軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11

横切った空気がビュオオと鳴っている。

竜の背から見る景色は普段のものと一変する。

雲が掴めそうなほどに近いし、大地は背筋が凍りそうなくらい遠い。

「これほどの速度なら今日にでも着きそうですね」

フィルの声だ。

抵抗する空気で目が霞まないよう手を前面に出している。

その口調は敬意を持っているものだからソリアに宛てたものだとすぐに分かる。……俺にも敬意を持って欲しいものだが。

当のソリアはロロアの背に必死で掴んで頭を下げている。

「それなら良かったです……! 速いに越したことはありませんから……!」

念のため先んじて食料を貰っていたが食べる暇はなさそうか。

「それで打ち合わせってなんだ? 東和国についてか?」

「はい……! 万が一にでも戦う準備はしておかなければいけません……!」

「戦う準備?」

「ああ、そうだ。言ったろう? 東和国は閉鎖的な国なんだ。我々も連絡を取る手段がない」

「じゃあ、どうやって特効薬なんかを渡すんだよ?」

「効くと言えば……! きっと受け取ってくれるはずなので……!」

ソリアがそんなことを口にした。

本当にそうだろうか? そんな疑問が浮かぶ。

「おまえの疑問も分かる」

フィルが言うので振り向く。そっぽ向かれた。

「東和国はウェイラ帝国と戦争をしている。彼らからすれば我らもウェイラ帝国と同様の大陸側の人間だ。決して看過できない存在のはず」

「タイミングが悪かったです……!」

引き返せ。

一瞬だけそんな言葉が浮かぶ。

しかし、すぐにそんな考えは取り止めた。

もう出発したのだから出鼻を挫くこともないだろう。

なによりソリアがそれを認めないだろう。こうしている間にも苦しんでいるやつらがいるのだから、何もしないよりは進みたいと言うはずだ。

そんな性格だと分かるからこそ、その考えを手助けしてやりたくなる。

「たとえ争いになったとしても俺が止めるよ」

「ふっ。おまえならそう言うと思っていた」

フィルが格好つけながら言う。

相も変わらずこっちは見ていない。頑なに視線を合わせてくれないようだ。

「……! ジードさん……!」

ソリアがパっと俺の手を握る。

その手はとても冷たかった。

その瞼には涙が溜まっていた。

「――ありがとうございます……!」

少し青白くなっている顔。

華奢な手は震えている。

そりゃそうだ。竜の背に乗って高い場所を高速で移動するなんて怖いだろう。そもそも戦場になるかもしれない場所に向かうのだ。神聖共和国の精鋭が集っているし、慣れているのだろうけど、心の奥底には恐怖があるはずだ。

「ああ」

彼女の手を握り返す。

温めるように両手で包み込んで。

ソリアは恥ずかしそうにしながらも振りほどくことはなかった。

不意にガシリと俺の手首が掴まれる。

「おい。ソリア様に触り過ぎだ」

背に、見えない怒りの炎を燃やしながら俺のほうを睨んでいる。

どうやらソリアのことに関しては俺のことを見られるようだった。そんな的外れな思考が巡る。

「悪い悪い」

そう流しておいて、ソリアと絡み合っていた手を離す。

ふとロロア達の会話が聞こえる。

過ぎる空気にハッキリとは聞こえにくいが視線は下に向いているようだった。

「――戦ってるのか」

俺たちの真下には、船。

ギルドの図書館で見た海上の移動運搬用の乗り物だ。

数十人から数百人を載せられる大きさで、移動の推進力となるマジックアイテムが船尾に取り付けられている、木造のものだ。マジックアイテムといっても仕組みは風魔法を生み出すだけの単純なものらしい。

どの船も船尾のマジックアイテムの色は黒く、筒のような形がど五つばかり付けられている。

旗はウェイラ帝国のものだ。見知った魔法を敵に対して放っていた

「相手は東和国のようだな」

フィルがウェイラ帝国の対面を見据えながら言う。

俺達の進む先には東和国と思しき船舶がある。ウェイラ帝国とは形こそ同様であるが、色は銀色で作られている。樹木とは違う物資で作られている証だ。

具体的な中身までは分からないが、すべてに魔力が通っている。

……船一つがマジックアイテムなのか?

ウェイラ帝国から放たれた魔法を吸収したり、あるいは跳ね返したりしている。

「戦況はどうですか……!」

ソリアがロロアの背を見つめながら問うてくる。

海上は高所の恐怖からか覗けないようだ。

「負けているようです――ウェイラ帝国が」

フィルが見たままを語る。

それは明らかな戦況だった。

ウェイラ帝国の海辺には壊された船の残骸が浮かんでいる。それも、浮かんでいる船を覆うほどの数で、その物量が尋常でないことが分かる。

反対に東和国の被害は船舶の一部が欠けているくらいで、沈むまでには至っていないようだ。

「やはりそうですか……」

ソリアが予想していたような口ぶりで呟いた。

クエナから聞いていた様子とは違うため疑問が浮かんだ。

「ウェイラ帝国が優勢なんじゃないのか? 数は多いし、東和国はウイルスによって浸食されているって話だと聞いたんだが」

「表立って作られた情報はそうだろう。だが、海上戦における技術力と経験は東和国が優勢だ。そもそも東和国は一つの島国で元より海洋国家でもある。弱体化してもなおウェイラ帝国は押し切れないだろうな」

「それにウェイラ帝国は他地にも侵攻をしています。ユイさん率いる第0軍が来ているとはいえ、その他は比較的に軍事力が浅く薄い第十軍、第十三軍です……!」

「ほら、見てみろ。ウェイラ帝国は漁業などに使う船舶ばかりだ。攻撃運用は人員だけだろう。大地ならば攻略用の戦略級マジックアイテムもあるが、それが海戦では存在していない」

「ああ、そうだな」

「対して東和国は完全に海戦特化の軍船だ。あるいは軍艦と称してもおかしくはない」

「……なるほどな」

聞いて居た話とは違う。

だが、考えてみれば、そもそも東和国の話なんて聞こえてくるはずもない。大陸にはウェイラ帝国にとって都合の良い情報しか流れないのだ。

(ん?)

ふと、東和国の陣営に動きがあった。

かなり慌ただしく、後退している様子を見せている。

(……もしかして)

ふと、自分たちが来たことによって動いてしまった戦況を想像して罪悪感が浮かんだ。

そりゃそうだ。

竜達が自分たちの領土に向かっているのだから――