体制を取る。

正しい判断だが、俺はいつまで経っても攻撃をするつもりはなかった。

「先に絡んできたのはおまえ達だろう。ロニィには成祭がある。ここで止めてくれ」

「――だからだよ」

悪意を隠そうともしない。

ただ力のこもった拳が飛んでくる。防ぐ。

(だから、か)

ここでロニィを潰しておこうという算段か。

こいつらは獅子族を最高戦士に戻そうというのだ。

「なぜ最高戦士とやらに拘るんだ? 所詮は称号と地位だろ」

「……知らないようだから教えておいてやる。獣人では名声や地位が全てなんだよ!」

ロゲスだけでない。

他の護り手も加わってきた。

息の合った連携だ。まるで狩りをされているような気分になる。生まれ育った環境を思い出す。

さすがに攻め返さなければマズい。だが手を出すわけにも。

「――そこまでだ!」

空気を震わせる一声が場を止める。

ロゲス達がゆっくりと声の主を見た。もう戦う様子がないことを確認してから俺も視線を向ける。

「オイトマ…………様」

ロゲスが不本意とばかりの口調で最高戦士を迎える。

「なんだ、これは?」

「私の知り合いが暴行を受けたのだ」

「ふむ。だれに?」

オイトマの視線が俺に向く。

護り手に囲まれている状況で、しかも俺は異種族だ。真っ先に疑われてもおかしくはないだろう。

だが、周囲の空気感が否定してくれた。

「知り合いは『獅子族』に、と」

「獅子族か。ロゲス、ツヴィス。なにか知っているな? 獅子族はおまえ達が束ねているはずだ」

オイトマの刺すような眼光が獅子族たちを捉える。

「知りません」

ツヴィスはいたって冷静だ。

ここにきて即答できるのは嘘でないからだろう。

「おまえはどうなのだ? ロゲス」

「……」

ロゲスが選んだのは沈黙だった。

オイトマもそれ以上は追及できないことを察している。

「なるほど」

オイトマが周囲を見て確認する。

それからツヴィスの方を見る。

「では、ツヴィスの成祭参加の資格を取り消す」

「なっ!」

それに何より驚いたのは本人ではなかった。ロゲスが目を見開いてハッキリとオイトマを見る。

「なぜですか! ツヴィスは何もしていない!」

「私の領地で暴れたのは獅子族なのだろう。責任を取ってもらおうというだけだ」

「それならば私でも……!」

「罰を受けると? では護り手から降格するか?」

「……――!」

ロゲスが言葉を詰まらせた。

今回は意図して選んだ沈黙ではない。

「ロゲスさん、俺は別に成祭なんて……」

ツヴィスが語り掛ける。

これは最高戦士になるのに直接関係があるわけではない。こだわる必要なんてどこにもないのだ。

そんなことは他所から来た俺でも分かること。

なのに、

「……ツヴィス」

ロゲスが冷たい目で睨みつける。

脳裏に過る。

ツヴィスとロゲス達の話し合っていた景色が。

『分かっているのか。最高戦士になれることを証明しなければセネリアをいただいていく。おまえ達の血脈は貴重だからな』

あれは脅しだ。虚言ではない。ロゲス達は本当に手を出す。

だから成祭への参加は絶対なのだ。

「……お願いします。成祭には参加しなければいけません」

「いいだろう、こうしようじゃないか。もしもツヴィスが成祭に勝たねばロゲスは――追放とする」

「くっ……!」

それは最終決定だった。

随分とあっさり。

しかし、これで場は収まっている。誰も否定はしない。それでも円満解決というわけではない。少なくともロゲスの表情には今後の趨勢を予期できるほど不穏な感情が渦巻いているように見えた。

それから誰も文句を口にせず解散の運びとなった。

ロニィから連絡が来たのは翌日だった。