作品タイトル不明
勢力
「ぐはぁっ!」
魔族の男が後ろに倒れ込む。
俺は殴りつけた拳を振りながら男を見下ろした。
「降参か?」
「……ああ、俺の負けだ。認めてやる。そこのガキがここら一帯の主だ」
男が言うと後ろで見ていたフューリーが笑みながら歩いてくる。
「よーしっ! さすがジードくん! アドリスタ領のほとんどの地帯は手に入ったね!」
「そうだな。すこし時間をかけたが」
俺とフューリーはアドリスタ領で幅を利かせている勢力を片っ端から制圧している。
これからはフューリーの配下になる男が起き上がりながら言った。
「しかし、どうして人族が魔族に手を貸すんだ?」
これまで色んな地域の主を倒す度に聞かれてきたことだ。たしかに他の種族の問題事に関わるやつなんて怪しまれて当然だろう。
「依頼だからな。仕事ってやつだ」
「金か。いくら積まれたんだよ」
「おまえも依頼したいのか?」
「べつに興味はない。ただ、どれくらいの期間、依頼されているのか気になっただけだ」
「アドリスタ領を取るまでだよ」
「そうか。なるほどな」
特に違和感を覚えなかったようで、うんうんと頷かれる。
「しかし、フューリー……様だっけか。あんたはどうしてアドリスタ領を取ろうとしてんだ? ここらじゃ見たことがない。他の領地のもんだろ?」
「気分さ。しいていうなら人族の領地から一番近いからかなっ」
「……へぇ。もしもおまえさんがいた地域の主にビビって下剋上してないってんなら下手に領地なんて取らない方が身のためだぜ?」
それは新しい自分の主を想っての言葉なのか。
アドリスタ領を取れば依頼は終了だ。それはつまり俺がフューリーの傍を離れることになる。
あとはフューリーが一人で統治するだけだ。つまり味方は限られてくる。
「んー。まぁ、その時にでも考えるよ」
男の言葉に対して、フューリーは別に何事もないかのように振る舞う。
能天気なのか、器がデカいのか。
「あのなぁ。どうせ他のアドリスタ領に勢力を構えてる奴らを倒したのは人族だろう? 依頼が終わればすぐに反旗を翻して下剋上してくるぞ。悠長にしている場合じゃないだろう」
それは警告のようなものだ。
フューリーの敵は多い。男の言うように身内も警戒しなければいけないし、他の領地から敵も来る。
一時的には俺の力で従えさせても、フューリーに下ったわけではないのだから。
つまり、男が言いたいのはこうだ。
空いた領地を狙って傭兵モドキを雇っても、維持するだけの力がなければ無意味だ。領民はおまえの味方ではないんだぞ。と。
それは侮辱や軽視に値する。
だが、フューリーは意味が分かっていないのかどうなのか、上げた口角を崩さずに首を軽く左に曲げた。
「へーきへーき」
楽しそうに笑う様は中性的な少年のそのものだ。
しかし、背負っているものは大きい。自覚しているのかはさておきだが。
それからフューリーとアンデッドドラゴンに乗って次なる目的地へと向かうことになった。
「それで、次はどうするよ?」
俺の言葉にフューリーが本題とばかりに口を開いた。
「それぞれの領域には城があるんだ。その城に支配者の旗を立てれば、領域の主を名乗ることになる」
旗か。
そういえば人族にも国旗がある。それに似たようなものが魔族にもあるのだろう。
「それなら最初に旗を立てれば良かっただろう。なんで他の勢力のやつらをボコして回ってたんだ?」
「領主を名乗っても不服な魔族も沢山いるからね。しばらくは下剋上ばかりになっちゃうだろうし、こうして挨拶に行った方が楽なんだ」
「へぇ、なるほどね。じゃあ、次はその城に向かうのか?」
「その通り。他の領域なら城は三つとか五つとかあるんだけど、アドリスタ領は一つだけ。そこを取りに行くよ!」
ウキウキした様子を見せてくる。
ってことは、これからクオーツ率いる軍勢と戦うことになるだろう。もう既に攻めてきているということだし、アドリスタ領の正式な支配をするには一戦構えなければいけない。
だというのに、どうにもフューリーは戦う手前の態度ではないようだ。
戦闘に関しては俺に全任せをするつもりなのだろうか。
相手は既に領地を二つも持っている魔族だ。当然、途方もない軍団を保有しているはず。
数が多いと俺だけで全てを対処できるとは思えない。
つまりこれは……――。
「うん?」
「どうした?」
「ほら、あれ。人族がいない?」
「……ああ」
かなり遠い。
地平線の先にちらほら見える程度だ。生半可な視力では追えない、それほどの距離にいる。
冒険者だ。
どうやら負傷して撤退しているらしい。
さらに奥に向かえばクエナやシーラ達がいるだろう。
「ちょっとマズいかもね~」
「どういうことだ?」
「この先にボクたちが向かうお城があるからさ。クオーツたちの進軍ルートでもあると思うんだよね」
「そうか」
「あれ。なんとも思わないんだ?」
フューリーが意外そうに尋ねてくる。
彼は俺が止めるとでも思ったのだろう。
「ギルドの試験だ。止めるつもりはない」
「それが仲の良い人達でも?」
「ああ。彼女らも危険は承知だろう」
「……ふーん」
どこかつまらなそうに。
なにかを見定めるようにフューリーが俺を見る。
「なんだよ?」
その視線の意味を手繰るべく、尋ねる。
だが、フューリーはすぐに他を見てとぼけた。
「なんでもないっ」
相も変わらず微笑みながら答えた。