軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12

ウェイラ帝国、海軍。

東和国のルートにある海域ではウェイラ帝国海軍が足止めを食らっていた。

「ふむ。厄介だな」

海軍の中でも一際に巨大な船舶の一室で女帝ルイナが呟く。

周囲には経験豊富な将校や知識人らが構えている。ユイもルイナと最も近い場所で着席して巨大な海図を囲んでいた。

空席には全身鏡を模したマジックアイテムがある。それは各船で陣頭指揮を取っている軍長に繋がる。――今は最前線で戦闘中のため黒色に染まっていて、音声も入っていない。

「海戦系統の技術力に大きな差があります。魔法を魔力に戻し、吸収するようなマジックアイテムが設置されているのかと」

聡明そうな男が言う。

相手は未知数の国家であることから、彼のような魔法技術に知見のある人物も配置されていた。

ルイナが男に尋ねる。

「対処法は?」

「吸収可能量を大幅に超す魔法を放てば突き抜けることができます。しかし、非効率すぎます」

傷跡を多く残している歴戦の将校が続く。

「おそらく出撃している各軍の総魔力量を合わせても突破は不可能かと。予め魔力を蓄えていた戦略級のマジックアイテムを用意しなければなりません」

それがここ数日の戦闘の結果に導き出された答えだった。

ルイナが眉を下げる。

「やれやれ。勝てると言うから私が来たのだがな」

「……面目ありません」

わざわざ女帝自らが足を運んだ理由は簡単だ。

弱体化した国に攻め入り、そのまま従属させるため。それで参戦もしてくれるのであれば士気も大いに上がる。

だが、それは勝つことが前提の戦いだ。

「これでは危険に晒されただけの敗北者だ。――しかし、そこに拘り無駄な犠牲を払うことこそ最もな敗北だな」

言外にある「撤退」を誰しもが感じ取っていた。

戦況を見てもそれは明らかであるし、ウェイラ帝国ならばここから立て直すことも容易だ。

だが、思わぬ事態が舞い降りた。

一面が黒色に染まった連絡用マジックアイテムが、慌ただしい背景を持つ男に移り変わる。

「ル、ルイナ様!」

「どうした?」

「東和国が進路を変えて撤退しています!」

「……なに?」

疑問しか残らない敵の行動に、ルイナの傍らにいた将校らが動揺を湛えた。

しかし、それらは間髪入れずの報告によって、さらなる驚愕へと塗り替わる。

「じょ、上空に竜の大群が――!」

偶然ウェイラ帝国の兵士が見つけた、雷雨と見紛う集団。

聞くや否やルイナ達は屋外へと足を運ぶ。

「これは」

広がるのはウェイラ帝国の船団すべてを太陽から隠すほどの生物の群れだった。

遥か上空を飛んでいてなお、圧巻の光景が広がっている。

ウェイラ帝国側が東和国側の追撃を一瞬でも遅らせてしまったのは目を奪われていたからだ。

「……ジード」

ユイが先頭付近で飛翔する竜の背に乗る男を捉える。

ユイほどの視力を持つ者は少ないだろう。

仮に見えても人影があるかもしれない、くらいだ。

普通なら幻覚を疑うところだが、あいにくウェイラ帝国の軍人はその男の動向を予想する余地もない。

幼児の戯言のような虚言だと切り捨てる余地はなかった。

そして、それはルイナも同様だった。

「はは……あいつは一体なんなのだ」

ルイナは間近で何度もジードを見てきた。

行く先々の戦場で彼はいて、そして尋常でない爪痕を残す。

(結果的に助けられた形になったな)

驚愕に時間を費やすのもほんの少しだった。

ルイナは好機を逃しまいと全軍に進軍を伝えるのだった。

東和国は五つの領土からなる。

それぞれ第一頭任家、第二頭任家……と続いていき、大陸側に面しているのはアトウ家が支配する第五頭任家だった。

アトウ家は先代ムラクモ家に仕える家格であった。しかし、ムラクモ家のとある裏切りにより他頭任家の命令で真っ先に刃を向けることになった家柄だ。

「第一頭任らはどうしている!?」

最前線から離脱している現当主のアトウ・ハルキヨが副官に問う。

だが、副官は悔しそうな顔つきで首を横に振った。

「……援軍の通達は未だに」

「どういうことだ……! 我らは疫病で兵すらもまともに動かないのに、やつらは特効薬をぬるま湯に浸りながら作っていてなお未完成……! あまつさえ援軍すらも送らないとは……!」

「……」

思わずハルキヨは悪態を吐く。

だが、瞬時に我にかえって口を閉ざした。

周囲の視線はハルキヨにあった。主将であるため目立った存在ではあるが、その視線はどこか背筋を凍らせるものがあった。

(……これではムラクモ様の仰っていた通りではないか……!)

それでも怒りは収まらず、顔を歪ませて胸の内を荒波立たせる。

すぐさま上空を見て言った。

「仕方ない。はやく陸に戻って体制を立て直すぞ! アレは放置できん!」

「はっ!」

第五頭任の戦力を引き返させるほどの圧倒的な生物たち――黒竜の群れが東和国に向かっている。

仮に彼らが真っ先に降り立つとしたら第五頭任領だろう。

(援軍が来れば他の頭任領に頼れていたが来たのは第四頭任の兵士だけ……!)

しかも数も少ない。

それは疫病のため、そして急な開戦であるため仕方がない。しかし、ウェイラ帝国を相手取る上では不安な兵数だった。

ただでさえそんな状態であるにも関わらず、ここに来て更に不安定要素が舞い込んできた。

仮に戦力を残していたとしても押し切られるのが関の山だっただろう。その判断自体は正しかった。

――しかし、優勢のまま終わるはずだった東和国に一つの風が吹いていた。