軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マジック

オーガに襲われた街並みは復旧作業が進んでいた。手慣れているらしく、既に中心部に近い順から建物が直っている。

俺達の目的である場所も問題なさそうだ。

「マジックアイテムの店なのだ?」

「ええ、獣人族を離れた人たちの主要層よ」

「ふーむ」

ロニィの表情は険しい。

表通りに立ってはいるが、彼女からすれば――獣人族からすれば忌み嫌われるような場所なのだろう。

種族の血液に眠る歴史がその感情を呼び起こしているのだ。

「なぁ、はやく入らないか?」

店の前で佇んでいるだけで視線が集まる。もちろん、俺に。

やはり悪い印象というのは避けられないようで、このままだとロニィに悪影響が及んでしまう。

不意に。

「あ、あの、ジードさん」

声を掛けられる。

獣人族の人々が固まっている。

それぞれ手には何やら物を持っているようだった。

「……なんだ?」

警戒しながら問い返す。

戦闘は起こらないだろう。さほど強い獣人というわけではなさそうだ。

いきなり暴言を吐かれる可能性もある。

それ相応の覚悟をしつつ、彼らの次なる言葉は。

「――昨日はありがとうございました。これ、お礼です」

「俺からも受け取ってくれ。娘を助けてくれてありがとうな」

「私も! ありがとうございました!」

花束やら魚やらが次々に俺の手元に運ばれてくる。

ついに持ちきれなくなって地面に置くしかなくなった。

ああ、そういう……

「モテモテね、ジード」

「なんだか冷たい目線ばかりだから嬉しいよ」

予想していた態度とのギャップから涙腺が緩みそうだ。

そんなこんなで礼と物を受け取りながら、落ち着くまでしばらく時間がかかった。

「おや。騒がしいと思えば皆さんでしたか。どうかされたのですかな?」

マジックアイテムの店主――ビクタンが顔を出した。

「す、すまない。急に人が集まってしまって。ここにある物はなんとか片付けておくからしばらく時間をくれ」

気が付けばビクタンの店の前に物が散乱してしまっていた。

しかし、ビクタンがニッコリと笑みを浮かべてから店内に戻り、何やら取っ手のついた板らしきものを持ってきた。

その板には魔力がまとわっている。

マジックアイテムだ。

「どうぞ、こちらをお使いください。重量が軽減しますよ」

「すまない、助かる。それからビクタン、話があるんだ」

「ふむ。私に?」

「とは言っても俺じゃなくて二人なんだが」

クエナとロニィに視線を配る。

なにやら察した風のビクタンが頷いてから扉を大きく開けた。

「では、どうぞ中に。荷物を入れておく場所もありますから」

ビクタンが好意で誘ってくれるまま、贈り物をまとめて俺達は中に入った。

中は閑散としている……というわけでもなく、マジックアイテムの品々が埃を被ることなく、綺麗なまま販売されていた。

今はまだ開店していないようだが普段から盛況なようだ。

「こんなものしかありませんけど。それで、ご用件とは?」

ビクタンがお茶とお菓子を出してくれ、俺達は机を囲みながら座った。

敵意など出していないのにビクタンは少し警戒気味だ。隣にロニィがいるからだろう。

「マジックアイテムを是非このロニィに見せて欲しくてね」

クエナが言う。

物は試しということだろう。先にロニィにマジックアイテムの凄さと、ビクタン達の有意性を伝えようというのだ。

「それは構いませんが何がご入用ですか?」

「生活用から戦闘用まで幅広く」

「なるほど。では、まずは簡易用お風呂をご覧ください――」

それからビクタンは様々なマジックアイテムを披露してくれた。

荷物を圧縮して保有できるポーチ。

一週間ほど野宿しても問題ないお風呂場や調理器具など。

離れた時も安心な通信用のイヤリング。

どれも十分に事足りるものだ。

ロニィの関心はそこそこ引けたようだった。

「面白かったのだ。遠征が楽になっているのはおまえ達のおかげだったのだな」

「いえ、滅相もない。獣人族はほとんどが人族の後追いですから」

「ふむ?」

「獣人族ではロクに研究ができませんから。それに蔑視の目もヒドい。心意気ある者たちは遠く離れて暮らしています」

「それは聞いたのだ。でも実際にこうして表にマジックアイテムの店は開かれているのだ。不満はどの仕事にもあるし、文句を言っていたらキリがないのだ」

「表通りに店を開けているのは私だけです。ほとんどは路地裏か街を離れた場所ばかりで。何より研究には費用が掛かります。金脈があると分かっていながらピッケルがない……それが現状なのです」

ビクタンは丁寧な口調で、ハッキリと語気を強めながら答えた。

「ふーむ。戦闘用のマジックアイテムもあるって言ってたけど本当なのだ?」

「もちろんあります。地下に行きましょう」

ビクタンに連れられて、階段を下りた先には店以上の空間が広がっていた。壁は石で頑丈に作られているようだが、さらに魔力で上塗りされてコーティングしている。見た目以上の頑強さがあるだろう。

