軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

依頼かも

朝。

騒々しい気配に目が覚める。大した音はしていないが数人の気配が固まっている。

部屋から出て気配を辿っていくと広々とした玄関に辿り着いた。

どうやらツヴィスと数人の男が会話をしているようだった。

「いいか、必ず勝てよ」

「分かってるよ。わざわざ釘を刺しに来るなって」

「これ以上、獅子族の面目を潰すわけにはいかん。おまえの父上も嘆いておられる」

どうやら剣呑な会話をしているようだ。

あまり聞いてはいけないような気もするが、つい気配を隠して耳を傾けてしまう。

「必要なら殺す。ロニィは間違いなく邪魔な存在だろう」

そう口にしたのは。

最高戦士の隣にいた男だった。

以前ツヴィスに厳しい視線を送っていたやつだ。

「やめてくれ。俺は正々堂々と……」

「ああ、おまえが勝てばいい。最高戦士になれるのだと証明しろ」

ツヴィスの方に手が置かれる。

期待の表れか。あるいは――。

ただ嫌悪で塗れているツヴィスの顔が印象的だった。

「……おまえらに言う資格なんてねえだろ」

吐き捨てるよう、ツヴィスが口にした。

一斉に周囲が殺気立つ。

「なんだと?」

「オイトマなんかに奪われたやつらが二度と来るな。邪魔なだけだ」

「きっ、貴様!」

侮辱された男たちがツヴィスを殴りかかる。ツヴィスを囲んでいる男たちは手練れだ。

まずい――。

飛び出そうとして肩を掴まれる。

「待って。あれは『護り手』の連中よ。ツヴィスと向かい合ってるのは実質№2の獅子族。たしかロゲスとかいうやつ」

「だが……」

「大丈夫。彼らも無理はしない」

ツヴィスは黙って殴られたままだった。

それから満足したのか、ロゲス達は地面に倒れ込むツヴィスを見下ろしてから舌打ちを

した。

「いいか。二度と生意気な口を叩くな」

「……」

しかし、ツヴィスは依然として睨みつけている。

「分かっているのか。最高戦士になれることを証明しなければセネリアをいただいていく。おまえ達の血脈は貴重だからな」

「妹には手を出すな!」

「だから分かっていればいいんだ」

ツヴィスの荒々しい声と、ロゲスたちのあざける声が響く。

絶対に手を出してこないとわかっているのか。

それだけの差なのか。

だが。

ロゲス達の予想に反してツヴィスの手が伸びた。

「勝つって言ってんだろうが!」

鈍い音と共にロゲスが吹き飛ぶ。

ツヴィスがひとり男たちと小競り合いを始めた。

自然と足に力が入る。

「ダメよ。彼らはいわば王族みたいなもの。それにツヴィスは彼らにとっても大事な次期最高戦士だから殺したり再起不能にしたりなんかは――」

「――すまん」

クエナの手を振り払う。

一方的に殴られるツヴィスの正面に立つ。

ロゲスの打撃。受け止める。その威力は人に向けていいものではなかった。

「な、なんだ貴様……!」

「やめとけ。大人が複数で殴り掛かるなんてみっともない。それに脅しも」

「ジード……! おまえ!」

ツヴィスが背後から声をかけてくる。

その声音には意外感があった。

「ジード?」

ロゲスが俺の顔を見る。頭のてっぺんから顎の先まで。舐めるよう確認してきて気持ちが悪い。

「ああ、あの勇者を断ったとかいう臆病者か。恥知らずのゴミ。そういえばオーヘマスに来ていたな」

「……」

