軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14

東和国の陣営から馬に乗った男たちがこちらに向かってくる。

何度と送った使者は返されていたが、ようやく本命のご到着らしい。

こちらは神聖共和国の面々と竜たちが待機している。

「ソリア、この国のやつらは仲が悪いのか?」

俺たちを囲む東和国の兵力はさほど多いわけではないようだ。

数にしても三千ほどだ。

だが、東和国の戦力が少ないわけではない。

それは探知魔法でこの島国の全容をある程度把握したからだ。

今、俺たちを囲んでいるのは海岸沿いに集う勢力の大部分だ。さらに奥の内陸方面は全くと言っていいほど兵力を割いていないようだ。

人口は多い。が、戦時だというのに活発ではない。

「いいえ。そんな話は聞いていません。それどころか内紛すらないと聞いています。十数年前に一度だけ領主の入れ替えがあったくらいです」

「……そうか」

「どうかされたんですか?」

「ソリアから聞いていた五つの勢力のうち、大部分の勢力を割いているのは俺たち側の海岸沿いの人々だけだ。隣の領地からある程度の援軍は来ているようだが、それ以外は支援すらしていない気がする」

「変ですね……なにかあったんでしょうか」

東和国の様子にはソリアも訝しそうだ。

しかし、ソリアの隣にいるフィルが口を開いてこの会話は終わった。

「来ます」

馬上から降りて先頭に立ったのは白い髪に茶色い目をした男だ。歳は四十ほどだろうか。

縞模様の赤く染められた革で繋いだ戦闘装束に身を包んでいる。見てみれば、男の周囲も似たような恰好をしている。

「神聖共和国の方々ですね。なんのご用件でしょう」

名乗らずに言ってきた。

戦線を後退させられた元凶を前にしているのだから当たり前の反応だ。敵意も剥き出しで、後ろで待機している面々も合図があれば襲い掛かってきそうだ。

だが、ソリアは臆さない。

「私はソリア・エイデンと申します。早速ですが、東和国で流行っている疫病の特効薬ができたのでお渡ししたいのです」

「……特効薬?」

騎士の一人が緑色の液体が入った小瓶を差し出す。

だが、さすがに素直に受け取られはしなかった。

「特効薬であれば第一頭任らが動いている。不要だ」

「いや、すでに完成したものがこちらで……」

「協力しようとしてくれていることは感謝する。しかし、それを受け取るとほかの頭任に不義を疑われるのだ」

一瞬、耳を疑った。

当然、信用の差でもあるのだろう。いきなり現れて特効薬ができたので使ってください、なんて言われても戸惑うだろう。

しかも、それが戦争中の大陸側の人間ならば尚更の話だ。

だが、それは。

「――民を軽視するというのですか」

ソリアの声音に怒りがこもる。

東和国のやつらはソリアの迫力に飲まれる。

「いえ……軽視するわけではありません。しかし、もしも我らの領地だけ特効薬が回っているとなると釈明のしようが」

「当然、ほかの領地の方々の分も用意しているつもりです。作成法もお教えします」

「……それを第一頭任が許すかどうか」

どうやら面倒くさい関係があるようだ。

男の内面からオドオドとした気弱な姿勢が見える。

そういえば、十数年前に領主が代替わりしたのだったか。

釈然としない男にソリアが珍しく苛立ちを募らせているようだ。

「なぁ、ほかの領主への釈明って必要なのか?」

思わず、尋ねる。

「必要です。東和国は『和』を重んじています。仮に不義や独立の姿勢を見せようものなら待っているのは一族郎党の粛清。……それは民にまで波及するかもしれない」

ギリっと、こちらにも聞こえてくる奥歯をかみしめる音。

東和国では一つの言動や判断が過大に取られ、仮に敵意ありと認められれば戦争に直結するのかもしれない。

疑問が浮かぶ。

「それなら、戦争をしているのにおまえら以外の他の勢力の連中はなにをしているんだ?」

「なに……とは?」

「戦っているのはおまえらだけじゃないか。それに特効薬でさえ作ったのは外部の人間。それを無償で提供しようとしたのも外部の人間。なら一体、『和』ってなんだよ?」

「それは……彼らは準備をしてくれているのです。特効薬だって偶々あなた方が用意できただけで……」

男が言いかけて、首を振る。

そして明確な敵意を鋭い目つきに載せた。

「いや。実際に用意できたのかも定かではない。こうして時間を取らせることが目的なのではないですか?」

「それは試してから言ったらどうだ?」

たしかに俺たちの行動は怪しまれて当然のものだ。

彼らからすれば善意であると断定できる材料がないのも事実。

疑心暗鬼になるのも仕方ない。

しかし、一つの思想を忠実に倣おうとした結果に生まれた言い訳を並べているだけだ。

だからこそ俺の言葉に男は詰まった。

「……それは」

「時間が惜しいか? ウェイラ帝国は迫ってきているからな。安心しろ。俺たちに攻め入るつもりはない。また海戦のために発てばいい。だが、こちらも食糧的に長居はできない」

「だから試せというのか。――大事な民に。大陸のおまえたちの薬を」

民を思う気持ちが出た。初めて男が本音を漏らした。

男の真摯な気持ちが垣間見えて、ソリアの怒りもいくばくか収まったようだ。

「ご安心ください。試験はこちらで済んでいます。我々は特効薬を置いてこのまま去りますので、どうか頭の片隅にでも覚えていただければ幸いです」

ソリアの言葉に男が奥歯を噛みしめている。

そして覚悟を決めた面持ちで頭を下げた。

「五頭任家、アトウ・ハルキヨだ。ありがたく、使わせていただく」

「――はい!」

想いは通じる。

ソリアの言葉は本当だったようだ。

見ていて口が綻ぶような光景を目の当たりにしていた。

「おい、一人連れてきてくれ」

「はっ……それはつまり?」

「病人だ。本当に効くか試す」

「…………!」

どうやら腹をくくったようだ。

これで彼女らのお願いも達成できた気がしたが。

アトウの後ろに構えていた副官らしきやつが――片手をあげた。

「――それは重大な裏切りです」

「きっ、きさま……!?」

ああ、合図だ。

それを理解したのは魔法と弓矢が空から飛んできて、東和国の兵士たちが向かってきてからだった。