「現在は火と水と氷、それから風の魔法を生み出すものが人気です。土や木で剣や槍を形成してくれるものもありますよ」

「一番威力のあるものが見たいのだ」

「それならばこれですね。≪炎雷≫のマジックアイテムです」

ひし形をしていて、赤と黄をしているガラスだ。

それからビクタンは備え付けられていた木製の人形を見せた。

「この人形の強度を確認してください」

「おー、良い素材なのだ。硬いのだ」

ロニィが扉をノックする要領で人形を叩く。

コンコンという軽快な音が響いた。

俺とクエナも念のため確認して叩く。たしかに硬い。おそらく大木を両断するよりも難しいだろう。

それから俺達の確認を満足そうに見たビクタンが、木製の人形を離れて置く。

「私よりも前には出ないでくださいね。それから音が凄いので気を付けてください」

ビクタンがそう忠告すると≪炎雷≫を叩き割った。

粉々になった破片が手元に残る。

それらにビクタンが微量の魔力を注いでから空中に投げた。

瞬間。

けたたましい音が響き、炎と雷の混合が前方を襲う。

(木製の人形ならば一瞬にして消し炭というわけか)

原型は残っていない。

焼き焦げた黒い炭が悲鳴のような煙を挙げているだけだ。

(なるほど。確かにこれは戦闘に使える)

使用までにはタイムラグがあった。

しかし、あれは俺達のためにゆっくりと披露したものだろう。慣れてくれば普通に魔法を使う速度と同等になるだろう。

魔法の質としてはBランクの上位か、あるいはAランクの下位くらいか。手練れの中の手練れレベルの魔法使いが放つものだ。

しかも、これで使用した魔力は微量なのだから驚きだ。

「たしかにクエナが力説するだけはあるのだ」

ロニィが感心しながら言う。

それから前に出て、熱を帯びている炭を摘まむ。

「ただマジックアイテムはそんなに持てるとは思えないのだ。それに魔法はトリガーの役目も担っている『詠唱』があるけど、マジックアイテムは事故を起こしたらそれまでではないのだ?」

「ええ、その通りです。扱いは慎重に行わねばなりません。それに値段も少々……」

「要するに魔法が使えない人向けの道楽――と、昔の私ならば言っていたかもしれないのだ。しかし、視界は広く持つべし。遠くを見るべし。なのだ」

ロニィが顎に手を当てる。

それからしばらく考えたのち、ビクタンに問うた。

「人族のほうがマジックアイテムを使えているのだ?」

「ええ、とても。噂によると今回任命された賢者様は魔法には長けていないそうです。その代わり、マジックアイテムを用いて戦闘を行うと聞いています」

それは俺も初耳だ。

未来的な戦い方というべきか。……あれ、俺もマジックアイテムを練習しておいた方がいいんじゃないか?

「賢者……人族には≪炎雷≫以上のマジックアイテムは存在するのだ?」

「≪炎雷≫は私が作った児戯のようなものです。人族で直に見たマジックアイテムは更なるものです」

いや、それは謙虚だろう。

戦闘用のマジックアイテムは何度か見たことがあるが、このビクタンが作った≪炎雷≫は高い完成度を誇っている。

しかも、とビクタンが続けた。

「マジックアイテムを複数扱うことにより、大量に持ち運ぶことも、取捨選択によって時間を取られることもないとか」

「……戦闘の様式は大きく変わるのだ?」

「大規模戦闘では既に変化の兆候が見られるそうです。人族のウェイラ帝国では実戦に導入しているとか」

「む……人族とは長い間争っていないから知らなかったのだ」

寝耳に水のことを聞かされたようで、ロニィが一瞬たじろぐ。マジックアイテムがそれほどの場所で使われているとは想像もしていなかったのだろう。

俺もなんとなくは聞いたことがある程度だったが……

ウェイラ帝国のことなのでクエナの方をちらりと見る。なにか情報はないか、と。

「元から情報は統制されているわよ。知らなくて当然、機密だもん」

クエナもさして知っているわけではないようだ。

首を左右に振って無力そうにため息をついた。

「獣人族も嫌い嫌いと言っているだけではダメなようなのだ」

ロニィが挑戦的な目を見せる。目は口ほどにものを言うらしいが、彼女の物事をやり遂げようとする気力は熱心なほどに伺い知れた。

これはクエナの思惑通りになった予感がする。

「おまえ! 名前はなんなのだ?」

「私はビクタンと申します。子供の頃よりマジックアイテムに魅せられてきました」

茶色い兎の耳が片方だけピコンと逆立つ。

「私が最高戦士になったら! おまえを『護り手』に任命してやるのだ!」

「……!」

ビクタンの落ち着いた表情が一転して、驚きになった。

かくいう俺とクエナも、ロニィの変わりようにはビックリだ。

「し、しかし私はマジックアイテムを使えるだけの獣人でして……護り手のような戦闘能力は……」

「時代は変わっていくのだ! 私の時代の護り手は腕っぷしだけじゃないのだ。頭が使えるやつも欲しいのだ!」

「なんと……」

「さっそくマジックアイテムをいくつか買うのだ。私も実戦で使うのだ」

「実戦で、ですか?」

「うむ。私が使えばみんなも付いてくるのだ。そうなればマジックアイテムを見る目も変わってくるし、ビクタンの店や他のマジックアイテムの店も繁盛するのだ!」

「そうなれば表通りにマジックアイテムの店が増えるわね」

クエナが補足するように言った。

「……ありがとうございます。色んな獣人の想いが報われます」

ビクタンが目じりに溜まった涙を指で拭う。

なかば諦めていたことだろう。獣人族でマジックアイテムが認められることなど。だからこそ彼は感極まったのだ。