軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふむ

獣人族のギルド支部は想像していたよりも平凡だった。

あまり人族と変わらない。

しかし、依頼内容には多少の変化があった。

「物々交換……?」

「ええ、一部はそうね。今は人族の貨幣制度を用いた経済が導入されてるけど、獣人族は昔ながらの物々交換で取引されていることもあるわね」

ボーンウルフを倒せば一か月分の穀物を貰えるもの。他にも歴代最高戦士の三十センチ銅像なんかがあった。

これは人族には見られないもので面白かった。

「でも、なんで物々交換なんだ?」

「権力の主体ね。獣人族は力が強い者の順番で食料や権利が変わってくるの。必然的に依頼したい人の金銭は、依頼を受けるような強い人の方が持ってることが多い。特に討伐系の腕力が物を言うものは特に」

「……んん? 難しいな」

「簡単にいうと、お金だけじゃ搾り取れないから物まで取ってるってこと」

クエナの表情は暗い。

「おぅ……なるほど」

じつに分かりやすい構図だ。

如実に力の差が表れている種族だけある。

なんというか。生きづらそうだ。

「ふーむ。試しになにか受けてみようか?」

「ちょっと、目的忘れてない?」

「依頼を受けるのと一緒に聞くよ。その方が忌憚もなさそうだろ?」

「……まぁ受付に人族はいないみたいだしね。でも、依頼は選んだ方がいいかもしれないわよ」

「ああ、わかってる」

俺が受けたとすれば嫌悪感からキャンセルを申し出てくる可能性がある。それも直接の取引となれば隠そうとすらしないやつまで出てきそうだ。

だからこそ、なるべく依頼人とは積極的に関わらないものがいい。

「これとかどうだ?」

依頼書を丁寧に剥がしてからクエナに見せる。

どれどれ、とクエナが覗き込むように前のめりになる。

「オーガ討伐……依頼人はオイトマね」

「我ながら良いチョイスだろ?」

「まぁ、これなら断られる心配もないわね。適性ランクもAランク以上からみたいだし、受理できる人が限られているから」

褒められるのが嬉しくて、鼻が高くなりそうだ。

しかし、クエナの表情に陰りが生まれる。

「これ、めちゃくちゃ近いじゃないの。シネリア森林って」

ここに来るまで地理は頭に叩き込んである。

クエナの言うとおり、シネリア森林はオーヘマス国都から近い。それこそ歩いて十数分ほどだ。

「それがどうした?」

「いや、相変わらず無茶苦茶な種族だと思って。覚えてる? ここ外壁が一切ないのよ? そんな近くに適性がAランクの依頼の討伐対象がいるって危険すぎるわよ」

「確かにそうだが……さすがに何かの対策は取っているんだろ?」

「昔と変わっていないのなら弱者は放置されているんじゃないかしら」

クエナの冗談とは到底思えない言葉に軽く衝撃が走る。

「え? でも討伐依頼も出てるじゃないか」

「それはオーガが目障りになったからじゃないかしら」

「目ざわりってそれだけか?」

「……言っとくけど私も良くないと思ってるからね」

すこし受け入れがたい、生理的な嫌悪感を覚える。自分でも不思議な感覚だ。

いや、どことなく期待していたのかもしれない――

「勇者を好きなのに……人のことは好きじゃないんだな」

「そうね。勇者っていう酔える存在を羨んでいたのかもしれないわ。その実績はあくまでも副次的なものだと思っている」

ふふ、と軽く笑って、クエナが俺のほうを見る。

「勇者に興味なさそうだったじゃないの。本当は断ったことを後悔してる?」

「興味がない……ってわけではないと思う。改めて考えてみると自分が何なのか分からなくてさ。勇者になったら自分が変わるような気がして」

「人はそう簡単に変わらないわよ」

クエナが物柔らかに目を細めて笑う。

その言葉に安心感を覚える。けど、やはり一抹の不安は心のどこかにあった。

不意に横から気配が現れる。

「まだ獣人族にいたのだ?」

ロニィだった。

思いがけず出会ってしまったが、そういえばSランクの冒険者だったか。ギルド支部なのだから出会っても当然というものだろう。

「成祭について詳しく知りたくてな。依頼を受けるついでに受付嬢に聞こうと思ってたんだ」

「ふーん……それよりも、その依頼は私が引き受けるつもりだったのだ。もらってもいいのだ?」

ロニィが俺の持っている依頼書を見ながら尋ねてくる。

「実は俺たちも受けたくてさ。これ以外の依頼は好感度的に断られてしまいそうで」

「複数のパーティーが受注できる依頼ではないのだ。うーん……ま、成祭なら私が教えてあげるのだ」

「そうか。助かるよ」

ロニィに依頼書を渡す。

それからロニィに指示され、人気の少ない路地裏にまで行く。

あまり俺たちと関わり合っていることはバレたくないのだろう。