軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13

陽が沈みかけた頃に大地が見えてきた。

港がある。戦時下のためか漁船が見当たらない。どこかに逃がしているのだろう。

「む。なんだ、あれは?」

フィルが不思議そうに呟く。

目を凝らすと魔力を纏った筒が海岸沿いに配備されていた。大きさは人ほどで色は白色。一つにつき三人が待機している。

筒の数は百程度だ。

「マジックアイテムだな。海戦が敗れた時の迎撃用じゃないか? 俺たちも撃たれるかもな」

「なっ!? それじゃあ……!」

フィルが仰々しく警戒を強める。

「いや、大丈夫だ。魔力量的にここまで届かない」

筒の形状をしたマジックアイテムから魔法陣が展開される。そこから灼熱の炎が俺達目掛けて昇ってくる。

だが、遥か遠くまでしか届かず爆炎だけを発して消滅した。

「おそらく対陸地用のものを持ってきたんだろうな」

「そうか。しかし、物騒な挨拶だ」

「威嚇でもあるんだろう。『降りてきたら容赦しないぞ!』という」

下にいる連中は俺達の動きを慌ただしく見守っていた。見失わないよう馬を駆けさせながら追いかけてきている。

「ジード、どこに降りる?」

ロロアが首をこちらに向けて問うてくる。

「ひとまずは人里がない場所が良いんじゃないか?」

「そうですね。野宿の用意もあります。広々とした草原のような場所の方が東和国の人々も警戒しやすくて、戦闘にまでは発展しにくいんじゃないでしょうか」

「俺達も警戒しやすいしな」

「わかった!」

それからロロアは先頭を飛ぶ黒竜王と降り立つ場所を相談しているようだった。

その間にも下から常に監視されている。

星空が輝いている。

周囲は神聖共和国の団員が光を生み出して四方を見られるようにしていた。

軍用のテントも既に構えていて、防衛用の魔法陣が刻まれた木片も周囲に用意されている。

背には山があり、黒竜達はそこで待機していた。

そして遥か先の正面では東和国の軍隊が俺達を睨みながら見張っている。

「まだ動けませんね」

俺の傍らにソリアが立つ。

先ほどまで神聖共和国の騎士団で今後のことを計画していたようだが、もう話し終わったみたいだ。

俺は今も探知魔法を発動しながら警戒している。

「どうするつもりだ? 海戦していた連中が来たら戦闘になりそうな気もするが」

「ええ。しかし、逆にいえば安心感ももたらします」

余力を持てばそれだけ心の余裕が生まれる。そうなれば話を聞く際に落ち着ける。

ソリアが提案するのは彼らに対して利益しかないものだ。

断ることもないだろうし、争うこともないだろうと踏んだのだろう。

「つまり待機ってことか?」

「その通りです。あちらに使者も送りますが、おそらく数日はここで待つことになると思います」

「……そうか」

その行動に理解はできた。

だが、腑に落ちない点がある。それは今回の行動の矛盾とも言えるべきものだ。

ソリアの言葉に相槌を打った後、続けた。

「なぁ。俺達が戦争を動かしたかもしれないこと。どう思っているんだ?」

「東和国の海軍が撤退していた件について……ですか?」

「そうだ。竜が移動していなければ東和国は海戦でウェイラ帝国に勝っていたはず」

「そして元凶は私達……と」

元凶は言い過ぎただろうか。

ソリアが心苦しそうに胸の方で手を握って祈るように言う。

「――戦争は身勝手だと思います」

「身勝手?」

「情報を操って、人を煽り立てて殺し合わせる。しかも、時にそれは強制で」

思い当たる節はある。

俺でもそうなのだから、戦場を渡り歩いて来たソリアなら何百倍も知っているはずだ。

「でも結局のところ協力し合えば解決できた問題のはずなんです。欲を取って、他人を無視する。……それが戦争の根本にあると考えています」

それはひどく善意の籠った言葉だった。

返す言葉が……見つからない。

