軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トイポと魔族側

監督者のトイポは高く聳え立つ山の上で試験者たちの様子を見ていた。

当然、試験者たちは一丸となって動いているわけではない。そのため全員を追うことはできないが、ある程度は把握できている。

(あれは脱落だなぁー。あれも家に帰ってるなぁ~)

もう既に数名が逃走している。

試験の離脱は申告する必要がない。そのため棄権する判断は任されていた。

Aランクともなれば身の危険は察知できる。

Sランク試験は、また来年、再来年とチャンスもある。だからこそ敵わないと分かると早々に撤退していた。

だが、それでも逃げ切れない冒険者もいる。

(あ。あれヤバイなぁ)

トイポの視野に森を駆ける冒険者が入る。

それは明らかに逃走を図っており、戦意は完全に喪失しているようだった。

獅子の頭部に馬の手足、胴体は象で、背にはドラゴンの翼を生やしたキメラの大群が彼を襲っている。

このままでは間違いなく死ぬ。

普通の監督者であれば助けるようなマネはしない。

なぜなら、これは試験であり、「邪魔」をしてはいけないからだ。

だからこそ、死に際の冒険者は絶望していた。

助けは絶対にありえないと。

しかし、トイポは躊躇なく魔法を展開してみせた。

試験者とキメラの間に亀裂が走る。

地響きと、巨大な揺れが森全体を襲う。

思わずキメラの足が止まり、その間に亀裂が広がっていく。

顔を覗かせると底が見えない深さだ。

「……!」

試験者が思わぬ僥倖に驚きながらも全力で人族の領地に戻る。

その姿を見てトイポが満足そうに頷く。

異名【探検家】と、数少ない「個人」でSランクの称号を持つ男――トイポ。

その実力は見紛うことなく本物だ。

不意にトイポが気づく。

まだ遠い場所から異形の集団が近づいて来ていることに。

(あれはぁ?)

それは確実に――試験に波乱を呼ぶ幕開けになる。

魔族。

その種族の姿形は様々だ。しかし、人族や獣人族とは違う点が幾つもある。

獣人族は獣と人族の合わさった種族であるのに対して、魔族は魔物と人族の合わさった種族である。

それこそ、ドラゴンやウルフ、果てはオーガに至るまで。

魔物と獣の明確な区分は、その種が平均して保有する「魔力量」だ。

魔力量はそのまま身体の成長を促したり、生命力を向上させる等の身体系の増強と比例する。

魔物は多く、獣は少ない。

当然、総合的な種族の強さたる値は魔族の方が高い。人族も獣人族も、一部の特異性を除けば劣っている。

しかも、魔族の中の一部は遥かに飛びぬけている。

どうして、そんな「進化」もしくは「退化」を遂げたのかは解明できていない。

様々な説は未だに挙がり、研究をされているからだ。

ただ、最も信じられており、最も分かりやすい説明は「神がそうなるように作ったから」だ。

とにかく、その魔族が大量に規律を持ったまま行進していた。

圧ある大軍が千以上の数で大地を揺らしていた。

その中でも特に「格」が違う者が計七名いた。

一人は行進の先頭にいる。翼をもがれた黒竜に跨り、六本ある腕を組んでいる蜘蛛と人が混ざった二メートルの体躯を持つ男――ロンラー。

もう一人、先頭を行く者がいる。華奢な身体で黄銅色の髪を持つ女――リスト。こちらも深紅のライオネルという獅子に似た魔物の背にうつ伏せに寝転がっている。手足はぶらんっと力なく垂れている。

さらに後方にも二人ほど配置されている。

だが、最もオーラを放ち、傍にいる魔族の兵たちに緊張感をもたらしているのは中央にいる三名だ。

三列に並んでおり、右には白銀の髪で右目を隠している物静かそうな男がいる。この大陸では珍しい和服に身を包み、黒刀を携えており、ゆっくりと、しかし周囲のペースと合わさって動いている。

左には傲慢そうで不敵な笑みを浮かべている骸骨がいた。

「ハク、イスタ」

ハクと呼ばれた右の男が、イスタと呼ばれた左の骸骨がそれぞれ振り向く。

中央に座しているのは、十人の魔族が担いでいる神輿の上にいる男――クオーツだった。プライドが高い魔族が誰かを神輿に担ぐなど非常に屈辱的なのだが、それを成すだけの力がクオーツにあるということだった。

人型だが全身が黒色。翼は片方しかなく、額の左右に直角に伸びた角が生えている。

「どうかなさいましたか?」

ハクが率先して問い返す。

「おまえ達がやれ」

「……――」

最初、クオーツの言葉を聞いていた誰もがその意図を理解できなかった。

しかし、道行く傍らの草木から冒険者が出てきた。距離にして百メートルほどだが、魔族たちが気配を察するには十分だった。

遅れて気づいた骸骨が右手を広げる。

冒険者の下に魔法陣が展開され――身体の内側から骨が飛びぬける。見るも無残な姿に変貌を遂げた。

「おやおやあ。人族が紛れ込んでいるとは」

骸骨が間延びした声で言う。

容赦なく、殺した。

敵意を感じる前に、命を無駄に消す意味があったのかも分からないままに。

「些事だ。今後も同様なことがあればおまえらに任せる。このまま進め」

クオーツはそのまま見向きもせずに城へと軍を進めた。

この命令と似たようなことがあると暗に二人に告げて。