軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

しゅうらい

「依頼、受けてきたのだ」

手を飄々と左右にさせながらロニィが合流する。

「改めて自己紹介をしていなかったのだ。Sランクの冒険者、ロニィなのだ」

「俺はジードだ。ランクは同じくSで、こっちがクエナ」

「うんうん。二人とも知っているのだ。ジードは鳴り物入りでギルドの内外でも話は聞いているのだ。よくも悪くも、だけど」

随分と耳が痛い。

それからロニィが人差し指で一方をさす。

「こっちから行くと、あまり誰かに見られずに済むのだ」

それから三人で並んで歩く。

ロニィの言うとおり人気が全然ないようだ。

「それで成祭について何が知りたいのだ?」

「まず、いつ終わるか知りたいわね」

「順調にいけば一週間以内には終わる予定なのだ」

「結構はやいんだな」

ロニィの回答は思いがけないものだった。

というのも、あまり祭り的な前兆を感じさせない街並みだったからだ。俺のイメージでいうところの祭りは、もっと賑やかだったり、人々の口から聞こえていたりするものだと思っていた。

「単純に若手の一番を決めるってだけなのだ。殴り合いだけで済むなら、もっとはやいのだ」

さも当然のように暴力的な一面を見せてきた。

にたりと笑みを浮かべながら握りこぶしを両手で作って叩き合わせている。

「そういえば、なんで投票なんかで決めるんだ?」

「昔の成祭で死人が出たからなのだ。子供同士は白熱するから、大人の仲介がいるってことで投票で決まるのだ」

「……聞いてしまって、すまんかったな」

それはたしかにやめておいた方がいいな。

だが、そうなると投票後にも遺恨が残りそうなものだ。それはなんとか調整するのだろうけど。

「いいや、実際に私もまどろっこしいと思っていたのだ。実際に成祭で直接殴り合えるトーナメントでさえ団体戦なのだ」

「団体戦? それはどういうものなの?」

「観客を入れたドームで5対5の戦いをするのだ。これも白熱しすぎないためらしいのだ」

つまらなそうに、ロニィが口をとがらせる。彼女的にはあくまでもタイマンが希望のようだ。

「でも5対5でもバチバチに戦うんだろ? 複数戦でも過熱しちゃいそうだけどな」

「そうなると他の獣人も止めにかかるのだ。それに、あくまでも死人が出るのを少なくするのが目的なのだ」

それに、とロニィが続ける。

「ここでポイントなのは『誰を連れてきたか』なのだ」

「つまり威光を知らしめる目的もあるということかしら」

「そう。成祭で肝心なのは票を集めることなのだ。だから、より強い者を連れてきたら認められやすいのだ。結局は勝たなければダサいけど」

「1対1でも別に構わないと思ったけれど、そういった目的もあるのなら納得ね」

「ジードが嫌われていなければ一緒に戦ってほしかったのだ」

ロニィが惜しむように口にする。

たしかに俺が参加できれば力になれていただろう。

だが、あいにくと俺は獣人族で――というか大陸で全体的に――嫌われている身だ。もしも彼女のチームに入れば得票は下がるだろう。

「俺も嫌われていなかったら参加したかったな。……こう聞いたら悪いかもしれないが、勝てそうなのか?」

いよいよ本題だ。

成祭の詳細について知れても聖剣が取り返せなければ意味がない。

ロニィには勝ってもらわなければ困る。

「勝てるのだ。ぶっちゃけ成祭のトーナメント以外でも戦いは始まってるのだ。とどのつまり、普段どういった活動をしていて、どれだけ強さをアピールできているか。なのだ」

「その点でいえばロニィはSランクだから問題なさそうね。でもツヴィスだっけ? あれは護り手なんでしょ? 相当強いはずじゃないの」

クエナが疑問を投げかける。

「あいつは親の七光りで護り手に加えられただけなのだ」

小ばかにしながら、ロニィが続ける。

「元々、最高戦士は獅子族ばかりが成っていたのだ。だからそれなりに発言力もあって、若いころから護り手に入れてもらっていたのだ」

そういえば最高戦士オイトマの近くで、ツヴィスを睨んでいた護り手の男がいた。

親子といえるほど似通った容姿ではなかったが、厳しい目線を送っていたので近しい者だったのだろう。

「本当は護り手になれるのは選ばれているやつだけなのだ」

「選ばれているやつ? Sランクのロニィでさえ護り手じゃないんだろ?」

「私は七光りって言われるのが嫌だからなってないだけなのだ」

オイトマのことを父と呼んでいた姿は覚えている。

だから護り手になったツヴィスに対しても敵対心があるのだろう。