「知らんぞ。おまえ、どうなっても」

ギロリとすごんでくる。

迫力も威圧感もある。だが、それ以上に不快感が勝った。

「……」

「…………ちっ」

一歩も引かない姿勢を見せると、ロゲスが舌打ちをしてから踵を返した。

「怖くて固まったようだ。今日はここらへんで帰るとしよう。はっぱを掛けに来ただけだしな」

へらへらと笑いながら男たちが扉に向かう。

それからロゲスは振り返ってツヴィスに言った。

「かならず勝て」

「……わかってる」

念押しか。

どれだけ彼らの思いが強いか伝わってくる。その手段が強引であったのも含めて。

ロゲス達が去った後は重苦しい空気だった。

「なーにやってんのよ」

クエナが手刀で頭を叩いてくる。いたい。

本来なら、こんな争いには参加しない方が良かったのだと言いたいのだろう。

けど、こっちにもちゃんと反論材料はある。

「ちゃんと手は出さなかったぞ?」

「そこは偉い。でも完全に喧嘩を売っちゃったからね」

「……むぅ。でもクエナだって手を出す気満々だったろ?」

「そりゃジードが喧嘩になれば加勢するに決まってるでしょ」

「にへへ……ありがとう」

思わず変な笑みがこぼれる。

少し照れたような顔でクエナがそっぽを向く。

「おい、夫婦。さっさと出ていけ」

「夫婦じゃないが!?」

「そうよ!?」

セネリアの時とは更にランクが上がってしまった。

「どうでもいい。はやく消えてくれ」

ツヴィスは浮かない表情のまま、また部屋に戻ろうとした。

「待ちなさいよ。礼のひとつくらいでも言ったらどうなの? ジードは身を呈してまで助けたのよ」

「……ああ、悪かったな」

ツヴィスが目を合わせようともせず、そんな言葉だけを残して部屋に戻ろうとする。

どこか俺に後ろめたさを感じているような姿に違和感を覚えた。

「なぁ、聖剣をどうするつもりなんだ? 聖女に――スフィに返すって言っても、それだけが目的じゃないだろ?」

「勇者に……なりたい。そのために聖剣は使えるだろう?」

「使えるか?」

「どうだろうな。勇者を断った前例がない。だから新たに勇者になるための前例を作るしかない。それに聖剣が使えるかもしれないってだけだ」

ツヴィスが鼻で笑う。

それは誰に向けたものでもない、ただの自嘲だった。

「勇者になってどうする? あんなのただ面倒なだけっぽいぞ?」

「誰にでも勇者になりたいって憧れはある。俺だってその一人だ。けど、今はそれだけじゃない。勇者で最高戦士だったら誰も逆らう気なんて失せるだろ?」

「あのロゲスとかいう奴らを抑えたいのか?」

「まぁな。そのためには力も名声もいる。悪いな、本当に」

それだけ言うとツヴィスは自室に戻っていった。

(きっと妹を守るためなのだろう)

セネリアは強そうには見えない。実際そうなのだろう。オーガに襲われていた時だって反撃すらできなさそうだった。

きっと根は悪い奴じゃないのだ。

彼の本当の願いは聖剣でも勇者でもなく、妹。

「ジード。余計なことは考えないでよ」

「……う」

「私たちの目的は聖剣よ。ツヴィスに協力なんてできないからね」

「わかってる……わかってるけどさあ」

思わず涙がこぼれそうだ。

クエナに泣きついてしまいたくなる。

目的は聖剣だ。それはそうだ。ツヴィスに明け渡すわけにはいかないのだ。だからロニィを勝たせなければいけない。

そうなるとツヴィスはどうなる? セネリアは?