では、もしもここにソリアと対極的ともいえるルイナがいたらどう返答したのだろう。

浅く脆い知識しかない俺には「綺麗事」だとか、「理解に苦しむ」だとか。そんな答えしか出てこない。

でも、どうしてだろうか。ルイナならば違う回答をしそうだった。

「私はそれら争いと向き合って心の底から思いました――あなたは光です」

「光?」

「覚えていないかもしれないですが、ジードさんは私を救ってくださいました」

「俺がソリアを?」

「それから何度も、何度もジードさんのことを知りました。そして、あなたは私の思った通りの人だった」

「……思った通りの」

ソリアが俺になにを描いていたのか、察しはつく。

「あなたは希望を抱かせてくれるお方です」

誰かと姿が被った。

それはすぐに思い出される。スフィだ。

ソリアもまた彼女と似たようなことを言っている。救世主だとか勇者だとか、そういったものではないが。

「俺はそんな大層なものじゃないぞ」

「……たとえ、ジードさんご自身がそう思われていても、私はあなたに希望を抱けるのです。あなたのお傍にいたいから」

「傍に、ね」

「はい。私が活動している原点と言っても間違いないです。そして、今こうしてお傍にいられていますから」

「ソリアが嬉しいなら何よりだよ。俺にはさっぱりだけどな」

なにしろ救った覚えがない。

理解はできるが得心にまでは至らなかった。

そうして、流されかけていた話題を誤魔化されないために続ける。

「それで、肝心の本題には応えてくれていないぞ?」

「戦争を動かしてしまった件について、ですか?」

「ああ。民を救うためとはいえ、東和国の軍隊を引かせてしまったんだ。それはウェイラ帝国の侵攻に繋がるはずだろ?」

ソリアが動く根源は理解した。

だが、それは俺の中で今回の一件に結びつかない。

あるいはソリアの中にもう一つ別の何かがあると考えられるほどだ。

「成り行きに任せます」

ソリアが言った。

「神聖共和国が仲介する、とかじゃないのか?」

「どうして神聖共和国が?」

「だって、おまえが率いている騎士は神聖共和国のやつらだろ?」

「ああ、うーん。そこら辺はちょっと複雑なんです。神聖共和国の騎士団でもありますし、私個人の私兵とも取ってもいいんです。今回は後者で……というか基本的に後者ばかりなんです」

「つまり神聖共和国は関知していないってことか?」

「いえいえ。特効薬を作ったのは神聖共和国の技術団なんですけど、私は基本的に自由なんです」

ソリアが絶大な権力を持っていることは薄々察しがつく。真・アステア教の筆頭司祭で、冒険者ギルドのSランクだ。民衆からの支持は厚い。

じゃあ、だからこそ……

「なら……どうして動くんだ?」

そこが分からなかった。

動く根源だって、俺の傍に居たいという理由で……

ああ。そこまで思い至って、答えに近づいた。

そして、それはソリアが口を開いたのと同時だった。

「動く理由は簡単です。女神さまが見てくださっているからです」

「人を救えば俺の傍に居られると?」

「ええ。そして、それは実際にかなっているんです。かつて死に際に救いを求めれば救われました。あなたという存在に。継続して良い人々を救っていたら、あなたのお傍に居られました」

答えになっていないようで、ソリアなりの理が存在している。

狂気とも……取れなくはない。

「だが、結果的に多くの人々が傷つく結果になったらどうするんだ」

「安心してください。無責任に放り投げているわけではありません。ウェイラ帝国の上層部とは見知った仲ではあります。特にルイナさんも来ているようですから」

成り行きとは今後の流れに身を任せて対処する。そういうことなのだろう。

しかし、その根幹には彼女の女神や俺に対する絶対的な信頼があるように思えた。

それが果たして良いのか悪いのか。今の俺には分からない。

ソリアの手腕がどれほどのものであるのかも見当がつかない。

そして、数日が経った。