「じゃあ、どうやったら護り手になれるんだ?」

「色々あるのだ。最高戦士からの直々の指名や、護り手で幾つも推薦をもらう。他にも実力を示す結果があればいいのだ」

「Sランクとかね?」

「そうなのだ。私は最高戦士になれる実力があるのだ。でも未だにSランクの冒険者でさえ親のおかげだ、とまで言われている始末なのだ」

あからさまに不満気な態度を露出させる。

クエナも同情の視線を送っている。

「ギルドがそんな不正をするとは思えないわね。Sランクは顔のようなもの。一つの失敗でギルド全体の信頼をも陥れるのに」

「その通りなのだ! ……ま、でも今度の成祭で勝てば正式に護り手になるのだ」

「勝てば賞品でもあるのか?」

「うむ、なのだ。最高戦士からの直々の推薦をもらえるのだ。それに結果としても不足はないのだ。だから今回の成祭で満を持して護り手になり、父を超えるのだ」

ロニィが嬉々として語る。

無邪気に夢を追いかける子供のような姿が重なった。

「まぁ、俺としては勝てそうならそれでいい。よろしく頼んだぞ」

「任せるのだ! 同じ冒険者同士、助け合うのだ」

ロニィが自らの右手の二の腕を左手でガッチリ掴みながら勇ましくえくぼを作る。

ふと、路地裏の道先に玄関を見つける。

「あれは?」

裏戸やら裏口やらはあったが、それは明らかに普段から出入りすることを想定された装飾が施されていた。何よりも掲示板が正門であることの存在感を示している。

「あ~……あれはマジックアイテムを作ってる獣人の溜まり場なのだ」

ロニィが露骨に顔をしかめる。

「へぇ、面白そうじゃないか。でもなんでこんなところに」

「あまり売れてないからだろうなのだ。そもそもマジックアイテムは媚びを売るために弱いやつらが作っているものなのだ」

「媚びを売るって……。マジックアイテムは生活の質を上げてくれるし、戦闘にも役立つじゃないか。なんでそんなに嫌そうなんだ?」

「――ジード」

クエナが窘めるように俺の名前を呼んだ。

こういう時は大抵、俺が言っちゃいけないことを言った時の声音だ。

「気にする必要はないのだ。獣人族はマジックアイテムが……いや、弱者が嫌いなのだ」

その顔には陰りや怒りがあった。

これは確かに聞いてはいけないものだったのだろう。

だが、ロニィはすぐにひょうきんな表情に戻った。

「ジードは獣人族の歴史をあまり知らないのだ?」

「ええ。この人は常識が結構欠けてるの」

「勉強中なものでな。粗相があったのならすまん」

「大丈夫なのだ。勇者を断る人族なんて粗相どころの騒ぎじゃないのだ」

「なるほど、それもそうか」

逆に考えれば獣人族では好きに無知のままでいられるわけだ。

ある意味では天国かもしれない。

そんなことを考えている俺の頭上に手刀が降ってくる。コツンっという小さな音が耳に届く。

「納得しないの。皮肉でしょ」

「すんません……」

お叱りを受けなければ調子に乗るところだった。

「ま、そんなジードがまたやらかさないように教えてあげるのだ」

マジックアイテムの店を横切る。

「――獣人族はかつて弱かったのだ」

それからのロニィの話は歴史を簡略化したものだった。

かつて獣人族は人族や魔族などと戦争をして疲弊していた。種族間の争いがピークに達した時、人族がマジックアイテムを活用した。

『奴隷の首輪』『魔物寄せの水晶』……他にも数多のマジックアイテムが使われた。

今では人族で忌み嫌われている物ばかりだ。事実、禁止されてさえいる。

そして、それらは獣人族にも使われた。

だからロニィ達はマジックアイテムを嫌っているのだ。

そんな尊厳や自由、平和を奪う『弱さ』さえも。

「そんなことで、あまり獣人族では表立って『弱者』や『マジックアイテム』を擁護しない方がいいのだ。わかったのだ? 勇者を断ったとんでもないジード君」

「……うーん」

たしかに感情の上では口にさえしない方がいいのだろう。

だが、引っかかる。

それらは決して悪くないのではないか、と。

しかし。

それを口にするよりも先に問題が発生した。

『ガァァァァァァ!』

オーガの雄たけびが複数聞こえる。

それらは獣人族の街の中にまであった。

「話はまたの機会にするのだ! 私は討伐に向かうのだ!」

そう言ってロニィが駆け出す。

どうやら依頼は突発的に始まってしまったみたいだ。森に行く手間が省けたといえばそうだが、街の獣人たちが危険だ。

「どうする?」

「俺たちも行こう」

「ええ」

俺の答えを待っていたとばかりにクエナが頷く。