軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「むちぅ~!」

謎の効果音を発しながらシーラが迫ってくる。

柔らかそうな唇を突きあげながら、俺の顔を目掛けている。その端正なパーツの一つである瞼を閉じ切った、油断しまくりの顔で。

額にデコピンをする。魔力は載せていないので平凡な威力だ。それでもペチッという音が鳴ったのでそこそこ痛いだろう。

「はぅっ!」

シーラが予想通りの反応を示す。両手で額を抑えながら両膝を曲げて座り込んだ。

「な、なにするのよ~!?」

「こっちのセリフだ。来て早々なんだよ……?」

俺は呼ばれたのでクエナの家に来ていた。

出迎えた赤毛の女性に連れられてリビングまで行くと、隠れていたシーラが迫ってきたのだ。

「だってだって! クエナにはキスをしたのに私にはしていないじゃない! 不公平よー!」

ブーブーと頬を膨らませながらシーラが拗ねる。

きっと、Sランク試験での『ご褒美』のことを言っているのだろう。

「それならおまえにだってしたじゃないか」

「額にね! でもクエナとは唇じゃないのよ!」

「いや、それはだな……」

事故。なのだが。

気恥ずかしさから口がどもる。

俺の後ろで待機していたクエナが咳を鳴らした。その顔は赤く染まっていて、彼女も恥ずかしがっているのが分かる。

「そんな話をするためにジードを呼んだんじゃないでしょ」

「むぅ。まぁそうだけどー」

「そういうこと。それじゃあジードもシーラも座って。ほら」

うまいこと話題が逸れたみたいで助かった。

シーラに迫られるのは心臓に悪い。性格はやや常人とは乖離しているような気がしなくもないが容姿は抜群に良いのだから。

「それで用件ってなんだよ?」

クエナに言われるがまま全員が着席して、俺から話しかける。

「それは本人の口から直接ね」

「本人?」

首を傾げる。

不意に別室からスフィが現れた。

真・アステア教を率いる少女だ。今や多くの機会で話を聞く。その活躍と影響力は多聞なものとなっている。

そんな彼女が両腕で大事そうにボロボロの剣を持っていた。

「久しぶりだな」

なんとなく、彼女が話したいことは理解できる。

だが、それよりも先に俺は挨拶から入った。

ペコリとスフィが一礼する。

「お久しぶりです、救世主様。以前はとてもとても助けられました」

「いいさ。気にするな」

「あれ以降はどうお過ごしでしたか?」

「どうって。まぁ、色々あったな」

話せることは多々あれど、気になるのはスフィがじりじりと詰め寄っていることだった。

まるで俺を逃がさないとばかりに追い詰めている様だ。

年相応らしき華奢な身体からは想像できないほどの圧力がある。纏っている雰囲気はさながら獅子だ。

「ほう。色々と。是非ともお聞かせ願いたいです」

「……まぁ、それはいいから。どうせその剣のことなんだろ?」

俺の言葉に突かれて、スフィがビクリと身を震わせて立ち止まった。

ドンピシャのようだ。

スフィが渋々と湛えながら頷く。

「はい……その通りです」

「俺に受け取って欲しいと?」

「はい。是非とも、何卒ジード様に」

以前もこのような話をされたのだ。

スフィの持っている剣は何やら曰く付き……といっては邪悪なものに聞こえるが、かつての勇者が使っていたとされる聖剣だ。

どうやらその適性があるとスフィは考えているらしく、俺に預けたいとしきりに頼み込むのだ。

「前にも言ったが俺は剣を扱えない。それに宿暮らしだから置いておける場所もないんだ」

俺の泊まっている宿は冒険者御用達の節がある。

だから、その日暮らしであったり悠々自適に諸国を放浪している輩がいたりと、勝手に許可なく重荷を宿に置いていくのだとか。

そんなこともあって宿では許諾なく物を捨てられることがある。

結構気に入っていた白い仮面も捨てられていたし……まぁその豪胆さがなければ冒険者を相手に商売をしようとは思わないのだろう。

「で、ですが、この聖剣はジード様のお近くにあるだけで覚醒すると思うんです……! せめて身近に置いていただけるだけでも……!」

スフィはソリアと同じく多忙な身の上なのだろう。

常に俺の近くに住んでいるという訳にもいかないはずだ。

だからこそ、なんとか持って欲しいと。

年端もいかないような少女が必死にお願いしてくる姿は目が潤む。そして、その頼みはなるべく聞いてやりたいものだ。

しかし……なぁ。

下手に無くすと、それこそスフィの迷惑になる。

かといって愛用できるかと言われれば微妙なところだ。鞘からしてボロボロで今にも崩れそうになっている。俺自身も剣は扱えない。

(なんとかしてやれないかなぁ)

うーん、と腕を組んで考える。

新しく家を買うか……? 剣を磨いてもらう……? 剣を扱えるよう鍛錬する……?

ふぅむ。

そんなことで頭を悩ませているとシーラが手を挙げた。

「あ、じゃあ私が預かっておこうか?」

「それ預かる場所は私の家よね」

シーラの言葉にクエナが咄嗟にツッコミを入れた。悪びれる様子もせずシーラが首を傾げた。

「そうだけど?」

「預かってるの実質私じゃないの……まぁいいけど。うちにあった方が色々と飛び回ってるジードとしても受け取りやすいだろうし」

「ほ、本当ですか!? それでしたら凄く助かります……!」

そう言いながらスフィがシーラに聖剣らしきものを手渡した。

受け取ったシーラが「任せなさ」まで言って押し黙る。

「どうしたのよ?」

その怪訝な姿に思わずクエナが尋ねた。

スフィも不思議にしている。

「――私の中の邪剣がアレルギー反応起こしてる」

そういやコイツ、そんなものも飼ってたな。

見ればシーラの腰に携帯している剣が暴れているように見えなくもない。

なんとなく黒い魔力がフワフワしている。

「シーラ、大丈夫なのか?」

「うん。私自身には問題はないみたいだけど、ちょっと不思議な感覚かも?」

邪剣を飼っているやつに今更不思議な感覚とやらがあるのだろうか。

「無理そうなら別にいいんだぞ。それなら俺の方でなんとかするし」

「別に相容れない存在ってわけじゃないみたいだから無理じゃないわよっ。任せて!」

言いながらデカイ胸を張る。

視線を下手に漂わせることもできないので、なんとか目と目を合わせる。

「そうか。なら頼んだ」

「ふっふーん。その代わり場所代は頂くわよ!」

「預かる場所は私の家だけどね」

場所代とやらは納得がいかんでもない。

だが、預かる場所はツッコミ通りクエナの家なのだから、出すべきはクエナにではないだろうか。

あるいは仲介的な概念がそこには存在するのかもしれないが……

「まぁいいだろう。いくらだ?」

「ジードの唇~!」

またもやシーラが不意打ちを仕掛けてくる。

こいつ本当に。

「またSランクになったらな」

今度は幼児のようにモチモチした白い肌の頬を左右から押して抑えた。

「むぐうっ!」

少し変な顔になるが、やはり可愛いのが悔しい。