軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5

一人、歩いていた。

道はロクに舗装なんてされちゃいない。だが、獣道があるので楽に行き来できる。

その獣道も普段から使っているのが大きな魔物であると分かるくらい、幅のあるスペースを作っていた。

(あるいは一回素通りしただけでこれとかな)

木々は倒されていて、岩は欠けている。

そうして出来上がったのは暴威を示すような乱暴な一本道だ。

なにより恐ろしいのは、こういう道が平然と幾つもあるという事実。

(指定Sランク区域――『黒竜巣の麓』)

平坦よりは盛り上がって来た地面一帯を指す。

一般的な森のようだが、大きさは迷い込んだら一生出られないのではないかというくらいだ。

言ってしまえばクゼーラ王国の王都の何倍何十倍も大きい。

(しかも)

見上げれば巨大な山々が連なる山岳地帯だ。

一つだけ一国の威圧感を持つとんでもない山が中心にある。

雄叫びが木霊して、何らかの生物の断末魔が聞こえて、雷雲かと思えばそれは生き物。

(あれか)

指定Sランク区域『黒竜の巣』だ。麓よりも遥かに難易度が高く、行く人はほとんどいない。

そこが俺の目的の場所だ。

不意に殺気を感じる。

『グルルルルッ……!』

いかにもお腹を空かせたって感じの獰猛な魔物が現れた。

二本の枝角を頭部側面から生やし、四足歩行の胴体は薄黒く硬そうな肥沃な皮に覆われている。鋭い牙を剥き出して涎を垂らしている。

狙いは俺だ。

命の奪い合いだ。だというのに、なぜか悠長に郷愁の念を覚える俺がいた。場所も禁忌の森底とは違うのに。

「来いよ。俺も喰うぞ」

ちょうど腹を空かせていた。

狙われたのなら俺だって狙ってやる。

あまり美味くはなさそうだ。けど、独特な風味がありそうだと勘が囁いてくる。

そうやって睨み合っていると魔物が何かに気づいて目を見開いて去っていく。

周囲を見渡しても何もいない。空中にもいない。

やつが俺よりも探知において優れている点は両手両足を地面についていることくらい。ってことは――

予想と同時に地面が膨らむ。

「どーもー」

ひょこりと爬虫類の目が顔を出す。

それはエルフの里で見知った顔の竜だった。

「あれ、久しぶりだな。土竜王」

「うっす。土竜王のデン参上です。お久しぶりですね、ジードさん」

俺の姿を確認して土竜王が地面から這い出てくる。

予想外の登場に意外感が勝った。

「どうしてここにいるんだ? ここは黒竜の巣だろう。おまえは土竜だし、そもそもエルフの里にいたんじゃなかったっけか?」

俺の問いに土竜王が嫌々そうに答える。それは何かを思い出している様子だ。目線を黒竜の巣に向けている。

「百年に一度、竜が集う時期があるんです」

「なんか聞いたことあるな。それが今日なのか?」

「ええ、ここら近くの時期っすね。祭りやるんですわ」

「祭り?」

「恒例の各竜族によるガチンコバトルなんス……」

心底めんどうくさそうに。心底イヤそうに。

気だるそうな土竜王が吐き出すように言った。

「痛そうだな、ガチンコバトルって」

「はは、めちゃ他人事スね……まあそうなんすけど……」

どよよーんと凹み気味の土竜王だ。

ここまで憂鬱そうなオーラを出されたら同情せざる得ない。

「バックレればいいじゃないか?」

「それやった先代土竜王……まぁ自分の父さんなんすけどね。ボコされたんすよ。はは。白竜とか力のある勢力は返り討ちにしたりするんすけど土竜はキツいっす……」

「なんでそんなことに……」

「竜って生物的には圧倒的上位なんでね。暇すぎるってんでバトルしたいんでしょう。溜まるものもあるんでね」

逆にそれで平和が維持できているのなら良いのだろう。

そのために土竜王が犠牲になっているのは些か不憫に思わんでもないが……

「あとは竜王同士の見せ合いも兼ねているんすわ。竜王の交代で武威をみせるとか」

「なるほどな。おまえも見せつけたらどうだ?」

「いや、自分はそもそも――」

土竜王が続きを言おうとして、空を見上げた。

太陽を遮る巨躯の集団が上空を飛んでいた。影っていてもなお分かる鮮やかな赤色は、噴火した火山を彷彿とさせる。

数にして数百は飛んでいる。

まばらな列が並んでいるだけで巨大な雲が続いているようだ。

「うげぇ……」

土竜王が目と頬をヒク付かせた。

すると赤竜の一番前を飛んでいた、一際大きな存在がこちら向かって降下してくる。他の集団は山に向かっているようだ。

