軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

判断

試験の中断を告げる手段は用意されていなかった。

いかなる危険があろうとも、試験者の妨げになってはいけないからだ。

また、ギルドの方針として、どんな状況であっても打破しなければ、最高位の称号たる「Sランク」には相応しくないとも考えられていた。

そのため、毎年のように難易度の高い試験をクリアしてSランクが誕生するわけではない。むしろ数年に一度くらいでしか生まれないのだ。

故にAランクのポイントを全て貯めきった冒険者でも、己の未熟さを理解する良い機会になる。

しかし。

今回に至っては話が別だった。

監督者であるトイポが違和感に気づき、真っ先にギルドに連絡するほど、例年とはかけ離れた「異例」だった――。

「!」

フィルが何かの気配を察知する。

隣にいるシーラが、そんなフィルの様子に気が付いて問う。

「どうしたの?」

「あんた、平然と聞くわね。もっとこう、自分で発見とかしなさいよ。私達は個別で試験を受けているって分かってるの?」

「いいじゃん、減るものでもないんだし!」

「元騎士とは思えない公正な意見ね……」

シーラの堂々とした姿に、クエナは呆れて皮肉を交えた。

だが、かくいうクエナもフィルの察知した気配は辿れていなかった。

試験者同士の協力は禁止事項ではないため、あえてフィルの口を閉ざすような真似はしない。

「……――」

しかし、フィルは口を開こうとはしなかった。

頬に汗が伝っている。

事態の深刻さを表情で物語っていた。

「ちょっとー、フィルー。なんで黙ってるのよ。もしかしてお花を摘みたいのー?」

シーラが小馬鹿にした様子でフィルを突いている。

だが、フィルはそんな些細な冗談には構わずに二人を見た。

「分からないのか」

ただ、一言。

煽られて、クエナとシーラも神経を尖らせる。

元より警戒は怠っていないが、フィルの言葉により一層の集中をもたらした。

そのため会話は途切れ、各々が試験を彷徨わせている。

「なんだか、あっちの森すごい静かね」

シーラが右を向きながら言った。

後にクエナも頷く。

「そうね。不気味なほどに」

他の方向は獣や魔物のざわめきが聞こえている。

静けさ。それは明らかに異質だった。

フィルが事態を飲み込んだ二人に対して重々しく言葉を放つ。

「この地帯で一つの方角を静かにさせることができる奴、もしくは奴らがいるということだ」

「……他の試験者もいるはずよ」

クエナが言う。

同じくAランクである冒険者がこの森には複数いる。

「そうだな。だが、そいつらが殺されたかは定かじゃないはずだ。……とはいえ――」

フィルが言いかけたところで、

――ブルブル

三人の冒険者カードが振動する。

それはギルドからの通知を意味した。

同時に来たことから指名依頼ではないと瞬間に理解し、三人は冒険者カードを手に取った。

内容を見て、真っ先に反応を示したのはシーラだった。

「わお。試験放棄推奨通知だって」

それは、あくまでも『推奨』――。

想定していたよりも遥かに大きな危険が下った。

そのため、試験の放棄がギルド側から勧められたのだ。

だが、これはあくまでも勧告であり、強制ではない。試験にさえ突破できればSランクにはなり得るということだ。

「おまえ達はどうするのだ? 私はこのまま行くぞ」

フィルはお構いなしとばかりに切って捨てた。

彼女にはそれだけの自信と実力があった。

反対にクエナはどこか小心だ。

「……放棄、ね。いかなる危険をも想定した試験のはずよ。それなのに、こうして通知まで寄越すってことはよっぽどじゃないの。座学じゃないんだから、臨機応変な対応は必要でしょ?」

「おそらくだが、これは監督者ないしギルド職員が送って来た推奨だろう。現場を知っているのはそれくらいだからな。だから、これは現場の采配で、完全にギルドが決めたものではないはずだ」

「それって、監督者とかが弱いから想定外にビビったってこと?」

フィルの言葉にシーラが聞き返す。

肯定とも否定とも取れない表情でフィルが言う。

「ギルドのSランクが監督しているんだ。弱いというわけではないが、あくまでも独断と言っている」

「それって暗に自分よりも格下だって言ってるようなものじゃないの」

クエナがフィルの隠れた考えにツッコミを入れる。

「……まぁ、傲慢があることは認める。だが、私はそれでも行かねばならないのだ。ソリア様が待ってくださってるからな」

それは騎士たるフィルの矜持だ。

どうしても譲れない部分が彼女にはある。

そして、それを聞くとシーラも黙ってはいられなかった。

「むー。私もジードのために行かないといけないもん!」

それは例の約束のため。

シーラの騎士的な矜持的な、そんな感じのあれだ。

だが、クエナはどこか口を強く一文字に結ぶ。

(……スティルビーツ王国では私のワガママで負けそうになった。このまま進む決断をしたら戻ってこれないかもしれない……)

そんな迷いに呼応するかのように、草むらがワシャワシャと揺れる。

三人が目を開いて戦闘態勢に入る。

だが、数瞬して声が響いた。

「だから若造は素直に帰れって。ここはベテランじゃないと難しいぞ」

ひげを生やしたディッジ。

「若造とはなんだ! 僕はスティルビーツの王子にしてAランク冒険者のウィーグだぞ!」

胸に手を当てて誇大さを醸し出すウィーグ。

「Aランクは同じだっつの」

「同じでも成った年齢が違うだろう! 僕は若くしてAランクになっているんだ!」

「成熟してゆっくり積み上げた俺の方が確実だ」

そんな言い合いをしている二人の冒険者。

ウィーグとディッジも三人を見つける。

「なんだ、おまえ達も行くのか?」

「ジードの兄貴の彼女さんとお友達さんじゃないですかっ!」

二人の反応を見て、フィルがクエナを見た。

「退くは自由だ。だが、自信があるならば行くべきじゃないか。興味はないが、おまえは『やつ』のパーティーメンバーなのだろう」

「……」

フィルに言われ、クエナがしばらく黙した。

どこか諦めきれない感情がふつふつと奥底から湧いてくる。

「……あー! もう、分かったわよ! 行くわよ! それと、私は別にジードの彼女じゃないわよっ!」

吹っ切れたクエナも進むと判断するのだった。