作品タイトル不明
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それから今後の予定などについての話し合いが終わり、ソリアや俺達はアトウの領地に戻ろうとしていた。
「待て、ジード。少し構わないか?」
不意にルイナが声をかけてきた。
隣にはユイもいる。
俺よりも先にソリアが反応を示した。
「今後の詳細については後日話し合うはずですが」
「なに、雑談程度だ。久しぶりに会ったのだから妹の話くらい聞かせてくれ」
「……そうですか」
ソリアが警戒しているのは、俺がウェイラ帝国に懐柔されてしまわないか、という点だろう。
だが、ここまで来て悪意のあるような行動はしない気もする。
そんな考えは純粋すぎるだろうか。
「俺は構わない。ソリア先に行ってくれるか?」
「わかりました。何か変なことをされたら言ってくださいね……?」
心配そうに見上げるソリアに苦笑いで頷いておいた。
それからルイナの方に向かう。
通されたのはルイナの専用の部屋だろう。
軍船の中に豪邸の一室が用意されている。
「ジード、よくやってくれたな」
「……なんの話だ?」
「色々あるさ。まず今回の海戦はウェイラ帝国が負けるはずだった。こうして接岸するのは東和国であってウェイラ帝国ではなかっただろう。おまえがいなければ」
「ああ、あの時のことか……」
「そうだとも。竜族にしてもそうだ。本来なら我らウェイラ帝国に敵対する存在だった。しかし、間接的とはいえ、おまえの一声で奴らを手助けさせた」
「別に意図していたことではない。偶然だよ」
「そうだな。ここまでは偶然だ」
ここまでは?
引っかかる言い方をする。
するとルイナが上機嫌そうに微笑んだ。
「ようやく我が夫としての自覚が生まれたか?」
「お、夫……!?」
思わぬ言葉に心臓が飛び出しそうになる。
そういえばルイナそんなこと言ってたな……。
「ああ、そうだとも。本来なら我らウェイラ帝国が東和国の領土にありつけることはなかった。だが、おまえが先ほど手助けをしてくれただろう?」
「……監督のことか?」
「そうだ。それに一週間もあればウェイラ帝国の援軍も来る」
……なるほど。
ルイナからすれば帝国は撤退させられて然るべきだと考えているわけだ。
だから『監督する』という立ち位置までくれた俺はウェイラ帝国にとっては味方であるという見方ができる。
そして、そもそもソリアと話し合っていた『一週間も待ってやるのはウェイラ帝国にとって不利である』ということも、実を言えば『ウェイラ帝国にとって一週間もあれば東和国を制圧するほどの援軍を寄こすことは容易い』というブラフだった、と。
相変わらず、ルイナはとんでもない女傑だ。思考の巡らせ方が違う。
「仮に神聖共和国が打診に失敗したら、ルイナ達は東和国を取るつもりか?」
「もちろん。あくまでも思想を滅ぼすのはユイの目的だ。私はさらに国という資源も欲しい。そして、ジードのおかげでそれは実現に手が届きそうだ」
神聖共和国はソリアの手勢だけだ。
彼らも優秀であるが、東和国を力で説き伏せるには不足している。
そこで監督する立場であるウェイラ帝国の登場だ。仮に彼らが力で動けば各所に帝国の息のかかった勢力や場所を作れる。
ソリアもそこまで自由にさせないとは思うが……
「だとしても偶然だ。俺はそこまで考えてはいない」
「仮にこれが私の買い被りだったとしよう。それならどうしてウェイラ帝国にも利益を与えた? あちら側の視点でウェイラ帝国は一方的に攻め入っている悪者と捉えても不思議ではないだろう?」
「俺が東和国に来たのは一つ。ただソリアの手助けをしたかったからだ。国がどうとか情勢がどうとか、あまり関心がなかった」
それは本当のことだ。
けど、と俺は付け加えて続ける。