「よう。デン!」

軽い地震が起きるほど、それが着陸した時は揺れた。

「ホード……一番前を飛んでいたっすけど竜王になったんですか?」

口調が王然としたものではない。

きっと同列クラスになると素が出てしまうのだろう。

話を聞く限りでは赤竜王の方が若そうだが遠慮はされていないようだ。

「ああ! ついに先代を打ち負かして俺も竜王だ! 見ろよ。俺の命令で先に飛んで行く赤竜たちを。あれら全部が俺の配下だ!」

赤竜の個性なのか、一匹一匹が適当な間隔で飛んでいる。陣形やら列やらはない。だが、そこには一つの確固とした動きがある。

それは前を飛ぶということ。

粗雑ではあるが、その一点には忠実に従っている。

あれほどの集団を組織の頂点として操っているのがこの赤竜王というわけだ。

「はは、そうっすか」

どうでも良さそうに土竜王が笑う。

「んで。おまえはなんだよ? 土竜の連中はどうしてんだ?」

「あー……現地集合っすね」

「ふーん」

どこか小馬鹿にするように赤竜王が相槌を打った。

そして俺の方をチラリと見て。

「メシもこれっぽっちだし。土竜は相変わらずだな。ははは!」

そう笑って飛び去って行った。

土竜王は背を見送りながら、なにも言うことなく俺にペコリと頭を下げた。

「すんません。あそこはいつもあんな感じなんです」

「いや、いいさ」

気質か。

思うところがないわけでもないが、下手に火を付けるよりはマシだ。土竜王にも立場があるだろうし。

「そういえば、どうして黒竜の巣にいるんです?」

土竜王と共に森を歩く。

魔物に狙われないから楽で良い。

「ほら、黒竜王の娘……ロロアだっけか。それに挨拶をしに来たんだ」

「ならタイミング悪かったすねー」

「俺もそう思っていたところだが実は急を要するお願いもあってな。竜の力を借りたいんだ」

だから日を改めるってわけにもいかない。

それを聞くと今度は竜王がピコン! と反応した。

「それなら逆すね! タイミングいいですよ」

「ん、どういうことだ?」

「この祭りは勝った種族の竜王が、他の種族らにも命令ができるんです」

「へぇ」

「まぁ、無茶苦茶なものならもう一度バトル開始なんですけど……はは」

バトルジャンキーな生き物だな。

土竜王デンが続ける。

「ちなみに前回の覇者である黒竜王は金銀財宝でしたね。余程のことではないので集まったみたいです」

「へぇ。コレクションみたいなもの欲しがるんだな」

「俗物だったりしますからね、竜って」

土竜王といい、知れば知るほど慣れ親しみやすいものだ。

「だから今回は勝者の黒竜の巣で祭りなんですけど。……話が逸れましたね。それでタイミング良いってのはジードさんにお願いがしたいからなんです」

「お願い?」

逆に頼まれることになるとは思わなかった。

土竜王は尻尾を振りながら緊張半分、ラッキーを拾えたような嬉しさ半分を醸し出しながらペコリと頭を下げてきた。

見た目は威圧感のある竜の面持ちだが、内面を知っているためか柔らかなイメージを以ってそれが小動物のような愛らしい姿勢に見えた。

「土竜になってくれませんか!」

「土竜に? 変化の魔法は見たことがないし……当然使えないが……」

「ああ、見た目とかは大丈夫です。ただうちの陣営で戦ってほしいんス」

「それ大丈夫か?」

「ええ。なんの種族であれ参戦オーケーです。そもそもが暴れたい欲求の発散の面があるんで」

まぁ納得ができないわけではない。

白竜とやらはバックレているみたいだし、かなりフリーダムな祭りなんだろう。

さらに土竜王の「じゃなけりゃ、こんなバカみたいな祭りやってないス」という言葉に理解と得心が深まった。

自虐がすごいけど、きっと土竜王も恨み言の一つや二つは言いたいんだろう。

「でも願いを言っていいのは竜王なんだろ?」

「ああ、ジードさんの代弁しますっす。どうせ勝つ気なかったんで」

「卑屈だな……」

「それにジードさんがいると今年は痛い目を見なくて済みそうっす」

ウキウキで土竜王が言う。

それでいいのか、竜王の一角よ。

「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「ええ! 是非とも!」

俺の言葉にひゃっほー! と喜ぶ土竜王。

ドスンドスンと地響きを鳴らして麓を揺らす様相はやはりとてつもない存在感がある。CやBほどの強さを持つ魔物でさえ飛び立ったり、あるいは走ったりで逃げ出しているくらいだ。