「まずは聖剣を取り返してから。この問題はその後で良いんじゃない? 私も付き合ってあげるから泣かないで」

「うぅー……すまんー……」

クエナの温情に涙が止めどなく滝のように流れる。

そんな会話をしていると、

「あれ、お二人とも行かれるんですか?」

セネリアが声をかけてきた。

半開きの眠たそうな目をこすっている。

「すまん。起こしたか?」

「いえ、ちょっとだけ騒がしかったですけど、多分ジードさん達の声じゃなかったような……?」

寝ぼけている様子だ。

だが、ロゲスとツヴィス達の会話は微かながら聞こえていたのかもしれない。

「まぁ色々あってな。俺達もそろそろ行くか?」

「ええ。ロニィとの約束にはちょっと早いけど、良いんじゃない?」

「ロニィさんと? なにかあったんですか?」

「うん? いやまあ、ちょっとな」

詳しい事情は説明しづらい。

ロニィを応援したい。今度の成祭で勝たせたい。なんて言えるわけがない。それはセネリアの兄と正面から戦うことを意味しているのだから。

「あの。私、実はジードさんに何度か依頼を出したんです」

「……マジ?」

「あらら」

「待ってくれ。依頼してから、取り消したか?」

「はい。一回目は兄に『無様なマネはやめろ』と言われて。でも、どうしてもお願いしたくて二回目の依頼を出しました。けど、兄の言葉を思い出して取り消して……」

「それを何回も繰り返しちゃった、と。一体どれくらいの費用がかかったんだ」

「えぇっと。金貨3枚分くらいだった……と思います」

いや相当な額じゃないかそれ。

たしか普通の一般市民が一年遊んで暮らせるのがそれくらいじゃなかったか?

金銭感覚が崩壊している……。

「あの、ご迷惑だったですよね……すみません」

「いいや。むしろ良かったよ」

「良かった?」

「うん。純粋な気持ちで依頼してくれている人がいたんだってわかったから。実はイタズラで何度も取り消しをしてくる人が増えててさ」

「こいつも色々と大変なのよ。察してあげて」

「お、おぉー……」

いよいよ昨晩は百件を超した。

おそらくどこぞの王族だか豪商だかの富豪たちが面白半分にやっているのだろう。

おかげで俺の方は何もせずとも冗談ではないくらいの収入になっている。

彼らからしてみても安全なところでちょっかいを掛けられるなら安いくらいなのかもしれない。そう考えると少しのほほんとする。

「それで、お願いってなんだ?」

「兄が成祭で勝つように……手伝ってもらえませんか?」

聞くべきじゃなかった。

いや、そう言ってはセネリアに悪いだろう。それでも曖昧にごまかすことはできず、このお願いは叶えてあげることはできない。

「すまない。俺はロニィを勝たせるつもりだ」

「――……です、よね。そんな感じがしてました」

きっと、だから聞いてきたのだろう。確認するために。

彼女自身も期待はしていなかったのかもしれない。さほど落胆はしていないようだった。どちかというと予想通りであったことに対して残念感を抱いているようだ。

「なんでツヴィスを勝たせたいの?」

クエナが尋ねる。

「とても辛そうだからです。いつも親戚のおじさん達に囲まれて、たまにボロボロになって帰ってくるんです。前はよく笑っていたのに……」

その表情は辛そうだ。とても直視なんてできない。

かなり心が痛む。

「悪いが、それでも成祭は勝たせてやることはできない」

「はい、わかっています。無理は言いません」

セネリアが裾を強く握り上げる。

年齢には不相応な我慢だな。

「大丈夫よ。こいつ、なんだかんだで手伝ってくれるから」

「本当ですか!?」

「うん」

クエナがセネリアの頭を撫でる。

「お、おいおい」

なんとか力添えしてやりたい。その気持ちはたしかに存在する。しかし、成祭に勝たせてやれないのは事実だ。

変に期待されても困る。

「だから、あなたは安心して家にいなさい。それから……無邪気にお金を使うのはやめなさい。ツヴィスとかに許可をもらわないとダメよ?」

さすがのクエナもセネリアには『依頼をしろ』とは言わないようだ。

子供相手だから遠慮しているのだろうか。

あるいは既にキャンセル料に支払った金額を考えてのことかもしれない。実際に一つの依頼を受けても良い額であったことはたしかだ。

「はい、わかりました!」

クエナの言葉にセネリアが勢いよく頷く。

彼女の感情を現すように嬉しそうに尻尾がくねくねと動いていた。

それから俺とクエナはロニィと約束の場所で落ち合うため屋敷を出た。