「――ユイのことも手伝いたくなったんだ。きっと俺だったら憎しみを人にぶつけたくなる。それこそユイの立場なら実行犯のアトウを殺していたかもしれない。それでも立ち止まって考え方を改めさせようとしているユイは偉いと思った。だから手伝いたいんだ」
「ははっ。なるほど。だとさ、ユイ」
「……」
俺の言葉にユイが瞳を閉じる。
その姿を見たルイナが仕方なさそうにため息をついた。
「不愛想で悪いな。だが、これでも嬉しがっているんだよ?」
「……ああ、そうかい」
「しかし、さすが我が夫だ。人のことを考えて動ける。これができる奴は早々いない。いつ挙式をしようか?」
「いや、やめてくれ……。俺はそんなつもりじゃないし、そもそも夫って。前から言っているが俺は帝王だとかに興味はないからな」
「照れるな照れるな。妾ならクエナと金髪の巨乳、あと愛想が悪いがユイも付けてやろうじゃないか。ユイも嫌ではないだろう?」
ルイナに話を振られるも、ユイは不動だ。
「くく、動揺してパニックを起こしているみたいだな。ああ、それにソリアと剣聖も迎え入れようじゃないか。随分とユニークな家族になりそうだな?」
「話を勝手に進める天才だな、ルイナ……」
ここまで来ると素直な称賛しか出てこない。
「まぁ冗談さ、一割くらいな」
「……それは冗談の範疇ではないと思うぞ?」
「ここからは真面目な話だ」
がらりと雰囲気が変わった。
人差し指を口元にまで持ってきて、いたずらに笑う。
「光星の聖女にはくぎを刺されたが、今後について話したい」
ルイナの瞳が怪しく光る。
本来ならば聞くべきではないかもしれない。
けど、ここで話を持ち出すルイナの魂胆を聞いておきたい。
「……話だけなら」
「ああ、結論から言おう。仮に打診が上手くいかなかった場合、少数精鋭による一点突破で領主たちの首を狙ってくれ」
そういえば先ほど言っていたな。俺にも参戦してほしいと。
これはソリアに聞かせれば反対していたかもしれない。彼女抜きで持ち出したのは正解だろう。
しかし、実のところ、
「元よりそのつもりだ」
俺はこの戦いに混ざるつもりだった。
混乱をもたらし、自らの意見で三国の行く末を決めた。その責任は負わなければならないだろう。
「良かった。人的資源も貴重でな。湯水のように使っていると思われるかもしれないが結構大事にしているんだ」
意外だな、とは驚かない。
ルイナの運営はきっとブラックなのだろう。だが、きっとクゼーラ騎士団とは一線を画すものがある。それはウェイラ帝国の強靭さで如実に表れている。
「――ユイ、そしてジード。私はおまえ達二人だけで十分だと思っている」
「ああ、俺もそれで構わない」
フィルがいても良いが色々とうるさそうだしな。……なんて邪険にしてたら文句の一つでも言われそうだ。
「良かったよ、同意見でいてくれて。やはり私たちは気が合うな?」
「どうだかな……」
事あるごとにアプローチをしてきてやりづらい。
話を変える。
「てか結局クエナの話をしてないな。気にならないのか?」
ソリアと俺を引き離した口実だったはずだ。
珍しくルイナが目をパチクリさせる。
「いやいや、すまない。忘れていたつもりはなかったんだ」
「話すつもりはあったのか」
「ああ。優先順位を考えるとどうしても後回しになってしまう。クエナのことが嫌いとか興味がないとか、そういうわけじゃないんだ。……どうだ、元気にしているか?」
「元気も元気だよ。Sランクになろうと頑張っている」
「そうか」
ただ一言口にして、嬉しそうに頷いた。
それは妹を想う、一人の姉の姿に見えた。
かつてクエナを腹違いだと虐げていたようには思えない。クエナの思い違いか……? あるいは仕える周囲の言葉だったのだろうか。
それでもルイナならば守ってやることもできただろうに。
「ま、俺は行くよ」
「ああ。頼んだぞ。ユイのことも、クエナのことも」
「二人とも俺の手なんて不要なくらい強いよ」
肩を竦めながら、俺はソリア達の下に戻った。